【特別企画】

“スポーツサイエンス”に裏付けられた形状。ZOWIEのゲーミングマウス「U2」開発の裏側

軽すぎてもNG。プロが勝つためのデバイス作り

【ZOWIE U2】

3月21日 発売

価格:19,800円

 BenQのゲーミングブランド「ZOWIE」より今年3月に発売されたワイヤレスゲーミングマウス「U2」。つかみ持ちに特化した左右対称デザインで、プロゲーマーのフィードバックをもとにした形状、eスポーツでの使用を前提としたセンサーやボタン、耐久性を備えたまさにZOWIEのフラッグシップゲーミングマウスだ。

 多くのゲーミングマウスは人間工学などに基づいて持ちやすい形状を実現しており、ZOWIEの「U2」ももちろん例外ではない。だが「U2」は、プロゲーマーが試合で勝つためのデバイスとして、ZOWIEとしては初めて“スポーツサイエンス”を取り入れたゲーミングマウスとなっている。

 スポーツサイエンスと聞いてピンと来ない人もいるだろうし、詳しい人でも「ゲーミングマウスにスポーツサイエンス……?」と思うかもしれない。そこで本稿では、台湾・BenQ本社内にある“ZOWIEラボ”で行なわれたメディアツアーの様子をお届け。プロゲーマーのためのデバイスを開発するZOWIEの「U2」が完成に至るまでのプロセスを紹介したい。

スポーツサイエンスに裏付けされたボタンの位置と重量。「U2」完成までのプロセス

 まずはZOWIE「U2」についておさらいしておこう。「U2」は今年3月に発売されたばかりのワイヤレスゲーミングマウスで、つかみ持ちに特化した左右対称デザインが特徴。通常の左右ボタンとホイールボタンに加えて、右手親指側に2つサイドボタンがあり、計5つのボタンを備えているほか、センサーは最高3,200DPIの「3395センサー」を搭載し、ポーリングレートは最高1,000Hzとなっている。日本では公式直販のみの取り扱いとなっており、発売から3カ月が経っている現在でも再販分が即完売する人気のゲーミングマウスだ。

 今回はベンキュージャパンより台湾のBenQ本社に招待いただき、ZOWIEの製品開発の現場である「ZOWIEラボ」にてメディアツアーが行なわれた。ラボに入ってまず目を奪われたのは、机の真上にある赤外線カメラの数々。そしてゲーミングマウスの試作品も多く展示されており、ガジェットオタクである筆者はツアー開催前から興奮していた。

台湾・台北市にあるBenQ本社
ZOWIEの製品開発を担う「ZOWIEラボ」
机の上にある赤外線カメラ
ワイヤレスゲーミングマウス「U2」や「EC-CW」の試作品の一部

 最初に行なわれたプレゼンテーションでは、まず「U2」製品化までのプロセスが明かされた。ZOWIEはこれまで「EC」シリーズや「FK」シリーズ、「S」シリーズといった数々のゲーミングマウスを手掛けてきたが、「U2」はこれまでとは異なるプロセスで開発されたという。それが冒頭で触れた「スポーツサイエンス」の導入だ。

 スポーツサイエンスは人間に関する様々なデータをスポーツに応用して、トレーニングや実戦に役立てることができ、現在では野球やサッカー、陸上競技などに留まらず様々なスポーツで活用されている。ZOWIEがスポーツサイエンスを導入するに至ったきっかけは、2017年頃に登場したナイキの“厚底ランニングシューズ”で、このシューズの登場によって長距離マラソン界では世界記録が何度も更新された。

長距離マラソン界の常識を塗り替えたナイキの“厚底ランニングシューズ”がZOWIEがスポーツサイエンスを導入するきっかけとなった
“プロのeスポーツ選手が勝つため”の製品として「U2」の開発がスタートした

 「eスポーツは体を動かすスポーツと同じ」、「プロゲーマーはアスリートである」を信念とするZOWIEは、“プロゲーマーが勝つためのマウス”として「U2」を開発。まずは既存の「FK2」や「S2」をベースにした3種の試作品(A・B・C)を作り、プロゲーマーをラボに招いて、プロがそれぞれのマウスを使用する際の動きや速さ、角度を筋電センサーとモーションキャプチャーによって数値化した。

 その後、3種の試作品から数値上最もよかったもの(C)をベースに、さらに3種の試作品(C・C1・C2)を製作。サイズやボタンの位置の調整はミリ単位で行なわれ、どれが一番速くクリックでき、そして最も疲れにくい形状なのかを追い求めていく。その結果、最も理想的な形状となった試作品(C2)がベースとなり「U2」の形状が決定された。

モーションキャプチャーや筋電センサーを導入し、プロゲーマーを招いてテストを行なう
動きやスピード、角度を数値化
またゲームによっても動きが異なるため、様々なゲームのプロを呼んでテストを実施
まずは既存の製品をベースにした試作品を製作
その後、テストの結果を基にさらなる試作品を製作
最も理想的な形状を追い求めていく

 会場では実際にモーションキャプチャーを行なっている様子も公開された。机の真上には一台100万円という赤外線カメラが8台設置され、マウスや手、腕には赤外線を反射するリフレクターが貼り付けられる。この状態で「VALORANT」をプレイすると、横にある大型モニターにプレーヤーの手の動きが三次元的に表示されるという仕組みだ。

モーションキャプチャーの前にリフレクターを手に貼り付けていく
腕にもリフレクターを貼り付け、腕全体の動きをキャプチャーする
マウス本体にもリフレクターがある
実際に「VALORANT」をプレイしている隣では……
プレイ中の腕全体の動きが視覚化されている
よく見ると各指のどの関節が動いているのかまで測定されている

 ZOWIEはゲーミングマウスを多く手掛けているため、今ある有線モデルの形状でワイヤレスモデルを作ることもできるはずだが、これに対するZOWIEの答えは「NO」。もちろん既存モデルのワイヤレス化もできるが、ワイヤレス化にあたってバッテリーやアンテナといったパーツが増えると、有線モデルとフィーリングが変わってしまい、最悪の場合手をケガすることもあるため、ワイヤレス専用の形状にしている。

 また、ZOWIEはトレンドを決して追わず、“プロゲーマーが求める製品”を開発。例として、近年のゲーミングマウスは“軽量化”がトレンドで「U2」は60gと軽量ではあるが、市場では40g台の製品もリリースされている。これに対してZOWIEは、軽すぎると操作ミスを誘発する場合があるほか、軽すぎると逆に疲れてしまうというデータもあったことから「U2」は60gに設定したと明かした。

 最後にポーリングレートについても質問が飛び、「U2」は最大1,000Hzなのに対して、市場では最大8,000Hzに対応した製品も販売されている。これについて「U2」は最大1,000Hzが最適としつつ、ZOWIEは常に研究を続けているとコメントした。含みを持たせた回答だったが、今後の「ZOWIE」の動きに期待したい。

「U2」開発最初期の試作品
「U2」開発中期の試作品。この段階で実際にセンサーなどを組み込み、実際にマウスとして機能するものになっている
「U2」開発後期の試作品。製品版に近い形状だが、よく見るとグリップの部分にラバーが貼ってあるなど、まだ試行錯誤している様子が窺える

 スポーツサイエンスに裏付けされた形状となったZOWIEのゲーミングマウス「U2」。本稿執筆現在も公式直販では品切れとなっていて、なかなか手に入らない製品となっているが、国内販売では転売を防ぐため、数々の対策を行なうと同時に「最後は人の目でチェックする」とベンキュージャパンの担当者が語っていた。購入された方は、ぜひその形状にも注目しつつ、末永く「U2」を愛用していただきたい。

多くのプロeスポーツチームで使用されている「ZOWIE」。今後の展開にも期待したい