Game Developers Conference 2009現地レポート

Game Developers Conference 2009が米国サンフランシスコにて開幕
iPhoneブームに沸く米ゲーム業界。日本人講師も増えて華やかな年に

3月23~27日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center

 

 世界最大規模のゲーム開発者向けカンファレンスGame Developers Conference(GDC)が、現地時間の3月23日、米国サンフランシスコのMoscone Centerにおいて開幕した。会期は27日まで。

 初日は例年通り、特定のテーマを1日ないし2日間かけて掘り下げていくチュートリアルやサミットなどが実施された。チュートリアル/サミットは明日まで続き、3日目より通常セッションや基調講演、GDC EXPO、Game Developers Choice Awardsなど、GDCの各イベントが本格スタートする。本稿では取り急ぎ、初日の模様とGDC2009全体の概要をお届けしたい。本日以降、基調講演を筆頭に、さまざまなGDCレポートをお届けしていくのでぜひお楽しみに。



■ 日本人セッションは昨年比1.5倍の16組。日本メーカーの復活傾向が鮮明に

Moscone West Hall 1階の朝の風景。参加者はクラスルームがある2階に上がっていく
West Hallの2階と3階には、参加者同士でコミュニケーションをとることができるスペースがたっぷり用意されている
日本人講演者のトップバッターとなったセガの長谷川亮一氏。Localization Summitの日本代表として、日本展開におけるローカライズビジネスの実例を紹介した

 GDCは、今やゲーム開発者向けの世界最大規模のゲームカンファレンスであるだけでなく、ゲーム産業全体にとっても世界最大のイベントに成長を遂げている。GDCを見ることで、昨年のミリオンセラータイトルのヒットの要因がわかるだけでなく、スピーカーが発する様々なシグナルから、今年以降のゲーム業界のトレンドを予測することができる。トレードショウであるE3や、ユーザーショウである東京ゲームショウなどとはまた違った熱気に満ちたイベントである。

 会場や規模は前年とほぼ同等で、Moscone West Hallをメインに、North Hall、South Hallの3箇所のカンファレンスセンターを使用。今やE3を上回るビッグビジネスに成長したGDCは、ここ数年サンフランシスコに会場を移してから拡大傾向にあったが、ようやく一段落付いた観がある。ただ、会場にはスポンサー各社の垂れ幕に加えて、姉妹イベントであるGDC Canada、GDC Europe、GDC Austin、GDC Chinaの垂れ幕が目立ち、すでに来年のGDC2010の開催予定も告知されるなど、ビジネスとしてより洗練されつつある印象だ。

 GDCのハイライトである基調講演については、すでに告知されている通り、25日の基調講演には任天堂代表取締役社長の岩田聡氏が3年ぶりにカムバックし、翌26日の基調講演には、小島プロダクション監督の小島秀夫氏がGDC初講演を行なう予定となっている。GDCの基調講演を日本人が独占するのは初のケースで、この影響もあるのか、今年は例年より日本人開発者の姿が多いような印象がある。ふたりがどのような講演を行なうのか大いに注目されるところだ。

 基調講演以外の日本人による講演は14セッション(3月23日現在)。今年も例年に増してクリティカルなセッションが目白押しだが、中でも注目したいのは「ICO」、「ワンダの巨像」の上田文人氏(ソニー・コンピュータエンタテインメント)、「NO MORE HEROES」の須田剛一氏(グラスホッパー・マニファクチュア)、そして「Fallout3」リードデザイナーのEmil Pagliarulo氏(Bethesda Game Studio)という東西の著名なクリエイター3氏によるパネルディスカッション「Evolving Game Design: Today and Tomorrow, Eastern and Western Game Design」(ゲームデザインの進化:今日と明日、西洋と東洋のゲームデザイン)だろう。そのほかにも以下のセッションが予定されている。

・「Risks and Rewards of New Territories」(セガ 長谷川 亮一氏ほか)
・「Doing Business In The Game Music Industry In Japan 101」(Gem Impact日比野則彦氏)
・「The Inspiration Behind Nintendo DSi Development」(任天堂 桑原雅人氏)
・「Level-5's Techniques to Producing a Hit Game—From PROFESSOR LAYTON to INAZUMA ELEVEN and THE ANOTHER WORLD」(LEVEL-5 日野晃博氏ほか)
・「An American Engine in Tokyo: The Collaboration of Epic Games and Square Enix for THE LAST REMNANT」(スクウェア・エニックス 高井浩氏ほか)
・「Experiences and Rare Insights into the Video Game Music Industry」(ベイシスケイプ崎元仁氏)
・「All About NOBY NOBY BOY」(バンダイナムコゲームス 高橋慶太氏)
・「IV Style: Returning to the Roots of a Fighting Game Classic」(カプコン 小野義徳氏)
・「Cinematic Next-Generation Action NARUTO: Ultimate Ninja STORM - In-Game Artwork and Beyond」(サイバーコネクトツー 松山洋氏、下田星児氏)
・「Designing Terror: Inside the RESIDENT EVIL 5 Production Process」(カプコン 平林良章氏)
・「Global Illumination in SONIC UNLEASHED」(セガ 橋本善久氏)
・「PIXELJUNK EDEN - Baiyon's CMYK vision」(PixelJunk Baiyon Tomohisa Kuramitsu氏)
・「STAR OCEAN 4: Flexible Shader Management and Post-Processing」(トライエース 五反田義治氏)

 昨年の日本人セッションが9つだったのに比べると約1.5倍となっており、これはそのまま世界のゲーム産業における日本メーカーの復調傾向を示していると言っていいだろう。また、セガ橋本氏やトライエース五反田氏はCEDEC2008での講演と同じ内容で、CEDEC発の情報も増えているのがおもしろい傾向だ。メーカーでは、任天堂、スクウェア・エニックス、バンダイナムコゲームス、カプコンとGDC常連メーカーが名を連ねている。初登場で注目されるのはLEVEL-5 日野氏の講演だろうか。日本のメーカーがGDCで講演することは必ず“意味”がある。LEVEL-5の講演の意味とは何だろうか。講演内容も含めて注目されるところだ。

【会場の模様】
チュートリアル/サミットの2日間は参加者が限られるため、3日目以降のメイン会期と比較するとフロアにはゆったりとした時間が流れる



■ iPhoneが大きくクローズアップされた初のGDC。次期主力OS「Windows 7」情報にも期待

人気のサミットGDC Mobileの基調講演はngmoco CEOのNeil Young氏。元EAのトップエグゼクティブだったが、iPhoneに魅せられて昨年退社。その後、興した新会社は、いまや有数のiPhoneゲームメーカーとなっている。スピーチの内容も、「iPhoneという名のバスに乗り遅れるな」という非常に明快なものだった
北米を代表するオンラインゲームクリエイターRaph Koster氏がアドバイザーを務める「World In Motion Summit」。世界中のオンラインサービスの動向をレポートするというユニークな位置づけのサミットである
GDC2009におけるiPhoneの躍進ぶりを示すわかりやすいスライド。もちろんジョークだが、中小デベロッパーやインディーズにとってのフロンティアは、もはやXbox LIVEやPlayStation Network、モバイルゲームや携帯ゲームではなくiPhoneに移っているのは間違いない

 さて、冒頭でも紹介したように初日の23日は、全15本ものチュートリアル/サミットが行なわれた。今年もAIという非常に専門的な分野に特化したサミット「AI Summit」が新設され、ワークショップ系のチュートリアルが拡大するなど、かつて「GDCの前座」として扱われていた2日間が非常に充実し、どれかひとつを選び抜く悩ましさが年々増しつつある。

 初日のチュートリアル/サミットをひととおり見ていった印象では、とにもかくにも「iPhone」の一言に尽きた。任天堂とSCE、Microsoftの三つどもえが続くゲームコンソール、Microsoftの牙城であるPC/PDA、そして群雄割拠のモバイルというのが大まかなGDCの勢力図となる。iPhoneはそういう既存の枠組みの外から突然到来して、すべての勢力に対して大きなプレゼンスを示す第4のゲームプラットフォームになっている。

 iPhoneの進出がいかに電撃的だったかを示す証拠として、プラットフォーマーであるAppleはGDCのスポンサーでもなく、Expoにも未出展なのである。もちろん、Appleのセッションも存在しないし、サードパーティーによるiPhone関連セッションの数も不自然なほどに限られている。あらゆるゲームビジネスを包含するGDCといえども、iPhoneの侵食スピードには対応しきれなかったという印象である。

 既存のプラットフォーマーやゲームパブリッシャーがiPhoneについてどのように捉えているかは、明日以降のセッションでの発言を待ちたいが、初日が終わった時点で確実に言えるのは、ゲームデベロッパーは諸手を挙げてiPhoneの登場を歓迎しており、特に中小の独立系デベロッパーやインディーズ系のメーカーは、千載一遇のチャンスとしてこれを捉えている。

 iPhoneという新たなハードウェアが、伝統のあるGDC MobileやCasual Game Summit、Independent Game Summitといった複数のサミットで暴れ回る姿は、近年のGDCにはなかった光景で、非常に新鮮に映った。かつてNokiaのN-GageやMicrosoftのZune、Windows Mobileなどが目指して果たせなかったポジションをいとも簡単に獲得してしまっている。日本市場ではその人気は限定的だが、GDCではすでに評価は確定したものとして扱われており、GDC2009でどのような報告が行なわれるか楽しみなところだ。

 最後にGDCを牽引する各プラットフォーマーの動向についてまとめておきたい。まず任天堂は、基調講演にすべてを注ぎ込むといった印象で、通常セッションとしては北米市場で来月発売されるニンテンドーDSiを扱ったものだけとなっている。SCEは、恒例となっているPS3のSPUの活用ノウハウを扱ったセッションがいくつかと、スポンサーセッションではPlayStation HomeとPlayStation Networkというオンラインサービスに関するセッションが多い。

 Microsoftは、Xbox 360とPCという2つのゲームプラットフォームを持つ関係で今年もネタが多い。まず、2009年に入ってパブリックβがスタートした次期主力OS「Windows 7」のゲームOSとしての情報提供が複数のスポンサーセッションを通じて行なわれる。定例アップデートとしてはDirect X 11およびXNA Game Studio 3.0関連情報、そしてGames for Windows - LIVE 3.0、New Xbox Experienceなどなど今年も20以上のセッションでありとあらゆる開発者向け情報が提供される。弊誌でもできる限り多くの情報を扱っていくつもりなので、明日以降のレポートにぜひご注目頂きたい。


【セッションの模様】
15ものセッションをひととおり回るだけでもかなり大変である。いずれの会場も200以上の席が用意され、できるだけ立ち見が出ないように配慮されている。日本のCEDECとの最大の違いは、やはりワークショップ系のセッションの量、人気の高さだろうか。2日間みっちり学んで、3日目以降に臨むという開発者も多そうだ

(2009年 3月 24日)

[Reported by 中村聖司 ]