【特別企画】

「ハイドライド」39周年。日本におけるアクションRPGの基礎を作った名作。そのシンプルな面白さは今でも健在

非常にシンプルな内容ながら、謎もほどよく散りばめられたバランスの良さに感心しきり

 プレイヤーはテンキーの2、4、6、8でジムを操作し、フィールド上の怪物から時には逃げ、時には攻撃してキャラクターを成長させていく。スペースキーを押すと、画面下部に書かれているステータス“ATTACK”と“DEFEND”が交互に入れ替わり、“ATTACK”状態の時は敵に対しての攻撃値が、“DEFEND”であれば防御値が、それぞれ大きくなる。基本的な操作はこれだけで、体力が減ってしまった時は緑色の草原で動かなければ少しずつ回復していくと、非常にシンプルだ。

 画面右側にはキャラクターの生命力を示すLIFE、腕力を表すSTR、そして経験値を示すEXPが棒グラフによって表示されている。EXPのバーがいっぱいまで溜まるとレベルアップしてLIFEとSTRが10プラスされ、EXPは再び0へと戻る仕組みだ。

中央にフィールドが、画面右にはステータスがバーで表示されている。最下段には、ジムが今ATTACKなのかDEFENDなのかが分かるようになっていた。森や水に入ると、下半身だけ隠れるようになっている。当時としては、これは非常に驚かされる表現方法だった
ラッセル社から発売されていた雑誌「月刊PCマガジン」の1989年1月号から3月号には、「ハイドライド」の全プログラムリストが掲載されていた。その3月号では内藤氏が記事を執筆しているのだが、そこでは「最初はアクションアドベンチャーを作る予定だったが、ブラックオニキスをプレイしたらマイキャラがドンドン強くなる設定に感服した。それを受けて、作りかけのアクションアドベンチャーにマイキャラが成長するシステムを追加。LIFE表示も数字ではなくブラックオニキスのように感覚的に直線的で瞬時に読み取れるメーターに変更した。ブラックオニキスを知らなかったら、LIFE表示は数字だったかもしれない」と書いていた

 それまでのRPGはキャラクターやパーティを操作し、敵と出会うと戦闘モードにチェンジ。コマンドを入力して素早い順に行動し、これをどちらかが全滅するまで繰り返した後、再びダンジョンやフィールドを探索するというものがほとんど。敵とエンカウントした時点では相手の強さが判別しなかったりするため、戦闘自体が何となく難しいと感じられていた。

例えば「ザ・ブラックオニキス」や「夢幻の心臓」では、敵とエンカウントすると画面下にコマンドが表示され、戦闘が終了するまでは探索に復帰することはできなかった

 しかし「ハイドライド」では、敵に触れた瞬間に相手のLIFEが表示されるため、相手が強いかどうかが即座に判断できるだけでなく、攻撃も体当たりだけというシンプルさ。与えた・受けたダメージ分だけ自身や敵のLIFEゲージが赤く表示されるため分かりやすく、ルールを即座に把握できる。そのため、従来はRPGに対して壁を感じていたユーザーでもスムーズに遊ぶことができたのだ。

 体当たり攻撃に関しては、本作よりも1カ月から2カ月程度前にコスモス・コンピューターから「カレイジアス・ペルセウス」が似たようなシステムを実装していた。しかし、経験値という概念が無かったことや、ステータスがすべて数値表記されていたためパッと見では把握しづらかったのに対して、「ハイドライド」は当時としては非常にシンプルかつ一目で主人公のステータスが分かりやすくなっていたため、後発でもアクションRPGの代名詞として君臨することができたのだろう。

敵に触れれば、右下の空白部分に名前とLIFEが即座に表示される。「ハイドライド」では基本的に“LIFEが多い=強い”なので、それを見て戦うかどうかを瞬時に判断できた。
「カレイジアス・ペルセウス」の地味で小さなキャラクターが映る画面に対して、「ハイドライド」は分かりやすくシンプル、見やすくまとまっていたのもヒットした要因の1つと思われる。ステータスが棒グラフではなく数値だったら、取っつきづらいと感じ取った人も多かったはず。ちなみに、上が「カレイジアス・ペルセウス」で、下が「ハイドライド」の画面

 しかも、とりあえずキャラクターを動かしていれば、フィールドの弱い敵とぶつかり、倒せてしまうバランスも良かった。これで敵を倒せることが学べるため、あとは手当たり次第に戦っているうちに勝手にレベルが上がっていく。こうして、RPGの基本的な、敵と戦ってレベルアップさせる、ということをアクションゲーム仕立てで教えてくれたのが、本作の凄いところだった。

適当に歩きながら怪物に体当たりしているだけで、経験値が面白いように増えていき、レベルアップしてくれる。最初は正面からぶつかるとダメージを受けてしまうが、強くなれば敵を蹂躙できるのも楽しいところ

 また、この当時としては非常に優れたゲームデザインを採用していたところも見逃せない。草原や森にいるスライム、コボルドや、ダンジョン内を徘徊するローパーといった敵を倒せばある程度まではレベルが上がるが、そこで頭打ちになってしまう。つまり、次は謎を解かないと先へ進めないという方向に、スムーズに誘導してくれるのだ。

 これが上手に散りばめられているのにも、本当に感心したもの。例えば、フィールドのとある宝箱を開けると十字架を回収できるのだが、これを持っているとそれまで攻撃が効かなかった吸血鬼にダメージを与えられるようになったり、経験値を稼ぐために同じ敵を何体も倒していたら新たな宝物をゲット、入っても真っ暗だったダンジョンが、とあるアイテムを取ることで明かりが点いて歩き回れるようになるなど、いくつかを除けばゲーム進行上で自然と謎をクリアすることができたのだ。

この宝箱の中に入っている十字架を取れば、コウモリの出現するダンジョンに現れる吸血鬼にダメージを与えられるようになる
騎士が守る宝箱を取ると、それまで何もなかった場所に新たなダンジョンへの入口ができる。謎を解いて新たな発見があるたびに、とにかくワクワクしたものだ。そして、セーブせずに先へ進んでしまい、ゲームオーバーになって後悔することもまた、様式美なのかもしれない(笑)
このダンジョンでは、赤いレディアーマーを連続で3人倒すとアイテムが手に入るだけでなく、黄色のゴールドアーマーに3連続で勝利すれば別のダンジョンに宝箱が出現する。これは、何となく経験値を稼いでいるうちに出せるので、ほとんど悩まない場所だ
ヒントなしにクリアしなければならないうちの1つが、妖精探し。フィールド上にある何本もの樹からは、体当たりするとワスプというイヤらしい怪物が出てくる。そのため普段は避けるのだが、偶然に当たってしまった樹から妖精が出現することがある。ストーリーを読んでいれば分かるが、これはアン王女の分身。宝石が三種類あるのに対応しており、妖精も全部で3人がどこかに隠されている。2人目までは同じ方法で見つけられるが、3人目は魔法使いの火の玉を数発喰らってから倒すというもの。当時知った時は「そんなの分からん!」と叫びつつ、悔しさのあまり頭をかきむしったものだ

 こうして隠された謎を解きながら妖精をすべて集めると、ジムをバラリスの潜む城へと連れて行ってくれる。最深部にある十字架を押すと、お堀の水が抜けて歩けるようになるのだ。あとは、回収していないアイテムを取ってバラリスを倒すのみ。無事に討伐できれば、フェアリーランドには再び平和が訪れるのだった。

城の地下に入り十字架を押して水を抜いたら、一度戻って宝石の入っている宝箱を回収。フェアリーランドの平和を保ってきた宝石の最後の1つを取ったら、いよいよ悪魔バラリスとの対決だ

 本作は前述したように多数のハードで発売されていたため、FM-7版には隠れキャラクターが仕込まれていたほか、PC-8801版はフィールドに動く岩が出現、X1版のバラリスは制止しているためにたどり着ければ簡単に倒せるなど、機種ごとにさまざまな差違があった。

 今回プレイしたのはX1版のため、成長しやすくラスボスも簡単に倒せる代わりに、ジムが十分強くなってからスライムやコボルドなどを倒しまくると、本来であればダンジョンにしか出現しないウィスプやローパーがフィールドに出現してLIFE回復すらままならなくなってしまうという要素が入っている。それでも、他機種に比べるとクリアしやすく、美しいグラフィックとPSG音源で奏でられるBGMも相まって、記事作成を忘れてのめり込んでしまったほど。

エンディングはアッサリしたもので、3人のフェアリーがアン王女に戻り、画面に“CONGRATULATION”と表示されて終了だ。「ドルアーガの塔」に似てるのは、気のせいというもの(?)

後世にさまざまなシステムを残した名作「ハイドライド」の面白さは、今プレイしても“さすが”の一言

 一大ブームを巻き起こした「ハイドライド」だが、現在プレイしてもその分かりやすさと程よい謎解きの難易度、そしてそれらをクリアした時の爽快さはまったく失われていないと感じた。現在まで続くアクションRPGのほとんどが何らかの影響を受けたのは間違いない本作だが、その作者である内藤氏は、現在も仕事の傍らプログラミングに励んでいるようだ。幸いなことに、Xには氏のアカウント(@NAITOTokihiro)が開設されているので、伝説のプログラマの一端を覗いてみたいという人はフォローしてみるのも良いかもしれない。

 そんな「ハイドライド」だが、現在はPCであればプロジェクトEGGでプレイが可能なほか、近いうちにはNintendo Switchでも遊べるようになる予定だ。今時の複雑なRPGに疲れた時、シンプルな「ハイドライド」に触れれば、一味違ったRPGの魅力を再確認できるかもしれない。

【「ハイドライド」 ゲームプレイ動画-GAME Watch】
最後に、X1版がどのような感じなのかが分かる動画を掲載した。ゲーム開始直後からレベル3になるまでだが、スクロールのスムースさや他機種と比べてレベルアップのし易さなどが分かるだろう