【特別企画】

目玉はGPUが強化されたA15 Bionicと120Hz、iPhone 13がもたらすモバイルゲーミングの未来

【iPhone 13シリーズ】

9月24日発売

価格:86,800円より

AppleのiPhone 13 Pro Max(奥)とiPhone 13 Pro(手前)

 AppleのiPhone 13シリーズの各製品が、本日9月24日より販売開始される。既にAppleのWebサイトでは予約注文が行なわれており、早い時間に予約したユーザーには本日より順次到着するだろう。モデルによるが、9月23日現在で予約注文をするとおおむね1カ月程度で届く納期が表示されるようだ。

 そうしたiPhone 13シリーズだが、4つのラインアップ(iPhone 13 Pro Max、iPhone 13 Pro、iPhone 13、iPhone 13 mini)が用意されており、ハードウエアやソフトウエアによる実現される機能などにより違いがある。本稿ではそうしたiPhone 13シリーズの特徴と、モデルによる違い、そして前世代からアップデートされた点はどこなのかなどに焦点を絞って紹介していきたい。

前の世代と同じく5nmで製造されるA15 Bionic、CPU、GPUなどすべてに「謎の」改良が加えられているとAppleは説明

【A15 Bionic】

 「近年のiPhoneは、2年に一度大規模な更新が入る。その間の年はマイナーバージョンアップだ」という評価はユーザーの間でもおおむね定着していると思う。実際そのとおりにここ数年は2年に一度大規模な進化を遂げているのだが、その定義が正しいとすれば、今年はマイナーバージョンアップの年になる。実際昨年のiPhone 12シリーズではディスプレイの大型化(iPhone 11 Proの5.8インチからiPhone 12 Proの6.1インチへ、iPhone 11 Pro Maxの6.5インチからiPhone 12 Pro Maxの6.7インチへ)、5Gへの対応、カメラ周りの機能強化など多くの点でハードウエアが更新されている。

 それに対して今年は、確かにディスプレイのサイズや解像度は同じだし、5Gへの対応は昨年済んでいるし、その意味ではハードウエアはマイナーバージョンアップと言っても差し支えがないだろう。唯一の大きな進化はカメラなのだが、それに関しては後述する。

【iPhone 13のスペック】
iPhone 13シリーズのハードウエアスペック(Apple社の資料などより筆者作成)

 そうした2年に一度の大きな進化というのは、実のところSoC(System on a Chip、1チップでコンピューターを実現できる半導体チップのこと)の進化にも言うことができる。AppleのiPhoneには、Appleが自社設計し、台湾のファウンドリー(受託して半導体を製造する半導体メーカーのこと)TSMCに委託して製造しているApple Aシリーズと呼ばれるSoCが採用されている。

 昨年のiPhone 12シリーズに採用されていたのはA14 Bionicと呼ばれるSoCだったが、iPhone 13シリーズにはA15 Bionicという新しいSoCに更新されている。AppleはCPU、GPU、そしてNeural Engineと呼ばれるマシンラーニング/ディープラーニングの推論を専用に処理するプロセッサなどのアーキテクチャが新しくなっているとだけ説明している。ただし、Appleはそうしたアーキテクチャの概要や詳細に関しては説明していないため、どこが新しくなったのかなどは論評不能で、わかっていることは「新しくなった」ということだけだ。

【A15 Bionicのブロック図】

 ただ、CPUやGPUのコア数は説明しており、A15 BionicのCPUは高性能コアが2コア+高効率コアが4コアという構成になっており、これはA14 Bionicと同じだ。それに対して、iPhone 13 Pro/13 Pro Maxに採用されているA15 BionicのGPUは5コアになっており、これはA14 Bionicの4コアから増えている(iPhone 13/13 miniのA15 Bionicは4コアで据え置き)。Appleが9月14日(現地時間、日本時間9月15日)に行ったオンライン発表会では、GPUの性能にだけ言及していたので、CPUに関してはさほど大きなアップデートはないが、GPUに関してはそれなりの性能向上を実現するようなアーキテクチャの改善が施されていると考えることができるだろう。

Pro/Pro Maxに搭載されているA15 BionicはGPUが5コアになっている
競合に比べて50%高速とアピール

 A15 Bionicがそうした小幅の改良にとどまっている最大の理由は、製造技術の進化の恩恵がこの世代では大きくないためだと考えることができる。半導体は製造技術が新しければ新しいほど、より多くの機能や性能向上を実現できるからだ。

 A15 BionicはTSMCの5nmという製造技術で製造されており、昨年のA14 Bionicに使われたものと同じ世代の製造技術になる。ただ、通常、同じ世代であっても、時間の経過と共にさまざまな改良が施されていくので、実際には製造技術由来の性能向上もあるとは思うが、世代が新しくなるほどの大きな向上はないと考えるのが妥当だろう。

 しかしながら、依然としてAppleのAシリーズがパフォーマンスリーダーである事実には変わりが無いだろう。既に昨年のA14 BionicでもCPUやGPU性能で他社のSoCに性能で上回っていたことを考えれば、それがさらに良くなっているのだから、「スマートフォンの中では最速のチップ」というAppleのうたい文句は決してだてではない。

120Hzのなめらかな表示が可能になるProMotion、ただし恩恵を享受するためにはアプリ側の対応が必要

【iPhone 13のディスプレイ】
ProMotionを採用しているPro/Pro Maxのディスプレイ、輝度も1000nitと明るくなっている

 ディスプレイサイズがやや大きくなった昨年と比べると、ディスプレイに関しては大きな進化がないと感じるかもしれない。確かにPro Maxも、Proも、無印も、miniも基本的にiPhone 12世代とサイズも、解像度も同様でそこに関しては大きな違いは無い。

 iPhone 12世代との唯一にして最大の違いはiPhone 13 ProとiPhone 13 Pro Maxのディスプレイが、120Hzのリフレッシュレートに対応していることだ。リフレッシュレートというのは、画面を更新する頻度のこと。別にスマートフォンに限ったことではなく、こうしたデジタル機器のディスプレイは、通常は毎秒60回画面を更新することで人間の目に画面が動いているように見せている(このことをディスプレイのリフレッシュレートが60Hzであると表現する)。

 学生時代に先生から怒られながら教科書に書いたパラパラマンガを思い出してみよう。1ページや2ページに動きがある絵を描いてパラパラめくっても人間の目には動いているようには見えないだろう。しかし、60ページにわたってちょっとずつ動きがある絵を描いたら、きちんと動いているように見えるだろう。それがリフレッシュレートの原理で、1秒間に1~2回更新しただけでは動いているように見えないが、60回更新すればなめらかに動いているように見えるということだ。

【120Hz表示】
120Hz対応は、表示がなめらかになるのはもちろんだが、タッチ操作のレイテンシも少なくなるという効果もある

 リフレッシュレートを120Hzにするということは、1秒間に120回画面を更新するという意味で、先ほどのパラパラマンガで60ページを120ページにするようなもので、より人間の目になめらかに動いているように見せかけることができるようになるのだ。Appleではこの120Hzのリフレッシュレートのことを「ProMotionテクノロジー」(プロモーション)と呼んでおり、ユーザーやアプリケーション開発者にアピールしている。というのも、このProMotionを利用するには、アプリケーション側の対応が必要になるからだ。特にゲームはその端的な例で、iPhone 13 Pro/iPhone 13 Pro Maxを買ったからすぐにProMotionが使えるという訳ではなく、ゲームタイトル側の対応を待つ必要がある。

 ただ、それ自体は時間の問題で、既にAndroidではこうした120Hzのリフレッシュレートに対応したデバイスがすでに存在しており、一部ゲームタイトルの対応も進んでいる。現代のゲームは同じ1つのコードからAndroid版、iOS版と最終段階で切り分けて作る開発方法が一般的なので、遠からずProMotion対応のタイトルが登場してくるだろう。

文章を読んでいるときは変化が少ないので10Hzなどに落として消費電力を削減
動きが激しいときなど必要な時には120Hzに引き上げる

 また、ProMotionのユニークな機能として、リフレッシュレートを動的に変更する機能は注目に値する。リフレッシュレートは高ければ高いほど、人間の目にはなめらかに見えるが、そのメリットを発揮できるのは動画やゲームといった動きが速いコンテンツでだけだ。PDFファイルを見ているのに、120Hzのリフレッシュレートは意味が無いだけでなく、iPhoneのようなモバイル機器では無駄な電力消費に繋がり、バッテリー駆動時間が短くなる。そこで、ProMotionでは、リフレッシュレートを10Hz(1秒回に10回更新)から120Hz(1秒間に120回更新)まで、システムが自動に判断してリフレッシュレートを切り替えて動作する。

 なお、iPhone 13シリーズでは、iPhone 12シリーズに比べていずれもバッテリー駆動時間が延びている。

【バッテリー駆動時間】
iPhone 13シリーズと前モデルiPhone 12シリーズのバッテリー駆動時間を比較してみた

Appleはバッテリーの容量に関して数値を発表していないため詳しいことは不明だが、より大容量のバッテリーを搭載したことは説明している。そのためだと考えられるが重量は増えており、モデルにより違いがあるが7g~14g程度増えている。この重量増はバッテリー由来なのか、それとも別の要因なのかはわからないが、おそらくバッテリーの容量増によるものと考えるのが妥当だ。いずれにせよ、外出時にはモバイルバッテリーを持っていくというユーザーが大半であることを考えれば、多少の重量増はあってもバッテリー駆動時間が長くなった事は歓迎していいだろう。

標準のディスプレイサイズのiPhone 13 Proでも3倍ズームのカメラを選択可能に、2cmのマクロ撮影はソフトウエアにより実現

iPhone 13 Pro/Pro Maxのカメラ(提供:Apple)

 最後にiPhone 13シリーズの最大の強化ポイントと考えられるリアカメラに関して触れておこう。Proの2製品が3カメラ、無印とminiが2カメラで、各カメラとも1200万画素という大枠は一緒だが、いくつかの点で強化が加えられている。

【iPhone 13のレンズ】
望遠レンズ
超広角レンズ
広角レンズ

 iPhone 12との最大の違いはPro(ProとPro Max)のカメラが共通化されたことだ。iPhone 12世代では、望遠の焦点距離がProは52mm、Pro Maxは65mmとなっていた。広角(標準)が26mmだったので、ズームレンズやコンパンクカメラの言い方従うならProは2倍望遠、Pro Maxは2.5倍望遠というズーム率だったということだ。これに対してiPhone 13シリーズではProとPro Maxのカメラ構成は全く同等になっており、カメラ周りの違いはないということだ。このことは、画面は大きくなくていいのだけど、2.5倍ズームの望遠は欲しいのでPro Maxを選ばざるを得なかったというユーザーにとってはうれしい違いと言うことだ。Pro/Pro Maxの3つのカメラは標準になる広角が26mmで、超広角が13mmで標準と比較して0.5倍、望遠が77mmで約3倍というズーム率になる。
 ハードウエア的なもう1つの進化は、Pro/Pro Max/無印/miniのすべてのモデルで共通機能となる広角(26mm)カメラでのセンサーシフト光学式手ぶれ補正機能の追加だ。現代のスマートフォンや、一眼カメラ、ミラーレス一眼カメラ、コンパクトデジタルカメラは、いずれも何らかの手ぶれ補正機能と切っても切り離すことができない。手ぶれ補正がなければ、ユーザーが手持ちで撮影した時にブレブレの画像が出来上がってしまうので、ユーザーが手持ちしていて揺れる状態を、機械的に安定させてぶれない画像を撮影するために必須の機能といえる。

【センサーシフト光学式手ぶれ補正】
CMOSセンサー自体が振動することで手ぶれを打ち消すセンサーシフト光学式手ぶれ補正

 スマートフォンでは一般的にはOIS(Optical Image Stabilization、光学式手ぶれ補正)が採用されている。これはレンズなどにモーターを入れ、それによりユーザーの手ぶれによる振動を打ち消すという仕組みになっている。これに対して、今回のiPhone 13シリーズの広角カメラに搭載されたセンサーシフト光学式手ぶれ補正は、センサー自体が振動する(シフトする)ことにより、手ぶれを打ち消す仕組みになっている(Pro/Pro Maxでは通常のOISも広角と望遠に実装されている)。

 こうしたカメラのハードウエアを利用すべく、ソフトウエア(カメラアプリ)の機能も拡張されている。最大の特徴は超広角カメラを利用したマクロ撮影機能で2cmまで寄って撮影することができる。ペットや半導体チップなどを撮影する趣味があるユーザーにとってはできるだけ寄って撮影することができるため、福音となる機能だろう(マクロ撮影はPro/Pro Maxのみ対応)。

 他にも、動画撮影時にAIを利用してピントを瞬時に移動する(撮影後にピントの変更も可能)ことで映画のような動画が撮影できる「シネマティックモード」、フィルターを使って望みのテイストの写真にしたりすることができる「フォトグラフスタイル」などはいずれもA15 Bionicとソフトウエアの組み合わせで実現されている機能となる。

プロフェッショナルユーザーはiPhone 13 Pro/Pro Maxへの移行がお勧め、ゲーマーはタイトルの対応次第

 最後に、どのiPhone 13を選ぶべきか、ユーザーの利用シーンやライフスタイルに分けて考えていきたい。

(1)プロフェッショナルユーザー(コンテンツクリエイターや報道関係者など):iPhone 13 Pro/Pro Max

iPhone 13 Pro/Pro Maxは4色展開

 既に説明してきた通り、iPhone 13 Pro/Pro Maxは超広角、広角、望遠(3倍ズーム)という3つのカメラを持っており、より遠くを撮りたいという超望遠を除けば、ほとんどの撮影をiPhoneだけで完結できるだろう。特に2cmのマクロ撮影ができるようになったことは大きく、筆者のように半導体チップを撮影することが仕事という特殊例までもカバーすることができるのだから、筆者のような報道関係の仕事をしている記者などには最適な選択だろう。

 また、フォトグラファーやそれこそYouTuberのような動画コンテンツクリエイターなども、フォトグラフスタイルやシネマティックモードを利用してより高品質な写真や動画を撮影することが可能になり、すぐその場で編集して納品することが可能になることがiPhone 13 Pro/Pro Maxの特長と言えるだろう。一眼レフカメラと違って、iPhoneはインターネット回線に常時接続されており、撮影してAdobe Lightroomなどで修正してそれをクラウドにアップロードして納品という新しいワークフローが可能だ。

 ProとPro Maxどちらを選択すべきかは、この世代ではカメラはどちらも同じになっているので、純粋にディスプレイのサイズで選べばいい。文字が大きい方がいい人はPro Maxを選べば良いし、文字は小さくてもいいので、片手でなんとか操作できる方を選びたいならProだ。

(2)既存のiPhoneのユーザー:iPhone 13/13 mini

iPhone 13/13 miniは6色展開

 iPhone 10/11世代など2~3世代前のiPhoneを所有しているユーザーにとっては、カメラがこれだけ進化しているiPhone 13シリーズは買い換え対象として十分にありだろう。特にApple Careの2年契約の期限がそろそろ来るであろうiPhone 11世代のユーザーなどは積極的に検討するのはありだろう。

 その一方、カメラはそんなに必要ないというのであれば、現状のiPhone 10/11のAppleCareの契約を延長してさらに2年使うという選択もありだろう。AppleCareは2年契約の契約終了前であれば延長することが可能な場合があるので、期限をよく確認して期限が来る前に延長しておくと良いだろう(ケース・バイ・ケースなので、延長可能かどうかはAppleに確認して見るしかない)。

(3)ゲーマー:iPhone 13 Pro/Pro Max

 プレイするゲームがサポートするかどうかに依存するが、ProMotionはゲーマーにとってメリットは小さくない。このため、検討するならiPhone 13 Pro/Pro Maxだろう。また、(Appleの言ってることを信じるのであれば)A15 Bionicは、GPU性能が他のプラットホームよりも高く、より快適にゲームをプレイできる可能性が高い。ただし、これは「フォートナイト」などのEpic Gamesのタイトルのファンを除くというただし書きがつくのは言うまでもない……。

 以上、本記事が読者のiPhone 13の購買検討やどのモデルを選ぶのかを決定するのに役立てば幸いだ。