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「動く実物大ガンダム」とゲーム技術の親和性。“18mのロボット”を動かす技術はどのようなものか?

【CEDEC2021】

開催期間:8月24日~26日

 「18mのガンダムを動かす」、2014年に「ガンダムGLOBAL CHARENGE」の発表会が行なわれたことを筆者は覚えている。当時は「結局、巨大ロボットはこういう“夢のプロジェクト”」がなければ実現しないのかという思ったし、「動かせるといっても、まさか歩けるわけではないし」と思っていた。

 しかし2020年年末。予想を遙かに超える形でガンダムは動いた。擬似的ではあるが歩いているかのように脚を動かし、片膝立ちも見せた。「実際に18mの巨人が動く姿」を見ることができたのである。今回、GDCの講義「”不可能を可能に” 「動くガンダム」実現までのプロダクションノート(前篇)」でそのバックボーンが詳しく語られた。本稿では講義の内容を紹介していきたい。

 本講義は一般社団法人ガンダム GLOBAL CHALLENGE GGCテクニカルディレクターの石井啓範氏と、アスラテック株式会社 取締役 チーフロボットクリエイター/GGCシステムディレクターの吉崎航氏によって「動く実物大ガンダム」を実現した技術的バックボーンが語られた。モデレーターはセガ第3事業部 第3開発2部 テクニカルサポートセクションテクニカルアーティスト マネージャーの麓一博氏が務めた。

一般社団法人ガンダム GLOBAL CHALLENGE GGCテクニカルディレクターの石井啓範氏(左)と、アスラテック株式会社 取締役 チーフロボットクリエイター/GGCシステムディレクターの吉崎航氏
「動く実物大ガンダム」のコンセプト

 「ガンダムGLOBAL CHARENGE」は、2009年にお台場に建設された「実物大ガンダム立像」からスタートする。ここから「次はガンダムを動かそう」というプロジェクトがスタートし、2014年に「ガンダムGLOBAL CHARENGE」と言う形で正式発表された。

 プロジェクトの目的は「18mのガンダムを動かす」、「ガンダムらしい動きの再現」、これをデモで紹介するというものだ。しかし18mの巨大ロボットなど世界で誰も挑戦したことがない。このプロジェクトは日本の様々な先端企業が参加する巨大プロジェクトとなった。

 2014年の本格スタートから様々なテクニカルパートナーの参加、2018年から具体的な開発計画が進められ、2019年茨城県取手市の工場で「ガンダム本体」が、愛媛県新居浜市で「Gキャリア」が、会場である横浜でガンダムを収めるための「Gドック」が建設されていった。ガンダム本体や、Gキャリアは分解されて会場に運び込まれていくことになる。

様々な企業の先端技術によって「動く実物大ガンダム」は実現している

 「動く実物大ガンダム」は実際に2足歩行ができるわけではない。Gキャリアによって支えられ、宙づりにされており、地面につかない状態で脚を動かし、Gキャリアが前進しGドックから前に出て行くことで歩いているように見えるのだ。現在の技術や安全基準、「1年以上デモンストレーションを行なう」と言った条件など様々な検討を行ない、この形に決まった。

 「動く実物大ガンダム」は様々な技術で作られている。ガンダムをメンテナンスするGドックは巨大建築技術、Gキャリアの移動やガンダムをつり上げている技術は重機や建設機械の技術、ガンダム本体に求められるのは、産業用ロボットの精密な動きをベースに、エンタテイメントロボットの外連味のある動き、豊かな表現となる。もちろん“ガンダム”ならではの造形、立像の面白さも最大限に活かす。様々な先端技術が結集してのプロジェクトであることが改めてわかる。

 ガンダムは可動フレームを鋼鉄、外装をFRP、関節はモーターと減速機で各関節は可動し電動シリンダも併用している。安全性に関しては、ガンダムは自立せず腰をGキャリアで支える形になっており、人が乗り込むことができるコクピットはあるものの操作は遠隔制御室で行ない、動作時に人は搭乗しない。また、屋外環境に合わせ、雨、塩害、地震、台風への対策も行なわれている。

 「動く実物大ガンダム」はゲーム的技術のアプローチも非常に多かったという。モーション作成、VRでの動作確認や、実際にガンダムが建造できた時の見え方、部品のすりあわせや、足の裏が設置しない高さなど安全確認もCGでシミュレーションする。演出のビデオコンテ、照明の確認、さらには展示用のソフトなど、あらゆるところで3DCGや演算シミュレーションが活用されている。

ガンダム本体だけでなく、Gキャリア、Gドックによって「動く実物大ガンダム」は成り立っている

 各モーターの配置としては「肩カバー」と「スカート」にもモーターが仕込まれているという。これは手を上げたりする時に装甲がぶつかったりするのを防ぐためだ。特にスカートは脚を上げる時も、上半身がかがみ込む時も干渉するため、部品がぶつからないように動きを制御するのが難しかったとのこと。

 開発者達がこだわったのは「スピード」。ゆっくりに見える動きだが、至近距離で見ると足の裏の移動速度はかなりのものだ。各関節の負荷も大きい。最も大変だったのが、関節を動かす減速機。ここをいかに精度を高くするかで、モーターの出力が決まる。出力を高めると手足が重くなり、動きも相まって、負荷が高くなる。

 手足をいかに軽くし、演出を成功させるための動きを実現しながら、スピードや負荷が大きくならないようにする。この検証が設計や構造そのものを変えていく。巨大ロボットを、それらしく動かすというのは、その検証を何度も繰り返すことで実現するのだ。

ゲームによって進化したCG技術や演出があるからこそ、ガンダムの動く姿がエンターテイメントとなるのだ

 ガンダムが足を踏み出す。片足がついている時にもう片足が動いているのだが、実は地面についている足もIK(逆運動)をさせなければ動いているように見えない。これは、ゲームのCGでも多用される技術だという。これが非常に大変なのだ。逆運動は体を支えているように動くため、本当に正確にしてしまうと機器の負荷を超えてしまう。そこで「らしく見える動き」を行なっているとのこと。ここもゲームの3DCG的アプローチだ。

 このほかにも使用しているアプリケーションや、やりとりするデータ形式などが紹介された。本講義は前後編となる。後編ではさらにソフトウェア側の活躍を掘り下げていくことになる。