【特別企画】

生き残るのは一体誰か? 世界一のエゴイストを目指す高校生たちの物語「ブルーロック」

【ブルーロック】

2018年8月より週刊少年マガジンにて連載中

 「ブルーロック」というマンガをご存じだろうか。

 2018年から週刊少年マガジンに連載されている、サッカーを題材としたマンガである。2022年10月にアニメ化され、当時のワールドカップ熱にも後押しされて一気に人気が高まった。アニメ放映開始と同時にコミックスも品切れになり、アニメ終了時には累計発行部数が2,400万部を突破。2023年8月時点で累計部数は2,800万部を記録し、現在でもJリーグをはじめ様々な企業とコラボし、アニメ関連のイベントでは数多くのグッズが販売されるなど、まだまだ人気は衰えてはいない。

 2024年春にはスピンオフの映画「ブルーロック-EPISODE 凪-」の公開が予定され、アニメ2期の放映も決まっている事を考えれば、この先も勢いは続くだろう。「エゴい」という言葉を流行らせたこの「ブルーロック」の人気は一体どこから来ているのか解説したい。

サッカー×デスゲーム

 「ブルーロック」は、高校生たちが活躍するサッカーマンガである。高校生が主人公のスポーツマンガは高校の部活動、もしくは選抜チームの中で仲間たちと絆を育みながら切磋琢磨し、力を合わせて大会で強豪たちと戦い勝ち上がっていく作品が多い。

けれど「ブルーロック」は全く違う。

 物語第1話、県大会決勝で敗退した主人公・潔世一の元に強化指定選手として選ばれましたという知らせが届くところから始まるが、案内に書かれていた会場に着いてみると、そこにいた多くの選手たちはフォワードだけでだった。

 そして集まっていた彼らに「おめでとう才能の原石共よ」と語りかけてきた人物・絵心甚八(えごじんぱち)は、自分の事を日本をW杯優勝させるために雇われた人間だと語る。

 W杯優勝という言葉にざわつく選手たちに続けてかけられた言葉は、現在ここには全国から300人のフォワードが集められており、日本サッカーを世界一にする為にこの300人の中から世界一のストライカーを創る実験をするというものであった。

【世界一のストライカーを創る実験】

 その為に作った施設「青い監獄(ブルーロック)」で、選手たちは今までのサッカー生活と決別し、ここで生活・トレーニングを行い、サバイバルを勝ち抜き、299人を蹴散らして最後に残った1人は世界一のストライカーになれる。サッカーは点を取った人間が一番偉く、仲良しごっこは必要ない。

 革命的なストライカーは皆稀代の「エゴイスト」であり、「世界一のエゴイストでなければ、世界一のストライカーにはなれない」という絵心の言葉と共に、一番のエゴイスト(ストライカー)になる為のデスゲームが始まっていく事になる。

 このブルーロック計画に参加する事を決めた面々が、ブルーロックの施設に入る時に渡されたアンダーウェアの左腕には、現在の自分が300人中何位であるかのランキングが表示されていた。

 日々変わるそのランキングの「最終的な上位5名はU20W杯日本代表のフォワードに登録されるが、脱落した者は一生日本代表になる権利を失う」という言葉と共に始められた入寮テスト「オニごっこ」では早速300人中25人が落とされ、一次選考「総当たりリーグ戦」では更に150人が脱落していった。

 それまでブルーロックに来るまで、多くのマスコミに取り上げられ、日本サッカーの宝と言われた高校サッカーの寵児・吉良涼介も、入寮テストのオニごっこで容赦なく落とされそれきりとなっている。

 高校生たちによるサッカーが題材であるのに、始まったのは上位5人に残らなければならないという選手生命をかけたデスゲーム。このサッカー×デスゲームという組み合わせが、これまでにない緊張感を生み出し、新しい面白さを作り出しているのだ。

 また、絵心甚八という人物が作品に深みを持たせている。

 デスゲーム物の運営者はゲームを高みの見物しており、参加者たちの苦しむ姿を見て悦楽にひたる事が一般的であるが、絵心は誰よりも真剣にブルーロック計画に向き合っており、選手たちに期待を寄せ愛情を持って接している。それはサイコパス的な間違った愛ではなく、純粋に選手たちの成長を願う正しい方向性の愛情なのだ。

 そんな絵心が先週たちに向ける言葉は辛辣であるが、確実に選手たちの成長へのヒントとなっていく。

 ただのスポーツマンガではなく、ただのデスゲームマンガでもない。それが「ブルーロック」というマンガなのである。

次々に登場する個性的なキャラクターたち

 そんな世界一の「エゴイスト」を目指すキャラクターたちが、ありきたりの人間たちな訳がない。主人公・潔世一を筆頭に登場するキャラクターは皆、個性と才能に溢れた者たちばかりなのだ。

 まず最初の一次選考「総当たりリーグ戦」では、入寮した時に検出された数値からの順位でチームが作られ、5つのチームと総当たり戦を行い、上位2チーム全員と下位3チームの得点王3人が勝ち上がる。

 この一次選考終了から二次選考「奪敵決戦(ライバルリー・バトル)」に突入する前までにも次々に魅力的なキャラクターたちが登場する。

・潔世一(いさぎよいち)

 「ブルーロック」の主人公であり、絵心の演説に心惹かれ最初にブルーロックに入る事を決めた人物である。空間認識能力に優れ、ダイレクトシュートを得意とするが、最大の武器は「適応能力」。試合で追い詰められる毎にそれまでの自分のサッカーを壊し、相手を喰って新しいプレイスタイルを身につけていく。

 身体能力では劣るものの、持ち前のサッカーIQと適応能力で試合を経る度に成長し、ブルーロック計画当初はランキング300人中299位だったが、今ではブルーロックを代表する選手の1人となっている。

・蜂楽廻(ばちらめぐる)

 潔と同じチームZの1人であり、卓越したドリブルの才能と高いパスセンスを持っている自由奔放・天真爛漫なストライカーである。

 幼い頃からボールと一体化するような感覚の優れたドリブル技術を見せていたが、周囲のレベルと合わずに孤独なサッカーを続け、やがて自分の中にイマジナリーフレンドである「かいぶつ」を宿す。

 ブルーロックでは、まだ潔が頭角を表していない入寮テストの時から潔の中に「かいぶつ」を見出し、絶対の信頼と好意を持って、一緒にプレイするようになっていく。

・千切豹馬(ちぎりひょうま)

 潔と同じチームZの1人であり、50メートル走5秒77という驚異的な速さでフィールドを駆け抜けるストライカーだ。

 高校に入るまでそのスピードから天才の呼び名を欲しいままにしていたが、1年ほど前に右膝前十字靭帯を断裂してしまい、次に同じ事が起きればサッカーは出来ないと言われて走れなくなってしまい、ブルーロックには強制的にサッカー生命を終わらせる為に参加したが、潔の鬼気迫る熱いプレイに感化され、再び走る事が出来た。美少女と見紛う容姿とマイペース過ぎる性格から「ワガママお嬢」と呼ばれている。

・國神錬介(くにがみれんすけ)

 潔と同じチームZの1人であり、フィジカルが強く強力なミドルシュートを打つ、正義感の強いストライカー。

 子どもの頃、特撮よりもサッカー選手が活躍する様子に憧れ、サッカーでヒーローになろうと心に決めている。

 暴力が振るわれようとする場面になると真っ先に止めに入り、自分がゴールした時はアシストをした潔にもゴール特典のステーキを分けたりと、ヒーローに相応しい清く正しい性格をしている。筋肉の見事さから、時々「國神きんに君」と呼ばれる。

・我牙丸吟(ががまるぎん)

 潔と同じチームZの1人であり、驚異的な体のバネと反射神経を持つ野生児。猪肉が好きだったり熊の知り合いがたくさんいたり、手で食事をしたりする野生児。

 どんな体勢からもゴールを狙える身体能力とゴールポストに激突する事も恐れない根性を持つ心強い味方。U20戦以降、潔たちとは違う才能に目覚めていく。

・凪誠士郎(なぎせいしろう)

 潔たちと対戦するチームVの選手。天性のトラップ能力を持ち、偶然落ちたスマホを足でトラップした所を玲王に見られ、サッカーをやろうと誘われる。

 玲王に言われ仕方なく嫌々サッカーをやっていたが、それでも始めて僅か半年で高校トップレベルのプレイヤーに昇り詰める。

 チームZと戦っていた際、玲王の追い詰められた様子を見て初めて自ら能動的にサッカーに向き合い、次々と覚醒していくチームZの面々に影響されて凪自身も覚醒し更に化物へと変化していく。

・御影玲王(みかげれお)

 潔たちと対戦するチームVの選手。すべての能力値が高い万能プレイヤーであり、総資産7058億円を誇る「御影コーポレーション」の御曹司。

 成績優秀・運動神経抜群で、これまで欲しいものはすべて苦なく手に入れてきたが、高校で初めてW杯優勝という簡単に手に入らないものを欲しいと熱望するようになる。

 両親に反対されながらもサッカープレイヤーとしての道を歩みだした時、偶然凪に天賦の才を見出し、サッカーの道へ誘い共にW杯優勝しようと誓う。

・馬狼照英(ばろうしょうえい)

 潔たちと対戦するチームXの選手。自身を「王様(キング)」と呼び、ボールは自分の球体下僕と言う超俺様気質なストライカー。

 強靭なフィジカルと驚異的なカーブシュートを持ちながらも、誰にもパスを回さず自分がシュートをする事以外を認めないスタンドプレーをする為に、実力がありながらも勝利に繋がらない事に苛立っていた。

 潔と同じチームで戦っていた時に敗北を知り、自分は主役ではないと思い知るが、そこで崩れる事なく悪役の王(キング・オブ・ヒール)として戦うようになり、以後の試合では重要な場面のキーマンとして活躍していくようになる。

・糸師凛(いとしりん)

 一次選考「総当たりリーグ戦」の後、すべての塔がの選手が一堂に集まった時に潔たちの前に現れ、圧倒的なキック精度を見せつけたブルーロック№1プレイヤー。

 かなりの自信家で、潔以上の空間認識能力と予測力で、敵味方区別なく自身の思い通りに動かしゲームを意のままに操る支配的傀儡サッカーで潔たちを苦しめる。

 小学生の頃は共に世界一のストライカーになろうと誓い合い、慕っていた兄に裏切られ、冷たい態度を取られた事から兄を倒す事を目標にサッカーをするようになった。

 といった個性豊かなキャラクターたちが出てくる。

 二次選考「奪敵決戦(ライバルリー・バトル)」後も現在生き残っているブルーロックの選手36人とU-20戦後に加わる事になったU-20代表選手たち、そして最終選抜・新英雄大戦(ネオ・エゴイスト・リーグ)に登場する選手たちとキャラクターの数は増えていったが、一体どれだけキャラクターの引き出しがあるというのか?と驚嘆する程に読者を飽きさせる事なく次から次へと新しい強烈な個性と才能を持つキャラクターが登場してくる。

 しかしどれだけの個性を持ったキャラクターが出てきたとしても、間違いなく言えるのは全員紛れもない最高のエゴイストたちだという事である。

 キャラクターたちの間で交わされる「エゴい」という言葉は、2007年頃から若者の間で普及した、自分勝手、自己中、わがままという本来良くない意味で使われるものであるが、ブルーロック内では最上の褒め言葉であるのだ。

 今後も、ストーリーが進んだらどんなエゴイストたちが出てくるのかというワクワクが止まらない。

思わず真似したくなる魅力的な技の数々

 そんなエゴいキャラクターたちが、勝たなければ追放という極限状態の試合の中で、リアルタイムに己の才能を更に進化・覚醒させ新しい技を身につけていく場面は「ブルーロック」最大の見どころと言えるだろう。

 潔世一の「直撃蹴弾(ダイレクトシュート)」を皮切りに、相手の意表をつき背面からシュートする「背面踵蹴弾(バックヒールショット)」。

 蜂楽廻のヒットリフトからの空中エラシコ、高速シザース&ルーレットスピン等の次々に出てくるドリブルの連続技。

 馬狼照英のチョップフェイント&鋭角ドリブル。千切豹馬のトラップせずに蹴りだし、それに自身のスピードで追いつく「無減速ドリブル」や我牙丸吟の読みを外した後に見せたスーパーセーブ「鯱ディフェンス」……次々と編み出されていく技の数々は読んでいて心が踊っていく。

 特に読者を驚愕させた凪誠士郎のシュートを打つと見せかけてボールの下部を擦るようにして真上に蹴り、落ちてきたところをボレーシュートでゴールに撃ち込む「二段式空砲直蹴撃(二段式フェイクボレー)」は、連載当初はこんなの人間技ではない、現実味がないと言われていた。しかし2023年1月29日のFA杯リバプール戦で三笘薫選手が挙げた決勝ゴールがこの技の再現と言われて大きな話題となった。

 逆に再現不可能としか思えない、士道龍聖のペナルティエリア外からの大迫力のオーバーヘッドシュート「大爆発直下蹴弾(ビッグバン・ドライブ)」は、実は2013年の10月23日に行われたベルギーのアンデルレヒトとの試合でズラタン・イブラヒモビッチ選手がみせたゴールをモチーフにしているとの事である。

 このように、読んでいて心が揺さぶられるだけでなく、サッカー経験者なら思わず自分も出来るかもしれない、真似してみたいと思わせてしまう技が随所にあるところもまた「ブルーロック」の人気の秘密である。

 YouTubeやTikTokで「ブルーロックの○○を再現してみた」動画の多さがそれを物語っているだろう。ブルーロックを読んでサッカーに興味を持った人は、ぜひ好きなキャラクターの技にチャレンジしてみて、ブルーロックの気分を味わって欲しい。

ブルーロックをよりもっと楽しむために

 「ブルーロック」の魅力の一端をいくつか紹介してきた。もし興味を持ったら「ブルーロック」本編(2023年10月現在26巻まで発売中)を読んでみて欲しい。エゴいキャラクターたちが活躍する姿にきっと惹き込まれる事だろう。

 そして、もっと「ブルーロック」の世界を知りたいと思ったら、ぜひスピンオフの『ブルーロック-EPISODE 凪-』も手にとって欲しい。

 こちらは主人公が潔世一ではなく、登場人物の1人・凪誠士郎となっていて凪の視点で物語が進んでいく。別のキャラクターの視点から描かれる事によって、本編にはなかった試合の様子やそこで生まれるキャラクター同士のやり取りを見る事が出来る。なにより凪のモノローグを知る事により、これまでとは全く違うブルーロックの世界が見えてくる。

 また、ブルーロックに来る前の選手たちの前日譚を書いた『小説ブルーロック 戦いの前、僕らは。』もおすすめしたい。

 ブルーロックに来るまでどんな生活をしていたかがわかる事によって、よりキャラクターを理解する事が出来る。

 夏休みに行った楽しい冒険や高校や家庭でどんな生活を送っていたか。読んでいて楽しかったり微笑ましく思う物語もあれば、意外な一面を知る事が出来る物語。そして深刻な、こんな人生を送ってきたから今こんなキャラクターになったんだと心が痛くなる物語もある。

 現在まで出ているのは潔世一・蜂楽廻・凪誠士郎・千切豹馬・御影玲王・糸師凛・國神錬介・二子一揮・氷織羊の9人の物語である。

 この中にお気に入りのキャラクターがいる人は彼らのこれまでの人生をぜひとも味わって欲しい。それ以外のキャラクターが気になっている人は、今後出る続巻を期待しておこう。

 2024年春の『ブルーロック-EPISODE 凪-』映画の公開と、その後のアニメ2期、そしてなによりマガジンの連載も2023年11月現在、最終選抜・新英雄大戦(ネオ・エゴイスト・リーグ)がこれから最後の試合が始まるという、いよいよ佳境を迎えようとしているブルーロック。たくさんのエゴイストたちが織りなすその最高な世界をぜひ堪能して貰いたい。