【特別企画】
防衛技術博物館を創る会「九五式軽戦車お披露目会」レポート
九五式が御殿場を疾走! 次の目標は九七式中戦車
2023年4月17日 15:52
- 【九五式軽戦車お披露目会】
- 4月16日開催
NPO法人防衛技術博物館を創る会は4月17日、静岡県御殿場にて、クラウドファンディング支援者を対象とした九五式軽戦車(きゅうごしきけいせんしゃ)のお披露目会を開催した。
このお披露目会はNPO法人防衛技術博物館を創る会 代表理事の小林 雅彦(こばやし まさひこ)氏(以下、小林氏)が2019年、そして2022年に行った九五式軽戦車を里帰りさせるためのクラウドファンディングプロジェクトの集大成とも言えるイベントだ。
NPO法人防衛技術博物館を創る会 国産の軍用車両などを「機械技術遺産」として展示する公営博物館の建設を目標に、2011年に設立された。クラウドファンディングで資金を募り、昭和初期に日本で開発された小型四輪駆動車 九五式小型乗用車(通称:くろがね四起)の修復や、九五式軽戦車などの日本軍車両を保全する活動を行っている。代表の小林雅彦さんは御殿場市で自動車整備会社、株式会社 カマドを営む
会場ではクラウドファンディングを通じて英国人コレクターより購入された 九五式軽戦車、同じくクラウドファンディングによりレストアが実現した 九五式小型乗用車(通称:くろがね四起)、そして アメリカHBO社「ザ・パシフィック」のために制作された 九五式軽戦車 実物大プロップの3両が展示された。
九五式軽戦車は、1930年代中期に日本で開発・採用された戦車で、その秘匿名称から「ハ号」とも呼ばれている。当時としては珍しいディーゼルエンジンが採用されており、ガソリンエンジンに比べ、燃料調達の容易さや、被弾時の火災発生率の低さなどに優れていた。日本の戦車としては最多の2,378輛が生産され、第二次世界大戦で活躍した日本軍の代表的な軽戦車として知られている
2度目の里帰りを果たした九五式軽戦車
今回、日本に里帰りを果たした九五式軽戦車は、太平洋戦争中にミクロネシア連邦ポンペイ島へ配備されていた「4335号車」という個体だ。この島には日本軍警備隊と多数の車両が配備されていたが、ポンペイ島に連合軍の侵攻がなかったため、戦闘に参加しないまま終戦を迎えた。戦後、これらの車両は島でスクラップとなっていたが、1981年に元アメリカ軍人の厚意によって2両の九五式軽戦車が日本に返還された。これが1度目の里帰りだ。
この時、返還された2両の内1両は外見の修復と再塗装が行われ、ポンペイ島に返還された。残るもう1両「4335号車」は「京都嵐山美術館」にて展示されることとなった。しかし、1991年に同館は閉館。その後、和歌山県の「南紀白浜ゼロパーク」へと移管されたが、2002年に「南紀白浜ゼロパーク」も閉館してしまう。その際、収蔵品の多くが売却された。この時、小林 氏は「4335号車」の購入を希望していたが、英国人コレクターのO氏に先を越され、「4335号車」は英国に持ち帰られてしまった。
転機が訪れたのは2017年。なんとO氏が「4335号車」の修復協力を条件に、車両の売却を打診したのである。このチャンスを逃すまいと小林氏は即座に了承し、修復作業のための資金を提供。その後、購入資金をクラウドファンディングで募り、2019年にO氏より4335号車を譲り受けた。「4335号車」修復と購入には総額1億円もの費用を必要とした。
そして2022年12月、英国を出立した「4335号車」は横浜港にて18年ぶりに2度目の里帰りを果たしたのである。
ついにお披露目された九五式軽戦車
お披露目会では九五式軽戦車 4335号車の展示だけでなく、NPO法人防衛技術博物館を創る会の関係者によるトークショー、静岡県御殿場市・小山町をエリアとするコミュニティFM放送局「富士山GoGo FM」で代表理事の小林 氏が行っているラジオトークコーナー「ラジオ社長の小部屋」の公開収録、クラウドファンディング支援者の九五式軽戦車体験搭乗などが行われた。
九五式軽戦車の体験搭乗も
今回、一番の目玉となったのが体験搭乗だ。日本国内で実際に目の前で動く戦車が見れるだけでなく、世界で2両しかない当時の空冷ディーゼルエンジンを搭載した希少な車両に搭乗できてしまうのだ。もちろん誰もが搭乗できるわけではなく、クラウドファンディングで体験搭乗が含まれる支援を行った方が対象となっている。それでも希少な走行シーンを見るために現場は凄まじい人だかりとなった。
九五式軽戦車に使用されている部品について現場スタッフに確認したところ、構成されている8割はオリジナルの部品が使用されているそうだ。残り2割は点火プラグなどの消耗品、現在も捜索中の燃料噴射ポンプ、そして防火材としてアズベストを含む石綿が使用されている箇所など、当時の部品を使用するのが難しい箇所があるためとのこと。ちなみに、燃料噴射ポンプは三菱A690RR型、三菱E型、新潟鐵工AL6L型、神戸製鋼L-5型の情報があれば、ぜひご共有いただきたいそうだ。
NPO法人防衛技術博物館を創る会 代表理事小林雅彦氏インタビュー
――九五式軽戦車お披露目会の開催、改めておめでとうございます。今回の主役、九五式軽戦車についてですが、なぜこの車両をお選びしたのかお聞かせて下さいますか?
小林氏: 日本軍の戦車が売りに出たという話は自分の人生の中で2回しか無かったんですよ。1回目が「南紀白浜ゼロパーク」の閉館時にこの車両が販売されたとき、2回目がこの戦車を買わないかと打診を受けたとき。なので選択の余地はなかったです。チャンスがあったら掴みにいかないといけなかったんです。でもこれを1回やったことによって今ほかの話も出てきました。
――戦車を海外から購入し、日本に移送するという大変困難なプロジェクトだったと思いますが、一番苦労されたことはなんでしょうか?
小林氏: そうですね、一番大きかったのは日本人と外国人の価値観の違いでしたね。日本人だとある程度お金で解決できてしまう部分があるんですが、外国のコレクターの方はもちろんお金も重要ではあるんですが、どちらかというと誰からの紹介なのか、という人との繋がりを重視した考え方なんです。コレクターの方は儲かるから売るというビジネスをしてるわけではないので、この人はちゃんと戦車を保管してくれるか、などで売るべき相手の品定めをすごくするんだなとよくわかりました。それを理解し、信頼を築くまでが大変でしたね。最初の頃は結構塩対応されて大変でした。今は、私達が実際に動いて、熱意や資金があるところをしっかり見てもらったので、信頼していただけてこの、九五式軽戦車を日本に渡してもいいと思っていただけました。
――先ほど戦車の保管についてのお話がでましたが、この九五式軽戦車は今はどのように保管されているんですか?
小林氏: 場所の詳細は言えませんが、御殿場市内の倉庫の中で大切に保管しています。エアコンもついており、セキュリティーも万全な状態です。
――博物館を作られたあとも、この九五式軽戦車は動態保存されていくんですよね。本日、搭乗体験で長時間操縦されてましたが、いかがでしたか?
小林氏: はい。もちろんです。そうですね、時間は長かったですが走行距離としては4~5㎞くらいですかね。乗り物としては正直よくできてないです。でも機械としてよくできてます。乗り手には優しくないですね。今日手袋を忘れてしまったんで、あちこち手を切ってしまったんですよ。
――こちらはどういった時に切られたんですか?
小林氏: それがわからないんですよ。わかっていれば気を付けられるんですけど。乗り降りの時なのか、操作をしてるときなのか、鉄の切れ端みたいなのがいっぱいあるので危ないんですよね。
――今日のイベント終了後は車両のオーバーホールですか?
小林氏: そうです。まずはしっかり戦車を洗車します。今日とか特に泥がすごいので、しっかり泥を落としてからグリスアップします。そのあとは倉庫でしっかりと乾かします。
――整備スタッフもNPO法人防衛技術博物館を創る会の方なんですか?
小林氏: いえ、今のところ整備はカマド自動車のスタッフがボランティアという形でやっています。ただ、それも改善したいところではあるので、将来的にはカマド自動車で仕事として整備を受諾したり、クラウドファンディングの支援で安定的な収入があれば、メカニックで元自衛隊の戦車兵で整備もできる社員をNPOのスタッフとして常時雇うことができればもっと色々なことができるようになると思います。
――ちなみに、小林社長の運営されている 私設 軍用車両博物館「社長の小部屋」にある車両は博物館が完成されたら一緒にされるんですか?
小林氏: 個人で乗って遊びたいものはしばらく持ってると思いますが、身体がついていかなくなると思うので、そしたら博物館にもっていくことになるんじゃないですかね。
――この活動を今後どのように広げていきたいかなど、何か目標はございますか?
小林氏: 2027年が日本の戦車100周年なんです。1927年に試製一号戦車という1両だけつくられた戦車が御殿場駅から今日の演習場まで走行したのが日本の戦車はじめて物語なんですよ。なのでそれまでには博物館を完成させたいです。また、試製一号戦車の動く実物大模型をつくって今日みたいに大きさとか雰囲気を感じてもらいたいですね。旧日本軍の使った車両や、自衛隊で使用しなくなった車両なども博物館にずらっと並べて、御殿場に来たら日本の戦車の歴史が全部わかりますよって状態にしたいですね。
――今実物大模型のお話がありましたが、今日は映画の撮影で使用された九五式軽戦車の実物大プロップもありますが、今回もってこられた本物と比較していかがでしたか?
小林氏: 本物はやっぱモックアップとちがったすごさがありますね。でもこれはこれで結構お気に入りなんですよね。違いでいうと、これは映画用なので映像映えするように砲塔のサイズが一回りほど大きくなってるんですよ。なのでスマートさがちょっと違いますね。でもトムハンクスもスピルバーグもオタクなのでよくできてます。完成度が高いです。
――今後も九五式軽戦車の走行会はされるんですか?
小林氏: 今回はお披露目会でしたのでやりましたが、おそらく次にやるのは博物館ができてからだと思います。やはり動かすと整備が必要となります。今回とか途中で燃料噴射ポンプのタイミングがずれてしまったようなので、これを直さないといけません。簡単に直る場合もあれば、そうでないときもあるので、気軽には行えないですね。
――最後に読者の方にお伝えしたいことはありますか?
小林氏: 戦車博物館を作る活動を是非とも応援していただきたいです。何事にも反対する方や不安に思う方がいると思います。なので多くの方が御殿場にこういう場所があったらいい、行きたいなどの声をあげていただけると、本当に助かるのでやっていただきたいです。今回の九五式軽戦車だけでなく、日本の様々な車両をみなさんにお届けしたいです。次は動く九七式中戦車戦車をお見せできたらいいですね。そのためにも、日々の活動費を応援いただけるマンスリーサポーターになっていただけると嬉しいです。
――ありがとうございました。
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