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続編は来るか? 「アストロノーカ」20周年記念トークイベント開催

奥深いAIや世界観、これまで語られなかった秘話が次々と明らかに

1月15日開催

会場:LOFT9 Shibuya

 モリカトロンは1月15日、東京・LOFT9 Shibuyaにて、プレイステーション用ゲームソフト「アストロノーカ」発売20周年を記念したメモリアルトークイベント「アストロパーティー2019」を開催した。

 「アストロノーカ」は、エニックス(現スクウェア・エニックス)が1998年8月に発売したシミュレーションゲームで、TV番組「ウゴウゴルーガ」などで独特の世界観を提示したムームーと、システムサコムによって開発された。イベントでは「アストロノーカ」の当時の制作陣である、プロデューサーを務めた齊藤陽介氏とゲームデザインを手掛けた森川幸人氏、そして進行役にアシスタントプロデューサーを務めた成沢理恵氏を加えた3人が登壇した。

左から、成沢理恵氏、齊藤陽介氏、森川幸人氏
会場ではゲームにちなんだスペシャルメニューが販売された。あっという間に完売となった

 本イベントは参加希望者が申し込む一般参加イベントで、定員105名で募集が行なわれたが、非常に好評で会場定員の105名は募集後すぐに締め切られたという。会場には今でも「アストロノーカ」をプレイし続けているユーザーや、当時のグッズを持ってきたユーザーなど熱心なファンが多数訪れていた。北海道から来たファンもいたという。

 イベントは3部構成で、1部は3人が当時の思い出を語り、2部ではAI研究で知られるスクウェア・エニックステクノロジー推進部リードAIリサーチャー三宅陽一郎氏が加わり、「アストロノーカ」の革新的なAIを語り、そして第3部では当時ムームーに在籍していたスタッフの参加による開発資料の公開が行なわれた。イベントは3時間以上のボリュームたっぷりのものだったが、非常に盛り上がり、楽しい催しとなった。

 最初に話されたのが「アストロノーカ」とはどんなゲームだったか、ということだ。アストロノーカは「アストロノーツ(宇宙飛行士)」に引っかけた、“宇宙の農家”をテーマにしたゲームである。プレーヤーは宇宙で農家を営む人として、畑に「宇宙マメ」、「月面コンブ」など、奇妙な野菜を植え、育てていく。

 その野菜を狙ってくるのが害獣「バブー」である。バブーに対し、プレーヤーは様々なトラップで対処する。落とし穴や、バブーを驚かせるかかし、上に乗っかったバブーを回転させ方向感覚を失わせる床などでバブーを撃退していく。しかし、バブーは一筋縄ではいかない。彼らは進化し、トラップへの耐性を獲得していくのだ。進化していくAI、この要素がどれだけ画期的だったか、当時その要素に気がつく人は少なかったと森川氏は語った。

ユニークで革新的だった「アストロノーカ」

 イベントではプレイ画面も紹介された。ムームーの作る奇妙な世界観、バブーを撃退するコミカルな駆け引きは、非常に楽しそうだ。ゲームを進めていく中での「メール」もとても面白く、奇妙な世界観を補足してくれる。メールは多く、物語を感じさせる情報を提示しており、非常に凝っている。齊藤氏はこのメールこそが「アストロノーカ」の真骨頂だと語った。この世界観の深さはイベントの3部で掘り下げられていく。次の部からは、「アストロノーカ」が内包している革新性が紹介されていった。

「アストロノーカ」のプレイ画面。野菜を育て、トラップを設置しバブーを撃退していく

その革新性は当時は理解されなかった。「進化論」を取り入れたAI

 2部はAI研究で知られる三宅陽一郎氏が加わり、「アストロノーカ」のAIを取り入れた革新的なゲーム性が語られた。森川氏が「アストロノーカ」を思いついたのは、「夢の島問題」が根本にある。20年前の夢の島はゴミとそこから発生する害虫の問題に悩まされていた。

 埋め立て地である夢の島は、ゴミが山積しており、ハエなどの害虫が大量発生した。これを駆除しようと殺虫剤を使うと虫は耐性を獲得し、再び大発生、最終的には人体に危険なレベルまで使うような薬まで使うようになった。このいたちごっこをゲームにしよう、というのが「アストロノーカ」なのだ。

学生時代に「アストロノーカ」のAIの革新性に感動したという三宅陽一郎氏

 成沢氏はアシスタントプロデューサーとして本作に関わっていく中でバブーの仕様書が非常に少ないことに衝撃を受けたという。バブー葉プログラム的に進化していく存在なため、仕様書に「バブーの性能」というのは定義できないのだ。他のゲームは展開していくバブーに合わせ、細かくパラメーターを提示していくが、「アストロノーカ」は考え方そのものが違うのだ。

 仕様書そのものは少ないのだが、バブーのAIに関して森川氏は非常に細かくAIを研究している。「ダーウィンの進化論」に基づく“適者生存”のしくみ、同じトラップを使うことで得られる耐性、内部的にはバブーのトラップに対する「自己評価」もあり、それらに従いバブーは進化していく。三宅氏はここまで見事にAIとゲーム性を組み合わせてゲームの面白さに活かしていることを感動したという。三宅氏は「アストロノーカ」似始めて出会ったときはまだ学生だったが、この感動が森川氏への興味となり、その後はAI研究を共に深めていくという流れに繋がっていく。

AIに対して強い思い入れが感じられる森川氏の仕様書

 齊藤氏はプロデューサーとして、ゲームのデバック、チューニングにはかなり難航していた。AIが世代を経ることで手に負えないほどトラップへの耐性を獲得してしまうのだ。これを避けるためには、あえてトラップを設置せずバブーに野菜を食わせるという「お目こぼし」を用意することで、バブーが弱体化する。これはデバッガーが見つけた攻略法とのことだ。「本作のテーマは“共存”といえます」と齊藤氏は語った。駆除するだけでなく、強くさせすぎないためのプレイも必要なのだ。

 このほか、進化がきちんと感じられるゲーム性を実現させることも苦労したという。当時の森川氏のメモは数式だらけで、そのAIへの情熱の強さがうかがえる。バブーが何を快く感じ、何が不快かで進化の方向を決める。さらに“突然変異”という要素を組み込み、進化が滞るようなときには突然変異が起こる確率を上げるなど、本当に数学的要素が濃密に組み込まれている。「ユーザーが体感できる進化スピードを実現する、これこそがAIとゲームデザインの融合ですこれこそが森川さんでしかできなかったことだったと思います」と三宅氏は語った。

 当時はデバッガーとのやりとりBBSに描き込むという形で行なっていた。AIのデバッグも確立していない時代、斬新なゲームだけに何もかも手探りだった。そのためにゲーム業界では「誰も褒めてくれなかった」と森川氏は語った。しかしAI業界からは「アストロノーカ」は評価され、森川氏は研究者の1人として講演を行なうこともあったという。

進化していくバブー。森川氏のメモは数式だけが書かれていて、見ても何を記しているかわからない。とても深い数学的考察で作られていることは強く伝わってくる

膨大なスライドで伝わってくる世界観の楽しさと奥深さ

 第3部は「アストロノーカ」開発スタッフが壇上に現われ、明かされなかった開発資料を見ることができた。登壇したのは当時進行を担当していた坂本和也氏、ゲーム内のシナリオとテキストを担当した野間口修二氏、アートディレクションとキャラクターデザインを担当した白佐木和馬氏、トラップのアニメーションやエフェクトを担当した宮本茂則氏、そして音楽を担当した神保直明氏である。

当時の開発者が集結

 3部では55枚ものスライドで開発の様々な設定や裏話が語られた。神保氏はイベントのためにゲームの曲をアレンジしたもの森川氏から依頼され、バンドの演奏を前提として作曲したが、「ノーギャラで」ということで、打ち込みで作ったという。

 様々な資料が次々と公開された。その数はスライドで55枚にも及び、とても全ては掲載できないので一部を公開したい。パッケージデザイン案、缶のパッケージに入れた特別版などボツになった様々なデザインが紹介された。これらは成沢氏や斎藤氏、森川氏などが自宅や会社の倉庫を引っかき回し、発掘されたものだという。

 企画書、様々な設定資料、ゲームの舞台となる星系、宇宙船、農場などの企画書、野菜のデザインの変遷、オープニングアニメの絵コンテ、キャラクターデザイン……ゲームのファンが集まる会場だけに、今まで見ることができなかったゲームの背景、込められた想いなどを聞くことができるこのコーナーは大きく盛り上がり、新しいスライドが出る度に会場からは歓声が上がった。

 イベントの終了時の注目は斎藤氏のコメント「俺個人的には、『アストロノーカ』の続編なり、後継作はやりたい。皆さんが遊びたい、という声を多く届けてくれるなら、皆さんも考えていただいて、面白いモノが出れば、やりたいと思います」と斎藤氏は語った。ファンの夢は叶えられるのか? 大いに期待したいところだ。

当時の貴重なグッズのプレゼント抽選会も行なわれた