Game Developers Conference 2009現地レポート

PCゲーミングデバイスメーカー、米Logitechインタビュー
PCゲーマー御用達の「Gシリーズ」。製品展開の姿勢と哲学を聞く

3月23~27日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center

 

 ロジクールは、ゲーマー向け製品ブランド「G-Series」(Gシリーズ)の新製品として、強力なレーザーセンサーを搭載するゲーミングマウス「G9x レーザーマウス」を3月27日に発売した。

 「G9x レーザーマウス」は、2007年に発売されたゲーミングマウス「G9 レーザーマウス」の後継機種となる製品だ。「G9」の外形的な特徴である交換可能な2種類のグリップ、重量カスタマイズ機能といった基本はそのままに、センサー性能を大きく向上させ、最大5,000DPIの解像度、最大150ips(インチ毎秒)という高速追従性を実現している。

 また、Gシリーズ全体に目を向けてみると、マウスだけでなく非常に広範な製品が投入されている。例えば、ハンドルコントローラーの傑作として名高い「G25 レーシング ホイール」、ゲーム用左手キーボード「G13 アドバンス ゲームボード」、それに「G9x」と同時に市場投入された「G35 サラウンド ステレオ ヘッドセット」など、いまではGシリーズだけで全て揃ってしまうほどのラインナップが実現している。

 それほど手広くデバイスを手掛けているだけに、現在のロジクールはPCゲーミングデバイス分野のリーディングカンパニーと言える存在になっている。ワールドワイドで見ても事情は同じで、ロジクールの親会社、米Logitechは世界的なデバイス企業として圧倒的な存在感だ。

 そして今回幸運にも、GDC09の会場にて、ロジクールの親会社である米Logitechの製品開発およびマーケティングのキーパーソンに直接お会いしてお話を聞くことができた。新製品である「G9x」の話題に始まり、LogitechがどのようにGシリーズの製品デザインを進めているかなど、デバイスメーカーとしての姿勢を聞くことができたので、その内容をお伝えしよう。



■ ゲーミングマウスを担当するFishberg氏、「Logitechならではの価値を提供したい」

 今回、インタビューに応じてくれたのは、米Logitechにてゲーミングマウス関連製品のプロダクトマネージャーを務めるMichelle Fishberg氏と、インタラクティブエンターテイメント関連製品のプロダクトマーケティングディレクターを務める、Ruben Mookerjee氏のお二方だ。

 インタビューの前半では、マウスを担当するFishberg氏に新製品「G9x」について、あれこれ気になることを質問している。その中で、センサーの性能、マウスの持ち方、ジャンル別の統計など、デバイスメーカーならではの面白いコメントをいただけた。



マウス関連製品プロダクトマネージャーのMichelle Fishberg氏
「G9x レーザーマウス」

───── まずはじめに、新製品のG9xについてお聞きしたいと思います。この製品では、最大トラッキング速度150ipx(インチ/秒)という、非常に高い性能が実現されていますね。

Michelle Fishberg氏:G9xの開発にあたって、前作のG9を超えるセンサー性能を実現するという目標を設定していました。性能とは、DPI、最高速度、最大加速度の3つが挙げられます。また、リフトオフディスタンスの改善も行ないました。

───── 具体的に、センサーにどのような改善が行なわれたのでしょうか。

Fishberg氏:原理的には前作G9と同じセンサーですが、スペックのレベルが大きく向上しています。ピクセルレートは変わらないのですが、センシング速度を10,000fpsまで引き上げました。さらに、我々の検証では最大13,000fpsまで可能でした。またそれによって、DPIを3,200から5,000に上げることに成功しています。

───── 意外とシンプルな「正統進化」という感じですね。センシング速度の強化による性能の変化についてもう少し教えてもらえますか?

Fishberg氏:はい。いろいろと性能が向上していますが、その中で最も力を入れたのは、まさに最大速度です。スペック上は最大150ipsとしていますが、実験では165ipsの速度までトラッキング可能という結果が出ていますので、これでも余裕を持たせてあるんですよ。

 また最大加速度についても、G9の20Gから30Gへの向上が実現しています。低感度で使用するハードコアゲーマーを対象にしたテストでは、前製品に比べてセンサー性能の向上がすぐわかるほどでした。以前は発生することもあった遅延やネガティブ・アクセラレーションといった現象が、G9xでは全く感じられないということです。

───── ただ、5,000DPIという高解像度は、多少オーバースペック気味な気がします。ここまでDPIを向上させたことには、特別な理由があるのでしょうか。

Fishberg氏:確かに、一般のゲーマーにとって、5,000DPIというのはちょっと高すぎる解像度です。ではありますが、世界には「もっと高解像度を!」という少数のゲーマーが存在することも事実なのです。また近年では画面解像度が向上していますので、それに対応するためにもより高いDPIが必要であると考えています。

───── センサー以外の部分で、G9xのポイントはどのあたりにあるのでしょうか。

Fishberg氏:センサーが特に大きな進歩であることは間違いないのですが、その他の点では、新タイプのグリップも注目点です。

シルバーのグリップは「かぶせ持ち」に、ブラックのグリップは「つまみ持ち」に向いているそうだ

───── 前作G9と同じく、G9xでも交換可能なグリップを採用していますが、この狙いについて教えてください。

Fishberg氏:やはり、ゲーマーの皆さんには多様なニーズがあります。とくにマウスの大きさや持ち方については、異なるこだわりが存在するところですので、注意深くデザインしています。

 シルバーのグリップは、手を置くように持つ(訳注:かぶせ持ち)ことで、楽に扱えるような形になっています。またブラックのグリップもありますが、こちらは、手が小さい人でも扱いやすく、手のひらを浮かせて持つ(訳注:つまみ持ち)方法に向いています。

 今回、G9xのために新たに行なった調査では、ゲーマーの間にかなり幅広い形状、持ち方へのニーズがあることがわかりました。そこで、なるべく多くのゲーマーを満足させる方法を検討したけ結果、交換可能なグリップを採用したわけです。

───── 関連して質問したいのですが、北米では「かぶせ持ち」と「つまみ持ち」のシェアはどれくらいなのでしょうか?

Fishberg氏:ゲームの内容にも依存すると思いますが、調査によれば、3/4のゲーマーが「かぶせ持ち」を好むという結果が出ています。また、その多くがMMORPGのプレーヤーでした。逆に、もっとハードコアなゲーマー、特にFPSのプレーヤーは、「つまみ持ち」を好む傾向がありました。

───── なるほど。個人的に、私はFPSをよくプレイするのですが、まさに「つまみ持ち」でプレイしています。

Fishberg氏:統計通りですね(笑)。

───── もうひとつ、G9Xについて質問ですが、重量が145グラムもあり、ゲーミングマウスとしてはやや重いのではないかと思っています。しかもオプションのウェイトを追加できて「さらに重くできる」というのは、どのようなメリットがあるのか、見えにくいところなのですが。

Fishberg氏:実際のところ、ゲーマーの一部には「もっと重くしてくれ」というニーズもあるんです。重い方が、「自分で舵取りをしている感じ」や、「正確にコントロールしている感触」が得られる、というのがその理由です。また、重いほうが「高級感がある」という人もいますね。

 ただその点についても、重さ、軽さの好みの幅がゲーマーによって大きく異なります。そこで今回は、「もっと重くしろ」というゲーマーのニーズに答える、オプションのウェイトを追加しました。

───── 重さに関しては、日本では「もっと軽く」というユーザーも多いように思えます。このあたりはお国柄の違いですかね。

Fishberg氏:実際に計ってみると、他社の同クラスの製品に比べて、劇的に重いというようなことはないと思いますが、おっしゃる通り、FPSゲーマーの場合は、「軽い方がいい」という意見をお持ちの方が多いのことも事実ですね。

───── 近年になって、センサー能力が劇的に向上して、もはやこれ以上の競争は無意味になるのではとも思うのですが、そうなってくると、今後ゲーミングマウスに求められる性能はどのようになると考えますか。

Fishberg氏:何を中心に据えて製品開発のエネルギーを注ぐのか、ということが大事だと思います。もちろん、引き続きセンサーの革新をリードしたいとも考えていますし、マウス全体のデザイン、使いやすさ、カスタマイズ性を追及して、Logitechならではの価値を提供したいと考えています。

───── Gシリーズマウスの今後については、どのような計画があるのでしょうか。

Fishberg氏:企画段階の製品についてはまだお話できないのですが、いろいろと考えております。例えば、最近、北米市場向けに新しいグリップサイズのマウスをリリースしました。もし日本でもニーズがあれば、今後の製品展開に加わるかもしれませんね。



■ 幅広く展開するGシリーズは「機能がユーザーにマッチすることを最も重視」

インタラクティブエンターテイメント関連製品のプロダクトマーケティングディレクター、Ruben Mookerjees氏
会場に展示されていたGシリーズのラインナップ

 インタラクティブエンターテイメント関連製品のプロダクトマーケティングディレクターを務める、Ruben Mookerjee氏には、「Gシリーズ」全体の製品開発、開発マインドなどについてお話を伺った。

 ハンドルコントローラからゲームパッド、マウス、ヘッドセットまで、幅広いラインナップを展開していくなかで、基本となる哲学はどのあたりにあるのだろうか。Mookerjee氏が語ってくれた、Logitechにおける製品開発の取り組みは、それを理解する上で役立つ情報と言える。



───── 次に、ロジテックのゲームデバイス全般について伺いたいと思います。はじめに、ロジテックにおける製品開発のプロセスを教えてください。

Ruben Mookerjee氏:1つの製品を完成させるにはかなりの期間が必要で、たとえば今企画している製品は、2011年度に投入されることになります。現在は、さまざまな技術パートナーと協力して研究を行なっています。

 研究にあたっては、ゲーマーと直接対話したり、様々なフォーラム、コミュニティを調査することに大きな時間を割いています。ゲーム大会やLANパーティに出向いて、直接に情報を収集することもあります。

 また、我々の製品はPC市場の動向とも密接に関連していますから、プラットフォームの変化、あるいはゲームタイトルの変化に対して常時目を向け、将来どのような機能が必要とされるのかを予測して製品企画を立てています。

ハンドルコントローラー「G25」
「G13 アドバンス ゲームボード」

───── 実際の製品開発はどこで行なっているのでしょうか?

Mookerjee氏:我々の開発チームは世界中に拠点を持っています。たとえばセンサーなどの技術開発を行なっているチームはスイスにありますし、メカニカル・エンジニアのチームはアイルランドに居を構えています。

 そして、実際に量産を始める半年くらい前には、さまざまなユーザーテストをして、その製品が市場で受け入れられるかどうかの検証を行ないます。最近の例としては、イギリスのレースゲームの会社で、新しいハンドルコントローラの24時間テストを行ないました。その後ユーザーにインタビューを行なって、製品に対する客観的な評価を収集しています。

───── ゲーミングデバイスの開発において、最も重視しているポイントは何でしょうか?

Mookerjee氏:Gシリーズに関しては、機能性が実際にユーザーにマッチすることを最も重視しています。例えばG13ゲームボードでは、この種のデバイスにおける、理想のエルゴノミクスを見出すため、多くの時間を費やしました。

 また、ゲームごとに、製品が実際にどのような使われ方をするかを入念に検討した上で、ドライバを含む製品デザインを決定しています。特に、理由なく機能やスペックを盛り込むことは避け、本当に必要なものだけを盛り込みたいと考えています。

───── ロジテックは世界中に製品を展開していますが、その中で日本市場についてはどのように見ていますか?

Mookerjee氏:日本は家庭用ゲーム機が非常に強い市場だと思います。そのため、日本におけるPCゲーム市場は、家庭用ゲーム機に無いジャンルに集中しています。例えばオンラインFPS、オンラインRPGなどです。

 また日本のPCオンラインゲームは、他の国には見られない、非常にユニークなものが多いと思います。例えば、カプコンの「モンスターハンター」のようなゲームは、他の国に見られないものです。そのため、北米、欧州といった地域とは全く異なる地域であり、興味深い市場だと思います。

───── 日本市場からのフィードバックが、実際の製品開発に生かされるということもあるのでしょうか?

Mookerjee氏:大きいところでは、手のサイズに関するフィードバックがあります。そこで、マウス製品では、小さめの手でもフィットするようなグリップの開発を行なっています。

ゲームパッドは日本が主要な市場になりつつある?

───── ゲームパッドについてはどうでしょうか?

Mookerjee氏:日本以外では、PC向けのゲームパッドは主にアメリカンフットボールやサッカーのようなスポーツゲームで使われますので、最近はプラットフォーム自体が家庭用ゲーム機にシフトしているのが実情です。

 一方で、日本では先ほどの「モンスターハンター」のようにユニークなオンラインPCゲームがあり、PC用ゲームパッドの需要が活発ですので、弊社としても積極的に製品の提供に取り組んでいます。日本以外でも、そういったPCゲームが流行すればいいですね。

───── 最後に、Gシリーズの将来について将来の展望をお聞かせください。

Mookerjee氏:私達は常に、PCゲーマーが持っている実際のニーズを満たすために新たな製品を開発しています。最近の例としては、Gシリーズで初のゲーム用ヘッドセットである「G35」をリリースしたことがそうです。そして現在でも、具体的にどのような製品かは申し上げられないのですが、現在も新たな製品の開発に取り組んでおりますので、是非ご期待ください。





(2009年 3月 30日)

[Reported by 佐藤カフジ ]