Game Developers Conference(GDC) 2010現地レポート

iPhone Games Summit セッションレポート

3Dやオンラインなどの技術トレンドから「売れるゲーム」のコツまで


3月9~13日 開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center



 今年から新設されたiPhone Games Summitでは、その名のとおりiPhone用ゲームに関するセッションが並んでいる。このカテゴリが新設されたのは、昨年のGDC MobileにおいてiPhone関連セッションが圧倒的な支持を得ており、その後もiPhoneの勢いが衰えていないためだと思われる。

 昨年の時点では、iPhone 3GやApp Storeの登場から約半年という状況で、iPhone関連の講演内容は「99ドルとMacがあれば始められる」という売り文句でゲーム開発者に興味を持たせようという内容が多かった。ところが実際は、App Storeは既に多数のアプリであふれ返り、もう出遅れたと感じている開発者も多く、「どうやればアプリが売れるのかを知りたい」と思っている来場者ががっかりする内容が多かった。

 それから1年が経過した今年のセッションを見ると、3つのキーワードが見える。1つ目は3D、2つ目はオンラインだ。どちらもiPhone用ゲームでのトレンドではあるのだが、少々時代遅れな感もある。これは、1年に1回新機種が登場するiPhoneと、3カ月に1回アップデートしているApp Storeに、開催から数カ月前に講演申し込みをするGDCでは間に合わないという単純な理由だ。GDCでも最新情報が得られないというのは、iPhoneを含むモバイルゲーム業界の動きがいかに早く進んでいるのかを示すものだといえる。

 現在のiPhoneゲーム市場で最も注目されているのはソーシャルゲームだが、それについてはSocial&Online Games Summitとして別枠があり、非常に賑わっていた。それに比べると、今年のiPhone関連の講演はかなり沈静化した様子だ。ただ、ここ1年で実際に大成功を収めた人物の講演には、昨年以上に多くの来場者が集まっていた。というわけで3つ目のキーワードは昨年より難易度が増した「どうやれば売れるか」である。

 全部で15のセッションが行なわれたiPhone Games Summitの中から、注目のセッションをいくつか紹介していこう。




■ 3D、オンラインなど技術のトレンドを追う2講演をダイジェスト

Josh Adams氏

 GDCといえば、世界中のゲーム開発者が、時代を先行く先端技術を披露し競い合うというイメージが強い。iPhone Games Summitにおいて技術的な内容で最もホットだったのは、3Dエンジンだ。昨年、3D描画機能が強化されたiPhone 3GSが発売されたこともあり、開発者からの注目度は高かった。

 3D関連セッションとして、まずEpic GamesのJosh Adams氏は、“Bringing UE3 to Apple's iPhone Platform(iPhoneプラットフォームにUE3を持ち込む)”と題した講演で、Unreal Engine 3(UE3)のiPhone版を紹介した。UE3といえばプレイステーション 3やXbox 360といった最新のコンシューマーゲーム機でも使われているゲームエンジンで、それをiPhoneに対応させるというのだから、なかなかインパクトがある。Adams氏は「iPhoneはコンシューマーゲーム機だ」と宣言もしていた。

 講演内容は、UE3をiPhoneに対応させるためにどういったアプローチをとったかという技術的な説明となっていた。iPhoneは携帯端末なので、当然ながらマシンパワーや許容できるデータサイズは、PCやコンシューマーゲーム機よりもはるかに小さい。またiPhoneはMac OSがベースになっているので、データの扱い方がWindowsとは異なるので、対応のハードルはかなり高いようだ。

 結果的には、さまざまな処理を簡略化し、残すべきところを残しつつ、さらにiPhoneのタッチインターフェイスに対応させるなどして、実機デモが動作するレベルまで開発が進んでいる。ただ現時点では、UE3を採用したiPhone用ゲームの発売はまだ未定だとしている。デモのクオリティはさすがUE3といえるものになっていたので、1日も早くユーザーの手元に届く形にしてもらいたいところだ。


iPhone版UE3のデモの様子。まだ実際に遊べるゲームの開発には至っていないようだ



Stephan Detwiler氏
James Marr氏

 もう1つ3D関連のセッションとして紹介しておきたいのが、ngmoco:)のStephan Detwiler氏とJames Marr氏による“Building the Server Software for ELIMINATE(「ELIMINATE」のサーバーソフトウェア構築)”だ。同社は「ELIMINATE」というFPSを配信しており、その開発に関する内容が発表された。

 このゲームには、Quake 3エンジンが採用されている。これを採用した理由としては、Quake 3エンジンは1999年に登場してから10年以上が経過していることから、参考資料はインターネットにいくらでもあること、さらにライセンス料が安価であることを挙げた。結果として約1万ドルの費用でQuake 3エンジンをフルに使えたという。その結果、iPhone用FPSの中ではかなり高いクオリティのグラフィックスを実現している。

 またこの講演では、オンラインプレイに関するチューニングの解説も行なわれた。本作は3G環境でのプレイを前提に作られているが、3G環境ではしばしば大きな通信遅延が起こる。さらに、1万人以上の同時接続と、マッチングなどにかかる時間がゲームプレイ時間の10%を超えないようにするという目標を立てて開発されており、あらゆる面で遅延が起こらないよう考慮されている。具体的には、ロビーでの通信にはXMPPを採用する、全てのプレーヤーデータをメモリに置いておく(管理を分散できない、サーバーがクラッシュすると一部データが失われるなどの問題はある)、マッチングのアルゴリズムを洗練させるなど。

 マッチングにおいては、プレイする間に上昇していくキャラクターレベルのほかに、プレイ内容によって上下するスキルレベルも判定に加えている。「Halo 2」を参考にしたというスキルレベルの仕組みは、中級者層では全体プレーヤーのスキルレベルの増減をゼロサムで行なうが、初級者層ではプラスを大きくしてスキルレベルが上がりやすく、上級者層では逆にマイナスを大きくすることでスキルレベルが下がりやすくしてある。こうして算出されたプレーヤーのレベルから、自分に近い相手をマッチングさせつつ、PING値の悪い相手とはマッチングさせないなどのフォローを加えている。

 また講演の中で、「ロードテストをきちんとやるべき」とも語られた。ローンチ時にプレイしようとして、サーバーの状態が悪くて遊べなければ、そのユーザーは2度と戻ってこない。iPhone用ゲームにおいては、プロトタイプのようなレベルのものを配信し、プレーヤーの声をレビューで聞いて改善することで完成させるというのが1つの手法となっているが、ことオンラインゲームに関してはそれは通用しないという意味だ。


「ELIMINATE」のプロモーションムービー。街中でiPhoneを出してオンラインで遊べるところを強調していた



■ 大ヒット作「Doodle Jump」から「売れるゲーム」を考える

Igor Pusenjak氏

 翻って、面白いゲームの作り方ではなく、売れるゲームの作り方を考えるセッションもちらほらとある。App Storeにおいては、「面白いゲームが売れるとは限らない」というのが半ば常識となっており、ゲームの作り方よりも売り方こそが重要だという声も聞く。

 マーケティングやマネタイズについて語るセッションはiPhone Games Summitに限らずあることはあるが、それはあくまで「面白いゲームを作ったという前提」で語られるものであり、「ゲームそのものは二の次」という雰囲気もあるiPhoneゲーム市場とは色が違う。しかしiPhone Games Summitで最も人を集めるのはこの手のセッションである。iPhone市場がゴールドラッシュだと見て参加したゲーム業界外からの新たなプレーヤー(あるいは宗旨替えした人)がいかに数多く、またその大半が金脈を見つけられていないのだということを実感させられる。

 「売り方」を話したセッションの中で特に注目したいのは、Lima SkyのIgor Pusenjak氏による“How to Keep Your Game on Top of the Charts(あなたのゲームをランキングトップに留める方法)”だ。App Storeにおいて最も強力なアピール方法は、App Store上の各種ランキングに載ることである。しかしランキングに載るにはそれなりの数が売れなければならず、矛盾をはらんでいる。

 Lima Skyは、「Doodle Jump」で世に知られたデベロッパー。「Doodle Jump」はピョンピョンと跳ね続けるタコのようなキャラクターを操作し、ステージにある台から台へと飛び移ってどんどん上っていくアクションゲームで、現在までに300万ダウンロードを超える大ヒット作となっている。ところが本作は、発売初日は21ダウンロードしかなかったという。状況からすればこのまま埋もれるだけのアプリになりそうだが、Lime Skyはここからさまざまな手法を用いて「Doodle Jump」をトップセールスに導いていった。

 まずはアプリのアップデート。ゲーム内容が改善・拡張されて製品寿命が延び、無料で行なえるのでユーザーも喜ぶのはもちろんだが、アップデートの告知文をうまく使うことも大切だという。大抵のアプリでは、アップデートの告知文はアップデート内容を示すのみだが、Lime Skyはここにその他のさまざまなメッセージを加えて、ユーザーとのコミュニケーションを図っている。

 アップデートのタイミングについては、可能な限り頻繁に、かつ定期的に行なうべきだとした。アップデート周期がユーザーに伝われば、ユーザーはそれを楽しみにしてくれるようになる。またホリデーシーズンなど大きな休暇に合わせたアップデートも勧めている。例えば「Doodle Jump」ではクリスマスバージョンをアップデートで加え、セールスを伸ばしている。

 先述のユーザーとのコミュニケーションについては、App Storeの製品紹介ページのほか、WEBサイトやFacebook、Twitterなど、あらゆるチャンネルでコミュニケーションを取るべきだという。特に紹介ページでは、製品情報をアップデートし続けることが大切で、ゲーム内容だけでなくダウンロード数やランキングなど他の情報を載せて更新することを勧めた。またこれらのチャンネルにおける提案を聞き、積極的にリアクションを起こすことも大切だとした。さらにLime Skyでは、FacebookやTwitterにスコア情報を転送する機能をつけている。いずれも製品に関するコミュニケーションを少しでも活発にしようという動きだ。

 次にプロモーションについて。情報の発信はメディアだけでなく、個人ブログやゲームフォーラム、YouTubeのレビュアー、友人など、あらゆる人に伝えるべきで、その際にはプロモーションコードやスクリーンショット、ゲームプレイ動画などを付けて送ると効果的だという。さらにクロスプロモーションも効果的で、「Pocket God」という人気アプリとコラボレーションしたアップデートでは、翌日から売り上げが急激に伸びたという。

 ユーザーにアップデート周期を悟らせ、ソーシャルコミュニケーションツールを含めたさまざまな形でユーザーと接触し、とにかくできる限りのプロモーションをやることが大切だという。ユーザー拡大にオンラインでの口コミ効果を狙うところはソーシャルゲームと同様で、まさに今の時代に合った手法なのだろう。


300万ダウンロードを記録する「Doodle Jump」は、初日は21ダウンロードしかなかったブログやメディアに掲載されて話題になったことで、一気に販売が伸びたアップデートをする理由は数多くある。意識してやることが大切だ
アップデート告知文もユーザーとのコミュニケーションに活用できる貴重な場所。隙間があるようではいけないアップデートのタイミングも重要。周期的に行ないつつ、重要なタイミングも狙っていく「Doodle Jump」のクリスマスアップデートでは、雪が積もったステージが登場した
アプリの紹介ページは、楽しい内容を意識しながら、更新し続けるユーザーからの反応を見るのはもちろん、積極的なリアクションも効果的だ「Pocket God」とのコラボレーション。相手のユーザーに訴求しつつ、話題性も取れる



■ その他のセッション

【A Big Dash of Success: How to Capture the Female iPhone Gamer】
「Dinar Dash」で知られるカジュアルゲームパブリッシャーPlayFirstより、Chris Williams氏による講演。iPhone版「Dash」シリーズでも女性ユーザーを獲得できているのは、「エルフもドラゴンも出てこない、日常をテーマにしたから」と説明。さらにユーザーに対して行なったアンケート結果を公開し、「女性ユーザーはアクション、アドベンチャー、レーシングを嫌い、ストラテジー、シミュレーション、RPGを好む」、「回答者の半数がFacebookのゲームのプレイ経験がある」などの分析結果を示した

【Real-World Gaming: The Blending of the Real World + Digital World】
元Blizzardのスタッフが集まったBooyahのKeith Lee氏による講演。「MyTown」というロケーションベースゲームを展開し、130万ユーザーを獲得している。ロケーションベースの広告やバーチャルグッズの販売、リアル商品やブランドとのコラボレーションなど、取り組んでいるマネタイズ手法を紹介した。ただこの「MyTown」については、ここからさらに大きく育てる方法や、Open APIにすべきかどうかなど、悩みも多いようだ

(2010年 3月 13日)

[Reported by 石田賀津男]