【特別企画】

「ソーサリアン」35周年! 今プレイしても、僕たちを楽しませてくれる永遠の名作

【ソーサリアン】

1987年12月20日発売

プラットフォーム:PC-8801mkIISR以上

価格:9,800円

 日本ファルコムと言えば、1980年代から現在まで様々な名作タイトルをリリースし続けているソフトハウスだ。有名どころとしては、「イース」シリーズや「軌跡」シリーズなどを挙げる人も多いだろう。しかし、1980年代のマイコン・パソコン時代を経験している人であれば、それら以外のソフトも名作として主張するのではないだろうか? そんなタイトルの1本となる「ソーサリアン」が、2022年12月20日で発売から35周年を迎えるのだ。

手元にある「ソーサリアン」のパッケージを並べてみた。20世紀に日本ファルコムから発売されていたバージョンとしては、左からPC-8801mkIISR版、PC-88VAシリーズ版、PC-9801シリーズ版、X1Turboシリーズ版、そして後にリリースされたWindows版「ソーサリアンForever」と「ソーサリアンオリジナル」があった。PC向けとしてはほかに、ティールハートからリリースされたMSX2版と、シエラ・オンラインから登場したIBM PC/AT互換機版が存在している。ちょっと珍しいシエラ版は見つかったので、その写真も掲載しておいた。

 コンソール機や携帯電話用アプリとして移植されたりWindows版がリリースされたほか、今ならばメガドライブミニ2でもプレイできるので、本家ではなくそれらで遊んだ人も多いかもしれないが、オリジナルとなるのは35年前の本日12月20日に登場したPC-8801mkIISR版だ。

 本作を手がけたのは、自らの作品を「ドラゴンスレイヤーシリーズ」として世に送り出してきた、天才プログラマの木屋善夫氏だ。

 その「ドラゴンスレイヤーシリーズ」は、1作目の「ドラゴンスレイヤー」から始まり「ザナドゥ」、「ザナドゥ シナリオII」、「ロマンシア」、「ドラスレファミリー」、そして今回取り上げた「ソーサリアン」にくわえ、「ドラゴンスレイヤー英雄伝説」、「ロードモナーク」がある。

 PCユーザーに馴染みのあるのはこれら7シリーズ作品だが、1994年にはPCエンジンでシリーズ8作目となる「風の伝説ザナドゥ」が登場していた。「ソーサリアン」はその5作品目で、サイドビューで展開される任意横スクロールアクションRPGだ。ストーリーとしては、以下のような設定が用意されていた。

 昔々、愛は人々の間では広まっておらず、力と魔法のみがその地を支配した。そこに住む人々は自らの強さと勇気を試すために、危険な冒険へと旅立つ。そんな冒険者たちは、こう呼ばれた。「ソーサリアン」と……。

 プレーヤーは、“ペンタウァ”と呼ばれるソーサリアンたちが住む世界にキャラクターを作成して育て、最大4人でパーティを組み自らの力と勇気を試す数々の冒険に旅立つこととなる。

このストーリーは、ゲームを起動した直後に英語で表示される。それほど難しくはないので、中高生だった当時のユーザーたちには良い勉強になったかもしれない(?)

 この当時、木屋氏の手がける作品というか、日本ファルコムの発売するゲームにはハズレなしと言われていたこともあり、雑誌でも発売前から特集が組まれていたほど。筆者も、あらかじめデパートのPC売り場で予約していたのを思い出す。発売日に喜び勇んで購入し、夜に親が寝静まったのを確かめてから起動したのだが、通常のRPGのように“主人公がいます。操作して敵を倒しながら経験値を稼いで強くして、最後のボスに挑んでください”というゲームではないため、最初は戸惑ったものだ。

オープニング直後に表示されるのは、この素っ気ないメニュー画面だけ。最初はよくわからずに“ぼうけんにでかける”を選んでもパーティを組めと言われ、そうしようとするとキャラクターがいないと怒られた……。もちろん、ちゃんとマニュアルを読めば、手順がしっかりと記載されている

 まずは、冒険に出かけるためのキャラクター作りから始めるのだが、作成直後のメンバーでは道中で簡単に倒されてしまうほど弱く、先へ進むのもままならない。

 そこで、キャラメイク後には彼ら彼女たちをペンタウァで何らかの仕事に就かせ、時間を進めて経験値を溜めていき、成長させる必要があるのだ。これにより、働いた職業ごとに報酬をもらうことができるだけでなく、仕事に対応した各種パラメータが変化。結果、少しずつではあるがキャラクターが成長していくこととなる。

 ところが、地道に育てたキャラも時間経過と共に老いていき、最終的には寿命で死んでしまう。その後、死亡したキャラクターの能力を僅かに受け継いだ子孫が誕生するので、今度はその人物を同じように鍛えていく。

 こうして徐々に強い冒険者にしていくのが王道なのだが、短い間とはいえ手塩にかけて育て、愛着が湧いたキャラが死んでしまうというのは非常に忍びない。そんななか、とある手順を踏めば冒険中にHP0で死亡することはあるものの、どれだけ時間を進めても年を取らない・老衰で亡くなることはない“不老不死”のテクニックが見つかったことで安心して育てられるようになり、ずいぶんと喜んだものだ。

ペンタウァの世界には、多数の職業が用意されている。それらに就いて報酬をもらいながら経験値を稼ぎ、少しずつ育成していく。寿命が来ればキャラクターは老衰で死亡してしまうものの、能力はその子孫に僅かながら受け継がれる。本来は、これを繰り返してソーサリアンたちを育てるのだが、そんな大変な思いをしたのは最初だけで、ほとんどのユーザーが不老不死キャラを作ったのではないだろうか(笑)

 そうして育成したキャラクターたち3人または4人でパーティを組み冒険へと出かけるのだが、オーソドックスなRPGのように進めていくのではなく、用意されたシナリオをクリアするという楽しみに重きが置かれていたのも「ソーサリアン」の魅力のひとつだった。

 ソーサリアンたちが冒険中に成長することはないので、出撃時の状態でシナリオ攻略を進めていくのだが、道中に敵は出現するものの、ほとんどの場合は倒さなくても問題ない。クリア方法も、ボスキャラを倒すことだったり隠された謎を解く、あるいは特定のアイテムを持ち帰るなど、シナリオごとに多岐にわたっていたのもユニークな部分だった。

冒険中にもさまざまな敵が出現し、それらのすべてを倒すと若干の経験値が得られる。しかし、コストパフォーマンスを考えると積極的に戦う必要はなかったし、冒険中にはキャラクターが成長しないので、むしろ無理は禁物だった

 何よりも、ゲーム中に奏でられるBGMが非常に素晴らしく、そしてどれもこれもがシーンにマッチしており、常に冒険心をかき立ててくれたのも大きな魅力だったと言える。

 特に、ほとんどの人が最初にプレイしたであろうと思われるシナリオ「消えた王様の杖」は、わかりやすい流れに耳に残る印象深いBGMと、今でも皆の心に残り続けているのではないだろうか。

 そんな「消えた王様の杖」で使われている楽曲は、アーケードゲーム「湾岸ミッドナイト」シリーズや、最近ではメガドラ用新作シューティングゲームの制作などでも有名な、古代祐三氏が手がけている。当時を知る人であれば、もうこれだけでプレイするに十分な理由になるのをわかってもらえたことだろう。

一番多くの人にプレイされたのではないかと思われるシナリオ「消えた王様の杖」は、少しばかりマップが広いもののシナリオがわかりやすく曲も素晴らしい。目的となっている王様の杖を取り戻すと、それまで流れていた楽曲“ダンジョン”から“生還”に変わるという演出も秀逸だった。
他にも、数多くの名作シナリオが揃っていた。誰しもがプッシュするのは「呪われたオアシス」や「氷の洞窟」、「天の神々たち」、「呪われたクイーンマリー号」などだろう。個人的イチオシシナリオは「天の神々たち」。そこで奏でられる美しいBGM“竪琴”を聞くために、何度プレイしたことかわからない
登場する女性キャラクターが、全員可愛いのも素晴らしかった。ソーサリアンたちは、年齢(ヤング・アダルト・オールド)と性別によってグラフィックスが変化するのだが、特に男女ユーザー問わず人気だったのは女性ウィザードのヤング。深いスリットの入った紫の服を来て、水晶の乗った杖を持っていた

 また本作は、“ソーサリアンシステム”という形を取っており、本編ではキャラクター育成のみを行ない、シナリオは別ディスクで読み込む形式を採用していた。今風に説明するのであれば、MMORPGのアペンドディスクのようなもの。

 そのため、当時としては珍しかった“ソフト発売後に追加シナリオが登場する”ということがあり、しかも本編発売から2年以上が経過した後にリリースされたシナリオも存在したため、この時期としては前例のない長寿命作品だったというのも人気の要因といえるだろう。

各シナリオとも、出撃前には冒険のストーリーなどが表示される。どれもこれもユニークで、バラエティに富んだ内容となっていた

 ちなみに、最初に発売されたのは日本ファルコムからの追加シナリオVol.1で、その後も追加シナリオVol.2「戦国ソーサリアン」、そして追加シナリオVol.3の「ピラミッドソーサリアン」が登場した。

 さらには、日本ファルコム外からも後に「宇宙からの来訪者」、「ギルガメッシュソーサリアン」、そして「セレクテッドソーサリアン」1-5がリリースされ、“ソフトの自動販売機”と称された「ソフトベンダーTAKERU」にて購入可能となっていた。

日本ファルコムから発売されていたパッケージ版の追加シナリオ3本と、ソフトベンダーTAKERUにて購入した「セレクテッドソーサリアン」のディスク。また、最初の追加シナリオと同時に、ユーティリティソフトも発売されている。本編を購入してから2年以上が経過しても、ある意味新鮮な感じで遊べるゲームと言うのは、当時としては非常に斬新だった

 そんな冒険者・ソーサリアンたちは冒険中に武器を振って攻撃するだけでなく、魔法を使用することもできた。ところがこの魔法、太陽、水星、金星、月、火星、木星、土星の7要素を掛け合わせることで生み出せるのだが、そのパターン数が膨大なため、目的の魔法を作るには多大な苦労を要する。ちょっとした魔法であれば1要素2要素程度で済むのだが、強力なものを生み出そうとすると4、5要素が必要になってくるのだ。

 この掛け合わせが一筋縄ではいかなく、例えば太陽と水星と金星と月で構成される場合、太陽と水星を掛け合わせた後に金星をプラスしても素直に太陽と水星と金星にはならず、太陽と土星だけになってしまうという感じに。この例えば実際のゲームとは異なるが、全パターンを洗い出してからでなければ、冒険中に役に立つような強い魔法を作り出すのは非常に難しかった。

魔法を作るには、町の“まほうつかいのいえ”に出かけて装備品に要素をかけてもらう必要がある。1要素かけるごとに時間がかかるので、多数の要素を掛け合わせる強力な魔法では完成までに長い時間がかかってしまう。後にユーティリティディスクが登場すると、費用はかかるものの簡単に魔法をかけてもらえるようになった

 とはいえ、このような仕組みもまたプレーヤーたちを燃えさせる要素となり、大いに苦労しながら目的の魔法を産み出したものだ。今も手元にメモが残っているので、当時の自分は相当苦労しながら作成したのがわかる。この時期に発売されていたPC雑誌でも、こぞって攻略ページや別冊付録を付けていたので、そのお世話になった人も多かったのではないだろうか。

当時のPC雑誌の付録。これは見つかったものだけで、これら以外にもさらに数多くの攻略情報が出ていた。電波新聞社からは「オールアバウトソーサリアン」という、丸ごと1冊「ソーサリアン」攻略が書かれた書籍も発売された。筆者も当時、自力で魔法をかけようと努力していたようで、そのメモ書きも発見された

 なお、本作に付属しているシナリオ15本は3枚のディスクに分かれて5本ずつ収録されており、それぞれレベル1〜5まで設定されている。この5段階すべての難易度をクリアすると、トップ画面に新たに「ドラゴンとたたかう」というメニューが登場し、「ドラゴンスレイヤーシリーズ」らしくドラゴンと連戦することができるようになる。洞窟最深部に鎮座するキングドラゴンを倒せば晴れてエンディングに辿り着くことができるのだが、初めて見た時は流れるBGMとも相まって、非常に感動したものだ。

 しかも、「ドラゴンとたたかう」は何度でも遊ぶことができるので、飽きずにプレイしてはエンディングで流れる心に染み入るBGMを聞き、それまでの長旅を脳内で振り返ったもの。きっと、同世代のユーザーは頷いてくれることだろう。

「ドラゴンとたたかう」を選ぶと、洞窟内で4体のドラゴンとの連続バトルが行なわれる。最後のキングドラゴンを倒せば、感動のエンディングを見ることができるのだ

 今回の執筆にあたり、手元にあったソフトを起動させてディスク内に残っていたソーサリアンたちに久しぶりに冒険へと出かけてもらったのだが、現代でプレイしてもやはり面白いものは面白いと再確認できた。本編をパッケージソフトとして発売し、各シナリオはダウンロード形式で提供とすれば、今のハード向けにも復刻もできそうだ。

 ちなみに、最初に発売されたPC-8801mkIISR版はシステムディスクとユーザーディスク、シナリオディスク×3というセットだったが、本体となるシステムディスクが後にバージョンアップしたこともあり、希望する人はそのバージョン1.1を入手することができた。

 筆者も当時、日本ファルコムにバージョンアップを依頼して新しいシステムディスクを送ってもらっていたので、今ではシステムディスクが2枚存在している。

これが当時の内容物。今ではパッケージや紙のマニュアルが省略されてしまうことが多いが、説明書やディスクだけでなく宣伝用のチラシや通販に使う払込用紙も同梱されていた

 発売から35年を経ても、未だ輝きを失っていないと感じられた「ソーサリアン」。現在では、レトロゲーム配信サービス「プロジェクトEGG」にて「SORCERIAN COMPLETE(Windows10対応版)」が配信されているほか、携帯アプリ版である「アドバンスド ソーサリアン」が移植されたNintendo Switch用「G-MODEアーカイブス30 ソーサリアン」や、メガドライブミニ2にて収録されている。

 また、手元にいずれかの機種用のソフトを持っているのであれば、この機会に稼働させてみてはいかがだろうか。きっと、忘れかけていた冒険心を思い出させてくれるかもしれない。