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【GDC 2019】「ポケモンGO」ARピカチュウはなぜ人の後ろを通れるのか?

ナイアンティック ジョン・ハンケCEOがARの未来を語る

【GDC 2019】

3月18日~3月22日(現地時間) 開催

会場:Moscone Center

 2018年6月、ナイアンティックが投稿したピカチュウの動画をご存知だろうか? 画面上に映し出された3Dモデルのピカチュウが、人や植木鉢の後ろに回り込むようにして画面の中を走る映像である。

【Codename: Niantic Occlusion - Real World AR Occlusion featuring Pikachu and Eevee】

 映像の中で、ピカチュウはまるで現実世界の中にいるかのようだ。撮影したビデオにピカチュウを重ねていると頭では理解していても、「裏に回り込む」キャラクターはそれまで見たことがなかった。

 これは今、ナイアンティックが取り組んでいる「ARの次の段階」だという。ナイアンティックが目指すARとは何か。この先のARはどうなっていくのか。GDC 2019の講演にて、ナイアンティック創設者でCEOのジョン・ハンケ氏より、「ARの未来」が語られた。

ナイアンティック創設者でCEOのジョン・ハンケ氏

「世界をよりよく見せる」ARの未来

 ハンケ氏は講演の中で、ナイアンティックのミッションは「探索」、「運動」、「社会」の3つであると改めて説明。そのミッションを体現するゲームが「Ingress」、「ポケモンGO」、そして「近日公開予定」とする「ハリー・ポッター:魔法同盟」の3つなのだとした。

 「ハリー・ポッター:魔法同盟」はこれからサービスが始まるタイトルとなるが、「Ingress」と「ポケモンGO」についてはすでに多くの実績がある。プレーヤーを外に連れ出し、人と多く出会う。この流れは、今後も大きくなっていくだろうとした。

ナイアンティックの3本柱「Ingress」、「ポケモンGO」、「ハリー・ポッター:魔法同盟」

 では、次はどんなARがやってくるのだろうか。ハンケ氏は「地球規模のAR」だと理想を掲げ、その内容について「Mapping Reality」、「Understanding Reality」、そして「Sharing Reality」の順で話していった。

 まず「Mapping Reality」について。これはマップ情報を機械に覚えさせることで拡張させる現実のこと。同じ場所の写真を違う確度から何枚も撮って機械に覚えさせることでその土地の3Dマップを作り、そのデータをもとにしてAR表現をしていくという方法だ。

土地の情報(写真など)を機械に覚えさせてアウトプットに繋げる

 ナイアンティックが行なった実験では、あるホールのような場所について1,414枚の写真を撮影し、ホールの3Dマップデータを作り上げた。このデータがあることで、AR画面上のオブジェクトはより狙い通りの位置に固定できる。

 ここでのポイントは、「現実を理解すること」。現実をいかに拡張できるかは、機械が現実をいかに理解できるかに依存している。機械学習やニューラルネットワーク、AIといった最先端の技術が、その鍵となるだろうとした。

1,414枚の写真から作り上げた3DデータとARを統合。カメラの中のオブジェクトはしっかり固定される

 ではそうした技術は何に応用できるのか。そこで登場するのが冒頭のピカチュウの例だ。ハンケ氏が紹介したのは、「映像に映っているものの深度をリアルタイムで判定する」技術。実際の映像に人や車、ポールなどが映り込むと、分析側の映像ではその部分が明るくなって表示される。

  この解析データとピカチュウの動きを組み合わせると、冒頭の「人や植木鉢の後ろにピカチュウが回り込む」という映像ができ上がるのだとした。

リアルタイムで深度を判定していく映像
ピカチュウの動きと連動させる

 またAR技術が浸透し、遅延が下がり、マルチプラットフォームに対応すると、大人数を巻き込んだ様々なARアクティビティの可能性も広がってくる。

 たとえば、リアルタイムによるマルチプレイ対戦型ARゲーム「Codename: Neon」や、協力型のARパズルゲーム「Codename: Tonehenge」がそれだ。

【Codename: Neon - Real World Multiplayer AR Demo】
【Codename: Tonehenge - Real World Multiplayer AR Demo】
5GとARは親和性が高い

 ARとは、「データとモノが結びつくこと」とハンケ氏は語る。たとえば、ベンチとそのほかのものを見分けるような地図の正確性もそのひとつ。ほかにも、ビルの中にどんな企業が入っているかなどの知りたい情報がすぐに入手できたり、ホテルならその場でチェックインができたり、といったことが挙げられる。

 つまり、現実にあるモノの情報性やインタラクティブ性が、データによって拡張されていくだろうという分析だ。またエンタメ性といった部分でも、新しいものが生まれるだろうとした。

データがモノに結びつく例

 ハンケ氏は、ARを「バラ色のメガネ」だと例えて語る。サングラスはもともと、太陽の明るすぎる光を適度に防ぎ、世界をよりはっきりと見せるためにある。ARも同じように、現実に何かを加えることで世界をよりよく見せる「メガネのようなもの」ではないかということだ。

 現実にARが上手く作用すれば世界は新鮮に映り、立ち止まって歴史を知ることができるかもしれない。AR世界が共有できるようになれば、友人や知人と見たこともないような遊びができて、それが社会を結びつけていくかもしれない。社会をよりよくすること。それがARの未来に見るビジョンなのだとハンケ氏は語った。

ハンケ氏が実現したいというARのイメージ図
「ポケモンGO」のジムについては、2月に六本木ヒルズで実施された「Pokemon GO AR展望台」にて少しだけ実現している
HYPER-REALITYfromKeiichi MatsudaonVimeo.
ハンケ氏は、メディアアーティストのケイイチ・マツダ氏がARの未来を批判的に描いた映像作品「HYPER-REALITY」も紹介。この映像が示唆する怖さも考慮した上で、あくまでハンケ氏が目指すビジョンは「現実をよりよくするもの」なのだと述べた