【特別企画】

「舞台『ウマ娘 プリティーダービー』~Sprinters' Story~」ゲネプロレポート

プロジェクター映像やタップダンスでウマ娘らしいレースを完全表現!

【「ウマ娘 プリティーダービー」~Sprinters' Story~】

2023年1月15日~1月29日上演予定

場所:品川プリンスホテル ステラボール

価格:9,800円(全席指定)

 1月15日より、舞台公演「舞台『ウマ娘 プリティーダービー』~Sprinters' Story~」が品川プリンスホテル ステラボールにて実施される。期間は1月29日までの全22公演を予定し、価格は全席指定で9,800円。本稿では、最終リハーサルでもあるゲネプロの模様をレポートする。

 「舞台『ウマ娘 プリティーダービー』~Sprinters' Story~」は、クロスメディアコンテンツ「ウマ娘 プリティーダービー」初のリアル舞台。主な参加キャストはダイタクヘリオス役の山根綺さん、ヤマニンゼファー役の今泉りおなさん、ダイイチルビー役の礒部花凜さん、ケイエスミラクル役の佐藤日向さん。

 レポートに入る前に先に結論を語っておくと、ウマ娘の中でも特にリアルライブのファンの人たちは会場で観る事を是が非でもオススメしたい。2時間ある本公演において、ストーリー要素も非常に胸熱なのだが、とにかくミュージカル+ライブの要素が非常に強い。ペンライトならぬウマブレードを振れるタイミングもたくさん用意されているので、お手持ちのウマブレードは必携だ。

 もちろん、ウマブレードがなくても本公演は十分に楽しめる。ウマ娘における重要な要素の1つ、史実に基づくストーリーテリングについても、「舞台『ウマ娘 プリティーダービー』~Sprinters' Story~」では存分に味わえる点も強調しておきたい。

【「舞台『ウマ娘 プリティーダービー』~Sprinters' Story~」 スポットCM】

 なお会場では来場者特典として、1月15日~1月22日には非売品の「ミニポスターver.A」、1月23日~1月29日には「ミニポスターver.B」が無料配布される。また、平日の公演についてのみ、来場者の中から抽選で5名に非売品グッズのプレゼントが用意されたり、本編終了後にステージ上でのアフタートークが実施されるなどの平日限定企画も用意されている。

会場のライブホール「ステラボール」があるマクセル アクアパーク品川入口
ステラボールはマクセル アクアパーク品川を入ってすぐのところにある、2005年に開業したライブホールで、命名は松任谷由実氏
入り口にはペンライトなどの応援グッズ使用に関する注意事項が書かれていた
会場全景。ステラボール公式サイトによると収容人数は1F/2F含めて876席

ケイエスミラクル激闘の歴史に「IF」を交えて舞台化

 「舞台『ウマ娘 プリティーダービー』~Sprinters' Story~」では、ダイタクヘリオスが主役ながら、時間軸としては、史実においてデビュー後、僅か8か月の間で、競馬ファンの記憶に残る名レースを多く残したケイエスミラクルのレースがストーリーの軸となっている。

 中心人物はケイエスミラクルのほか、ケイエスミラクルと同室で憧れの気持ちも持つダイイチルビー、そしてダイイチルビーとのレースを楽しみたいダイタクヘリオスの3人。ヤマニンゼファーはそんな3人を見守る立ち位置で、特に自身と同じく体の弱い体質であるケイエスミラクルが果敢にレースに挑む姿を危惧しながらも、運命のスプリンターズステークスにて、ケイエスミラクルとのレースに出走する。

寮の部屋でお互いの足をマッサージし合う中で、互いの状況を話し合うケイエスミラクルとダイイチルビーの一幕

 「ウマ娘」のストーリーテリングのすごいところは、史実という名の“原作”が存在しているにも関わらず、その“原作”の事実は変えず、物語としての“IF”を追加することで、前向きかつ魅力的な物語として成立させてしまうところにある。

 そのため、「舞台『ウマ娘 プリティーダービー』~Sprinters' Story~」を観劇するに際してはあえて実際のケイエスミラクルの史実を調べなくてもいいかと思う。その方が最後のレース展開で、より衝撃を体感できるはずだ。一方で既に史実を知ってる人や、事前に調べた人であっても十分に楽しめる作りになっている事は間違いない。実際に、筆者は史実を軽く調べた上で観劇したが、ストーリーの最後には驚きと感心の感情がごちゃ混ぜになった。つまりは号泣だ。

 ケイエスミラクルは弱い体質に対して果敢に立ち向かい、そんな自身を救ってくれた人たちへの恩をレースで返す事を誓う。実にストイックながらも、孤高というよりは周囲との距離を置くことなく、声を掛けてきたウマ娘たちに対しては優しく接する。そんな熱い想いと物静かな優しさの使い分けを佐藤日向さんが繊細に演じる。

 ケイエスミラクルが本作の主役とも言えるようなストーリー構成なのだが、一方でダイイチルビーも「華麗なる一族」としての立場と自身の身体の弱さによる問題や、前年度の成績不振からの短距離転向など、内面的な悩みを抱える影のあるキャラクターとして描かれている。話の展開で明暗がはっきり分かれ、その中での感情の変化といった細かな違いなど、難しそうな役どころだが、これを礒部花凜さんが巧みに演じる。

 そして、ダイタクヘリオスについても、アニメやゲームなどでメジロパーマーとコンビで盛り上げるアゲアゲな陽キャなキャラクターとして描かれているが、そういった陽キャなキャラとしての面はそのままに、陽気にレースを楽しむ事をむしろ信条とする決意をした経緯が垣間見える、いわばダイタクヘリオスの過去エピソードの1つとも言える要素が含まれている。ともすればやや狂気すらも感じられるような、楽しげな陽キャの雰囲気を山根綺さんが演じ切る。

とにかく最初から最後まで元気に走り回るダイタクヘリオス。ダイタクヘリオスの元気な声を聞いてるとこちらまで元気になる魅力がある

 ヤマニンゼファーはおっとりした性格を前面に出しながら、一方で同年代のダイイチルビーやケイエスミラクルたちと同じレースに出走できないもどかしさなどが滲む絶妙な心象が描かれており、これを今泉りおなさんが演じる。出走など出番は他のキャストと比べてやや少なめながら、物語になくてはならない重要な役どころだ。

 このように出走するキャラクターをあえて4人に厳選したことで、それぞれの内面や思いを表現する場が各所に用意されている。4人のキャラクターとしての掘り下げがかなりしっかりできているため、ウマ娘のアニメや漫画などのストーリーが好きだった人なら間違いなく楽しめる1本に仕上がっている。

ダイタクヘリオスとヤマニンゼファーが練習場で会話するシーン。レース出走は少なめだが、ヤマニンゼファーも本作では重要な立ち位置となる

映像、音声、タップ音で臨場感のあるレースシーンを再現!

 「舞台『ウマ娘 プリティーダービー』~Sprinters' Story~」の舞台は上下2段編成となっており、スタンドや練習場の各場面で位置関係を明確にできる仕組み。また、レースのメインは下段で行ない、ウマ娘たちをアップを映像にして見せる演出などを上の段に映し出すといった演出もあり、舞台全体が効果的に使用されていた。他にもケイエスミラクルのみ出走するレースシーンは、この高台を使ってシンプルに見せる事で、まるでゲームにおけるデイリーレースの一括出走のようなショートカットを再現して見せるような演出も見られた。

 また、ライブパートではこの2段の舞台を活かして、これらをあちこち移動しながら歌う事で舞台を広く見せる使い方をしていた。

舞台は上下2段編成となっており、2面のディスプレイを活かして、様々な場面を表現する

 そして本公演における演出の見所の1つがタップダンスだろう。ウマ娘たちが走る際の蹄の音は効果音ではなく、演者たちの足で実際に鳴らすタップ音で再現している。そのことで、本公演のレースシーンはアニメやゲームと異なる臨場感がかなり味わえる。インタビューで触れていた、レースシーンでの立ち位置の変化についても、実際のレース映像を元に研究した成果が出ていそうなきめ細かな動きが確認できた。

 音声については、実況役の門田奈菜さんと解説役の稲村梓さんが登場。舞台外の両端に専用の席を設けて、そこに着座し、舞台内に干渉することなく、それでいて迫力の生実況が楽しめる作りになっている。舞台裏からのアナウンスではなく、あえて客席から見える位置、しかも舞台外に配する方法には斬新さが感じられた。

 映像面においては、上段のプロジェクターを使用した大きな映像表示と、下部中央に設置された大型ディスプレイを活用する事で、レースの流れるような背景を再現。さらに最終コーナーからゴールまでのところでは、ディスプレイが移動して前進してくることで迫力がさらに増す。そうしてレース先頭集団の激闘の様子を再現する仕掛けとなっており、ゲームやアニメは元より、実際のレース以上の臨場感が演出されている。

 下部の大型ディスプレイは、他にも寮の室内や出走前の廊下など、多くの場面変化に対応しており、こうした映像演出を活かすことで、ゲームやアニメと変わらない雰囲気を演出できているところもポイントだ。

ライブ時はこの2段を行き来し、フル活用で舞台を広く見せる
レースの終盤シーンでは、下段中央のディスプレイが前進し、激闘の臨場感をさらに高める
舞台外の両端には実況席が設けられ、ここに実況役の門田奈菜さんと解説役の稲村梓さんが座り、レースシーンの実況や解説を生で行なう

全15曲が披露されるゴージャスなライブパート。舞台と客席の距離も近くてテンション爆上がり!

 そして、「舞台『ウマ娘 プリティーダービー』~Sprinters' Story~」が、ウマ娘たる所以はやはりライブシーンだ。本公演では通常のお芝居に加えて、芝居の途中から歌に繋がるミュージカル演出も随所に見られるのだが、こうしたミュージカル演出も含めれば、本公演では実に15曲もの楽曲が使用され、4人の出走者たちによる歌唱が楽しめる。

 正直なところ、ライブのファンに本公演を観劇してほしい理由はこれだ。ステラボールは舞台も行なえるライブホールとなっているため、客席との距離が非常に近い。つまり、ライブでいうところのアリーナ席のような感覚でライブが楽しめるようになっているのだ。

曲目によっては、ウマ娘たちが客席に降りてきて、駆け回るといった演出も見られるなど、よりド派手なライブ演出が楽しめるのも本公演の魅力の1つ

 楽曲についても、例えば、ダイタクヘリオスがダイイチルビーに勝利した高松宮杯では、レース勝利時にダイタクヘリオスが中心となって「Make Debut!」を歌い上げたり、終盤では本公演の主題歌となる「Overrunner!」など、未発表曲や定番のあの曲まで実に様々な楽曲が歌い上げられる。

 しかも楽曲によっては、盛り上がりが舞台からあふれ出したかのような演出として、ライブやレースを演出する他のウマ娘たちが客席にまで降りてきて駆け回るような演出が見られる楽曲もあった。ライブの迫力という点から見ても、文句のない仕上がりとなっている。

ウィニングライブやミュージカル演出からのソロ歌唱など、とにかくライブシーンがあちこちに用意されている
本公演の主題歌「Overrunner!」は終盤の方で披露される

怪我無く22公演走り切れるよう祈っていきたい!

 今回、ゲネプロ終了後には、関係者向けの挨拶も行なわれたので、こちらもあわせて紹介したい。まずはケイエスミラクルを演じた佐藤日向さんからは「ウマ娘初の舞台化ということで、立体的になったウマ娘をたくさんの方にお届けできるように22公演全員で突っ走っていきたいと思います」とした。

 次いでダイイチルビーを演じた礒部花凜さんからは「ようやくゲネプロを今終えて、初日が近付いてきているんだなってすごい実感しています。ここまで作り上げるのに、本当に色んな方の力があって、キャスト一丸となって、いっぱい頑張った……」と周囲のキャストと顔を合わせて笑顔を見せる。続けて「まずは初日の幕が明けて、このウマ娘初の舞台化がトレーナーさんの元に届くことを願っております」とした。

 ヤマニンゼファーを演じた今泉りおなさんは「ここまで来るのに、結構みんな……ね、大変な事も色々ありつつ、でもここまで怪我なく来れたのは本当に素晴らしい事だと思うので、このまま最後まで怪我がないよう、みんなで気を付けて頑張っていきたいと思います」とコメント。

 最後にダイタクヘリオスを演じた山根綺さんは「初日の幕が上がってから、29日の千秋楽まで、本当に誰1人欠けることなく、もっと最高を更新していけるように、より良い物を作っていけるように日々頑張ってまいりますので、祈っていてください」と締めくくった。

 以上、簡単ではあるが、ゲネプロで感じた、「舞台『ウマ娘 プリティーダービー』~Sprinters' Story~」についての概要をご紹介した。

 胸熱の史実をベースにウマ娘ならではの「IF」を交えた見事なケイエスミラクルのストーリーテリングと、それに関わったダイイチルビーとダイタクヘリオス、そしてヤマニンゼファーを織り交ぜた物語は、今回も競馬界へのリスペクトが感じられる再現性と、見事なアレンジがほどよく効いた元気になれるストーリーに仕上がっていた。アニメや漫画などのストーリーが好きな人は、あの史実の結末をどうまとめたか、自身の目で確かめにいってほしいところだ。

 そして、各所に挟まるライブの演出は、通常ライブを上回る圧倒的迫力を体感させてくれた。正直なところ、いつものライブも十分に盛り上がるし、楽しい演出も盛りだくさんだが、それがより身近なところにやってきたという親近感も味わえる演出が加わったといった印象だ。ライブのファンの人こそ、是非会場でウマ娘たちを応援してあげてほしい。何よりウマブレードで応援できるライブパートはかなり多く用意されているので、ライブ感覚で見に行くのも大いにアリだと言える。

 そして応援と言えば、本公演において、実は個人的に1番の心配事は、ダイタクヘリオスを演じている山根綺さんだ。以前紹介したインタビュー時にも、とにかく動き回るという話をしていたが、正直なところインタビューで聞いていた時の予想を遥かに上回る、超元気な動きの数々を披露してくれていた。

 こちらとしては、ダイタクヘリオスの元気な動きと楽し気な会話のシーンだけでも十分元気にさせてもらえてありがたいのだが、反面、あまりに激しく動きまくるので、22公演走り切れるかがとても心配になるレベルなのだ。これは是非会場に応援に行かねば! という気持ちにさせられるハードな動きをたくさん披露していたので、山根綺さんのファンの人は是非会場に駆けつけてあげてほしい(個人の感想です)。

 ゲーム、アニメ、漫画、ライブと様々なコンテンツでトレーナーたちを魅了してきたウマ娘だが、今回新たに行なわれた「舞台『ウマ娘 プリティーダービー』~Sprinters' Story~」では、ゲームやアニメ、漫画では感じる事の難しかったレースでの臨場感を再現したり、より身近なライブイベントとしての魅力も内包するなど、これまでのウマ娘コンテンツを補完し昇華する非常に魅力的な試みであると感じられた。

 そして今回の舞台化が成功を収めれば、他のキャラクターたちによる舞台化の可能性もあるだろう。こういった舞台鑑賞が未経験の人も、ライブを楽しむ感覚で足を運んでみてはいかがだろうか。