【特別企画】
仮映像はさながらウマ娘たちのリハーサル。「ウイニングライブ」制作秘話
「Never Looking Back」を事例に、貴重な未公開映像が満載
2021年11月14日 20:29
- 11月13日~14日 開催
ウイニングライブは「ウマ娘」における大きな魅力の一つだ。11月14日のCygames Tech Conferenceでは、「ウマ娘 プリティーダービーにおけるウイニングライブ製作実例 ~ライブ開発チームの体制や制作フローについて~」と題して、ウイニングライブの開発についての講演が行なわれた。
ウイニングライブは、「トゥインクル・シリーズ」のレースに出場したウマ娘たちが、レース終了後に行なうファンと喜びを分かち合うためのライブ。最大18人でのパフォーマンスを楽しむことができ、レースで一着になったウマ娘はセンターに立つことができる。自分が育成したウマ娘の輝いている姿を見せることで、プレーヤーに育成の達成感や、ウマ娘への愛情を感じてもらうことがテーマとなっている。
今回はデザイナー部3DCGアーティストチームの3DCGリードカットシーンアーティストの齋藤歌織氏が、ハーフアニバーサリー記念ライブ「Never Looking Back」を事例に、実際の開発工程を説明した。
ウイニングライブシーンの制作は、1曲ごとに各セクションの混合チームが作られている。チームメンバーは、プランナー、2D背景アーティスト、3D背景アーティスト、モーションアーティスト、カットシーンアーティスト、エンジニア、サウンドクリエイター、デバッグなど。
セクション単位のウォーターフォール開発では、新しいアイデアを取り入れることが難しいため、コンセプトから映像の完成まで、常に各セクション担当者がそれぞれの視点から活発に意見を出し合い、クオリティを高めていくことができるようなチーム構成になっている。
1つのライブ開発にかかる期間は約4か月。サウンドの調整やデバッグまで含めると約半年間が必要となる。さらに、楽曲によって2人から18人まで人数の規模に幅があるため、実作業に入る前に検証期間を設ける場合もある。
カットシーンアーティストは、ライブを構成する各データを組み合わせて、最高のライブ映像を完成させるという、制作の最終工程を担っている。しかし、そのために初期段階から各セクションの仕事に関わっている。楽曲ごとに担当が振り分けられており、1つの曲を1人が担当、映像の構成からポストエフェクトまですべてをこなす。
分業しないのは、カットごとにカメラやライティング、ダンスモーションや背景などの各データを細かく調整する必要があるため、1人のほうがブレずにスピード感を持って制作を進めることができるためだそうだ。
実際の制作工程
実際の制作では、まずプランナーからコンセプトの立案と発注がある。ここでダンスのイメージや背景、演出の方向性など全体のコンセプトが立案される。
「Never Looking Back」のコンセプトは、“「雨」をテーマに光と空気感の表現にこだわり、ウマ娘たちの「決して諦めない芯の強さ」を魅せる”というもの。このコンセプトに従って、背面のスクロールライトを活用して「雨」を疑似的に表現する。床が濡れているような幻想的な光の反射を作る。スタンドマイクで熱く歌うウマ娘とキレのあるバックダンサーのダンスという演出の方向性がまとめられた。
2D背景アーティストがコンセプトをもとに、コンセプトアートを作成する。ここでステージのイメージやライティングのイメージが固められる。ビジュアル化したイメージを、各セクションの視点からチェックする。カットシーンアーティストは、映像にした際の見栄えを確認する。コンセプトアートはステージデザインだけでなく、初期段階から最終的な絵のイメージを共有するという役割も果たしている。
このイメージを基に3DCGアーティストが、ざっくりと機材を配置した仮モデルを製作し、このモデルでステージの広さや階段の高さを調整する。特に階段は、モーションキャプチャーの際に段数を合わせる必要があるため、この時点で確定させてから、サイゲームス内のモーションスタジオに情報を共有している。
振付師にダンスの振り付けを発注して、アクターによるモーションが収録される。収録には各担当者が同席し、モーションビルダーを使って、その場でキャラクターモデルと合わせて確認しながら、それぞれの視点で意見を出し、より具体的なキャラ性の出し方や、映像にした時の見栄えを考えて調整していく。
モーションの収録が完了すると、前述した仮の背景と合わせてライティングを作成し、キャラクターや機材の配置などを含めて作成していく。その間に他のセクションでは作りこみが進んでいく。
ライトが決まり、必要なアセットが一通りそろったら、カットシーンアーティストが、コンセプトを基に映像を構成し、完成形に近い仮映像であるプリビズを作成する。
プリビズを3Dアーティストやモーションアーティストに共有して、カメラに映りこむ部分をさらに作りこんでいくための参考にする。ダンスの動きやポーズ、背景のステージ機材の配置や質感など、1つ1つを細かく相談しながら制作していく。アセットのクオリティだけではなく、ライトの配置や腕や顔の角度なども調整し、最終的な完成映像を作り上げていく。
カットシーン制作時のこだわり
カットシーンアーティストの仕事では、楽曲のコンセプトが伝わる映像を作ることと、映像から静止画を取って広報などに使う場合を想定して、映像としてだけではなく、静止画としても美しい映像を作るということを心がけている。
そのために、モーション収録の時にはフォーメーションやダンスの印象はもちろん、カメラの構成をイメージして、見せ場のカットになりそうな時の動きは、アクターさんに細かく表現してもらっている。
例えばアップで表情を見せたいシーンでは、カメラから外れないよう上下左右の動きは控えめにして、頭の演技は口の動きに合わせて強めに付けてもらう。手の動きが印象的な場合には、手の動きと表情が一緒にカメラに収まるように調整してもらう。
また、全身や全景を見せたい時には、大きく体を動かしてダイナミックに動いてもらう。そうすることで、最終的な映像で火柱などの演出を使う場合には、よりカッコいいカットを作ることができる。
また、カットごとに画面内の情報量を整理して、そのカットで見せたいものが明朗に伝わるように画面を作っていく。例えば、ソロパートでは、調整前には後ろのウマ娘やペンライトが移っているが、そこに印象的なライトを配置することでキャラクターを際立たせている。
全員が並んでいる正面からのカットは、調整前には立ち位置によってキャラクターの大きさに差が出てしまったり、機材や後ろのキャラクターと被ってしまったりしている。調整後には、立ち位置やサイズが調整され、機材の位置もキャラクターの邪魔にならない位置に変更されている。
さらに3Dキャラクターは角度によっては口の配置がおかしくなってしまうため、より自然に見えるように口の位置を調整することもある。手を前に突き出したポーズでは、手を強調するために、実際のパースよりも大きく見せるといった手法も使われる。
ラストカットの作成
楽曲の最後を飾るラストカットは、アニバーサリー記念曲らしさを強調する、全員が映ったカットを目指した。また濡れている床も見せるために、斜め上からのレイアウトに決定した。
調整前には、ウマ娘たちの立ち位置にまとまりがなくバランスが取れていなかったため、フォーメーションはそのままに間隔を詰めて立たせた。センターの3人は目立つように少し手前に立たせ、さらに左上からのスポットライトでセンター3人を強調、バックダンサーは逆光で影を落とした。バックダンサーが暗すぎて床に沈み込んでしまわないよう、リムライトで少し手前から光を当ててエッジを出した。
さらに手前3人のフェイシャルを調整。全員の目線をカメラに向けて、スペシャルウィークは口角を少し上げた不敵な笑みを浮かべた表情に調整し、汗も追加した。
光は今回のコンセプトに合わせてスモークのようなエフェクトを追加し、柔らかく拡散されるようディフュージョンを調整した。最後に青色が際立つように映像全体の色調を調整して完成となる。
泥臭い手仕事も多いが、美しい映像を作るために、そしてウマ娘たちへの愛着を持ってもらうために、愛情を持って調整しているという。また、最終的な映像の美しさはカットシーンアーティストだけの力で作れるものではない。プランナーのコンセプトの明瞭さや、3Dアーティストが作るアセットのクオリティ、調整しやすいデータ構造、カットシーン作成ツールの優秀さなど様々な要素が影響している。
次回から、ライブを見る時に、ウマ娘の可愛さはもちろん、映像に込められた様々なコンセプトや演出意図、こだわりなどを考えてみるのも楽しいかもしれない。