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史上初の“笑えるeスポーツ”「アキバトーナメント」、初代王者はe☆イヤホンに
名刺交換から始まるeスポーツ。浅井企画 eスポーツ部やe☆イヤホン オリバー選手が大会を牽引
2018年12月10日 00:00
アキバeスポーツ評議会は12月9日、「ロケットリーグ」を競技種目とした秋葉原地区企業対抗戦「アキバトーナメント」を、ソフマップAKIBA2号館 2階 eSports Studio AKIBAにて開催し、同評議会議長の大井裕信氏が代表取締役社長を務めるタイムマシンのe☆イヤホン(イーイヤホン)が初の王者に輝いた。
秋葉原でビジネスを展開する有志で組織されたアキバeスポーツ評議会が主催するeスポーツイベント「アキバトーナメント」がついに開催された。秋葉原をeスポーツの聖地とするため、まずは企業側が自ら汗をかき、共に盛り上げていこうというユニークな主旨のイベントだ。
各チームには原則として取締役以上が必須というレギュレーションで、各参加チームはメーカー幹部のメンツを守りながら、いかにしっかり戦い抜くかという難局に挑まなければならない。
もとより、プロ選手が参加するeスポーツ大会のように、数万人、数十万人の視聴は最初から見込んでおらず、ガチの大会というよりは懇親会的、あるいは忘年会的なノリで、勝ち負けは度外視して、まずは自らeスポーツに触れてみる、そこから次の一手を考えていくという側面が強いイベントだ。
既報のように、弊誌の母体であるインプレスも参加企業のひとつに名を連ねている。今回、芸能事務所の浅井企画やグラチア事務局と共に、特別枠としてeスポーツ部がある企業も参加しており、弊社eスポーツ部もその1つ。
というわけで筆者も関係者兼取材記者としてイベントに参加したが、ここしばらくこんなに笑ったことはなかったというぐらい笑わせてくれるイベントだった。全13試合を5時間弱の長丁場で一気にこなすというタフなイベントだったが、ほぼ最初から最後まで笑い転げていた。参加者たちも常に笑顔で満たされており、こんなeスポーツイベントもあるんだ、あっていいんだと新しい発見があった。“笑えるeスポーツ”というのはいかにもアキバらしいアプローチだと思う。
抜群に巧かったのは、実況解説を務めたシンイチロォ氏と郡正夫氏の軽快なトークだ。チームがステージに呼び込まれてから試合開始までに5分から10分程度の時間があり、この時間をトークで繋がなければならない。普通のeスポーツ大会なら、チームの傾向、各選手の動向、チーム同士の相性、予想される試合展開などの紹介が行なわれる時間帯だが、アキバトーナメントでは、好きなゲームや、最近嬉しかったこと、試合への意気込みなどを事前にアンケートを採っており、その彼らなりの読み上げがいちいちおもしろかった。
そしてもう1つは、参加企業の代表者によるパフォーマンスだ。試合前は、企業同士ということで名刺交換が行なわれる。礼儀として腰を低く下げ合うパフォーマンスなどもあり、いつまで経っても話が前に進まない。ようやく試合前の一言挨拶になると、「大人の忖度が入ると思います」(サードウェーブ取締役副社長榎本一郎氏)、「今回20万円のヘッドフォンを持ってきたので、音で聞き分けて勝ちたいと思います」(e☆イヤホン大井社長)、「浅井企画さんに部室を提供しているんですよ。だからまさか忖度無しはないだろうなと。(負けてくれとお願いするために)浅井社長に電話しようかなと思ったんですよ」(榎本副社長)、「(サードウェーブには)めちゃめちゃいい性能のPCを僕らの部に提供していただいていて、そのおかげで強くなったのでPCの素晴らしさを伝えるために全力でやらせていただきます!」(浅井企画 大和一考氏)といった具合で、試合以外のところでいかに盛り上げるかに全力を注いでいたのがおもしろかった。
さて、肝心の試合の方は、卓球でいえば、ほぼ全員温泉卓球レベルで、1人だけ全日本クラスの卓球プレーヤーが混じっていて、彼1人のパワーで優勝が決まったという印象だった。その1人とはe☆イヤホンの梅田EST店に所属するオリバー選手で、当日は「#オリバー無双」というハッシュタグが生まれるほどまさに無双状態の強さだった。
ちなみに本大会のダークホース的な存在だったのが浅井企画 eスポーツ部だ。1回戦のコトブキヤを12:1のワンサイドゲームで下すと、リーダー格の大和氏は、「このような大会に(自分たちのような)無職みたいな人たちを入れるのはマズいんじゃないか」と、案に自分たちがしっかり練習してきたことをアピールすると、有言実行とばかりに2回戦をサードウェーブを6:2、イオシスを6:0でそれぞれ撃破。“空気を読まないクレイジーチーム”として暴れ回った。
実況解説のふたりは、浅井企画が活躍する度に、「コトブキヤからの仕事は来ない」、「コトブキヤを応援したい」、「なんでここで防いじゃうかな、そういうとこだぞ」、「スポンサーを失った」と次々にツッコミを入れ、そのたびに浅井企画のメンバーが「ちょっとちょっと!」とツッコミ返すコントが繰り広げられ、場を盛り上げていた。
笑いのプロである浅井企画のノリの良さに、メーカーも反応。浅井企画がサードウェーブを6:2で下すと、大事なスポンサーを失うまいと、浅井企画のメンバー達は榎本氏に土下座。怒った榎本氏はすかさず携帯電話を取りだし、浅井社長に抗議しようとするという寸劇を繰り広げた。こうなるともはやeスポーツでもなんでもないような気がするが、これが「アキバトーナメント」だ。
ともあれ浅井企画の凄まじい活躍ぶりに会場からは「秋葉原にまったく関係ない企業がいきなり優勝するのはさすがにマズいんじゃないか?」という空気が漂い始めてきたが、それにまったをかけたのが先述のオリバー選手だ。浅井企画のメンバーはしっかりチーム単位で練習し、かなり仕上がっていた印象だったが、オリバー選手はFPSのプレーヤーで、なおかつ「ロケットリーグ」のトッププレーヤーということで、1対3の状況下でも相手を圧倒する格の違うプレイを見せつけた。
オリバー選手は、大井社長が社員を対象に出場希望者を募ったところ、プレイ動画付きで応募してきた唯一の社員で、そのあまりの巧さに、わざわざ梅田EST店からこの日のために呼び寄せたという逸材。その実力は、評議会トップ同士の対決となった対MSY戦で早くも発揮され、実際に「オリバー(のパス)からのオリバー(のシュート)!」というコメントもあったほど、彼がひとりでゲームを支配していた。
「ロケットリーグ」は、北米では歴としたeスポーツタイトルとして人気を集めているが、敷居は低いものの非常に奥が深いタイトルだ。一見“クルマを使ったサッカーゲーム”だが、通常のサッカーと決定的に違うのは、ジャンプや壁登りによる空中戦の要素があり、3次元のゲームになっているところだ。ところが、その空中戦をマスターするのは、しっかりとした反復練習が必要不可欠で、言い換えればバスケの試合をオリバー選手以外はジャンプ無しでやっており、オリバー選手だけ空中のボールを取り放題&シュートを撃ち放題というわけで、何度やろうがオリバー選手には勝てなかったと思う。あえて温泉卓球レベルと書いたのはそういうわけだ。
今回決勝の相手が、ヒール役の浅井企画で、オリバー選手1人にきりきり舞いさせられる浅井企画 eスポーツ部という笑える図式が成立したから良かったものの、正直な所際どい局面だった。素人集団の中に巧すぎるプレーヤーを入れるのも考え物だと思う。「アキバトーナメント」の2回目があるのかどうかはわからないが、一定のバランスは取るべきだと思う。
ちなみにオリバー選手は、優勝時の挨拶で2019年に開催予定の「アキバリーグ」に早くも参戦を表明した。「アキバリーグ」は、「ロケットリーグ」を競技種目に、秋葉原の企業を対象とした事業団リーグで、年内に行なわれる評議会の会合を経て、1月下旬から2月頃詳細を発表予定。こちらはガチのeスポーツ大会ということで、ハイレベルなゲームが期待される。
「ロケットリーグ」は、サードウェーブと毎日新聞が開催する全国高校eスポーツ選手権でも正式種目に選ばれており、開発元のPsyonixもeスポーツ展開に積極的で、「Counter-Strike: Global Offensive」のように、今後国内でも大いに盛り上がることが期待される。実況のシンイチロォ氏も、ユーザーの1人として、「PCのみならず色んなプラットフォームで遊ぶことができる。観戦していて楽しかったと思うので、興味を持った方はぜひプレイしてみて欲しい」と猛プッシュ。今後、秋葉原から生まれるeスポーツのムーブメントに注目したいところだ。