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【特別企画】日本を代表する“おもちゃ屋”、「博品館」の人気の秘密に迫る

子供から大人まで、全ての人に驚きと楽しさをもたらすその理想を体現

 博品館(博品館TOY PARK銀座本店)という銀座にある“おもちゃ屋”をご存じだろうか。1982年にスタートした、日本を代表する玩具店の1つで、1986年には日本最大の玩具店としてギネスブックに掲載された。現在は都庁や空港など様々な支店も展開している。

 これまで弊誌はおもちゃショーや、商談会などメーカーの様々な商品を紹介してきた。また、台湾や上海のホビーを扱う店舗を取材し、日本のホビー商品が海外でどのように受けいられているかも取材してきた。しかし、日本でどのような販売が行なわれているか、“売り手”の人々がどのような想いと、工夫で商品を販売しているかは取材してこなかった。

 博品館はユニークなお店である。メーカーの協力により積極的に“店頭販売”を行なうだけでなく、マジック(手品)商品の実演、さらには大きなスロットカーのコーナーがあり、ここで定期的にレースを開催している。また、昨今では特に外国人観光客の魅力的なスポットとして、様々な国の人々が訪れるという。

 博品館はどんなおもちゃ屋なのか、ユーザーに向けどのように商品をアピールしているのか、今回は店舗を取材してみた。

「全てのお客様に驚きと喜びを」、大人の街に生まれた新しいおもちゃ屋

 博品館は「大人向け」を意識して生まれたおもちゃ屋だという。今回は、広報を務める堅田朋宏氏に博品館の背景や、各フロアの特徴などを話を聞き、店舗としてのテーマや特徴を聞いた。

全10階の博品館ビル。4階まででが「博品館TOY PARK銀座本店」で、その上にはレストランや劇場などがある
今回話を聞いた博品館広報室 堅田朋宏氏
博品館は油圧式のエレベーターが大きな特徴だ。デザインがレトロフューチャー的な雰囲気で、油圧式なので油の強い匂いがする

 「銀座は大人の街」であり、博品館はここにあえておもちゃ屋を作ろう、というコンセプトで立ち上がった。ちなみに“博品館”という名前は、1899年(明治32年)に、前身となる帝国博品館勧工場(百貨店の原型とも言えるショッピングモール)が創業、1921年(大正10年)に当時の銀座で初めてエレベーターを持ったビルを建て、話題を集めた。

 しかしこのビルは関東大震災で被害を受け、廃業。その後創業80年にあたる1978年(昭和53年)に10階建てのビルが建った。そして1982年(昭和57年)にビルの5フロア(地上4階、地下1階)というこれまでにない大型玩具店を“博品館”の名前を冠してスタートするのである。

 ちなみに筆者は、博品館がスタートした直後のお店に行った記憶がある。当時、11才の筆者はスティーヴン・スピルバーグ監督の「E.T.」を有楽町の劇場で見た後、母にここに連れてきてもらって映画の関連商品を買った。見たこともない大きなおもちゃ屋で、大きなエレベーターと、フロア全てに玩具が置いてあったその驚きを今でも覚えている。その後も筆者は度々博品館を訪れているが、今回、最初の記憶が、博品館のスタート直後であることを知って驚いた。

 博品館は規模が大きく、バラエティ豊かな商品を取りそろえた日本最大の玩具店としてスタートした。そのときから「大人向け」は大いに意識していたと堅田氏は語った。銀座を訪れる客は大人が多い。そして子供を連れてくる大人にとっても魅力的な玩具店にする、というのは今でも共通しているコンセプトだという。最初は「銀座におもちゃ屋なんて無理だ」とも言われたが、博品館は新しいビジネスを切り開いていった。それは「大人も楽しめるホビー」という現代の市場を先取りしたものといえるだろう。

 博品館の創業時からのコンセプトは「全てのお客様に驚きと喜びを」。子供はもちろん、大人も、そして海外の人達へもその視野は向いている。博品館にとって、「玩具は子供のもの」という固定概念は最初からなかったとのことだ。近年は外国人にも魅力的な商品を取りそろえ、海外の人の「おみやげ」を提供するラインナップを取りそろえている。この方向性が、成田や羽田、関西空港、新千歳空港にも支店を持つ展開に繋がっている。

 堅田氏は本店の広報を務める前は羽田空港店に勤務していたとのこと。海外の人向けの商品、日本が感じられる商品の売れ行きが好評だったが、意外だったのが「飛行機」関連の商品が国内向けのユーザーに好評だったことだという。「空港に行ってきた」というおみやげとして、やはり飛行機の商品は大きな人気だった。こういった様々なフィードバックを受けながら、博品館は今も成長しているのだ。

 もう1つ博品館の大きな特徴が、「各店員は1人の店主として考える」という方針だという。博品館は各フロアにそれぞれコンセプトと、対象にする客層が設定されているが、どの商品をどのように置くかは任されているとのことだ。提示されたコンセプトに対し、どんな商品を置き、販売していくか、その区画を独立したおもちゃ屋として、何を仕入れ、置くかは担当者に任されている。このため各担当者の想いが強く表れるという。それでは、銀座本店の各フロアを見ていこう。

ちょっとカオスな多彩な面白さを詰め込んだ1階

 博品館の1階はまさに「おもちゃ箱をひっくり返したような」という表現がぴったりな、ちょっとカオスな空間となっている。初めて入った人が「面白い!」と手に取るような、ユニークな玩具が数多く置いてあるのだ。

ミニチュアが作れる「ポッピンクッキン」。ちゃんと食べられるところに人気がある
入り口はテーマを決めた販売コーナーで、期間ごとに様々なテーマが設けられる

 文房具や動きのわかりやすい玩具、ロボットなどぱっと見ただけで魅力が伝わりやすい商品を揃えている。タカラトミーアーツの「ロボフィッシュ」が水槽で泳いでいたり、タカラトミーのロボット玩具などが置いてある。ゼンマイ仕掛けの動きが面白い玩具も人気だ。

 テンヨーのメタリックパズルは金属を折り曲げて作るパズルだが「機動戦士ガンダム」のパズルや、姫路城などお城をモチーフにしたパズルなども展示しており、海外のユーザーに強くアピールしている。コトブキヤの「スター・ウォーズ」のライトセーバーの箸も人気だという。

 奥の方には調理器具のアイディア商品などまで展示した「大人向け」コーナーも用意されている。本格的な腕時計コーナーもあり、キャラクター時計だけでなく、高級時計なども置かれている。天体関連のグッズなど、他のフロア以上にユニークな商品を取りそろえている。

 この階で最近人気なのが、「スクイーズ」というぬいぐるみおもちゃ。握りしめることでムニュムニュした感触が楽しめる玩具で、パンやドーナツなど本物のような形をしていたり、デフォルメされた動物など種類も様々、色々なメーカーが出している。

 もう1つが、クラシエの「ポッピンクッキン」。これは材料を組み合わせることでクレープやお弁当などの形のミニチュアを作れるおもちゃでありながら、“食べられる”というところに大きな人気がある。味は甘いお菓子的なものからハンバーグなどはちゃんとハンバーグの味がしたりと様々で、とても人気を博しているとのことだ。

 取材時は雨のため見ることができなかったが、店頭販売のスペースがあり、道行く人の注目を集めている。休日はキャラクターなども訪れ賑やかになるという。また入り口のスペースは期間で変わる企画展示で、キャラクター関連グッズなど、テーマによる展示が行なわれる。1階は特に博品館のバラエティ豊かな雰囲気を体験できるフロアとなっている。

 海外からのユーザーに関しては博品館は英語・中国語が使えるスタッフを各フロアに配置し対応している。堅田氏が売り場にいた頃はユーザーも英語が使えない場合、中国のユーザーの場合は漢字を書いて貰い、そこから商品を探したこともあったとのこと。今はスマホがあるため、スマホで商品写真などを提示してくれることが増え、接客もかなり助かっているとのことだ。

【1階】
かわいらしい小物やグッズだけでなく、本格的な天体観測や時計、大人向けユニークグッズなどカオスな空間となっている1階。そのバラエティ豊かな雰囲気が楽しい

ミッフィー、ピカチュウ、リアルな動物から古代生物、ぬいぐるみが主役の2階

 2階のフロアは「ぬいぐるみ」だ。おもちゃのカテゴリーでも多くの人気を集め、幅広い層に受け入れられるジャンルである。ぬいぐるみは「キャラクターぬいぐるみ」とそれ以外の「オリジナルぬいぐるみ」に大別されるという。リアルな造形のものから、デフォルメされたものまで改めて見るとその多様性が面白い。

手足が長めな「ちょっこりさん」。豊かな表情付けが可能だ
古代生物や、希少動物などぬいぐるみのモチーフは大きく広がっている

 2階は日本人形なども扱っている。売り場にはこどもの日の兜なども置かれていた。招き猫、こけしなど、日本を感じさせる商品も多い。日本の凧や、東京タワーの置物など「日本みやげ」も取りそろえている。ショウワノートの着ることができるダンボールの鎧「着れちゃう! ダンボール」もここで扱っていた。

 最近はタカラトミーアーツの「ちょっこりさん」シリーズが人気だという。ぬいぐるみにしては長めの手足を持った体型が特徴で、種類も豊富だ。ちょっこりさんは手足を活かして腰掛けたり、何かに掴ませたりとポーズ付けが楽しめるところ。観光地など様々な場所で写真を撮ってSNSにアップする「ぬい撮り」で、より表情が出せるぬいぐるみとして人気だそうだ。

 もう1つがリアルな海洋生物や、古代生物のぬいぐるみ。ダイオウグソクムシや、ダイオウイカのぬいぐるみが話題を集めたが、兜をかぶった魚のような「ヘミキクラスピス」や、丸い体にとげが生えた「ウィワクシア」といったカンブリア紀で絶滅した生き物のぬいぐるみなど、そのモチーフの多彩さは面白かった。

【2階】
ぬいぐるみが中心の2階。多彩なぬいぐるみを見ることができる。こけしや日本人形など、日本の伝統的な人形も置かれている

おもちゃの主役! 男児/女時玩具で賑やかな3階

プレート状のパーツを繋げ合わせてバッグを作る「パチェリエ」
異国の雰囲気が楽しい「BRIO」

 3階は堅田氏が「1番おもちゃ屋らしいフロア」と語る場所。おもちゃの主役である、子供向け玩具コーナーだ。「プラレール」、「トミカ」、「シルバニアファミリー」、「Hot Wheels」や「トランスフォーマー」、「LEGO」もこのフロアだ。おもちゃ屋の定番商品が並べられていて、とても賑やかなフロアである。ちなみに、「リカちゃん」は地下のドール系売り場にある。

 このフロアで目立つのは女児系の「自分で作る」タイプのおもちゃ。アクセサリーなど女の子は自分だけのアイテムを作る遊びが人気だが、ビバリーの「パチェリエ」はプレートをジョイントで繋げることで糸を使わずに“バッグ”を作り出すことができるおもちゃ。この「パチェリエ」がとても人気だという。

 3階はスウェーデンの玩具「BRIO」の大きなコーナーも魅力だ。「BRIO」の中心となるのは木製のレールの上を走る列車。コンセプト的にはタカラトミーの「プラレール」に近いが、オブジェクトがシンプルで、北欧らしい雰囲気が楽しい。走る列車も異国情緒がある。博品館は大きなジオラマを展示しており、このシリーズをアピールしている。

【3階】
低年齢層向けのおもちゃはやはり“おもちゃ屋の主役”である。ユニークなアイディア、多彩なアプローチに驚かされる

プラモデルにフィギュア、大人向けホビー中心の4階

 4階はガンプラなどのプラモデル、アクションフィギュアや超合金など対象年齢の高いユーザー向けのトイだ。「figma」や「ねんどろいど」、さらには「スター・ウォーズ」、アメコミ関連のトイも多い。海外のユーザー向けが充実している印象で、「ドラゴンボール」、「ワンピース」のコーナーもある。

マジックコーナー。この台を使ってマジック商品の実演が行なわれる
全長約36mのスロットカーコース。博品館を象徴するコーナーと言ってもいいだろう

 個人的に博品館の印象を強めているのがこの4階にあるマジック(手品)のコーナーと、スロットカーのコーナーだ。手品は週に5日というかなりの回数で手品商品の実演をしている。手品商品を販売するテンヨーから紹介されたマジシャンで、商品を実際に使って、マジシャンの“腕”が楽しめる。カードマジック、ロープマジック、コインマジックのグッズや、杖から花がでる小道具など様々なアイテムが揃っている。本格的なトランプ、花札もあって、ちょっとアダルトな雰囲気である。

 スロットカーのコーナーも博品館ならではだ。1/32の世界的な基準に合わせたコースになっている。銀座店には全長約36m、8レーンの本格的なコースが設置されている。スロットカーは日本では1960年代に大きなブームとなり、それから何度かブームとなったがラジコンが入手しやすくなったり、ミニ四駆のブームなどで競技人口はかつての大ブームよりは減っている。

 スロットカーは京商などが販売しているが、海外のメーカーのものが中心とのことだ。博品館はスロットカーを支えるため、オリジナルのコースキットも作り人気を支えている。コースを使ったレースもシニアとジュニア(小学生以下)で月1回は開催しており、固定ファンも掴んでいる。このコースでは初心者用の車を借りてコースを走らせることもできる。スロットカーは電圧のコントロールでスピードを調整する競技、上級者は車をカスタマイズし、コースアウトぎりぎりまでスピードアップできるピーキーな調整と、その車を乗りこなすアクセルワークが見所だという。

【4階】
プラモデルなど対象年齢の高い商品を並べる4階。Nintendo Swichなどのゲームも置いており、キッズアーケードゲームも設置されている

地下1階はリカちゃん、メルちゃん、そして3Dフィギュア撮影コーナー

 そして地下1階も幅広いユーザーを対象にしたドールフロアだ。「リカちゃん」、「バービー」が中心だが、置いてある服やグッズはゴージャスさやシックさを追求した大人っぽいラインナップが目につく。人形を飾っているジオラマもちょっと落ち着いた雰囲気だ。ここには300万円以上のダイヤモンドの衣装をまとうリカちゃんも展示されている。

ダイヤを使用した「オリジナルリカ」。価格は何と3,780,000円だ
パイロットインキの技術が生み出した「メイクアップメルちゃん」

 一方で、赤ちゃんの人形もここで販売されている。赤ちゃんの姿をした「メルちゃん」にメイクを施す「メイクアップ メルちゃん」が人気とのことだ。メルちゃんはお湯をかけると髪の毛の色が変わるという、パイロットインキの技術を活かしたヒット商品だが、「メイクアップメルちゃん」はその技術を進め、氷水につけたチップ(筆)で、メルちゃんの各部位をなぞることで頬のチーク、唇のリップ、目の上のアイシャドウ、さらにはネイルまで色が変わるという。化粧用品を使わない安全な方法で、お化粧遊びが楽しめるのだ。

 地下1階にはもう1つ大きな特徴がある。それが「3Dフィギュア撮影」だ。円筒状の撮影室には56台のカメラが仕掛けられており、これで撮影することで精密な3Dデータを収集、ドイツにある工房にデータを送りオリジナル3Dフィギュアを製作する。工房は大理石像を造る技術を応用しており、子供の成長の記録や、花嫁姿など人生の大事な瞬間をフィギュア化できる。昨今では3Dプリンターを使ってサービスを行なうところも多いが、博品館らしいアプローチが楽しいサービスである。

【地下1階】
3Dフィギュアコーナー。56台のカメラで3Dデータを撮影、ドイツでフィギュアが製作される
「お人形遊び」から「ドール」まで、幅広いユーザーに対応したラインナップ

 筆者はおもちゃショーや商談会などを取材しているが、その洪水のような商品数、情報量に圧倒されてしまうことがある。おもちゃは様々なアイディアと想いを込めて作られている。それはとてもワクワクさせられるが、いざ店頭に置くとなると極めて難しいと思う。スペースは限られており、ユーザーのニーズを満たしながら、メーカーの挑戦もきちんと評価したいとなると、これは難しい。

 博品館は、各フロアに明確なコンセプトがあり、担当者のユニークなアプローチも強く印象に残る。スペースという意味では日本最大級の広さを持っているが、そのスペースが多彩な商品で埋め尽くされているのが驚きだ。博品館はおもちゃ文化の多彩さを再認識させてくれる場所と言えるだろう。

 今回、各フロアを巡り、堅田氏の話を聞くことで、改めて博品館の面白さを改めて実感できた。担当者のおもちゃへの想い、ユーザーへの気持ちも感じることができたと思う。6月にはおもちゃショーが開催される。これからどのような新製品が生まれ店頭に並べられるのか、注目したい。