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【GDC 2019】入念な時代考証で「Assassin's Creed」に往時のアクロポリスが復活

全世界10のスタジオが総力を挙げて「AC: Odyssey」にアテネvs.スパルタを再現

【GDC 2019】

3月18日~3月22日(現地時間) 開催

会場:Moscone Center

 Ubisoftは、GDC4日目の3月21日、現在は遺跡となってしまっているギリシアの神殿を出発点に、人々が息づく世界を「Assassin's Creed: Odyssey」に再現するまでを紹介するセッションを行なった。

登壇したWorld DirectorのBenjamin Hall氏

 テーマとなった「Assassin's Creed: Odyssey」(以下「AC: Odyssey」)は、2018年10月にリリースされたアサシンクリードフランチャイズの最新作だ。本作の開発をリードしたのはUbisoft Quebecで、「AC: Origins」の開発がMontrealの担当であったことから、「Assassin's Creed」シリーズは2015年リリースの「Syndicate」以来ということになる。

 「AC: Odyssey」のグラフィックスの見どころは、何と言っても細部に至るまで見事に再現された古代ギリシアの街並みだ。この街並みは、全世界10のスタジオが一致団結して作り上げたという。超大作と言えども、ここまで大規模な開発体制は、おそらく他に類を見ないのではないだろうか。

 本セッションでは、その製作ワークフローの一端と各スタジオの役割分担を垣間見ることができた。さすが大規模開発というべきか、いくつか圧巻のエピソードも披露された本セッションを紹介しておきたい。

登壇したArt DirectorのThierry Dansereau氏

 紀元前5世紀の古代ギリシア、そしてアテネとスパルタの戦いであるペロポネソス戦争の時代を描く「AC: Odyssey」の開発は、古代ギリシアの勇者オデュッセウスの冒険を綴った叙事詩「オデュッセイア」の世界で自身が進むべき道を定めるというビジョンのもと、徹底的に参考資料を収集することから始められている。

 実は古代ギリシアに対する解釈は、きっちり固まったものではなく、参考にした過去60年の映画、過去35年のゲームで、幾度となく設定が変更されている。また、アーティスティックな解釈によって描かれた現代絵画の解釈も多様だったが、それらのすべてを本作の参考としている。

【資料収集】

 続いて行なわれた歴史的研究も、資料収集同様、徹底的に実施されている。Ubisoft Quebecは、なんと社内スタッフとして史学博士のRuatta女史を雇って、入念な時代考証をしながら、フィールドアセット、プロップス、NPCとその衣装、動物といった世界に存在するあらゆる事象に対して、リアリティを持たせている。

 とは言え、古代ギリシアの産物は、その多くが現代に至るまでに失われている。それらの再現のうち最も大きな挑戦のひとつには、ミコノスの再現があるだという。すぐ側に世界遺産に登録されている遺跡の島デロスがあるものの、現在はエーゲ海有数のリゾート地として人気の島ミコノスには、古代ギリシアの建築の様子がわかる遺跡は残されていない。それでも島の数少ない出土品や、近隣の遺跡、現在のミコノスのイメージで補完して、誰もが想像する在りし日のミコノスを再現している。

【古代ギリシアの再現過程】

 再現のために実施した、もうひとつの大きな活動は、現在も残されている遺跡に実際に足を運ぶことだ。リアルな描写を目指すプロジェクトでは、いわゆるロケハンや現地取材に相当する活動を多かれ少なかれ実施しているものではあるが、本作におけるその徹底ぶりは、よくある取材の域を超えている。

 歴史家や専門家を同伴した3つのグループを編成して、アテネに始まり、スパルタ、デルフォイ、テーベ、トロイアなどの遺跡を巡り、実際に肌で触れイマジネーションを得ている。アクロポリスの取材風景のビデオを見る限り、少なくともひとつのグループに5~6名程度が参加しており、これが3グループだと総勢18人程度の規模で実施していることになる。また、取材の成果は、Ubisoftの社内情報共有サイトWorld Texture Facility(WTF)において、取材に参加できなかったスタッフに共有されている。

【現地取材】

 こうした取り組みで得られた成果から、ビジョンを具体的に描くための二元的対立軸に集約されている。コントラストは、明暗や補色関係といった色彩的なものにとどまらず、もっと概念的なものに及ぶ。例えば「自然と人間」、「陸上と海洋」、「現実と神話」、「美観と戦禍」、「スパルタとアテネ」といったものが、本作の対立軸として設定されていった。

【コンセプトの対立軸】

 具体的な製作過程では、全世界に点在する10ものスタジオが製作に参加している。プロジェクトをリードするカナダのケベックスタジオ以下、Ubisoft傘下のスタジオからは、同じくカナダのモントリオール、フランスのモンペリエ、ルーマニアのブカレスト、ウクライナのキエフ、インドのプネー、中国の上海、シンガポールの8つのスタジオが、外部の協力スタジオからは、ロシアのボルゴクラードにあるSperasoftのスタジオと、インドバンガロールに本拠地を置くTechnicolor Gamesが加わっている。

 傘下スタジオの顔ぶれを見るに、本作に必要となる大量のグラフィックデータを、高い品質を維持しながら大量の人員でさばくための強力な体制が構築されたことは想像に難くない。

10スタジオが連携する開発体制
【ワールド設計】

 データ製作の技術的側面に目をやると、リアルな環境と生態系のために、現状確立している手法では、鉄板といえる方法論が採用されている。

 地形のテラインデータは、Anvilエンジンのブラシツールで製作した後、ディティールをMudboxでスカルプト、さらにWorld Machineでシミュレートした結果を取り込んでリアルな詳細を加えている。

【テライン製作】

 草木や建材といったもののマテリアルやテクスチャでは、撮影素材から要素を分解してPBR用のデータを取得、Substance Designer/Painterを使用してバリエーションを増やすという、おなじみの手法だ。また続編のアドバンテージを活かして、「AC: Origins」のライブラリ資産を有効に活用している。プロップスを含めたアセット類では、遺跡や遺物では失われてしまった色彩を蘇らせる試みがなされている。本作の背景は大道具、小道具を含めて皆色彩豊かだ。このあたりの背景に関する表現には、まったく隙がない。

 また、間断なく寄せては引く波打ち際の表現は、水面の抑揚をプロシージャルにデフォームさせながら波頭のパーティクルを加えたもので、海面や海底サーフェイスに対する反射や屈折の適用とともに、やるべきことは一通りやっている印象だ。

【アセット製作】
【プロップス製作】
【マテリアル製作】
【水面の表現】

 NPCを含めた人物の表現には、古代ギリシアの衣服の形状では差別化がしにくいことから、多彩なモーションキャプチャによる個性づけが行なわれている。対して、自然界の動物では、伝説上の生物が登場することもあり、リアリティを重視しながらも、形状的な特徴を誇張した大胆な表現が行なわれている。

【NPCと動物】

 最終的なフィールドへのオブジェクトの配置は、アートデザインにもレベルデザインにも、当然のことながらAnvilのレベルエディタを使用している。アセット、マテリアル、ライティングなどを実際のゲームに近しいルックで確認しながら作業を進めることができ、特に機能的な弱点はないように感じられる。

 こうした製作過程を経て生み出された古代ギリシアの街並みは、時代考証に基づいていることもあり、かなりの正確性をもった説得力のあるものだ。ここにプロット上のフィクションが加わることで、エキサイティングな冒険譚のビジュアル表現が成立している。

【ワールドレイアウト】
【レベルデザイン】
【完成したフィールド】

 セッションの最後には、アレクシオスに「Assassin's Creed: Japan」の発表はまだか? と問いかけるPVの一節が引用された。このPVは、北米のUbisoftが公開しているもので、アマゾンAlexaの音声を変更する「Assassin's Creed Odyssey Spartan」を適用したやりとりをコメディにしたものだ。PVでは「そんなのない」と回答されるオチなのだが、実際のところ、ここまでなんでもありに拡張された「Assassin's Creed」シリーズなら、いよいよジャパン、というのもあり得ない話ではないだろう。

 日本をテーマにした作品の噂や構想は、もう随分長い間出ては消えてを繰り返している。本セッションの引用が近い将来の発表の暗示だといいのだが、現時点で公式なコメントは何もない。手元のiPhoneでAlexaアプリにスキルを適用して、アレクシオスを呼び出してみたが、残念ながら彼からジャパンに関する回答は得られなかった。今後もときどきアレクシオスを呼び出しては、ジャパンについて聞いてみることにしたい。

PVに登場するアレクシオス
【実写とインゲーム比較】