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【GDC 2013】広がるゲーム性を裏方で支える! AI Summitレポート
「アサシン クリードIII」、「WARFRAME」、「XCOM」の実装事例を紹介
(2013/3/26 16:10)
現地時間3月25日、GDC 2013が開幕した。例年通り初日・2日目はチュートリアルデイとして、各カテゴリー毎に集中セッションが催されている。
中でも一定の人気があるAI Summitでは例年通り、ゲームAIの研究者・開発者がつくるグループ「AI Programmers Guild」の中心メンバーたちが案内役となり、研究色の濃いセッションが数多く実施された。
今年の中心的な話題を挙げるとするならば、オープンワールドやプロシージャル生成の世界でもしっかり機能する可搬性の高いAIの仕組みや、より進んだゲーム表現を支える、高度なキャラクターの振る舞いの実現などだ。
これらのテーマに合わせ、3つのゲームタイトルのポストモーテムが初日1発目のセッションで披露されている。それぞれ独特の方向に注力され、ゲームの面白さを支えるAIの仕組みを見てみよう。
「ACIII」における、プロシージャルアニメーションとAIの連動進化
アニメーションシステムとAIシステムは、どちらもキャラクターの動きを制御するものとして密接な関係にある。映像表現が進化した今日のゲームでは、どこまでがAIの仕事で、どこまでがアニメーションシステムの仕事なのかをカッチリと切り分けることが難しいほどだ。
その如実な例が「アサシン クリード」シリーズ。本シリーズでは主人公のスムーズな動きと、移動アクションの自由度の高さが一体となってユニークなゲーム性を実現している。それが最新作の「アサシン クリードIII(ACIII)」ではさらに大きな進歩を遂げているのだ。
これについて詳しく紹介したのは、Ubisoft MontrealのAleissia Laidacker氏と、同じくUbisoft MontrealのRichard Dumas氏。本作では前作以上に幅広い地形での自然なアニメーションを可能にしただけでなく、移動の自由度も大幅に向上している。その鍵となったのが、プロシージャルアニメーションシステムの強化だ。
本作におけるプロシージャルアニメーションというのは、キャラクターの前後の動きや、地形の凹凸などに合わせて、既存のアニメーションパターンにとらわれない新たな動きを作り出す仕組みのことだ。例えば本作では、段差を歩く際、あらかじめ次に足が着く地点を予測することで、単なるIK(インバースキネマティクス)での位置合わせ以上に自然な移動アニメーションを作り出している。
また、急激な方向転換の際、移動方向の変化は尊重しつつ、体の向きは慣性を考慮して徐々に変化させることでスムーズな動きを実現している。そうすると体の向きと移動方向にズレが生じるため、辻褄が合うように手足の動きを自動生成しているというわけだ。これにより、プレーヤーが無茶な操作を行なっても、画面内のキャラクターは説得力のある動きを失うことがないというわけだ。
プロシージャルアニメーションの仕組みは見た目をよくするだけでなく、AIによる移動制御の自由度も広げる効果を持つ。それが特に現われているのが本作における壁登りのアクションだ。
壁をよじ登っていく動きは本シリーズのキモとなる部分だが、前作以前では高さ60cm、幅75cmという限られた範囲内の、縦横のグリッド上に“掴める場所”がある必要があり、移動方向の選択に意外と融通が効かない面があった。
それが本作では、360度どの方向にも移動することが可能になったうえ、壁がオーバーハングしている状況にも対応できるなどアクションの幅が大きく広がっている。これは、プロシージャルアニメーションシステムの強化によりキャラクターの動きに融通性が増したメリットを、AI面でうまく活用した例と言えよう。
具体的には、本作では骨格的に届きうる場所ならどこでも手足をかけることができる。体をいっぱいに伸ばして、あるいは少し無理をして飛び移る動きが連動する。壁面が動く状況にも対応できるため、回転する巨大な風車をよじ登っていくようなアクションも実現しているというわけだ。
これに加え、木を登る、枝の上を走る、幹の側面を回りこむといったアクションの拡充により、森林の樹上を自在に走り回るようなゲームプレイも可能となった。このような仕組みはNPCの動作にも反映されているため、AIによる経路探索にも大きな影響を与えている。
次世代ゲーム機の登場が秒読み段階となった今、本作で示されたようなアニメーションシステムとAIシステムの連動性はますます重要なものになっていきそうだ。
プロシージャル生成のワールド構造に生命を吹き込むゲームプレイAI
ワールド構造のプロシージャル生成は、少ないアセットで膨大なマップを提供できる反面、ゲームプレイが大味になりがちであることが弱点のひとつだ。その点に一定の解決を試みた例が、Digital ExtremesのDaniel Brewer氏による、オンラインTPS「WARFRAME」での実装事例である。
「WARFRAME」は現在クローズドβテスト中のPC用F2PオンラインTPSだ。規定のマップマーツを組み合わせてステージ全体をプロシージャル生成する方法でコンテンツを多様化するコンセプトを実装しており、そこでいかに適切なゲームプレイを提供するかがAI開発におけるチャレンジになったという。
議論の対象は敵を殲滅するPVE形式のモードだ。この種のモードでは多彩な敵が適切に配置されていることが面白さの秘訣となるが、プロシージャル生成されるマップではあらかじめ敵の出現位置などを決め打ちすることができない。そこで、ある種「Left 4 Dead」シリーズの“AI Director”に近いアイディアでゲームプレイAIが実装されている。
まず敵の出現等は、プレーヤーの動線を基準とした“Influence Map(影響マップ)”にもとづいて処理される。プレーヤーが近づいていく方向は濃くなり、プレーヤーが去ったあとは素早く消失していくような構造だ。結果として、プレーヤーがこれから進んでいく方向に重点的に敵キャラクターが出現するという基本動作になる。
その上で、戦闘が発生すると上昇、戦闘が解決すると低下する“Player Intensity(プレーヤー集中度)”というパラメーターを用意する。しばらく激しい戦闘が続いたなら、敵の出現を減らし、静かな時間がしばらく続いたら、新たな敵グループを用意するという仕組みだ。
「Left 4 Dead」の“AI Director”と異なるのは、いちど敵を殲滅したエリアにはもう敵を出さないようにする、またプレーヤーキャラクターの成長に合わせて集中度パラメータの変化程度を調整するといった部分だ。ある特定の方向へ進んでいく感の強いゲーム性に合わせ、AIが調整されているようである。
本作「WARFRAME」ではこのような実装で、プロシージャル生成ワールドの大味感を回避しつつ、プレーヤーに適切な刺激を与えるゲーム展開を実現しようとしている。近くSteam上でも公開されるとのことなので、実際にプレイしてみて、AI面での取り組みが上手く効果を発揮しているかどうか確かめてみたい。
「XCOM: Enemy Unknown」はUtility-based AIで戦術フェイズを実現
もうひとつのポストモーテムとして紹介されたのは、Firaxis Gamesの「XCOM: Enemy Unknown」だ。講演者は本作のAIを担当したAlex Cheng氏。本作は戦略・経営フェイズと戦術・戦闘フェイズの2段構えでゲームが構成されているのが特徴だが、今回のセッションで紹介されたのは後者の部分である。
本作の戦術フェイズはターンベースのシミュレーションゲームになっており、多種多様なエイリアンが登場し、遮蔽物に身を隠しながら各種の特殊スキルを使っていやらしい攻撃をしかけてくる。そのいやらしさを支えるAIは“Utility-based scoring system”という仕組みだ。
これは、可能なあらゆる選択肢に得点をつけ、その状況において合計スコアが最も大きくなる行動を選択するというモデルだ。本作においては各エイリアンの固有スキルに高めのスコアがあらかじめ設定されており、種族ごとの個性が強調される作りになっている。
これに加え、移動の判断にも同様のモデルが採用されている。基本的には“最もよくカバーリングできる場所”を探す仕組みになっているのだが、現在地からの距離、敵の側面を取れるかどうか、敵を正面に捉えられるかどうか、可能なら敵を1体だけ視野に収められるか(多すぎると反撃されるため)、といったゲームプレイ上の要請に合わせて各地点の重み付けがなされる。
結果として本作のエイリアンは、プレーヤーにとって最も面倒くさい位置に陣取り、固有スキルを使って効果的な攻撃をしかけてくるというわけだ。全体的に素直な手強さが面白さの秘訣となっているゲームであるだけに、AIの実装も素直で、オーソドックスかつ納得のいく内容である。
本作をプレイする人は、こういったAIの仕組みも考えながら遊んでみると、いっそう面白さが増すかもしれない。