【特別企画】

【GT25周年】25年続く「グランツーリスモ」の歴史がここに!

シリーズクリエイターの山内一典氏が25年に渡る長い旅を総括

【グランツーリスモ】

1997年12月23日発売

 1994年に衝撃の次世代機として登場し、またたく間にゲーム界隈を席巻した「プレイステーション」にそれまでの常識を遥かに覆すレーシングゲーム「グランツーリスモ」が今からちょうど25年前の1997年12月23日に衝撃のデビューを果たした。

 グランツーリスモは“リアル・ドライビング・シミュレーター”と銘打ち、街中やレースに出走する実際のクルマを収録、クルマのダイナミクスを緻密に再現することでいわゆる“ビデオゲーム”とは一味も二味も違うリアルなドライブフィールを家庭用ゲーム機に持ち込むことに成功した。

 ビデオゲームは1980年代のアーケードゲームから「任天堂 ファミリーコンピューター」を代表する家庭用ゲーム機で年を追うごとに規模や内容が進化、レースゲームも大昔のトップビューの2Dゲームから遠近感を持たせた疑似3D、拡大縮小機能付きスプライト表示を駆使した3D表現、ワイヤーフレームを用いたリアルタイム3DCG表現など表現技術が向上。

 そしてポリゴンとテクスチャー機能が登場すると現実にあるオブジェクトをリアルに再現することができるようになった。「ナムコ リッジレーサー」がアーケードからプレイステーションに移植(1994年12月3日)された時の衝撃はすさまじく、そのリアルな表現力で魅せるレースシーンは未来のレースゲームの表現方法を家庭用コンソール機で垣間見せてくれた。

 グランツーリスモのパブリッシャーである“ポリフォニー・デジタル”はもとは株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントの一部門であり、最初は“モータートゥーン・グランプリ”(1994年12月16日)というレースゲームを発売、これはフルポリゴンで作られたアーケードライクなゲーム内容だった。そしてこのゲームをベースに技術が磨かれグランツーリスモへつながることになる。

【GTプロデューサー:山内一典氏によるプレゼン】

 本記事では25年もの間グランツーリスモの開発を続け、進化を遂げてきたポリフォニー・デジタルの代表取締役プレジデントである山内一典氏によるプレゼンテーションの模様をお届けしていく。株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントから独立したポリフォニー・デジタルがどのように成長してきたか。さらにグランツーリスモは今どのように作られ、どう未来へ進んでいくのかが語られているのでじっくりご覧いただきたい。

山内一典氏がGT25周年プレゼンテーションを開催!

 ここではポリフォニー・デジタルの代表取締役プレジデントであり、グランツーリスモプロデューサーである山内一典氏によるポリフォニー・デジタルとグランツーリスモに関するプレゼンテーションをお届けする。同社のバックボーンにある想いとそこから生み出されるグランツーリスモの制作方法を解説されている貴重なプレゼンとなっている。

 まず山内氏から「皆さん、今日お時間を作っていただいて本当にありがとうございます。普段よりもっとリッチなプレゼンテーションとしたい」との挨拶からスタート。1998年に株式会社ソニー・インタラクティブエンタテインメントから独立、現在約250名ほどのスタッフで運営されているとのこと。

 当時の創業メンバーによる感覚や知的な風土というのは現在までも通ずるものであり、それは1980年代から始まったPCカルチャーがルーツになっているそう。この時代には国内・国外問わず様々なPCが続々と登場し、メーカー・ユーザーによって様々な文化が勃興してきた土壌があった。そこで醸成されたスピリットを持ってポリフォニー・デジタルが誕生したという。

 山内氏はちょっと照れくさそうに「これは僕25歳ぐらいの時に書いているので、ちょっと今見ると恥ずかしいんですけれども」と前置きしつつ、“世界にある森羅万象を凝縮して計算可能な存在にする”を理念とし、コンピューターの進化を日進月歩で感じていた山内氏は「このままのペースでコンピューターの進化が続けばいずれこの世界全体をシミュレートすることもできるだろう」と考えるようになったという。

 そして、ビデオゲームというのはともすれば“インナースペースに閉じこもりがちなジャンル”だと感じつつも「今後ビデオゲームはどんどん世界に対しても影響力を発揮していく」と見据え、「きちんと世界に対して開かれたゲームを作りたい」という考えに至ったそう。

 今のポリフォニー・デジタルは言ってみれば“学校のようなアカデミックな空間”になっていて“知識ナレッジをすごく重要視する会社”でもあるとのこと。それを支えるのはたくさんのアーティストからエンジニアまで個性溢れるメンバーがいてくれ、多様性をすごく大事にしているとも。

 ポリフォニー・デジタルの組織は非常にフラットであり、そして“企業というものは生命体みたいなもので、それがどういった価値基準あるいは行動規範で動くのか”というのは実は“文化”が重要であると語る山内氏。ポリフォニー・デジタルを構成する約250名いる社員の多くはアーティストで、エンジニアが27%いるとのこと。

 注目なのは“Explore(探検)”チームとして自動車メーカーであったり、さまざまな外部の企業とのコミュニケーション、コラボレーション、パートナーシップを行うチームが存在することがビデオゲームディベロッパーとしてはかなりユニークなのだと語ってくれた。

グランツーリスモの作り方

 ここから1チーム1タイトルで25年作り続けられているグランツーリスモはどうやって作られているのかを解説するコーナーに。とても密度の濃い情報が山内氏自らのプレゼンで語られていく。25年もの間続けられている制作工程とはどういうものなのか、初代GTから「GT7」へ至るスケールの広がりも感じられるプレゼンになった。

コースの作り方

 コースはランドスケープデザインチームが担当、初代GTは320x240ドット・30pで描かれていたが、「GT7」(4K:3840x2160ドット・60p)では画面の解像度だけで大体108倍ぐらいのピクセルを描画しているとのこと。レースゲームはものすごい速度で走っているので“遠方の消失点付近の情報”がすごく重要だから解像度がすごく重要なゲームであるという。

【GT1から「GT7」への進化】

 コースはまずはロケーションの選定を行い、コース形状、レースをして楽しいか、有名だったり歴史があるか、そしてもちろん景観の美しいコースであることが重要視される。実際の地図上でどうキャプチャーするか、レーザースキャナー搭載車のルート、固定式レーザースキャナー(誤差0.2cm)での計測ポイント設定、ドローンの飛行経路も決めて収録するという。フォトグラメトリー(様々な角度の写真から3Dモデルを作り出す)での精度は10cm程度の誤差があるのでこれは遠景の再現に利用されている。

 さらに徒歩でスチルカメラの撮影を1コースあたり約3万枚撮影。以前は約8万枚だったが様々な機器の登場でバランスが変わってきたという。カラーチャートを含めた写真やアルベドを用いた物質の反射率をも収録。HDRイメージで8Kパノラマ撮影しその場所の光線の状態を丸ごと記録することで後からスタジオで状況を復元することもできる。

【コース制作】

 コース取材後、モデリングやマテリアルを設定するという作業に移行、地形は大まかなメッシュデータに地面の属性を設定していく。スキャンデータから路面を設定していくが、描画負荷を測ることでメッシュを荒くしたり細かくしたり調整・設定していけば光に対して様々な応答をするようになる。さらに影属性を設定していくがこれはとても重くなるようで、荒っぽいポリゴンとテクスチャの組み合わせで近似していくことで軽いデータながら見た目はそんなに変わらない状態にできるとのこと。

 建物などはレーザースキャンで収録したものにマテリアルを設定していくと実物同様のCGモデルが出来上がっていく。他にはヘリコプター、飛行機、花火、電車といったものもある。さらにそれぞれの路面の属性に応じたバイアスの出方や砂煙の上がり方といった調整もしていく。

【演出について】

 山内氏はビデオゲームの制作は最適化(オプティマイズ)の部分が一番手間がかかるとし、この描画1フレーム当たりの描画時間に注力するという。毎日自動的に描画負荷が計算されてどのコースが一番描画負荷が高いかとか、いつ描画負荷が上がったのか、そういったことがレポートでわかるようにもなっているそうだ。

 GTの様々なエフェクトについて、露出はオーバーでもアンダーでもダメ。テレビに表示できる輝度というのはとても制約があるが太陽が持っているエネルギーは非常に高く、その溢れた部分がグレア(高輝度反射)という形で表現される。ライトシャフト(空気中の微粒子に光が差し込み発光して見えるティンダル現象)や時間・天候変化のシミュレーションによって環境光がコースを照らし、それらをなるべく妥当に見えるように調整している。

【エフェクトについて】

 こういった工程を経てコースが完成していくとのことで、非常に大規模かつ地道に、緻密な作業が行われれ、グランツーリスモの美麗でまるで実写のような素晴らしいグラフィックスとなってプレイヤーの目に広がってくるということだった。

クルマの作り方

 続いてクルマの制作に話が移る。初代GTはおよそ250頂点、GT3で2000頂点、「GT7」では大体100万頂点のポリゴンの規模になっている。さらに曲面の表現ができるようになっていてカメラからの距離や画素数に応じてアダプティブにポリゴンの数が増減するようにもなっている。「GT7」では1台のクルマをおよそ一人のモデラーが270日(9か月!)かけて作っているとのこと。

【クルマ制作】

 収録されるクルマは自動車デザインの傑作、レースの歴史、人類史・文化に与えた影響力、人気車種、流行、そしてこれからの自動車シーンに影響を与えるようなコンセプトカーを選んでいる。クルマのモデリングでは大きく分けて自動車メーカーから頂くCADデータと自らキャプチャするデータの2つが利用される。

 自動車メーカーからのCADデータが一番大きなデータ。カラーサンプルやクルマのスペックのデータも取得する。社内では写真や動画、レーザースキャン、色を測定、サウンドを収録する。BRDFという機材を使って光のさまざまな入射角に対する応答を測定して正しい色を取得することができる。現在は2000種類を超えるリアルな色データが収録されている。

 クルマをレーザースキャンする場合、据え置き型(精度:0.015mm)とハンディー型(精度:0.025mm程度)を使い分ける。ハンディー型は主にインテリアの収録に使われる。対して自動車メーカーからのCADデータは1000万から2000万頂点ぐらいあり重いデータなので10分の1から20分の1程度に人の手で削減していく。CADデータと実際に製造されるクルマは微妙に違い、仮に設計ではプレスラインの角が直角でも実際はかなり丸みが出たりするのでそのあたりもきちんと再現しているそうだ。

 マテリアルは1台につき外装20種類、内装30種類ぐらいあり、それらはカーボン地、革、アルミなどゲーム全体でおよそ1万種類ぐらいのマテリアルが使われている。シートのモデリングではポリゴン状態のものにジオメトリノーマルマップテクスチャーとサーフェスノーマルマップを加えて表面の細かなシボまで再現している。

 グランツーリスモが他のレースゲームと一線を画しているところとして“クオリティーコントロール”を上げる山内氏。チーフモデラーによるかなり厳密なチェックを行っていて、正確にボディー形状が再現されているか、光を当てて写り込むハイライトが連続的に流れるのかどうか、そういったものを徹底的にチェックしているのでクオリティーが保てていると解説。

 モデリングしただけではゲームでは使えないので、リアウイングやリトラクタブルヘッドライトといった可動機構、灯火類等もきちんと設定していく。ダメージ表現も個々のクルマごとに妥当に変形するのか、汚れや傷がどのように付くのかも設定される。独自のカラーリングを可能とするリバリーやホイールなどのカスタムパーツも調整し、各種カメラの位置なども設定する。

 インテリアの中もスイッチ、ステアリング、シフトノブ、そういったものもきちんと動くように設定しないと動かない。内装にある灯火類もかなり手間のかかる作業で日中と夜間とで明るさも違ったり、さらに付いた雨粒の流れ方やワイパー使用時の拭き取られ方も個々のクルマごとに設定・調整していくなど非常に細かい作業が続く。

 ホイールの汚れ、フルブレーキングしたときに赤熱するブレーキディスクの熱容量などもクルマのモデリングチームが設定している。そしてコース同様クルマの最適化を行うが描画負荷とデータサイズがポイントになってくる。1台の車あたりおよそ280項目のデバックリストチェック項目があるとのこと。270日かけて出来上がる車の変更箇所もヒートマップで表示でき、問題個所のトラッキングができるようになっている。

 クルマもコース同様に非常に手の込んだ作り方がされているのがわかる非常に重要な解説だったと思う。CADやレーザースキャナでほぼ自動で行われるとはいえ、実際にはデータの精度を上げるためのツールであり、そこから人が手作業で設定と調整をくり返していく……1台につき270日もかかるクルマをアップデートで使うことができるなんてグランツーリスモのスタッフに感謝しかないと思わせてくれる内容ではないだろうか。

サウンドの作り方

 サウンドレコーディングは日本・北米・ヨーロッパにあるスタジオに実車を持ち込んで収録され、これはかなりのコストがかかるとのこと。シリーズ累計で約1,800台のクルマのエンジン音をレコーディングしている。多くの場合シャシーダイナモにクルマをセットして駆動輪のハブにダイナモを直結しエンジンに負荷をかけて全開全負荷の音を収録している。

 「GT7」のサウンドに関しての特別なところでは車内の音、屋外の音ともに“インパルスレスポンス”というサウンド表現をやっていて、ある音源(エンジンや排気管)から発せられた音が室内に侵入、室内で反射して最終的にドライバーに伝わるところをシミュレートしている点。その際の音源の時の音色と実際に伝わってきた時の音色の差、それがインパルスレスポンスであり一つ一つ測定して収録しているとのこと。

 「GT7」では物理シミュレーションによるシンセサイザーがあって、エンジンのシリンダー内燃焼室の爆発……例えば直4や直6、V6エンジンといった違いを完全にシンセサイズすることで使い分けている。例えば6,000回転までしか回らないクルマでもチューニングで7,000や8,000回転まで回るようになる、実際は6,000回転までしか録音できないので、AIベースで回転数を拡張するツールで表現している。

 3Dオーディオ機能はPS5から導入されたもので、一つのコースに2,000個以上のサウンドエミッター(音源)が用意されている。それらは小鳥の鳴き声であったり、環境を表現する為の音源のこと。さらに“アンビソニックス”という業界においてのフォーマットを使い、高さ方向の音源の定位が可能になっている。音源は距離によって周波数特性が変化していくが、大気に吸収されて変化することもシミュレーションしている。

 例えばクルマからさまざまな個々の音が放出されるが、一番大きな音はエキゾーストから後方に放出される音、4つのタイヤのロードノイズ、ボディの風切り音、それらが空間の中に放出・拡散されて結果どのようにドライバーに聞こえているか。PS5のハードウェアレイトレーシング機能を使って実現している。

 サウンドのシミュレーションをレイトレーシングで行っているのは驚き!実際サラウンド環境でプレイしてみると音の定位がとても素晴らしく、そこにいるかのような感覚を覚えるのはこういった仕組みのおかげということがわかる。

グランツーリスモ25年の振り返り

 「グランツーリスモ」の開発はリリースされる4年ぐらい前(1993年頃)から始まっているが、「今に至るまで増えこそすれチームは変わっておらず当初の中核メンバーだったスタッフは今でも一線で活躍している。そういうことは恐らくこのビデオゲーム業界でも殆どないのではないかと思う」と語る山内氏。では、25年続くグランツーリスモの開発を支えてきたのどういうことだったのだろう。

 8月くらいのデータではグランツーリスモシリーズは全世界で9,000万本を超え、シリーズあたり1,000万本程度が売れているという計算になる。「ここで皆さんに対して四半世紀にわたるサポートに感謝したいと思います。やメディアの皆さんのサポートがあったから恐らくこの25年間続けられたんだと思いますし、もちろんユーザーの皆さんのお陰でもあります」と山内氏から感謝の言葉があった。

【感謝の言葉】

 「グランツーリスモの出発点は一つは自動車文化に対しての憧憬というのがあり、物理計算に対するロマンがあった」と語る山内氏。GT1が登場した97年当時というのは初めてリアルタイムの3Dグラフィックスが登場した時代でもあり、それがグランツーリスモの原点になっているとも。GTはすごく“実験的なタイトル”でリアルな車や景観が登場するゲームはその当時無く、「マーケットは小さいかもしれないが実験的に作っていこうと思って作っていた」そうだ。

 制作にあたって一番の問題は自動車メーカーの許諾をどうやって取るか、だったそう。当時はクルマのゲームというと「マリオカート」(任天堂)のようなゲームが多かったので自動車メーカーから許諾を取ってリアルな車を再現するには各自動車メーカーと契約を結ぶ必要があったがこれがなかなか難しかったそうだ。

 企画の段階ではまだプレイステーションすら登場しておらず(スーパーファミコンの時代)、リアルタイムシミュレーターは認知されずなかなか契約に結びつかなかったので3つの企画書を作ることに。「ソニーコンピュータエンタテインメントという会社はこのような会社になります」「そのSCEIはこのようなビデオゲームコンソールを出します」「グランツーリスモとは何か」というプレゼンテーション資料を用意した。

 最初に許諾を取ったのはトヨタ自動車だった。トヨタ自動車の代表電話番号から辿っていって「では話を聞いてみましょう」という方が現れ、そこで2時間半ぐらいプレゼンテーションができたそう。プレゼンが終わった後にトヨタの担当者の方が「わかりました。じゃぁ、やってみましょう」というふうに言って頂け、結果「トヨタさんがやるんだったら……」と他の自動車メーカーとの契約が進んでいったとのこと。

 ここで“グランツーリスモ”という言葉の由来が述べられた。ヨーロッパの貴族がご子息に教養を学ばせるために大旅行(グランツーリズム)させた時に使われた馬車のことを“グランツーリスモ”と呼ぶ。「ポリフォニー・デジタルという会社も出張が多く、世界中を旅をしながらこのゲームを作っている会社で馬車のような存在であると思っている」と山内氏が語る。

 “グランツーリスモの旅”ではナイキとのコラボが印象的だったの事。2004年にナイキとコラボした時、彼らがアスリートや人を大事にしているところに大変感銘を受けたとのこと。その時のコラボで“NIKEONE”というクルマがデザインされGT4に自動車メーカーとしてナイキが登場することに。ナイキという会社の企業風土をポリフォニー・デジタルは強く受けているとのこと。

 続いて2008年に始まった“GTアカデミー”。これは“ビデオゲーマーはレーシングドライバーになれるか”というテーマ。グランツーリスモをプレイすることでリアルなドライビングフィールが学べるということは確信があったそうだが、それを証明する機会がなかなか訪れなかった。

 そんな中、GTアカデミーのプログラムを通じて多くのレーシングドライバーが誕生することにつながる。その中のヤン・マーデンボロー選手はイギリス人で、彼は来年公開されるグランツーリスモの映画の主人公。つまり映画はGTアカデミーを題材としたものになると明かされた。

【GTの映画化】

 そして約10年前に始まった“ビジョングランツーリスモ”は“皆さんの考えるグランツーリスモを作ってください”というプロジェクト。グランツーリスモを作っていく中で、歴史に残っている数多くのスポーツカーというのは周到に計画されたものではなくだいたい偶然で作られていることが多いと感じたそう。

 であればこういったテーマを自動車メーカーの皆さんにメッセージをすれば、ひょっとするとスポーツカーをデザインしてくれるんじゃないか?そんな期待があり、何社かに賛同してもらえれば御の字だと思っていたところ実際は世界中の自動車メーカーの皆さんがこのコンセプトに賛同、たくさんのクルマが生まれることになった。

 ビジョングランツーリスモのプロジェクトスタートから現時点で28ブランド45車種生まれているとし、これはほとんどの自動車ブランドがビジョングランツーリスモのプロジェクトに参加しているということになる。中には2台、3台もデザインした自動車メーカーもいるほどに成長したプロジェクトとなったとのこと。

 山内氏によると「恐らくこのプロジェクトは当分続き、こういったクルマたちはおそらく今後数10年……もしかすると、100年ぐらいの自動車のデザインの歴史に影響を与えていくだろう」と想いが届いていることを語ってくれた。

グランツーリスモ・ソフィー

 “グランツーリスモ・ソフィー”はソニーAIとポリフォニー・デジタルとの共同プロジェクトで、人間を超えるようなスーパーヒューマンのレーシングエージェントを作ろうということで、何年間も研究を続けておりこのプロジェクトを始めるにあたって“レーストゥギャザー”というコンセプトを掲げているという。

 AIの方が正確でミスしないドライビングができてしまうので、速く走ることだけではなく“どうやったらプレイヤーを楽しませることができるのか”がテーマになっているそう。その過程で“いったいスポーツマンシップとは何だろう?”や“人を楽しませるってどういうことなのか?”さらに“僕ら人間ってどういう存在なんだろう?”そういうことまで考慮するプロジェクトになっている。AIの開発というのは多くの場合“人間とは何か?”という難しい課題を突きつけられるものとのこと。

おわりに

 締めくくりとして、山内氏から「なぜ25年間1タイトルを作り続けられたのか、チームが作り続けられたのかということの理由の一つはさまざまな外部のエネルギーのポテンシャルを持った方々と一緒に仕事をしてきたというのがすごく大きいと思っている」と語られれた。

 さらに「エネルギーは必ずあるところからあるところへ流れていく。流れができた時というのは、そこに最も効率の良い形として渦を作る。それは例えば宇宙の銀河系なんかもあれはエネルギーが作り出したという風にあるいは川の流れにある流速もエネルギーを作り出したもので、そういった渦のような存在がグランツーリスモだったのではないか」とも。

 つまりグランツーリスモは“静止しているわけではなく、常に流れがあって流れの中である一定の形を保つ渦の特徴であり、そういう存在”と、常に流れ続ける存在ととらえらている。グランツーリスモが何を大切にしているか……それは“美しさ”だという。“美しさ”とはクルマ、景観、光、サウンド、グラフィックデザイン、物理シミュレーション計算そのものもそうだとし、そういったことを山内氏率いるポリフォニー・デジタルが追求してきたと、この25年間の振り返りだと語ってくれた。

 グラフィックデザインでは何が格好いいのか何が美しいのかみたいなトライアルが様々に行われていて、雑誌NATUREの表紙でも数々のトライアルを繰り返し実際に採用されるものが決まってくるとのこと。そして「ワールドシリーズで見せる選手たちの表情であったり振る舞いも美しさの一つに加えてよい」とも語ってくれた。

【採用されたNATUREの表紙】

プレゼンテーションを終えて

 こうして、ポリフォニー・デジタル代表取締役プレジデント山内一典氏によるグランツーリスモ25周年プレゼンテーションが終了となった。ポリフォニー・デジタル創設時、いやそれより以前の山内氏のPCカルチャーへの情熱が2022年末の今、これから先まで続いていくことがよくわかるプレゼンテーションだったのではないだろうか。

 若き山内氏が“世界にある森羅万象を凝縮して計算可能な存在にする”と掲げた目標はコンピュータの進化とともに着実に具現化しつつあるようだ。進化とともに目標はさらに拡大していくものだがグランツーリスモを25年作り続けてきたポリフォニー・デジタルと山内氏なら今後さらに私たちプレイヤーに感動と新たな“美しさ”の地平を魅せてくれるに違いない。