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AIが「人狼」に挑戦! AIによる「人狼知能」大会がCEDEC 2015で開催

将棋の次は「人狼」。人間に迫るAI創出の第1歩が発進

司会を務めた東京大学 大学院工学系研究科 准教授の鳥海不二夫氏
AIによる「人狼」プレイの様子。1プレイはものの数十秒で決着する

 毎年「CEDEC」では、「人工知能(AI)」を用いた大会形式のセッションが開催されている。昨年までは「将棋」がテーマとなっていたが、今年は装いがガラリと変わり、「人狼」がテーマとして掲げられた。その講演名はズバリ、「『人狼知能』大会」。人工知能で「人狼」をプレイさせ、その頂点を決めようという新しい取り組みを本稿ではご紹介したい。

 そもそも「人狼」とは、「村人の中に紛れ込んだ『人狼』を会話や議論によって見つけていく」というパーティーゲームで、人を騙す、嘘を見抜く、揺さぶるなど、心理的な駆け引きが重要なゲームとなっている。現在は対面形式で遊ぶためのキットが多く発売されているほか、オンライン上で遊べるアプリやサービスも各社から多数展開されており、ここ最近は継続的なブームとなっている。

 さて「『人狼知能』大会」だが、この大会が興味深いのは、心理的な駆け引きが大事となる「人狼」にAIがどこまで「プレーヤーとして人間に迫れるか」が目的となっていることだ。「人狼」は、将棋や囲碁などお互いの情報が完全に与えられているゲーム(完全情報ゲーム)ではなく、情報が伏せられた状態で進むゲーム(不完全情報ゲーム)となっているため、ゲームの勝利のためには他のプレーヤーとの関わり、特に予測に基づく協調、説得、信用などコミュニケーション要素が欠かせない。

 AIがAIであるかどうかを確かめるテストには「チューリングテスト」というものがあり、このテストでは人間がAIと会話をして、そのAIが機械であるか人間であるかの判断が付かなかった時、そのAIは「合格」となる。しかし「人狼」は、会話以上のコミュニケーション力が必要とされるため、チューリングテストとは別の「テスト」として機能する。人間とAIを混ぜて「人狼」をプレイし、AIがAIだと見ぬかれなかった時、そのAIはAIとして強固な存在であることが立証される。

【人工知能と「人狼」】
「人狼」というゲームの特徴と、ここに人工知能が関わる際の課題と問題点が挙げられてる

開発チームのコメントを交えながら観戦したエキシビションマッチ。上手くいったりいかなかったり、観戦するのも楽しいものとなっていた
第1回優勝は饂飩氏の勝利。霊媒師を除く全役職で1位を獲得しての圧勝

 それは最終的な目標なのだが、当面は人間との対戦の実現を目指すこととなる。そのためにまずはAI同士で対戦することで優秀なAIを作り出し、その知見を元にさらに優秀なAIを作って……というサイクルを続けていく。今回の「『人狼知能』大会」はそのキックオフとして、手探りで作られたAIたちが結集した格好だ。

 AI同士の「人狼」は、1プレイが数十秒で終わる。決勝大会では偶然の要素を廃するためプレイ100回を1セットとして1万セット以上のゲームを実施し、高い勝率を残したチームが優勝、というルールを採用していた。

 会場ではエキシビションの1戦を見られたのだが、最初の発言が「自分に(処刑の)投票をする」だったり、すでに死亡したAIに対して「投票する」と言ってみたり、思わず笑ってしまうようなずっこけプレイも多々見られた一方で、序盤の段階で人狼に対して「人狼ではないか?」と正確に疑うなど感心するプレイもあり、「人狼」のルールやある程度のセオリーさえ知っていれば観戦も楽しいものとなっていた。

 そして会場では早速「『人狼知能』大会」第2回目が来年のCEDECに申請予定であることが発表された。今回参加したAIのプログラムは優勝者を含めて公開されるほか、それに向けて勉強会や入門セミナーなどが開催予定となっている。「人狼」が好きである人、あるいはAI制作に自信があるという人は、「人狼知能」の動向をチェックしてみると良いだろう。

AIと人間の同時参加の第1歩として提示された、デジタルキャラクターによる対面プレイのデモ
次回のスケジュール予定
筑波大学システム情報系助教授の大澤博隆氏(左上)、スクウェア・エニックス テクノロジー推進部リードAIリサーチャーの三宅陽一郎氏(右上)、公立はこだて未来大学教授の松原仁氏(左下)、ことり取締役の児玉健氏(右下)によるパネルディスカッションも実施。「人狼」は過程こそに魅力があること、AIがウソを付くことは可能か、ゲームを盛り上げるポイントなど、抽象的な話題も含めてAIに「人狼」は可能か? が話されていった

(安田俊亮)