【特別企画】深センゲームショップレポート 完全保存版
模造スマホのメッカに潜入! 中国を蝕む“偽装新品”とは何か?
広州取材の翌日、週末を利用して広州の南に位置する、香港からの中国への玄関口、深センまで足を伸ばした。広州からは新幹線でわずか一時間ほどで行くことができる。
深センの代名詞として語られていた“世界の工場”としての地位は、近年は人件費の高騰で成都や煙台などの内陸地域、ベトナム、タイなどの東南アジア地域に奪われつつあるが、広東省で最初の経済特区に選ばれたアドバンテージはまだまだ有効で、広州を上回る規模の電脳街が存在し、工場とは無縁そうな若者向けの経済活動も活発に行なわれている。街路には当時開放政策を推進した鄧小平を讃えるポスターが目立っていたのが印象的だった。
深センは他の都市では、それ1個でITモールとして成立するような大規模な電脳城が、華強北路と呼ばれる大通りを挟んだ両側に林立しており、さらに1本裏道に入ると今度は卸売市場が軒を連ねているという具合で、規模、密度共に中国最大規模の電脳街になっている。深センはこの華北北路を中心に回って見た。広州編と合わせて読んでいただきたい。
■ 模造品の最高級品“1対1”が手に入る史上最悪の模造スマホ市場「明通電子市場」
まず訪れたのは、華北北路メインストリートから1本入ったところにある「明通電子市場」。ここはスマートフォン専門の卸売市場。といってもこの市場、扱っているのは正規品ではなく、すべて模造品、つまりニセモノばかりだ。
ここには1階から5階まで4㎡ほどの小規模の店舗が密集し、そのいずれもが完成品の携帯電話を取り扱っている。主力商品はスマートフォンで、いわゆるフューチャーフォンもまだあるが、モノが動いている気配はほとんどない。卸売市場であるため、本体だけでなく化粧箱やマニュアル、付属品、バッテリー等を扱う店もある。業者はここで携帯電話と付属品一式を購入し、新品の模造品として売るわけだ。
ビルに入った瞬間、小さい喫煙室に入ったかのような強烈なたばこの臭いが立ちこめ、ただでさえ狭い通路を、荷物を両手に抱えた業者や台車を押す業者が足繁く動き回っている。正規品と良くできた模造品の唯一の見分け方は、“臭いをかぐ”ことで、理由は「模造品はたばこの臭いがするから」というネタのような比較的真面目な話があるが、ここに来るとそれが真実であることがわかる。
ガラスケースの中にはiPhone 4やGalaxy Noteなどを模したありとあらゆるスマートフォンが陳列されている。iPhone 4だけで10種類もあり、白、黒以外のカラーバリエーションも豊富に用意されている。ここにある製品はすべてニセモノだと知ってるので、どんなに精巧に作られていてもニセモノだとわかるが、ぽんと1台だけ置かれていたら見分けが付かないかも知れない。外見はそれほどクオリティが高い。
警戒が薄そうな店舗を狙っていくつかの商品を触らせて貰ったが、触ってみるとニセモノか本物かは1発でわかる。外装の材質、ボタンの精度など細かいところを見ていくといろいろ違いが見えてくるが、なんといっても軽いのだ。起動するとより違いがわかる。iPhoneなのに、Android OSだったり、MediaTek製のOSが起動したりする。おしなべて動作は重く、ゲームアプリを動かそうとすると繰り返しクラッシュするなど、まさにゴミのような粗悪品ばかりだ。価格はiPhone 4で400人民元(約5,200円)から800人民元(約10,400円)とそれなりに高い。型落ち品やHTCなどのスマホは140人民元(約1,820円)ぐらいからあり、業者の資金とニーズに合わせて、模造品のグレードを選択できるようになっている。
そうした中、1点だけ衝撃的にクオリティの高い模造iPhone 4に遭遇した。“6513”と彼らが呼んでいた模造iPhone 4は、外見、重量、ボタンの押下感、そしてOSの中身、その挙動など、すべてが本物にしか思えないクオリティで作られている。しかもRetinaディスプレイが採用されており、960×640ドットの精密な描写を実現している。店員によれば模造品の等級で最高級を示す“1対1”のiPhoneだという。中身まではわからなかったが、デュアルコアA5チップではないことは明らかで、スクロール時にわずかなもっさり感を感じた。価格は1,400人民元(約18,200円)と模造品としては最高級品となる。
ちなみにこの週末は連休ということで、そもそもビル全体が営業していなかったり、早めに閉める電脳市場が多かった。「明通電子市場」の隣にはタブレット専門の卸売市場があったのだが、入ることができず残念だった。ちなみにタブレットは模造品よりも、オリジナル商品が多いという。
【明通電子市場】 | ||
---|---|---|
明通電子市場はスマホ関係者には悪夢のようなスポットだ。この背景には容易に模造を可能とするチップセットメーカーのターンキービジネスの存在は無視できない。この模造のエコシステムに、既存メーカーがどう食い込んでいくかが、中国進出のカギとなりそうだ |
■ 世界最大規模の電脳街「華強北路」に潜む“偽装新品問題”に迫る
続いて華強北路に移動し、いくつかのITモールに足を踏み入れてみた。最初に訪れたのは、華強北路の中でも最大といわれる「華強電子世界」。メインの建物が6階建てで吹き抜けが2箇所にあり、華強北路を挟んで向かい側に別棟まである。PC、デジカメ、スマートフォン、ビデオカメラなどを中心に、ありとあらゆるデジタルアイテムが揃う。ゲームもわずかだが置いているショップがあった。
ここは施設の新しさ、商品の品揃え、商品陳列方法、清潔さといった点でグローバル水準に達しており、一見、正規品の新品を安心して買えるモールに見えるが、ガラスケースの中身をつぶさに眺めていくと、残念ながらここで扱っている正規品の一部は、“偽装新品”だった。
偽装新品とは、中古製品の中身だけを再利用し、本体ケース、認証シール、化粧箱、マニュアルを“新品のコピー品で偽装”し、新品として定価で売り出すことを指す。偽装新品はまだ日本でもあまり報道されていない問題だが、違法改造やコピーと同様にメーカーのあらゆる権利を侵害しているだけでなく、捨て値で買った中古品を、正規品同様の高額で売りさばき、壊れても修理をせずに逃げるという、買ったユーザー自身も被害者となる極めて悪質な行為となっている。
広州ゲームショップレポートでインタビューした打机王の陳氏も、違法改造や海賊版には手を出しても、ゲームファンを騙す偽装新品だけは絶対にやらないという一線を引いており、リーガル的に問題だらけの中国においてももっとも深刻な問題として捉えられている。
次に足を踏み入れたのは、華強北路でゲームを専門に扱う「万商電脳城」。広州ゲームショップレポートで最初に訪れた「文化公園卸売市場」の小売り版という感じで、改造済みのゲーム機やコピーソフト、そしていわゆるマジコンと言われる「R4」シリーズや、PS3をハックするためのドングル、そして修理に使うパーツや基板、模造品の周辺機器などが所狭しと並んでいる。
とりわけ驚いたのが、ケース・外箱専門店である。PSPとニンテンドーDS Liteの外箱、内箱、本体ケース、本体に張るシール、そしてマニュアルがすべて小売りされている。価格は、PSPの場合で本体ケースとシールがセットで80人民元(約1,040円)、外箱、内箱、マニュアルがセットで5人民元(約65円)。
すべて本物からのコピー品で、よくよく見ると外箱のスキャン解像度が低く、PSPの写真が若干粗く見ているのと、マニュアルは紙と印刷の質が悪い。ただ、それは本物を知ってるから言えることで、知らなければ本物だと思ってしまうに違いない。模造品を提供するつもりなら、これらのアイテムはいらないため、これらはすべて偽装新品向けの商材ということになる。
「それでは本体そのものはどこで手に入れるのか?」ということで向かったのが、“泥棒市場”の俗称で知られる「通天地通信市場」。ここにはその俗称にふさわしく、液晶が割れたスマホや、むき出しのスマホの基板、MediaTek製のチップ、スマホ用バッテリー、そして許諾を偽装するシール、その他何に使うのかよくわからないパーツであふれかえっている。つまり、先ほど紹介したiPhone 4の“6513”のように“精巧な模造品”止まりではなく、スマホにも偽装新品が存在するということになる。
中国における偽装新品の問題は想像以上に深刻で、ハードウェアとしてはあくまで本物であることが問題の深刻化に一層の拍車を掛けている。偽装新品は、我々外国の人間から見ると、身から出た錆、自業自得、因果応報といった表現をしたくなるが、正規市場がないか、あっても正規代理店が存在しないことによるユーザーの無知につけ込んだ詐欺ビジネスであり、ビジネスモデルの転換によってある程度メーカーサイドで解決できる違法改造やコピー問題と違って、偽装新品は1メーカーレベルではどうにもならない問題である。今後正規品のビジネスを展開する上で、この偽装新品は避けて通れない問題であり、市政府とメーカー、業界団体が一体となって解決していくべき課題と言えそうだ。
【華強北路】 | ||
---|---|---|
どこまで続くのかというぐらいひたすら電脳城が続く華強北路。人の往来も活発で、非常に豊かだ。小規模なショップはスマホを扱う店が多かった |
【万商電脳城】 | ||
---|---|---|
華強北路でゲーム系が集中している万商電脳城。中国のゲームビジネスの現状を体現しているモールで、模造品の本体ケースや紙箱を小売りしているのに衝撃を受けた |
【通天地通信市場】 | ||
---|---|---|
“泥棒市場”の俗称で知られる「通天地通信市場」。名付けの理由はよく盗品が持ち込まれるからだということだが、実際には工場からにじみ出てきたようなバルク品のチップや基板などが大半を占める |
(2012年 6月 25日)