【特別企画】上海ゲームショップレポート 完全保存版 Ver.2012

変容を繰り返しながら生き続けるゲームショップ、主戦場は物理店舗からオンラインへ


2012年7月取材



 ChinaJoyレポートの締めくくりとして上海のゲームショップレポートをお届けしたい。上海でゲームショップレポートをお届けするのは2007年以来、実に5年ぶりで、この間、北京オリンピックや上海万博など、海賊版や違法改造などの取り締まりのきっかけとなる大きな出来事がいくつかあり、上海は2007年当時とは大きく変わったという。

 5年が経過して上海のゲームショップは果たしてどのように変わったのか。また、当局の取り締まりがあったとすれば、その後、上海のコンシューマーゲームファンはどのように喉の飢えを癒してきたのか、そして広州深センで生産されている偽装新品や模造品はどの程度上海に入ってきているのか。

 そのあたりを会期中の夕方以降に街を出歩いてリサーチしてみた。その結果判明したのは、正規ビジネスがあろうがなかろうが、オタクビルが倒産しようが関係なく、あらゆる手段を駆使して何が何でもコンシューマーゲームを遊び続けるという、非常にタフなユーザー像が浮き彫りになってきた。



■ 5年前に隆盛を誇ったオタクビルや海賊版業者はほぼ全滅、観光地は動漫城からアップルストアへ

上海の代表的な観光地「豫園」
豫園からゲーム系は消えていたが、偽ブランドアイテムはまだまだある
淮海路のアップルストア。規模がでかい!

 まずは小手調べとばかりに、5年前に取材した場所に再び赴いてみた。具体的には豫園(ユエン)、南京東路(ナンジントンルー)、淮海路(ワイハイルー)といった観光地としても有名なエリアと、上海にある動漫城(オタクビル)の先駆けとして知られる静安寺の「眩動楽百動漫城」、当時出来たばかりだった南京東路の「上海動漫城」、そして日本の中古ソフトの最終到着地として機能していた淮海路の「都市風情街」といった動漫城を攻めてみた。

 5年前、これらのスポットには、海賊版を売る店がいくらでもあったし、海賊版を木箱に入れて自転車で売り歩く業者も多かった。また、当時オタクブームにあわせて、勢いに任せて作ってしまったような動漫城(オタクビル)も乱立していた。正規ビジネスがスタートしないなか、これらがどうなったのか気になっていたのだ。

 答えから書いてしまうと、当時存在していたものはすべて無くなっていた。豫園はピュアな観光地になっていたし、豫園の裏通りで、こっそりロレックスの模造品を売る業者は相変わらず多かったが、ゲーム関連のアイテムに手を出している業者はひとつもなかった。取り締まりが本当に機能しているならブランドグッズの模造品もなくなっているはずだが、それはそのままでゲーム関連だけ姿を消しているというのは要するに、ゲームの海賊版ビジネスがそれだけ需要と供給のバランス、リスクとリワードの比率が割に合わなくなっているということだろう。

 動漫城もすべて撤退していた。下記に掲載した写真と2007年のレポートの写真と比較してみるとおもしろいかもしれない。当時から「上海在住のアニメファンに話を聞く限りでは、(これらの動漫城は)『どれもズレてて全然ダメ』」という状況だったので、撤退はゲームビジネスうんぬん以前の問題だったとも言えそうだが、結果としてオタク文化の一側面としてのゲームを扱うショップもなくなってしまった。

 ちなみに、南京東路や淮海路には、日本を遙かに凌ぐ規模のアップルストアが存在し、ちょうど正規で発売が開始されたNew iPadが陳列され、多くの客を集めていた。メンテナンスがあまり行き届かず薄暗い動漫城でゲームを買いそろえるという時代はとっくの昔に終わり、正規品のiPhoneやiPadでゲームを楽しむという時代が到来しているという印象を受けた。

【眩動楽百動漫城】
オタクショップのメッカとなっていた眩動楽百動漫城はビルごと撤退し、レストランに入っていた。4階のゲーセンコーナーは、ビリヤード場になっていた

【南京東路】
南京東路にもアップルストアができていた。上海動漫動は完全に撤退。セガが新世界にオープンしていた大型アミューズメント施設「プレイヤーズアリーナ」も撤退して、台湾系のTOM'S WORLDが事業の一部を引き継いで運営していた

【都市風情街】
5年前はゲーム系のショップが多かった淮海路の「都市風情街」だが、すべて撤退し、ホビー系が少し残る程度でずいぶん寂れていた



■ ITモールでは、ゲームはPC、モバイルに次ぐ位置に。偽装新品や模造品も少量入荷

浦東新区にある大型ITモールの百脳匯(Buynow)
こちらは太平洋数碼三期
ショップの標準的な品揃え。一通りのものはある。もちろんすべて海外からの並行輸入品となる
百脳匯で見かけたレンタルショップ

 小手調べの観光地巡りでは、汗だくになりながら歩き回ったあげく“めぼしい収穫は無し”という惨憺たる結果に終わったわけが、若干負け惜しみ気味に言うと、このような結果が出ることは行く前からわかっていた。今回のリサーチの目的は、海賊版屋も動漫城もなくなってから、彼らがどこでどのようにゲームを手に入れているかということだ。そこで次は上海に点在するITモールを尋ねてみた。

 最初に訪れたのは、ChinaJoy会場の上海新国際博覧中心からほど近い浦東新区にある大型ITモールの「百脳匯(Buynow)」と「太平洋数碼三期」の2カ所。いずれもPC系、モバイル系を中心にしたショッピングモールで、その中の店舗のいくつか、感覚的には1~2割程度の割合でゲームが取り扱われていた。看板や棚には、かつてはゲームを取り扱っていたことを示す、新旧様々なゲーム機が描かれていたりするが、実際にはスマホやタブレットだけで、ゲームは取り扱っていなかったりするのがもの悲しい。

 商材は、ゲーム機はひととおりあったが、比較的取り扱いが多かったのがPS3とXbox 360、PS Vita、ニンテンドー3DSの4つだろうか。もちろんすべて並行輸入品ばかりで、1番の売れ筋はもっとも新しいハードであるPS Vitaのようだ。PS Vitaは、3G/WiFiモデルはChina UnicomのSIMなら3G通信が可能ということでSIMフリーの香港版をいくつか目にしたが、800元(約1万円)ほど値段が高くなることが嫌われてか店頭に置いてあったのはどこもWiFiモデルばかりだった。

 ゲームソフトはPS3とPS Vitaのみを取り扱っている店がほとんどだった。理由は単純でコピー品が存在しないため。他のハードのソフトはすべてコピー品が存在し、ハードの購入者にはほしいだけコピーしてあげるという、商業的価値はほぼゼロの扱いになっている。

 ある店舗では、海賊版詰め合わせディスクも販売されていた。確認できたのはPSPとDS版で、PSPは157本入りで150元(約2,000円)、DSは1,000本入りで230元(約3,000円)。この手の海賊版は価格交渉が可能であるため、実際はもっと安くなる。3DSに関してはいわゆる“マジコン”と呼ばれるツールの3DSに対応したものが大量に販売されていた。ソフトは購入者に対してR4とMicroSDをセットで購入すればいくらでもコピーするという。

 なお、PS Vitaの海賊版の存在について確かめてみたところ、「今はないが半年後には用意できる」と複数のショップで確認できた。その根拠は不明だが、「いつも発売から1年から1年半でハックできてきたから」ということのようだ。中にはPS Vitaはまだタイトルが少ないので急いで出す必要はないと強がるショップもあった。こうした実情を見ると、ゲーム機に強力なコピープロテクトを施すことの重要性、あるいはそもそも有料でゲームソフトを販売することのビジネスモデルとしての不可能性をを再認識させられる。

 百脳匯でおもしろかったのはゲームをレンタルしてくれるショップだ。ショップ内にビデオショップのようなパッケージが並んだ棚があり、PS3およびPS Vitaのソフトを1口1本800元(約10,000円)で1年間借り放題となる。2本同時に借りたい場合はもう1口契約となる。ちなみに手持ちのPS3/PS Vitaのゲームと、レンタル用ゲームは交換することも可能ということで、限られたコストでより多くのゲーム楽しむにはレンタルはかなり有効な手段と言えそうだ。

 淮海路や徐家匯(シージャーフイ)のITモールも回ったが、品揃え的には似たようなもので、かつてに比べるとずいぶんクリーンな街になっていた。それでも淮海路のソニーショップには、こっそりPSPやPSP Goを売る店があったり、徐家匯の太平洋数碼二期の地下には、広州深センで腐るほど目にした模造品や偽装新品のPSPが少量見られるなど、ネジの緩い店はいくつかあった。
ただ、それらも絶対量としてはホントにわずかで、いずれも真面目に商売しているとは思えなかった。

 ITモールを回ってみて感じたのは、並行品、模造品、偽造新品を問わず、“モノ”が動いている感じがしないということだ。ITモールの主戦場はもともとゲームではなくPCだが、現在はPCとスマホに移りつつある。ITモールもまた、ゲームを買う場ではなくなりつつあるという印象を受けた。

【百脳匯(Buynow)】
海賊版やマジコンのたぐいを含め、一通りのモノは置いてあるが、あまりモノが動いている感じはしない。メインはPCとスマホといった印象だ

【太平洋数碼三期】
太平洋数碼三期の地下には動漫城があり、半分ぐらいの店はオープンしていた。バインダーによる海賊版の販売や、コピーDVDの販売など、時間が止まったような空間。ここではPS Vitaの保護フィルターの模造品が確認できた

【新尚デジタルプラザ】
淮海路のITモール「新尚デジタルプラザ」。ここはゲームショップ的には、記念に偽札を展示している店舗があったぐらいで品揃えはほかと変わりない。あとはゲームボードカフェがあったり、下段に掲載したテーマ別の部屋貸しビジネスがユニークだった。マリオ部屋やクマ部屋、中世ヨーロッパ風、キティ部屋などがあった。1時間58元(約750円より)。中にはPS3やWiiなども置かれており、プロジェクターで投影してゲームが遊べる

【徐家匯(シージャーフイ)】
かつては海賊版の巣窟だった徐家匯だが、5年前と比較するとかなりクリーンになった。店頭ではLenovoがスマホの新モデルのアピールのため、ゲームのデモをするなど、ゲームに対する扱いも変わりつつある。それでも地下エリアには、PSPの模造品、偽装新品が残っており、上海を代表する危険地帯であることには違いない


■ 上海市内で密かに営業するゲームショップ。店内には大量の伝票と段ボールが山積みに

宏龍ゲームショップのオンラインサイト
上海遊戯地帯のオンラインサイト。共に新製品の紹介より、リアル店舗の存在をアピールしているのがユニークだ
カウンターに乱雑に置かれたSF Expressの伝票。SF Expressは深センを拠点とする運送業者で、中国全土に流通網を持つ

 それでは上海のゲームファンはどこでゲームを手に入れているのだろうか? ここまでの取材で、「それは物理店舗ではなくオンラインショップなのではないか?」という仮説は確信に近いものになっていたが、実際にそうなのか確かめるために、上海市内で数少ない独立店舗スタイルのゲームショップ2件を尋ねてみた。

 1件目は大世界駅から東に10分ほど歩いたところにある「宏龍ゲームショップ」。位置的には大世界駅と豫園駅のちょうど中間で、中華圏によくある1階が店舗で、2階が住居という商住一体型のエリアにあり、「GAME」と書かれてはいるものの、店内の様子が外から見えず若干地味なので最初は素通りしてしまった。

 中はゲームショップというより倉庫のようで、商材が詰まった段ボールと、梱包材、その他配送用の機材で店内のあらかたがうまっており、中央に人1人が通れる通路があるだけという状態だった。店内にいる間も、ひっきりなしに新しい商材が運び込まれ、身の置き場がない。

 カウンターの奥にはPS3やPS Vitaのソフトやコントローラーが平積みされ、これだけ大量のゲームアイテムを上海で見たのはこれが初めてだった。商材は香港から入れた並行輸入品ばかりのようだった。カウンターには、大量の伝票が置かれ、店員はオンラインショップから届いた発注に対応するためか、常時PCをカタカタいじっている。

 店内にいたのは15分ほどだが、狭い店内を3人のスタッフが動き回り、商材を運び込んだり、PCを処理したり、伝票に書き入れたりしていて、初めてゲームが売れているという手応えを持つことができた。

 「宏龍ゲームショップ」は、ホテルに戻って調べてみるとオンラインショップ「淘宝(タオバオ)」にオンライン店舗を持っており、中国のゲームファンはここからゲームを購入しているようだ。

 もう1店舗は上海の北に位置する彭浦新村駅から歩いてすぐのところにある「上海遊戯地帯」。地下鉄1号線が繋がる一大ベッドタウンだが、モノを売るにはかなりへんぴな場所といっていい。こちらも「淘宝」にオンラインショップを持ち、現地関係者によれば定番サイトのひとつだという。

 店内は広々としているが薄暗く、古びたショールームといった印象で、店の中程にあるカウンターを隔てて奥にゲームハード、ソフトが並んでいる。店に入ってすぐ左手には、46インチの液晶モニターが2台あり、様々なゲームハードが試せるようになっており、実際に試している家族の姿を見ることができた。

 右側には階段があり、中2階中と地下1階に繋がっている。中2階中は倉庫らしく中身の入った段ボールが山積みされ、地下1階は六畳ほどの狭い空間にPCが4台並べられ、スタッフらしき人物がPCで作業を行なっていた。この店舗もまた、オンラインでの販売が中心になっているようだ。

 「宏龍ゲームショップ」と共通しているのは、至る所で配達業者の伝票と未使用の段ボール箱が山積みされているところで、店舗でそれほど売る気はないのも同じだった。だったら、いっそのこと完全に倉庫にしてリアル店舗は不要なようにも感じられるが、現地の関係者によれば、リアル店舗の存在がオンラインショップの信頼に繋がるため、存在することそのものが重要なのだという。

 また、日本人の感覚から言うと、偽装新品や模造品が横行する国で、中身を確認せずにオンラインサイトで買うのはリスクが高そうな気もするが、そこもむしろ逆だという。オンラインならすべての記録がデジタル的に残されるため、仮に騙されたり、不具合が発生してもオンラインでの記録から追跡して対応して貰うことが可能で、安心なのだという。オンラインショップの方が安全というのは、いかにも中国らしい話ではある。

【宏龍ゲームショップ】
宏龍ゲームショップの店内。取材に協力的というか、協力するヒマもないという感じでスタッフは常時せわしなく動き回っていた

【上海遊戯地帯】
こちらはリアル店舗はあるものの、相談に応じるためのショールームという感じで、目に見えない部分で配送業務を行なっていることが窺えた



 こうしたオンラインショップが盛んになる背景には、中国の近代化によるインフラ整備により、物流事業が発達してきたことが挙げられる。上海市内なら、1日から2日で届けられ、ニーズがどの程度あるかは不明ながら、中国全土への配送も可能。ネットでの評判を見ながら、価格や在庫をチェックして欲しいアイテムを購入するという、日本では一般化している買い方が上海でも一般化しつつあるようだ。

 ロジスティックスが高度に発達している北米では、ゲームショップ自体がほとんど存在しない状況になっているが、世界中のゲームショップが最終的にはオンライン化する流れは時代の必然なのかもしれない。もっとも、中国の場合は、正規ビジネスがまだスタートしていないが、果たして正規のゲームショップというものがビジネスとして成立するのかどうか不安を覚えたのも事実だ。

 物理店舗は、ゲームを手にとって触る機会を提供する場であり、新規ユーザーの獲得のためにも、プラットフォーマーサイドとしてはしっかり保護することが中長期的なメリットに繋がる。

 お隣の香港では早くもこの問題に直面しており、SCE Asiaの香港支部のSCEHは、ショップ保護の目的で、プレミアムショップという形でこれを解決しようと努力している。具体的には、ショップが並行品や中古品を扱わない、新品の価格をみだりに下げない等のいくつかの条件を満たすことで、SCEHからプレミアムショップの認定を受けることができ、認定を受けたショップはSCEHから新製品の発売の際に様々な優遇措置を受けられるというものだ。

 ゲームビジネスは、ハードの多様化で個々のゲームハードのプレゼンスが低下し、ソフトはオンラインに溶けようとしているため、次世代のゲームショップの姿というのはまだ曖昧模糊としているが、中国のゲームショップは案外タフに生き残るのではないかという気もしている。正規ビジネスの開始を睨みながら、今後の推移を見守りたいところだ。

【公認ギャンブル】
中国はギャンブル、ポルノ、麻薬の3つは特に厳しく処罰されるが、上海には公認のギャンブルが存在していた。200元(約2,600円)でプリペイドカードを購入し、マシンに通してポイントをチャージし、ギャンブルゲームが楽しめる。週末の夜に行ったが、席は7~8割型埋まっていた。ゲームの内容はインタラクティブ性のないパズルゲームという感じで、掛け金と掛ける対象を選択した後はボタンを押すだけ。公認ギャンブルということで売上金の一部を使って福祉事業に使われることがアピールされていた

(2012年 7月 30日)

[Reported by 中村聖司]