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Amazon、日本語版Alexaでも課金制ゲームが提供可能に
「アタック25」、「アリバイチャンネル」など複数の日本オリジナルスキルの提供が開始
2019年5月31日 00:01
- 5月31日提供開始
Amazonは5月31日、スマートスピーカー向けの音声サービス「Alexa」において、スキル内課金機能を使ったゲームコンテンツの提供を開始した。「スキル内課金」機能は、米国では2018年5月から利用可能な状況となっており、課金機能を利用したゲームなどのスキルが提供されていた。今後は日本国内においてもゲームメーカーやスキル開発者がこのスキル内課金機能を利用してマネタイズできるようになる。
音声のコマンドを使用して豊富な機能が利用できるスマートスピーカーは、日本国内でも各社から様々な製品が発売されている。Amazon自身が発売する「Amazon Echo」シリーズやGoogleが提供する「Google Home」シリーズ、LINEが提供する「LINE Clova」シリーズなどだ。
各社ともそれぞれ特徴のあるスマートスピーカーを発売しているが、Amazonの場合、「Amazon Echo」シリーズ以外に、ディスプレイを搭載した「Amazon Echo Show」シリーズも発売している。他にもテレビと接続し、映画やゲームが楽しめるUSB接続のスティック型端末「Fire TV Stick」シリーズでも2017年モデル以降の製品では「Alexa」が利用できるようになっているほか、「Alexa Voice Service」と呼ばれる「Alexa」の機能を利用した製品が開発できるサービスを他社向けに提供し、Alexa互換製品を他社でも発売できるような仕組みを用意している。このことからAlexaは互換製品も含めると多くの対応製品が提供されている状況だ。
Amazonではスマートスピーカーで利用できる各種機能を「スキル」と呼んでおり、これらは開発者たちが自由に開発して、提供することができる。スキルの利用はこれまでは全て無料だったため、ユーザーは料金について気にせずに自由にスキルを利用することができたが、反面、開発者はスキルを開発してもマネタイズする手段がなかったため、コストがかかるような機能は提供することができない状況だった。
同社ではより多くの利用者がいるスキルの開発者に対してはインセンティブを支払う「Amazon開発者リワードプログラム」を提供するなどの施策も行なっていたが、今回はより踏み込んだ形での具体的なマネタイズ手段を提供することとなった。
今回のスキル内課金機能の追加により、開発者は自身のスキルに課金機能を追加することで、従来のスキルではコスト面の都合で困難だった同じスキル内での新しい音声データの追加などが行なえるようになる。これにより提供できるスキルの幅が広がるほか、より多くの開発者やソフトメーカーが新しいスキル開発を行いやすい土壌ができたといえる。
スキル内課金機能の課金方法としては、毎月決まった金額が自動で支払われる「サブスクリプション型」、1度購入すればその追加機能が引き続き利用できる「買い切り型」、同じアイテムを何度でも購入できる「消費型」の3種類を用意。これらは複数のスキルを連携する「スキルコネクション」の機能を利用して実装され、開発者がスキル内課金を利用したい場合、自身のスキルにスキル内課金の機能を連携させて利用する。
スキル内課金機能は音声のみの操作で利用できるため、PCを使ってAmazonのサイトにアクセスしたり、スマートフォンのアプリを使う必要はない。スキル内で課金を促す流れになった場合、課金に関する説明が音声で流れるため、課金してもOKな場合はその旨、声で返事するだけで課金が成立する。サブスクリプション型のように継続して支払う機能については、音声のみでの解約も可能だ。
また、ディスプレイを搭載した「Amazon Echo Show」シリーズの場合、スキル内課金機能の利用時のアナウンスや金額が画面上にも表示されるようになるため、音声を聞き逃したような場合も間違えて課金することなく利用できる。
「アタック25」のクイズゲームスキルなどが提供開始
今回の「スキル内課金」機能の発表に合わせて、同機能を搭載したスキルが同時にリリースされた。
ゲーム的なものとしては、サイバードが提供する「アタック25」スキルが挙げられる。同名のテレビ番組とのタイアップによるクイズゲームのスキルで、1回のチャレンジにつき5問の問題が読まれ、それに早押しで回答することでスコアを稼ぎ、オンライン上の他のプレーヤーとのスコアを競える。
クイズの読み上げは実際に番組内でクイズを読み上げている朝日放送テレビの加藤明子アナウンサーの音声で読まれるため、より番組と同じような臨場感が味わえる。回答の際には問題を読み上げ始めてから「アレクサ」と声をかけることで問題の読み上げが停止し、回答待ちの状態となるので、そこで音声で回答する。正解の場合、回答の速さに応じたスコアが加算される。
こちらのスキルは基本無料で提供され、無料版の場合、1日に2回しかクイズに挑戦することができないが、サブスクリプション型による月額課金の支払いを行なうことで、1日に5回クイズに挑戦できるようになるほか、まるで番組内のような効果音がバックに流れるようになるなど、臨場感を高める仕掛けも用意する。
本スキルは従来の「Amazon Echo」シリーズによる音声のみでの利用も可能だが、「Echo Show」シリーズのようにディスプレイを搭載したモデルの場合、画面上に番組のセットの様子が表示されたり、クイズの成否が画像で表示されるなど、より分かりやすく楽しめるようになる。
実際にこれらのクイズにも挑戦してみたが、筆者のクイズの出来不出来はともかくとして、特にこちらの声に合わせて調整をすることなく、こちらの回答を正確に把握し、成否を出していた。この辺りの日本語の認識の精度についても、日々向上しているように感じられた。
また、ユニークなスキルとしては、バーチャルアイドルグループ「GEMS COMPANY」のメンバー12人との会話が楽しめるスキル「GEMS COMPANY ジェムカントーク」を株式会社スクウェア・エニックスがリリースしている。こちらの課金モデルは消費型で、メンバーごとにトーク内容を追加できる「トークカプセル」を1個300円で購入することにより会話内容を広げる事ができる。追加されるトーク内容はランダムだが、トーク内容のかぶりはなく、1人のメンバーにつき10個のトークカプセルを追加で購入できる。
ディスプレイがある場合、画面上には「GEMS COMPANY」のメンバーたちのデフォルメイラスト画像が表示されるので、こういうかわいいイラストが好きな層には突き刺さる作りになっている。
他にも環境音を鳴らすスキル「アリバイチャンネル」を株式会社USENが提供する。無料版ではリアルな街中の雑踏の環境音「路上」のみが利用可能だが、買い切り型コンテンツとして「ゲームセンター」や「運転中」などの追加の環境音を用意、購入することで切り替えて使えるようになる。
ここで紹介したスキル以外にも、落語の演目がAlexaで楽しめる「まいにち落語」や、英語学習コンテンツ「ENGLISH JOURNAL」なども用意する。
収益化機能の提供でスキル開発への注力に期待
今回のリリースに合わせて来日したAmazonのAlexa担当バイス・プレジデント、ロブ・プルチアーニ氏にスキル内課金機能について話を伺った。
ロブ氏によると「Alexaなどスマートスピーカーの普及により、人々は音声コマンドを使った機能やコンテンツの利用がもはや当たり前と思うような成熟した市場になってきた。そのため、より利用者たちにとって有益になると同時に、そのスキル開発を行なう開発者たちが収益を目指すことができるように、今回のスキル内課金機能を追加した」という。
スキル内課金の機能が米国で2018年5月から提供されているのに対して、日本では1年後の実装となったが、「米国では開発者向けのベータ版の段階を含めるともっと早いうちから限定的にサービスを提供していた。最初のうちはサブスクリプション型のみの提供だったが、利用者の状況などを確認しながら、買い切り型や消費型の機能を段階的に追加してきた。日本ではこうした実績がベースになっているので、段階的ではなく全ての機能を最初から提供できた」とし、日本市場の重要性をアピールした。
また、「スキル内課金機能については、まずは無料のお試し版としてスキルを提供し、その後、気に入った利用者に対して、課金により機能を追加してもらう形になると思うが、有料版に切り替える利用者が多い(コンバージョン率が高い)のも特徴的だ。例えば、米国で提供されているスキル『Sleep Sounds』の場合、Alexaからスキルを紹介された利用者のうち、実際に利用したのは3割だったが、その3割の中の9割が月額のサブスクリプション型の契約に移行した。また、開発者たちの中にはスマートフォン用アプリと比べてもAlexaスキルのスキル内課金の方が切り替え率が高いと評価する人もいる」とし、マネタイズに繋がりやすい仕組みについて強調した。
ちなみに「Sleep Sounds」は寝る前に睡眠に適した音を流すというスキル。無料版の場合、決められた音しか流れないが、有料版では毎月色々な音源が追加されるので、好みに合わせていろんな音が試せるという。
今後の展望としては「これまでは開発者の方々への収益化の方法が提供できていなかったが、それを提供することができてうれしく思う。開発者たちがマネタイズによってスキル開発へのモチベーションを上げて、開発に注力してくれれば、よりユーザーたちの利便性が高まる。そんな好循環を目指していきたい」とした。
筆者は発売当初から各社のスマートスピーカーを購入して試していたが、リリース当初から開発者向けに広く門戸を開き、開発者たちが自由にスキル開発できる環境を用意するなど、スキル開発についてはAmazonが一番力を入れていたように思う。一方で当時から気になっていたのは有料コンテンツの仕組みが用意されていない事だったが、ここに明確な答えを提示したことで、今後どのようなユニークなスキルが登場するのか、想像もつかない。
米国ではアタリ創業者のノーラン・ブッシュネル氏がAlexaを使って楽しめるゲーム開発に力を入れているという話も聞く。日本国内で今回のスキル内課金機能の追加により、どのようなゲームが登場するのか、今後の展開が楽しみだ。