Bethesda Softworks、「Dishonored」ビジュアルアーツレポート

「Half-Life 2」のViktor Antonov氏の描く独創的な世界観の秘密に迫る!


4月13日開催

会場:W Hotel



 続いての「Dishonored」プレスプレビューレポートは、「Dishonored」のビジュアルアーツに関するセッションの模様をお届けしたい。

【「Dishonored」シネマティックトレーラー】




■ Viktor Antonov氏によって「Half-Life 2」を上回るオリジナル世界を実現した「Dishonored」

スピーチを行なうArkane StudiosのアートディレクターSebastien Mitton氏(左)と、Viktor Antonov氏(右)
「Dishonored」スクリーンショット。写真と見まがうほどの質感の高さだ
規制のFPSの概念を打ち破り世界に衝撃を与えた「Half-Life 2」(Valve)

 「Dishonored」は、レトロフューチャー的な世界観でのステルスアクションに最大の魅力があるが、その魅力を支えているのが、精密に描き込まれたビジュアルである。「Dishonored」ではいかにもヨーロッパで開発されたゲームらしく、建物1つ、キャラクター1人にしても、オリジナルのデザインでひとつひとつ丁寧に構築されており、自分が中世ヨーロッパに迷い込んだような気分にさせてくれる。

 「Dishonored」の世界観の構築を担当したのは、かつてValveで「Half-Life 2」のアートディレクターを務めたViktor Antonov(ヴィクトル・アントノフ)氏。2004年にリリースされた「Half-Life 2」は、Source Engineによる美しいグラフィックス表現と、Havok製の物理エンジンの搭載により、FPSの世界に“物理演算ベースのアクション”という新たな風潮をもたらし、世界に衝撃を与えた。

 「Half-Life 2」はゲーム性ばかりがクローズアップされがちだが、グラヴィティガンによる重力アクションや、得体の知れないロボット兵器など、SF的な設定の多くはAntonov氏の考案によるもの。ちなみに「Half-Life 2」以降のValveのゲームに使用されているSource Engineは、もともと「Dishonored」の開発元であるArkane Studiosが開発したゲームエンジンで、ValveとArkane Studiosの縁はそこから始まっているようだ。

 Antonov氏は現在、ZeniMax本体に所属しており、開発元Arkane StudiosのアートディレクターSebastien Mitton氏との二人三脚で、「Dishonored」の世界の創造と、都市の建築に尽力しているということだ。

 そのAntonov氏は、いかにもアーティストらしい風貌で、自らが描いたイメージイラストを指さしながら熱心に語っていたのが印象的だった。Antonov氏は「Half-Life 2」でも証明して見せたようにSF、とりわけマシンシティー的世界観を得意としており、映画「Metropolis」と「Blade Runner」の影響が大きいという。

 「Dishonored」の企画当初は、Google Mapで世界を見下ろしながらアイデアを練っていたというが、最終的にはまったく新しい世界を作ることにした。リサーチのため、ロンドン、スコットランド、アイルランド、パリ、デトロイトなどに赴いて、建物や人物、光の描写などを調べたという。都市のイメージはヴィクトリア朝のロンドン。伝統的な古びた街をゲーム内に丸ごと再現しながら、その上で彼が得意とする“マシンシティー”に仕上げていったということだ。


【美しい世界観】
ひとつひとつのオブジェクトに注目していただきたい。現実世界にありそうでない、独自のデザインが取り入れられているのがわかる




■ すべてのオブジェクトをイラストから3Dモデル化する独自のアプローチで独特の世界観を表現

彫りの深いキャラクターたち。「Dishonored」はキャラクターも個性的だ
逃亡しようとした街人がSF兵器によって消されてしまう。こうしたスチームパンク的な設定もこのゲームの持ち味だ
メリハリの効いた美しいグラフィックス

 セッションは、写真やイメージイラストを掲載したスライドを1枚1枚見せながら、それに解説を加えるという形で進められた。とりわけ印象に残ったのは、“水上に浮かぶ工業都市”というゲーム世界の最初のスケッチ。これから何かが起こりそうなミステリアスな風景で、英国やスコットランドの城砦や監獄、そして南欧らしいモノクロの水上都市の写真も参考にしながら描いていったという。

 現実世界ではありえないほど車輪の大きな乗り物や、物々しい拡声器、プロパガンダ的なポスター、工事中の家、鉄橋の掛かったレンガ造りの家などが、若干の狂気と、現実感が入り交じった不思議な雰囲気で描かれている。凄いのは、ゲーム内のすべてのアートは、写真から1度イラストに落とし込み、絵をベースにモデリングしているところだ。これにより、不思議なハンドペインティング感を生み出すことに成功している。

 それでいて太陽光の表現や、そのまぶしさ、光の散乱具合、キャラクターに対する照りつけ、陰影の処理、細かいところではほっぺたへの照りつけまで非常にリアルに設定されており、フォトリアルなグラフィックスとハンドペインティングの融合が計られている。この独特の質感は、このゲーム独自のものだ。

 ユニークなのは、人々のモデルは、実際の街人から撮っているところだ。ロンドンやスコットランドを視察した際に、建物以外に、勤務中の人々の写真も撮影し、それをアートスクールの教師にイラストに描き起こして貰い、そこからモデリングしている。その上で衣装については図書館等でリサーチを加え、鷲鼻の屈強な兵士や、ひょろりとした執事スタイルの男性など、ヨーロッパ人らしいリアリティのあるキャラクターが生み出されている。

 Antonov氏が一押ししていたのはTollboysと呼ばれる偵察兵器だ。Antonov氏が得意とするアーマー兵器で、ネズミからの伝染病を避けるために、地表から距離を置くために足の長い構造をしており、中に政府の衛兵が乗り込み、市民を監視するというものだ。この手の足長兵器はスチームパンクものでは定番だし、似たような兵器は「Half-Life 2」にも登場していた。今回のセッションでスライドで紹介されたイメージイラストをお見せできないのが非常に残念だが、テキストでその一部でも感じ取って貰えれば幸いだ。

 「Dishonored」は、ヴィクトリア時代のヨーロッパの港町を丸ごと再現した上で、メカメカしいスチームパンク的な演出をたっぷり乗せており、レトロフューチャーファンにはもうそれだけでたまらないゲームだと感じた。良い意味で非常に趣味的なゲームであり、円熟したゲームプラットフォームでしか出てこないゲームでもある。このゲームを遊べるゲームファンは幸せといえる。隅々までじっくりアートを堪能しながらゲームを味わいところだ。


【「Half-Life 2」と「Dishonored」の相似性】
「Half-Life 2」に登場する巨大な兵器ストライダーと、「Dishonored」に登場するトールボーイは縮尺こそ異なるものの非常に似ている

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(2012年 4月 27日)

[Reported by 中村聖司]