【特別企画】

ファミコン版「ピンボール」が40周年! ゲームセンターの定番ジャンルを家庭で手軽に遊べるようにした秀作

【ピンボール(ファミコン版)】

1984年2月2日 発売

 1984年2月2日に任天堂が発売したファミリーコンピュータ用ソフト「ピンボール」が、本日で40周年を迎えた。

 本作は、その名のとおりビデオゲーム誕生以前から存在し、かつてのアーケードゲームの定番ジャンルであったピンボールをビデオゲーム化したもの。販売本数は、ほぼ同時代に発売されたファミコン版の「ベースボール」(※235万本。数字は「CESAゲーム白書」より引用)、「テニス」(同156万本)、「ゴルフ」(同246万本)などのようにミリオンセラーとはならなかったこともあり、これらのタイトルに比べると本作の人気や知名度はやや劣るかもしれない。また本作は、ファミコン本体が店頭でなかなか手に入りにくかったブーム期に、本体との「抱き合わせ」に使用されているのを筆者は何度か目撃したことがあり、実際に本作を「抱き合わせ」で購入した友人もいた。

 では、本作は駄作なのかと言えば、けっしてそんなことはない。以下、本作の内容を改めて振り返るとともに、筆者独自の視点から再評価してみたいと思う。

多彩なギミックと、ビデオゲームならではのユニークなアイディアを導入

 本作のルールはいたって簡単。十字ボタンで左のパドルを、AまたはBボタンで右のパドルを操作して、各ギミックに向かってボールを打つだけなので、誰でも手軽に遊べる。

 本作の一番の特徴は、フィールドを上下2画面に広げ、それぞれに豊富なギミックを用意しているところになるだろう。ボールが当たったギミックの種類によって規定の得点が加算され、一部のギミックでは役をそろえるなどの条件を満たすと、ボールが画面外に落下してミスになるのを防ぐ「ストッパー」や「アップポスト」が出現することもある。

フィールドは上下2画面分あり、下段の画面でボールを落とすとミスになる
下画面でタマゴにボールを当ててヒヨコを3体出現させると、左右両端のレーンに1度だけミスを防ぐ「ストッパー」が出現する
上画面のスロットで役をそろえるか、下画面でカードを5枚すべてめくると、左右のパドルの間にアップポストが出現し、しばらくの間ボールの落下を防いでくれる

 数あるギミックの中でも、下画面の右上にあるホール(穴)にボールを入れると画面が切り替わり、ボーナスゲームに移行するアイディアは出色だ。ボーナスゲームではパドルの代わりに、何とマリオを操作してボールを弾き返し、画面上部に閉じ込められたレディーを救出すると1万点の高得点ボーナスが入る。落下してきたレディーを受け損なうとミス(ボールのストックが1個減る)になるリスクもあるが、ホールに向かってボールを狙って当てるのが意外と難しいこともあり、たとえ偶然でもボーナスゲームに移行できたときはモチベーションが一段と上がるのだ。

 得点が10万点を超えるとパドルが突然消えてしまう、おそらくアーケード版のピンボールでは体験できないであろう、ビデオゲームならではのサプライズ演出が用意されているのも、本作の大きな特徴のひとつだ。筆者もこの演出を初めて見たときは「アレッ、ファミコンが壊れちゃったのかな?」と勘違いするほどビックリさせられた(※ちなみに15万点を超えると、再びパドルが表示される)。マリオが登場するボーナスゲーム共々、ビデオゲーム化した「ピンボール」ならではの楽しい遊びを盛り込んだところに、本作の大きな価値があるように思えてならない。

下画面の右上にあるホールにボールを入れると、マリオを操作するボーナスゲームに移行する
落下してきたレディーをキャッチし、出口に誘導するとボーナス得点が獲得できる
10万点を超えるとパドルが見えなくなってしまう、驚きの演出も用意されていた

 前述したように、今ではほとんど見掛けなくなってしまったが、かつてピンボールはゲームセンターの定番ジャンルであった。しかし、子供の頃の筆者にとっては、ピンボールは滅多に手が出せるものではなかった。なぜなら、当時の筆者の生活圏にあったピンボール設置店では、1プレイの料金がいずれも100円と高額であったからだ。小さい頃は親から月々の小遣いをもらっていなかったこともあり、筆者にとってピンボールはまさに贅沢品、高嶺の花だった。

 ゲーセンでピンボールを遊ぶにあたり、幼い頃の筆者にとってもうひとつネックだったのは、どれも総じて難しいことだった。特に、バンパーなどにヒットしたボールは目にも止まらぬほどのスピードで動き回るので、ボールを目で追うだけでもかなり苦労した記憶がある。時折スピーカーから大音量で流れるSE(効果音)やジングルも筆者にとっては大敵で、予期せぬタイミングで派手な爆発音などが流れたときは、口から心臓が飛び出すかと思うほどビックリさせられることもあり、なかなか落ち着いてプレイすることができなかった。

 まだ体が小さかった頃の筆者にとっては、ピンボールの筐体サイズがとても大きかったので、プレイする際には踏み台が必須であった。たとえ踏み台を使用しても、背が低いためフィールド全体を見下ろすことができないため、ボールが遠くへ飛んだときには見失うこともひんぱんにあり、毎回すぐにゲームオーバーになってしまうのも非常につらかった。そんなピンボールは、筆者にとって100円の大金を投じるにはあまりにもリスキーなものであった。

 だからこそ、一度ソフトを買って(または借りて)しまえば、以後100円玉の消費を一切気にせず何度でも遊べるファミコン版「ピンボール」の登場は、筆者にとって実にありがたいことだった。斯様に、ゲーセンで遊ぶにはハードが高いピンボールを、家庭で手軽に遊べるようにしたという観点からも、本作は評価されてしかるべきではないかと筆者は考えている。

 本作は、現在でもNintendo Switch Onlineで配信されている。ファミコンブーム期に夢中になった人はもちろん、ピンボールの存在そのものを知らない人も、この機会に本作をぜひ一度遊んでみてはいかがだろうか。