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【GDC 2019】「アンチャーテッド 古代神の秘宝」にみるNaugty Dog流ストーリーテリング

ゲームデザインとストーリーの整合性を取るストーリーアニメーターの役割

【GDC 2019】

3月18日~3月22日(現地時間) 開催

会場:Moscone Center

 GDC 2019振り返り、2日目の19日からはNaugty Dogの「Uncharted: The Lost Legacy」(邦題「アンチャーテッド 古代神の秘宝」。以下「UC: TLL」の話題をお届けしよう。本セッションに登壇したのはNaugty Dogで10年のキャリアを持つという女性アニメーターのMarianne Hayden氏。Story Animatorという他社ではあまり聞き覚えのないポジションに就いている。

 ゲームデザインとストーリーとを対立軸にして、2人のヒロインが象に遭遇して、奇しくもエレファントライドを体験しながら冒険を進めるという、本作の名シーンの舞台裏を披露していたので、本稿で紹介する。なお、昨年のGDC 2018では、シナリオライターのJosh Scherr氏が自身の立ち位置から同テーマを語っていたので、こちらも併せてご一読いただきたい。

登壇したStory AnimatorのMarianne Hayden氏

ゲームデザインとストーリーを調停するストーリーアニメーターの役割

 Scherr氏によると、Naugty DogのStory Animatorは単なるシネマティックなカットシーンのアニメーション製作者ではなく、ゲームプレイからカットシーンへと連なるストーリー上名場面と、ゲームデザイン上の要請との整合性を取る重要な役割を担っているという。

 こうした役割が必要なのは、大規模開発ならではのもので、プロジェクト内にゲームとしての遊びに注力するメンバーと、映像的な表現に注力するメンバー、それぞれの出身や立脚点が異なる場合に論点が生じてしまう。

 Scherr氏は、クロエとナディーンのエレファントライド前後のシークエンスを題材に、Naugty Dogの制作手法を解説していった。

【モーキャプの模様】

 どちらも男勝りなキャラクター、微妙な関係のクロエとナディーンが、本作のアドベンチャーを通じて女同士だからこその共感と、互いへの理解を深めていくさまが描かれている。

 幾多の困難ををくぐり抜け、協力して死線を越えていく2人。崩壊する建造物のトラップから九死に一生を得た2人は、象の群れが水浴びをする水場にたどり着く。

 ファイナルバージョンでは、崩壊の余波で落下した障害物を2人が協力してどかし、挟まれ動けなくなってしまっていた子象を救出して、その象の背に乗ったまま運ばれていく、という流れになっているが、この決定稿に至るまでには、別のバージョンもテスト製作されている。崖の上から巨大な岩石を落として、道を切り開くというものだが、演出の盛り上がりとしては決定稿のほうがずっといい。Hayden氏は、チームが意思決定をしていくためには、こうした試行錯誤は必要だとしていた。

【エレファントライド前のシークエンス】

 しばしの休息の後、2人は再び象の背中に乗り歩みを進めていく。象の背中に乗った状態では、車での移動や歩いている状態のプレーヤーカメラは役に立たず、象に乗った状態でもプレーヤーの任意で操作可能な状態にする、ライフルなどの小道具を象の背に乗った状態で不自然にならないように制御する、といった考慮事項も多い。

 Hayden氏は、セッションの結びとして、これらの解決には、ストーリー上の要請とゲームデザインとの間で、多くの選択肢を検討して解決策を探るしかない。開発のプロセスとしては、テストを繰り返し、フィードバックをもらい、それらを取り込んで良いものに仕上げていくしかない。良好でない部分は、思い切ってカットするか何度もやり直すしかない。ちょっとした外野からの意見でも多大な開発を強いられることがある。これらを考慮して開発を進めなければならないとしていた。

【シークエンスの試行錯誤】

アドベンチャーの疑似体験を思い出に変える重要性

 「UC: TLL」のアドベンチャーシークエンスで、何より心に残ったのは、象の群れが生息する水場で一息ついた2人の軽妙なトークとクロエの記撮影だ。何度見てもこのシーンは、思わず笑みを浮かべてしまう。

 こうした遊び心のあるシーン描写は、ベタではあるものの、女性らしい感性が垣間見られる、ほっこりした演出だと言える。ソーシャル時代の今、ポピュラーな観光地で、特に若い女性がこうしたトリック写真を試みようとしている姿をよく目にする。一時の間、自己のおかれた過酷な状況を忘れて無邪気に振る舞うさまは、イマドキの若い「UC: TLL」ファンの心に強く響くのではないかと思う。ゲームにとってプレーヤーに忘れられないモーメントの体験を提供するのは非常に重要だ。

【エレファントライド前後のシークエンス】

 というのも、たとえゲームのなかのお話だとしても、自身のモーメントを記録して、あとで思い出を振り返るといったを楽しみ方は、以前よりずっとポピュラーになっているからだ。

 古くからPCのシューターなどでは、自分が首尾良く殺れた証として、ゲームのスクリーンショットを保存して他のプレーヤーと交流サイトで共有するといったコミュニケーションがあった。また、MMOゲームなどでは、パーティやギルドのメンバーとのひと時を、スクリーンショットとともにブログで日記として公開する、といった楽しみ方をしている人は今なお多い。

 それが今では、アーキテクチャ的にも、ゲームデザイン的にも、またユーザーアクティビティ的にも、コンソールゲームとPCとの共通化が進んで、そこにさらにゲームの外にあるモバイルデバイスとの日常がクロスオーバーする形で、ゲームに輸入されてきている。
 ロードムービーを標榜する「FINAL FANTASY XV」では、作中のキャラクター、プロンプトの撮影スキルとしての自動撮影や、セルフ写真機能としてのスクリーンショットに加えて、フィルターエフェクトや、フレームを加えて保存することまで可能になっている。保存した写真はTwitterやFacebook(を経由してInstagramにも)共有でき、ゲームの魅力を外側に発信するツールとしても大きな役割を果たしている。

【FINAL FANTASY XVの撮影(Siggraph 2017より)】

 また、PCではNVIDIAのドライバ同梱ツール「Geforce Experience」の機能が充実している。フレームバッファの中身をキャプチャして、スクリーンショットや動画を撮るだけなら、任意のゲームにオーバーレイして行なうことができる。加えてハイライト(Highlights)対応ゲームでは、「FINAL FANTASY XV」のプロンプトの仕様と同様、ゲーム側からの制御に基づいて名場面のみを録画することも可能だ。SNS連携もサポートしており、NVIDIAのサービスに加え、Facebook、中国の新浪微博をもサポートする。最近でも機能拡張に野心的でRTXのリリースを契機にAncelに新フィルタを追加したり、キャプチャしたイメージのSupersamplingを実装するアップデートを行なっている。

【Geforce Experience】

 「UC: TLL」に話を戻すと、本作の仕様ではゲームデザイン上の「発見」の一環として、撮影可能な場所を見つけ出す楽しみに落とし込まれている。仕様の拡大が過熱気味な昨今では、やや機能的に物足りないかもしれないが、コンソールゲームらしい実装ではある。「Geforce Experience」と同様の共有機能は、PS4のシェアボタンをトリガーにした静止画や動画のキャプチャ機能でカバーできる。静止画はTwitterやFacebookに、動画はYoutubeやTwitchほか、いくつかのサイトに対応しているから、それで十分だと言える。

 これらモダンなゲームにおけるモーメントを記録する機能は、実装の目的や設定的な落とし込み、機能性に程度に差こそあれ、根底にある動機は昔ながらのものと同じものだ。たとえゲームという作り物の世界での体験でも気後れせずに公開する楽しみ方が、ここ数年で一気に市民権を得たと言えるだろう。

 本作シリーズは、未知の体験をプレーヤーに与えてくれる秀逸なアドベンチャーだ。ナンバリングタイトルの続編は今後リリースされないとの話もあるが、シリーズの世界観をこのまま放棄するとは思えない。ともあれ、Naugty Dogの次回作では、ゲーム体験におけるさらなる驚きと、その体験の共有をもっと彩ってくれる仕様を追加してくるだろう。「The Last of Us Part II」についてもE3の時期には、なんらかの情報が公開されると推測される。2019年もNaugty Dogの動向から目が離せない。