ニュース

ジェフティはここにいる。Dolby Atmosで味わう「ANUBIS M∀RS」未確認浮遊快感

バフラム艦が空を斬り、爆轟が自分を取り囲む。その瞬間、俺はディンゴになった

9月6日 発売予定

価格:
4,980円(税別、PS4通常版/PC版)
8,980円(税別、PS4限定「PREMIUM PACKAGE」)

 「ベクターキャノンモードへ移行します」――コックピットを包むように響く、無機質なくせに優しさを感じさせる声。機体からアンカーが射出され、コアを剥き出しにした艦体に固定する。メタトロンを編み上げて形成されるそれは、破壊の嚆矢。パーツが次々と組み上がり、眼前で砲身が回転を始める。「撃てます」と小さく告げた”彼女”に背を押されるようにして、俺はトリガーを引いた。

「これでトドメだ」

 そう、そのとき私はディンゴになった。なっていた。大きなスピーカーに囲まれた視聴室で、音に空間を支配されて。「Dolby Atmos」に対応して作り上げられた最高の環境のなか、9月6日に発売を控えた「ANUBIS ZONE OF THE ENDERS : M∀RS」を体験してきた。

Dolby Atmosってなんぞや

 さて、「Dolby Atmos」とは。ざっくりと述べると、「どこに何があって、何がどこで起きているかがわかる」立体音響システム。音声データに位置情報を加える「オブジェクト・オーディオ」という概念を映像作品に用い、環境音(ベッド)に音の発信源(オブジェクト)を立体的に配置し、自分との位置関係を表わす……といったもの。たとえばステレオ環境なら「鳥が鳴いた。風が吹いている」で済むのだが、Dolby Atmos環境下では「鳥が2時の方向、約100m先で鳴いている。周りを強い風が取り囲み、耳を強く打つ」までわかるほど詳しく描かれる。

 今回体験したのは周囲に7.1ch、さらに天井に6つのスピーカーを備えた「7.1.6ch」という超贅沢な”音浴”環境(しかも4Kディスプレイまである)だったのだが、こんにちDolby Atmosはハイブリッド型サウンドバーやTV内蔵スピーカー、さらにはスマートフォン、ヘッドフォンでのバーチャル再現など、その体験に必要なハードルは下がり続けている。漫画とアニメのBlu-rayボックスに占拠された足の踏み場1畳みたいな場所でも体験はできるのだ。

「Leaf」と「Audiosphere」というDolby Atmos体験コンテンツ。音が体に染み渡るような感覚

 ただし、現在国内のゲームにおいてDolby Atmosはまだ地中のタケノコ。おいしい若芽が発掘されていない状態で、「ファイナルファンタジーXV WINDOWS EDITION」に続いて「ANUBIS M∀RS」は2作目となる。それに加え今のところ”ゲーム環境では”Xbox OneとWindows 10が対応するのみ。対応した映像作品では、しかるべき機材を揃えれば音を浴びられる。なおPCやXbox Oneでの体験には専用のアプリ「Dolby Access」が必要となっている。

ADAに包まれて、未確認浮遊”体感”

 その「とんでもねぇ音響」のDolby Atmosで浴びた「ANUBIS」の音は、想像以上に甘美で繊細で、それでいて過激だった。まず観たのは「PREMIUM PACKAGE」に付属するディスクに収録される、Dolby Atmosに対応したフルバージョンのデビュートレーラー。アージェイトの纏うウィスプが旋回し空を切り、飛行形態のビックバイパーが飛び去り、巡航形態のジェフティが唸らせる翼の粒子を浴び、バフラム艦が頭上を轟音とともに過ぎる。艦主砲が眼前を貫いていく。そのすべてが映像に連動して、耳のすぐ横を、頭上を、遠くに見える風景を彩るのだ。

 さらに忘れてはいけないことだが、同乗したケン・マリネリスの声は右側からした。さらに嬉しいことに、ADAの声は頭上を抜けて全体に響き渡る。本当にあのコックピットの中で、ジェフティに、ADAに包まれているようだった。あの無機質な声が自分をそっと抱くように囁く。こんなに嬉しいことはない。あぁ、あのレオやディンゴはこんなに頼もしい声とともに過酷な戦場を駆け抜けたのだと思い知る。

 音の位置関係も非常に丁寧に作り込まれていて、「この音がここからしたら嬉しいよな」という妄想をことごとく達成しダーツで言えば20のトリプルを的確に射抜いていく。今回の体験に同席頂いたCygamesのプロジェクトマネージャー近藤健一氏曰く「手探りの作業」だったというが、その結果がこれだというのか。ファンが「俺、これがいい」といって100万人が100万人指さす仕上がりになっている。なんなら「Z.O.E」からADAに惚れた私が100万と1人を代弁する。

 これすき。

 今まで「まぁステレオのヘッドフォンでいいだろ」なんてぬかしていた自分をザカートの装甲板で殴りつけたい気分だ。「ANUBIS M∀RS」のPC版を予約しているランナーに告ぐ。今すぐDolby Accessの有料版を購入してほしい。たったそれだけで、お持ちのヘッドフォンがジェフティのコックピットに変容するのだから。

 そしてこれがトドメだとばかりに、ゲームプレイまで体験させていただいた。まずは体験版でも味わえる、モスキートの群れを駆逐してアージェイトと対峙する場面。ダッシュとともに放つホーミングレーザーで群れを一掃するのが定石かつ爽快なパターンであるが、これをあえて「接近攻撃で」ちまちまと倒してみようと思った。

 そうしたらどうだ、縦横無尽に展開するモスキートたちに突っ込んでいく。四方八方から射撃される。それをひとつひとつ、丁寧に両断していく。後ろで爆発が起きた。素早く右を振り返って返す刀で次の機体を切り裂けば、爆発の残響が回り込んでくる。バースト攻撃で機体を回転させれば、ブレードが空間を破って唸る。バーストショットの球が頭上で破壊の奔流をはらみ、轟音とともに遠くの対象へ突撃する。そしてホーミングレーザーを撃てば、その尾を引く光条が奥へ奥へと進んでいく。その後のバフラム艦内での戦いも、艦が脈動する音が周囲から聞こえる。ネフティスが視界を左から右へ跳梁し、アヌビスの灼けるようなバーストショットが近づいてくる。

 次いで遊ばせて頂いた「バフラム艦隊戦」。リアルタイムで描かれるゲームプレイだからこそできる、艦のそれぞれがあげる轟音を奥から手前へ、左右に見据えて先頭へ向かう瞬間を、対空レーザーが、艦主砲が擦過する音を、そのコアに極大口径のベクターキャノンを叩き込むその一瞬一瞬を、四方八方から音として体中に捻じ込まれる。ベクターキャノン展開中に右スティックを操作してまじまじと眺められる瞬間はライフリングの回転まで立体的に聞こえる。これが自分の家だったら五体投地で号泣するほどに凄まじい。

 すべてが終わってみれば、残った言葉は「愛しい」と「怖い」のふた言。15年間募った「ジェフティに乗りたい」という想いがこんな形で実現されて、それがこんな圧力と破壊力を持ってしまったことが愛しくて、怖い。東京ゲームショウ2017で発表された際にVRで本作を体験したときにも感じた感情は、ここにきてさらに大きくなった。もしVRとDolby Atmosでゲームを体験したらどうなってしまうんだろうか。

 音は生物が持つ原初の快楽を引き出してくれる。ゲームという自分が操作して動くものならなおさらだ。あの時私はたしかにディンゴになって、ADAに抱かれ、ジェフティと一体になって共鳴していた。ここまで読んで下すった読者の方々に切なる願いである。Dolby Atmosで「ANUBIS M∀RS」を浴びてほしい。こんなにファンに寄り添って、積年の想いをこってりと凝縮したものは他にないと思う。