「G29 Driving Force」レビュー

G29 Driving Force

2017年の新作レースゲームラッシュに備えよ!
シムレーサーの鉄板チョイス。その精度、パワー、使い勝手を改めて解説する

ジャンル:
  • テアリングホイール
  • ステアリングホイール
発売元:
  • ロジクール
開発元:
  • Logitech
プラットフォーム:
  • PS4
  • Windows PC
価格:
53,000円(税別)
発売日:
2015年6月25日

 今日から2017年9月である。いよいよ今月からハイエンドゲーム機&PCの各プラットフォームで大作レースゲームが続々と登場する。代表的なところだけでも、まずは9月22日に発売予定の「Project Cars 2」(PC/PS4/Xbox One)、10月3日には「Forza Motorsport 7」(PC/Xbox One)、そして10月19日には「グランツーリスモSPORT」。ほかにも、レースジャンルのカテゴリーを絞れば9月14日に「F1 2017」(PC/PS4/Xbox One)、11月16日には「WRC 7」(PC/PS4/Xbox One)もある。秋の夜長ということで、7月に発売されたばかりの「DiRT 4」(PC/PS4/Xbox One)を本格プレイするにもいいタイミングだろう。

 このように大量のレースゲーム、それもAAAランクの新作が目白押しということで、レースゲームファンならばこれらの新作をパーフェクトに楽しめる環境を構築して待機しておきたいところだ。

 というわけで今回は、ステアリングホイール(ハンドルコントローラー/ハンコン)の代表格として最も人気のあるデバイスであり、「GT SPORT」にも公式対応している「G29 Driving Force」のレビューをお届けしようと思う。本製品は2015年6月の発売からちょうど2年ほど経過していることもあって、メーカー希望価格が53,000円のところ、実売価格は35,000円程度まで下がってきており、お得感が高い。それでいて、これからやってくるレースゲームラッシュに備えるために十分すぎるほどの性能と圧倒的なコストパフォーマンスを備えた一品であることも間違いない。では、何をもってそう言えるのか、本稿でお伝えしよう。

ステアリングコントローラーに求められる性能とは何か

今回ご紹介する「G29」
前モデルの「G27」はすでに発売から7年以上経過しているがまだ十分現役
Thrustmasterの名機「T500 RS」
こちらも発売から10年近くなる「Forza Motorsport CSR Wheel」と当時の別売ペダル、シフター

 これまでたくさんのメーカーから多数のハンコンが開発・発売されてきたわけだが、その中で“定番”として生き残ってきた製品は少ない。一般論として特定のゲーム機専用品は大抵の場合、そのゲーム機のライフサイクルに合わせて一代で終わりになるし、マルチプラットフォーム対応の製品でも、およそ2万円以下程度の低価格路線を狙った製品の場合は、レースゲームの進化に伴って求められる性能に対応できず、やはり一代で終わってしまう傾向がある(なお、フライトスティックでも同じような傾向がある)。

 逆に言うと、世代を越えて生き延びて来た製品は“マルチプラットフォーム対応”、“プレミアムクオリティ”といった特性を備える。Thrustmasterの「T300 RS」、「T500 RS」、ロジクールの「G25」/「G27」、「G29」といった製品ラインがそれだ。「G25」に至っては発売から10年を経過するが、いまでも十分に現役で戦える性能があり、後継である「G29」とほぼ変わらないような値段で新古品が販売されていたりする。筆者が長らく使用してきたFanatecの「Forza Motorsport CSR Wheel」+「ClubSport Pedals」も、ほぼ10年選手だが、いまだに十分現役だ。

 長く生き残る特性を備えたこれらの“高級ハンコン”が備えているスペックで特に重要なポイントは、以下の4点にまとめることができるだろう。

1.入力精度
 各軸に少なくとも16ビット(65536段階)の解像度
 900度以上の最大ロック・トゥ・ロック角度
 上記により、デッドゾーン設定が実質的に不要であること

2.FFBのパワーと精度
 レースシムが生成するFFBエンベロープを正確に再現できること
 フォースが発生していない状態では、全く抵抗なくステアリングを回転できること
 上記により、センタースプリング機能が実質的に不要であること

3.質感の高さ
 実車に近いサイズ、形状のステアリングリム
 しっかりとしたグリップを保証するリムのマテリアル(革、ラバー等)
 デスクやホイールスタンド、レーシングシートへの固定が容易で確実であること

4.マルチプラットフォーム
 できるだけ多くのプラットフォームで使用できること
 ゲーム機のライフサイクル超えて使用するためPC対応は必須

 おおむね、上記4点を満たしていれば、そのハンコンはおよそ一生モノだ。特に今回紹介する「G29」はそれをすべて満たす。確かに、前身となった「G25」の段階ですべての要素を高いレベルで備えていたため、後継機種としてはちょっと物足りない程度のアップグレードとなっているが、「G25」の弱点であったボタンの少なさを改善し、PS4のDualShock 4コントローラー互換を実現したため、使い勝手は大きく向上している。

 続いて、上述の3ポイントを意識しつつ「G29」の詳細を見ていこう。

レースゲーム/シムを本当に楽しむには、十分な性能を持つステアリングホイールが必要だ

高級感ある「G29 Driving Force」、だがコア向けではない

 なにしろハンコンは、数あるゲーミングデバイスの中でも最も値が張るもののひとつだ。どうせ買うなら長く使いたいというのが人情だから、手にする製品には上述した4つのポイントのすべてにおいて及第点以上を求めたい。

・ステアリングホイールまわり

「G29」のステアリングユニット
大まかなシルエットは「G25」と変わりない
大きく重いFFB駆動部
ステアリングユニットの設定画面
筆者のステアリング設定はこんな感じ

 そこで、まずは「G29」の外観を見てみよう。全体的なフォルムは前身の「G25」とほとんど同じ。ステアリングの直系は実測で28cmで、これは高級ハンコンの標準的なサイズだ。マテリアルもしっかりとした本革。手汗も吸収し、ガッチリとグリップを提供してくれる。上質だ。

 リムがこれより大きいのは「T500 RS」(直径30cm)、あるいは一部ハンコンで利用できる実車まんまのレプリカステアリングホイール(30~32cm)くらいで、「G29」のものも実用十分なサイズである。

 とはいえステアリングホイールが交換不能(すくなくとも公式では)というのは、高級ハンコンとしてわりと大きな弱点ではある。より上を求めたい人のためにThrustmasterやFanatecが用意しているようなオプションは、ロジクール製品にはない。「G29」はプレミアムなハンコンではあるとはいえ、そこまでコア向けの製品ではないということも確かだ。

 ステアリングのロック・トゥ・ロック角は最大で900度(片側450度)。ロジクールのゲーミングデバイス共通の管理アプリである「Logicool ゲームソフトウェア」上で、40~900度の範囲、1度単位で調整可能だ。多くのレーシングシムでは、ゲーム内のステアリング操作のビジュアルと、実際のユーザー操作をリンクさせるため、ロック・トゥ・ロック角の設定をキッチリ合わせることを求められる場合があるので、この設定をいじる際には注意が必要だ。筆者の場合は560度に固定している。この範囲ではGTカーの操作がしやすい。

 「Logicool ゲームソフトウェア」の設定画面上ではステアリングホイールの感度設定を0~100%まで動かせるが、50%が完全にリニアな設定となる。最近のレースゲームやシムをプレイするなら、ここは動かさないほうがいい。50%より上にするとニュートラル付近の精度が減り、50%より下にするとハンドルの切り角に応じて感度が増していく挙動となるが、こういった設定はゲーム側でもできるので、デバイス側でも設定すると2重にフィルタがかかった状態となって、混乱のもとになる。

 同様に「フォースフィードバックゲームでセンタリングスプリングを有効にする」というチェックボックスがあり、ONにするとセンタリングスプリング強度を調整できるが、きちんとFFBに対応したレースゲームやシムをプレイする際にはOFFにしたほうが良い。FFBによるロードインフォメーションの伝達に余計なフォースが加わることで、FFBの解像度や応答性に影響を及ぼしてしまうためだ。

 ステアリング状にはこのほか、PS4の標準コントローラーであるDUALSHOCK 4準拠の各ボタンが配置されている。これらのボタンの機能は他のロジクール製ゲーミングデバイスと同じく、設定画面でキーストロークやマクロを設定することが可能だ。

 これが地味にありがたい。例えばPC用のVRヘッドセットを利用してプレイする際、センターがずれたときに再センタリングすることになるが、PCゲームでは大半がキーボードコマンドでこれを行なうようになっているためだ。例えば「Assetto Corsa」では[CTRL]+[SPACE」である。キーボードに手を伸ばすと姿勢が崩れて正しくセンタリングできないので、ハンコン上のボタンに割り当てたい。「G29」ならキーマクロを好きなボタンに登録できるので、これを「JoyToKey」のような外部ソフトなしにできるというわけだ。こういう使い勝手の良さはロジクール製品ならではの点である。

PS4準拠のボタンが配置されたステアリング。直径は28cm。PCで利用する際は任意のキーやマクロも設定可能
しっかりと縫い付けられた牛革で上質な手触りと強力なグリップを提供

・ペダルまわり

3ペダル搭載
どっしりとして安定性の高い形状
痛みにくいようシールされたスプリング部

 ペダルユニットの出来は、ドライビング環境を構築する上で、ステアリングと同じくらい重要である。「G29」にはどっしりとした3ペダルユニットが同梱されている。ベースはプラスチックだが、ペダル部はアルミ+すべり止めのラバー埋め込みタイプである。見た目も性能も、前身となる「G25」のものとまるで変わらない。

 踏圧に対する反応は、スロットルペダルとクラッチペダルは軽くスムーズでリニア、ブレーキペダルは重い。特に注目したいのは、ブレーキペダルのスプリングテンションが2段階式になっていることだ。ハーフ位置までのスプリングもそこそこ重いのだが、ハーフからフルまでのスプリングはその倍以上の重さである。これにより、ハーフブレーキ操作が容易にできるようになっているわけだ。ついついフルブレーキ→タイヤロック→オーバーランとなってしまうレースシム入門者にとっては非常にありがたいものである。

 とはいえこの2段階のスプリングテンションは、“さらに上”を目指すバーチャルドライバーには有害である。踏圧50%時点で急激にテンションが変化するため、30~70%あたりの微妙な所をスムーズに変化させることが逆に難しいのである。ガチのレースシムでは、このあたりきちんと制御できないとある時点からタイムが伸びなくなる。このあたりもこだわりたいなら、感圧式センサーを搭載したFanatecの「Clubsport Pedals」シリーズのほうが遥かに良い。

 「Logicool ゲームソフトウェア」上の設定では、ステアリング部と同じく軸の感度設定ができる。だが、前述したように、こういった設定はゲーム側でのみ行なうことをおすすめする。デバイス上の設定は50%とし、リニアな反応を基準にゲーム側で調整するとよいだろう。

ペダルユニットの設定画面。これといって特別なことはない

・仕様についてのまとめ

 ステアリング、ペダルとそれぞれの部分についてここまでご紹介してきたように、「G29」は必要十分な質感を備えており、設定アプリによるボタンカスタマイズなど、PC上で大変役立つ機能も備えている。もちろん、PS4にも対応しているため、事実上PCとPS4という2プラットフォームが主流となっている日本のレースゲーム&シム界で戦っていくために最適な製品であることは間違いない。

 ただ、2つの点で弱みがあることもご紹介した。ひとつは、ステアリングホイールの交換ができない点。もうひとつは、ブレーキのスプリングテンションが2段階式となっている点。後者は、あまりガチすぎない層を狙った調整と言うこともでき、単に弱点と呼ぶのはふさわしくないとは思うが、コアなバーチャルドライバーにとっては障害となりうるため、一応注意しておきたい点である。

 このあたりを総合して、「G29」は高級感も性能も十分なハンコンだが、全てにこだわり抜くコアなバーチャルドライバー向けではない、ということができると思う。いわば、ユーザーの9割を満足させるための製品だ。

 なおシフト操作について、本製品単体ではパドルシフト操作のみとなるが、オプションでHシフター「Driving Force Shifter」(価格7,000円)を追加することも可能だ。なお、筆者はHシフターを使いこなせないため導入しておらず、本稿ではその評価も行えない。あしからずご了承いただきたい。

ステアリング、ペダルそれぞれの固定機構。ステアリングは厚み最大3cm程度の机やパネルに固定できる。ペダルユニットの背面には、たいていのドライビングシートに対応したネジ穴がある。多くの製品がこの寸法に合わせてネジ穴を用意している

肝心要のフォースフィードバックはどうか? 「Assetto Corsa」で試す

筆者のドライビング環境。「Playseat Evolution」、「Oculus Rift」で構成。専有面積はちょうど1畳程度
「Assetto Corsa」。FFBの表現が非常に素晴らしいレースシム

 ここまでハンコンの命ともいえるFFBについてあまり言及してこなかったのは、こればかりは実際に試しながらという形のストーリーでお届けしなければいけないと考えたためだ。FFBテストアプリで動かして“振動がとても強い”とか“弱い”などと言ってもまあよくわからないし。

 実際の走行に使用したのは、Kunos Simulazioniの「Assetto Corsa」。このレースシムは現時点では車両挙動について最も評価の高い1本で、今年の5月19日に配信されたアップデート1.14ではさらに大幅な改良が施され、レースシムのシビアさや豊かさを骨の髄まで堪能できる作品となっている。

 特に本作で高い評価を受けているのがFFBの挙動である。タイヤの状況、トラクションの限界を的確に、豊かに伝えてくれる本作のFFB挙動は、現時点で存在する全てのレースシムの中でもダントツの出来栄えといって差し支えないと思う。こういうとあれだが、本作のあとに他のレースシムをやるとFFBが大雑把で物足りないものに感じられることも多い。

 「G29」のFFB体験にあたっては、「Assetto Corsa」に、さらに、レースシムコミュニティで活用されているFFBテスター「iRacing Force Feedback Test 1.72」で「G29」のFFB応答特性を出力し、そのデータを本作のFFBエンベロープに適用する「LUT Generator 0.15」を用いて、レビュー機の個体に合わせた最適なFFB出力を得られるように調整した。このあたりの詳細に興味の在る方はバーチャルドライバーのコミュニティサイト最大手であるRACEDEPARTMENTにて、調べてみていただきたい。

・デュアルモーター駆動によるFFBはパワフル、精度も文句なし

 というわけで準備にえらく時間がかかってしまったが、「Assetto Corsa」+「G29」+「Oculus Rift」+「Playseat Evolution」という環境を自宅に構築して、思うさま走ってみた。なお、ここ1年ほどろくにレースシムで走っていなかったため、Spaをまともに周回できるようになるまでしばらく練習が必要だったことを申し添えておく。練習模様の動画もお見せしておこう。トラクションコントロールOFFでの走行のため、ローギアでの加速で何度も滑りそうになっているのが笑いどころ。ベタ踏みで縁石を踏むのも恐怖。

【Assetto Corsa 練習風景】

納得いくまでひたすら走る
余談だが「Assetto Corsa」のVRプレイでは、自由に配置可能なUIが秀逸。外からみるとこんな感じ

 さて、数時間走り込んでみた結果は、大変素晴らしいものだった。ステアリングホイールの精度はもう全く文句のないレベルで、入力したとおりの反応を返してくれる。ABSなしのブレーキングにはかなり苦戦したものの、2~3時間の練習で、とりあえずフルロックはしないで済むレベルには踏圧を調整できるようになった。

 このあたりの操作精度を高める上で極めて重要だったのがFFBによるロードインフォーメーションだ。“これ以上ハンドルをきったらタイヤが鳴り出す”、“これ以上はアンダーステアになる”、“これ以上ペダルを踏んだら後輪が滑り始める”、といった、タイヤ状況の相転移の境界を、「G29」のFFBはしっかりと伝えてくれた。縁石に乗り上げたときの、ドコココ……というパンチのある振動もバッチリだ。

 こういった路面状況、タイヤ状況をFFBを通じて感じ取れるため、ステアリング、スロットル、ブレーキという3軸の操作を素早く、高い精度で行なえるようになる。負荷のかからないストレートなどでは、タイヤが自由であるためステアリング操作も軽く、進路の微調整も楽にできる。高速コーナーをフルスロットルで走り抜ける際に、全く恐怖を感じないというのは、こういった全ての要素の精度が高いおかげだ。

 逆に、停車状態でハンドルを切ろうとすると、路面にべったりと張り付き気味のタイヤを回転させるため強い力が必要になる。この点も「Assetto Corsa」ではきちんと再現されており、「G29」のFFBのパワーのおかげで“ぐぐうっ”と力を込めないとハンドルが回らないという感触をちゃんと体感できるのだ。

 総評して、「G29」のFFB機構は必要十分なパワーと精度を備えており、「Assetto Corsa」のようなFFB挙動に凝ったレースシムであっても十分にその情報量を再現できるものだと言える。ベルト回転に伴うゴリゴリ感は多少感じられるものの、興を削ぐほとではない。あら捜しをするつもりで触れば気になるが、ドライビングに集中すると、まったく気にならない。

「Assetto Corsa」における筆者のG29設定。軸設定はすべてリニアで十分な精度が出る。

 以上のように、「G29 Driving Force」は、高級ハンコンというカテゴリーの中では万人向けに調整された製品ではあるものの、肝心要の質感・精度・FFBは極めて高いレベルでまとまっており、実売価格が落ち着いてきていることもあって非常にコストパフォーマンスに優れた製品だ。これ以上を目指すなら、2倍かそれ以上のお金を、ThurustmasterやFanatec等にに注ぐ覚悟が必要だろう。

 これからやってくる新作レースゲームラッシュに備え、まずは鉄板のチョイスとしてオススメである。