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【新春特別企画】中国ゲームマーケットレポート(ウルムチ編)

天山山脈の奥に広がる大都市に、小さなゲームマーケットが育っていた!

2013年1月取材

 新年特別企画、続いては新疆ウイグル自治区の首府ウルムチである。カシュガルに向かう際に一度トランジットで寄った都市だが、カシュガルの帰りに1泊して街を歩いてみた。

カシュガルからウルムチへ向かう機内から見えた天山山脈。幾重にも山岳が積み重なっている

 ウルムチは、タクラマカン砂漠の北方にそびえる天山山脈を越えたさらに北方に位置するため、連日マイナス10度前後で推移していたカシュガルよりまた一段と寒く、マイナス20度前後とまさに極寒の地だった。

 ただ、ウルムチはその圧倒的な寒さを除くと、イスラム色も薄く、ごくごく普通の中国の大都市という印象を受けた。ウルムチは、海から2300kmほど内陸にあり、地球でもっとも海から遠い都市と言われている。敦煌やトルファンのさらに奥というと、砂漠と山脈しかないような印象があるが、実際にはそうではなく、上海や広州などと何ら変わらぬ大都市が形成されていたことに驚かされた。

 街の中心部には有名ブランドが入る大型モールが軒を連ね、高層オフィスビルが建ち並ぶ。街にはオシャレな装いの若い男女が歩いており、信号待ちの女性はスマートフォンでパズルゲームを遊んでいた。通りの看板の上部に小さく書かれているウイグル語を見落とすと、ここが新疆ウイグル自治区とは思えないほどだ。

 ちなみに、カシュガルとウルムチの道路の引き方はおもしろいほど共通しており、街の東西を人民路が走り、南北を解放路が延びる。あたかも「人民」と「解放」の文字を市民の心に植え付けんとしているかのようだが、その両路が接続する地点が、街一番の繁華街となる。ウルムチもその周辺から歩みを進めてみた。

【ウルムチ(烏魯木斉)】
空港を出て、クルマがエンストしたらヤバいなあという雪で閉ざされた道路を南に30分ほど走ると、クルマと人々の喧噪に包まれた大都市に入る。何となく助かった感じがするから不思議である

長大なITモールにはゲームショップを発見! 激安ネットカフェが大人気

繁華街の様子
今回メインで訪れた「賽博デジタル広場」は、300メートルほどの長さのモールの両側にショップが並ぶというアーケードスタイルのITモール。地上3階、地下2階で、単一のITモールとしては中国最大規模だ
スマートフォンでゲームを遊ぶ女の子も。カシュガルでは見られなかった光景だ
中の様子。日本のメーカーの製品も含め、世界中の製品を取り扱っている
地下にはゲームを専門に扱っているショップもあった

 ウルムチの繁華街にはいくつものITモールがあり、その中には少数ながらゲームショップもあった。ITモールは繁華街の中心部にあるだけあって人通りも多く、品揃えの充実ぶりは上海や広州といったメガシティとほとんど変わらない。取り扱っている書品は、PC、デジカメ、液晶モニター、タブレット、デジタルメディアプレーヤーなどがメインで、フィーチャーフォン、スマートフォンは意外なほど少なかった。ここにはソニー、キヤノン、リコーなどの日本のメーカーの正規ショップもあり、中国における市場のひとつとして位置づけられていることがわかる。

 ゲーム関連は、現地の人間によれば、数年前に比べるとずいぶん減っているということだが、それでもITモール内に5〜6店舗ほど見かけることができた。ゲームハードはPS3、PSP、PS Vita、Wii、3DS、3DS LL(XL)、Xbox 360など、年末にリリースされたWii U以外はひととおり置いてあった。価格はいずれも定価販売で、香港、台湾から仕入れた並行品ばかりだ。

 ソフトに関しては、コピーのないPS3とPS Vitaは正規品が少数置かれ、その他のハードに関しては海賊版が中心で、海賊版の価格は8〜10元程度。カシュガルよりは安かったものの、5元で取引されている上海より高めの設定になっている。

 ゲームハードの売れ筋は、据え置き機ではなく、携帯型ゲーム機が中心で、ここではソニーや任天堂といったブランドパワーが通用しないのか、Androidや独自OSベースのPSPもどきが人気だという。また使い方もゲームにこだわらず、映像や音楽を試聴するためのデジタルメディアプレーヤーとしての利用が主流となっているようだ。正規品の価格はほぼ定価で取引されており、それより半値以下で模造PSPやオリジナルゲーム機が販売されているといった印象で、PSPが全盛だった5年前の上海の風景を見ているようだ。

 台湾や香港からの並行品ということで、最近は特にSCEのタイトルは中文化されるタイトルが増えてきているため、繁体字、簡体字で遊ぶことができる環境が整えられているが、さすがにこちらで一般的に使われているウイグル語にまでは対応していない。ゲームを楽しむためには中国語を覚える必要があるというわけだが、ウイグル族のゲームファンも難なく遊んでいた。意外とこういうところから民族問題のデタントが図られていくのかもしれない。

 ITモール近くにはネットカフェもあった。300席を超える大規模店で、利用料金は1時間4元、会員3元。ただし、一定の金額を先払いするとボーナスが付与される仕組みで、そのボーナスが巨額で驚かされた。たとえば、50元を買うと50元分のボーナス、500元で800元、1,000元だとなんと2,000元で、1,000元で3,000元分、1時間0.3元、たったの5円で遊べてしまうことになる。

 さすがに所得水準的に500元、1,000元をほいほい先払いというわけにはいかず、先払いできてせいぜい50元、100元というところだろうが、この背景には、他の中国と変わらないほどの大きな需要と、多店舗との価格競争が発生していることが窺える。

 客席は若い男性客が中心で、ほぼ満席の人気ぶりだった。ウイグル系の顔が多かったように思うが、ウイグル語のサイトを見ている客はごくごく一部で、多くは中国語のサイトや映画を見ていたり、中文版のオンラインゲームを楽しんでいた。人気タイトルはカシュガルでも人気だった「League of Legends」。中国では「LoL」の大ブームが発生しているようだ。

 ウルムチは、カシュガル以上にゲームへの関心の高さが感じられた。ゲームショップがあまり賑わっていないのは、所得水準とコンソールゲームの価格設定、あるいはそのビジネスモデルが噛み合ってないからであり、ここには大きな潜在需要が眠っていると感じられた。

 また、新疆ウイグル自治区の都市の特徴としてウイグル人が多く目に付いたが、漢民族への反発もあるのか、中国産のゲームがまったくといっていいほど遊ばれていない。上海や広州ではITモールを埋め尽くすほどの勢いで広告を出している中国メーカーも、ここではまったく存在感がなく、勝者どころかプレーヤーすら存在していないというのが実態だ。

 今後、ゲームハードの主役は、PCから、ゲームコンソールを素通りして、スマートフォンに移行するはずだが、今後スマートフォンやタブレットが普及することによってこうした部分がどのように変わるのか。新疆ウイグル自治区は広大な土地にわずか2,000万人しか暮らしていないというが、まったく手つかずの市場という点で、これからが非常に楽しみな市場だと思った。

【賽博デジタル広場】
細長いモールには、新品、中古を問わず、ありとあらゆるデジタルガジェットが置かれている。地下にいけば行くほど内容もディープになる。よく目に付いたのが、映像も見られて、音楽も聴ける様々なタイプのデジタルメディアプレーヤー。Androidベースで、ゲームも遊べるというタイプが多いようだった

【ゲームショップ】
賽博デジタル広場地下にあったゲームショップ。ハード、ソフトとも品揃えは充実していて、店頭で「ファイナルファンタジーXIII」の中文版や、Xbox 360 Kinectのデモが行なわれていた。Xbox 360はコピーソフトが当たり前に置かれていた。人気ソフトは「バイオハザード6」だという

【ネットカフェ】
繁華街にあった大規模なネットカフェ。もともとは飲食店だった店を改装したらしく、わずか1時間3元で、暖かく快適にPCゲームが楽しめる空間が提供されていた

番外編 ウルムチでiPhone5を盗まれた場合のケーススタディ

盗難に遭った解放南路。この奥には、ウルムチの観光名所新疆国際大バザールがある
これは最後にiPhone5で撮影した写真。この写真をWiFiルーター経由でフォトストリームでアップロードした直後、謎の失踪を遂げた
ITモールの入り口には、中古の携帯を買い取る看板を抱えた業者がたくさんいる。筆者のiPhone5もおそらくは彼らの手に渡るのだろう

 以下は、丸ごと余談であり、ほとんど参考にならないと思われるが、ウルムチのバザールでiPhone5を盗られるというある意味で貴重な体験をした話をご紹介したい。

 カシュガルでは、回線速度が遅かったり、うまく繋がらなかったりで、まともにiPhoneを活用できなかったのだが、ウルムチではそんなことはなく、さくさくGoogle Mapsが表示でき、タクシーでの移動中も日本の電車内のような感覚で快適にソーシャルゲームが遊べたため、ホテルに戻ったらより多くのソーシャルゲームの動作検証をしたり、回線速度などをより深く調べようと思っていた矢先に盗られてしまい残念である。

 盗まれた当日は、日中、ITモールやネットカフェを一通り取材し、夜にさしかかり残り少ない滞在時間で、ウルムチ名物というグランドバザールを見に行こうとしたところ、その道程でiPhone5を掏られてしまった。盗難場所は繁華街とグランドバザールを結ぶ解放南路から1本横道にそれた龍泉街南路。ショートカットしようと横道に入り、そこの出店が並ぶフードマーケットで盗まれたようだ。

 言うまでもなくiPhoneは、手持ち荷物の中ではパスポートと財布の次に大事な物だからダウンジャケットのポケットの奥にしっかり入れていたのだが、フードマーケットの光景が気に入り、家族や友人にシェアしようと思って、iPhoneを取り出して撮影してしまったのがフラグとなったようだ。マイナス15度の気候に耐えるために、何枚も着込んで鈍感になっていたためか、掏られたことにまったく気づかなかった。誰かに突き飛ばされたり、注意を向けられたりするような、これといった思い当たる節もなく、キツネにつままれたような話だ。

 油断していたのは事実だが、油断という点ではカシュガルも同じで、むしろカシュガルのほうがスリにはもってこいのより高密度のバザールを何度も通ったのだが、なんともなかった。これは邪推に近い憶測に過ぎないが、単純に盗人にiPhoneの価値が分かっているか否かの違いだったような気がする。

 さて、盗られたと気づいた時点で、国際電話で携帯電話会社に連絡して電話の使用を止めて貰い、次に公安警察に赴き、盗難を届け出た。日本と同じように、いつ、いくらで購入した何を、いつどこでどのように盗まれたのかを調書にまとめ、氏名、日本の住所を印、数字の箇所すべてに指印を捺印していく。調書の作成は30分も掛からず終わり、最後にA4用紙に打ち出した被害届を手渡してくれた。もちろん、筆者のiPhoneが警察に届け出られて、手元に戻ることは最初からまったく期待していないが、盗難保険等に加入していれば、保険の請求の際にこれが必要になる。

 以上の手続きを終えたところで、自力で見つけられないか多少あがいてみた。まず、盗られたiPhone5に電話してみた。もともとデータローミングは使用せず、さらに日中のバッテリー消費を抑えるため、常時機内モードで使用していたため、着信する可能性は限りなくゼロに近かったが、盗人が中途半端な知能犯であれば、パスワードを突破し、機内モードをオフにして、電話を使おうとしている可能性もあると思ったのだ。しかし、結果は何度掛けても留守電のままだった。

 次に、奇跡的な発見事例がいくつか出ている「Find iPhone」アプリでも探してみた。こちらはWiFiに繋いでくれれば見つかるため、こちらのほうが見つかる可能性は若干高かったが、しばらく観察してみたもののオフラインのままで反応がなかった。時間的な余裕があれば、しばらく泳がすという選択肢も採れたが、残念ながら明日の早朝にはウルムチを発ってしまうためその方法は使えない。それだけでなくiPhoneの4桁のパスワードを突破され、悪用されてしまう懸念の方が大きい。

 「Find iPhone」アプリには、紛失時にいくつかのアクションを起こす機能が用意されている。具体的には「サウンドを再生」、「紛失モード」、「iPhoneを消去」の3つだ。今回の場合、「サウンドを再生」、「紛失モード」では効果がないため、泣く泣く「iPhoneを消去」を選択。もし盗られたiPhone5がオンラインになったら、その時点ですべてのデータが削除されることになる。

 最後の手段として我ながらおもしろいアイデアだと思ったのは、日本からレンタルしてきたWiFiルーターをレーダー変わりに使うことだ。WiFiルーターは、iPhoneのモニターをオフにした待機状態でも接続を行おうとするため、もし物理的にiPhoneの近くまで行くことができれば、その時点で接続端末数が0から1になるはずだ。しかし、このプランも時間がなかったため断念せざるを得なかった。もし時間がある旅行中なら、この方法は意外に有効だと思う。

 ちなみに、手続きをしてくれた鋭い眼光をした角刈りの漢民族の刑事によれば、今日だけでiPhoneの盗難事件は16件、同僚が13件受理し、iPhoneだけで合計29件もの盗難事件が発生しているのだという。漢民族はウイグル族のことを盗人ばかりだと罵り、ウイグル族は漢民族を国を盗んだ大盗人だと罵るというが、まさにこの“歴史的”罵り合いを実感できる出来事に遭遇できたのはある意味で幸運だった。新疆ウイグル自治区に行かれる際はくれぐれも盗難にご注意を。

【烏魯木斉市公安局】
新疆国際大バザールに行く予定を変更して公安へ。事情を説明すると「またか」という顔をされたが、非常に丁寧に対応してくれた

【iPhone5を消去する!】
「Find iPhone」アプリでは見つからなかったため、最後の手段としてiPhone5のデータの削除を選択。1月14日現在、まだ消去が実行された形跡はないが、アクセスが行なわれた形跡もない

【悲しみの新疆国際大バザール】
公安局で調書の作成を終えて外に出るととっぷり日が暮れていて、急いで新疆国際大バザールに向かったが、残念ながらもう営業は終わっていた。が、よく見るとフランス系のスーパーであるカルフールはまだ営業していて、バザールの地下に広大かつ近代的な店舗を構えていて驚かされた。ちなみに写真のロッカーは、中国ではお馴染みの光景で、ロッカーに手荷物を預けなければ店舗に入ることができない仕組みになっている

(中村聖司)