【特別企画】

「サイバーパンク2077」は立体音響でやるべき! 没入度段違いの特別音響室でDolby Atmosを体験

サウンドチームインタビューではおすすめのプレイ環境も聞いてきた

【サイバーパンク2077】

発売中

価格:8,778円(税込)

 PC版の「サイバーパンク2077」をプレイしていて後悔したことがある。それはDolby Atmosの設定だ。

 Dolby Atmosは、いわゆる立体音響(サラウンド)のサウンド方式のこと。PC版とXbox One/Xbox Series X|S版の「サイバーパンク2077」はDolby Atmosに対応していて、Microsoft Storeからインストールし、設定することでサウンド面でゲームへの没入度を上げてくれる。なおプレイステーション 4/5はDolby Atmos非対応であり、「サイバーパンク2077」をDolby Atmosサウンドでプレイすることはできない。

 「サイバーパンク2077」は、プレイした方ならわかると思うが、世界に没入することが何より楽しい。画面はできる限り大きい方がいいし、部屋の照明は落としてなるべく画面以外の情報は入れない方がいい。そして音の聞こえ方も、できる限り主人公のV(ヴィー)が感じるそのままを再現できた方が体験としての深みが増してくるタイプのゲームだ。

そこに「いる」ことが楽しいゲーム。それが「サイバーパンク2077」だ

 今回、Dolby Japanにご招待いただいて、同社にある特別な音響室でDolby Atmosを体験できた。スピーカーは平面に7基、ウーハーが1基、天井に6基(7.1.6チャンネル)というこれ以上ない最高のサウンド環境でのプレイとなったが、それまで知っていた「サイバーパンク2077」とはまったく異なる体験であった。特に五感への刺激、没入度の点で大きく違う。

こちらが音響室。最高の環境

 体験がどう変わるかについては後述するが、Dolby Atmosシステムは映画館のような業務用のみならず、ゲーム機などの家庭用にも提供されている。しかも、市販のヘッドセットがあれば体験可能だ。筆者はそれを知らず、Dolby Atmos未導入のままPC版をプレイしていた。

 ヘッドセット用のDolby Atmosでも体験の質はガラリと変わる。冒頭で「後悔した」と述べたのは、まさにこの点。「もっとはやく導入していればよかったし、最初からこれでやりかった……」というわけだ。ちなみにホームシアター環境があれば、より音響室に近い体験になる。

 Dolby Atmosのライセンス料は1,650円(税込)の買い切り型で、現在は20%オフの1,320円(税込)で購入できる(詳しくは設定方法紹介ページを参照)。さらに7日間の無料評価版もあり、ひとまず試すこともできる。立体音響非導入の「サイバーパンク2077」体験は「もったいない」と今では思うくらいなので、興味があればぜひ検討いただきたいところだ。

Microsoft StoreのDolby Access(Dolby Atmosなどを設定できるアプリ)ページでは「サイバーパンク2077」がフィーチャーされている

Dolby Atmos導入後の「サイバーパンク2077」はどんな体験になるのか?

 さて、Dolby Atmosについて、公式サイトでは「キャラクターのいる場所の頭上や階下、あらゆる方向で発生する音が正確な位置から聞こえてきます」と書いてあり、プレイしているとまさにその通りだと感じる。

 会話している人たちを通り過ぎると、その会話の音声が横から後ろへスーッとスライドしていく様子がわかる。頭上に飛ぶAV(空中を飛ぶ乗り物)は目視していなくても進んでいる方向がわかるし、道路上では自分に迫ってくる車のブーン! という走行音を判別できる。また銃撃音や爆発音も、指を差して「あっち」と示せるくらいの精度で距離も含めて感じ取ることができる。

Dolby Atmos導入以後では体験そのものが大きく変わる

 音響室での体験として最も印象的だったのは、爆音響くクラブに入るシーン。クラブの爆音は大概が外まで漏れ聞こえているが、階段を降り、廊下を進むと徐々に爆音の発生源に近づいていることがわかる。そしていよいよクラブの中に入ると、体の芯まで響くような重低音がボリューム高めでガツンと迫ってくる。

体験の変化がわかりやすい場所は色々あるが、リジーズバーなどのクラブはその代表だ

 スピーカーから音が鳴っているのもちゃんとわかるし、その音に囲まれながら、視界にはサイバーな光がぐるぐる回っているので、まさにクラブに入り込んだ感覚になる。「3日くらいこの音響室に籠もってプレイしたい」と思うほどには、強烈にリッチな体験だった。

 先述したが、家庭でDolby Atmosを手っ取り早く試すにはヘッドフォン用の「Dolby Atmos for Headphones」が最適だと思う。さすがに音響室での「体に音が響く」みたいな体験は難しいと思うが、立体音響的な上下を含めた音の回り込みを体験するには十分だ。

Dolby Atmosは競技シーンでも有効かも?

 Dolby Atmosでは、「オブジェクトベースオーディオ」と呼ばれる音声方式が採用されている。ある物体が発している音(たとえば銃声)を位置情報(銃のある場所)と一緒に記録しておく、というものだ。

 再生する際は、部屋にあるスピーカーの位置情報をシステム側に送り、スピーカーの位置に合わせてそれぞれから鳴る音がアレンジされる。つまり、ある程度アバウトにスピーカーを設置しても、システムが最適な鳴らし方を自動設定してくれるわけだ。

立体音響は戦いやすさも変える?

 Dolby Atmosは映画館でも採用されているが、家庭用でも同様のシステムが利用できる。仕様上はフロア最大24、ウーハー1、天井最大10(24.1.10チャンネル)まで対応しており、Dolby Atmos対応のホームシアター、サウンドバー、テレビなどで利用できる。

 ちなみに、立体音響のメリットは「没入感」以外にもある。それは「反応速度と精度」。音の情報から目標の位置がより正確に特定できるため、他の音声方式よりも反応速度と精度が向上したという。競技シーンではかなり重要な情報ではないだろうか。

【Are Surround Gaming Headphones BS?】
こちらは目隠しをして、様々な”サラウンド音声環境”で「オーバーウォッチ」をプレイした実証実験の動画。並み居るゲーミングヘッドセットの中でも、Dolby Atmos for Headphonesを使用した”一般的なヘッドフォン”がトップクラスの成績となっている

 プレイステーション 5では「3Dオーディオ」が標準搭載されているし、今世代以降は「立体音響でプレイするゲーム」が当たり前になっていくと思われる。「サイバーパンク2077」のように世界そのものを楽しむタイプでも、神経を尖らせて戦う競技的なゲームでも、”サウンド環境”は大きなキーワードになるだろう。Dolby Atmosをはじめ、ゲームサウンドシーンには今後とも注目していきたい。

開発サウンドチームにメールインタビュー!

 ここからは、「サイバーパンク2077」開発陣より、サウンドチームへのメールインタビューをお届けする。「サイバーパンク2077」の世界をどのように作られているのか、おすすめの環境は何かを聞いているので、ご覧いただきたい。

インタビューした方

コリン・ワルダー氏
2006年からAAAゲーム作品のオーディオプログラマー職に従事。「グランド・セフト・オートV」、「レッド・デッド・リデンプション 2」、「ウィッチャー3」のエキスパンションパックなどに携わり、「サイバーパンク2077」ではオーディオ&ローカリゼーションプログラミング部門のリードを務める。音声や音楽、ボイスオーバーをゲームに実装する技術やパイプラインの構築を行なった。

ヤスパー・ヤン氏
「サイバーパンク2077」のシニアサウンドデザイナー。主に銃やその他の武器、クエスト関連の音響デザインの一部を担当。2013年からAAA作品の開発に携わり、「ゴーストリコン ワイルドランズ」や「アノ1800」、「アスファルト9:Legends」などに携わっている。

サウンド制作でこだわった点

ヤスパー氏:
 「サイバーパンク2077」はストーリードリブンのゲームです。そのため、いかなる状況でも会話が明瞭に聞こえるサウンドデザインを行なうことが重要でした。

 ゲームプレイのシステムが多岐にわたり、プレーヤーはステルスからラウドなガンプレイまで、好きにジョブに対してアプローチできるため、サウンドの再生優先度を管理するシステムを構築し、常に会話が聞き取りやすくなるよう、プレーヤーのプレイスタイルがもたらす状況に応じて、サウンド要素の再生優先度を変えています。

コリン氏
 音声技術的な観点から言うと、我々は2つの柱に注力しました。「シティ・クリエイション」と「シネマティック・フィール」です。言わずもがな、ナイトシティは本作における重要な要素です。単に本作の舞台であるというだけでなく、ストーリーにおいても存在感があり、我々はキャラクターの1つとしてナイトシティをとらえています。

 生きる巨大都市を音響面で制作するにあたり、そこに関わるシステムを常に構築、改善しました。シネマティック・フィールというのは、一般的にはカットシーンでのみ可能なリッチでハイクオリティな体験を、プレーヤーが自由に操作するゲームプレイパートでも感じ取って頂こうというコンセプトです。

 オーディオ的な観点では、その境界線をなるべくぼかしたかったので、シネマティック・ティアという仕組みを活用しました。

 これはプレーヤーがどれだけゲームに対して干渉できるかを示す内部的なティア(階層)設定で、最低層はプレーヤーが自由に街を探索し、いつでも戦闘に入れる状態。中間層くらいになると、戦闘には入れるが、移動可能なエリアやアクションが限定されている状態。カメラは動かせるがキャラクターが移動できないのは上位層で、最上位は完全なカットシーンですね。

 各層ごとにAIを使って音楽やサウンドのミキシングを管理し、常に急に静から動に移行するのではなく、グラデーションのように段階的に雰囲気を変化させるようにしています。

 クリエイティブ的な意味でも、技術的な意味でも、常に新境地を目指したいと考えていますので、今作ではDolby Atmosを採用したり、独自に動的な反響システムを開発したりしました。また、あえてアナログシンセの音を多く取り入れることで、未来的ながらも現実に根付いたサウンドを再現しようとしています。

ナイトシティらしさを作っているサウンドとは?

ヤスパー氏:
 個人的にはボイスですね。役者の演技はどれも素晴らしく、文字通りキャラクターに命を吹き込んでいます。デラマンのサイドクエストでは、デラマンが複数の人格に分かれてそれぞれに異なる声が割り当てられますが、ボイスデザインをクエストに取り込んだ例ですね。

 またナイトシティでは日本語、スペイン語など母国語で話すキャラクターがたくさんおり、リアルなナイトシティの演出に一役買っています。

コリン氏
 「サイバーパンク2077」は多種多様なサウンドで溢れているので、何かひとつを選ぶというのは難しいかもしれません。なので、私がゲームをプレイした中でもっとも印象に残った瞬間や体験という視点で話させて頂きます。

 ナイトシティを散歩していると、時折色々な要素が重なってとても“サイバーパンクな雰囲気”が醸し出されることがあります。私がそれを感じ取ったのは、ジャパンタウンでの一角。お店から流れてくるラジオ、耳が痛くなるような音声広告、テレビの音、喧騒、通りを行くクルマ、さまざまな言語で飛び交うNPC同士の雑談……。

 まるでブレードランナーにいるかのような雰囲気ですが、サウンドは全く違います。それぞれのサウンドひとつひとつはどれも個性的で強烈なのに、それらが組み合わさると魔法のような雰囲気を作り上げてくれるんです。

プレイするにオススメのサウンド環境は?

ヤスパー氏:
 本作のサウンド設定において、デフォルトの設定は「スタジオモニター」です。これは出力バスに後処理効果を一切載せない形式ですが、プレーヤーの環境に大きく左右されます。スピーカーやヘッドフォンによっては、低音が不足するかもしれません。

 その場合は「低音ブースト」(低ブースト)を使ってみてください。全部で6つのプリセットがあるので、色々試して一番音の聞こえが良い設定を探すとよいかもしれません。「スタジオモニター」は我々が我々の機材をベースにミキシングした生の姿なので、必ずしもすべてのプレーヤーにとっての最適解とは限らないのです。

ずばりオススメのプロダクト

ヤスパー氏:
 どの機材がベストかは各個人の趣味嗜好に大きく影響されます。個人的にはスピーカーよりヘッドフォン派ですね。そのほうが空間を認識しやすいですので。いいヘッドフォンを使えば、低音域もよく聞こえます。

 特定の音域をブーストさせるヘッドフォンは、ゲームや映像作品が意図したミキシングとかち合うことがあるので、あまり好きではないですね。オーディオの空間化プラグインは最近では目まぐるしく進化してきました。ヘッドフォンではそれを比較的手軽に体験できます。

 ただ、これはもちろん個人的な趣味で、音響的に程よく管理された部屋で、スピーカーでプレイするのももちろん良いと思います! ちなみに私はBeyerdynamic DT770ヘッドフォンとAdam A7Xスピーカーを使っています。SennheiserのHD 600ヘッドフォンシリーズも良いですね。


コリン氏
 ヤスパーの言う通り、ヘッドフォンの技術は著しく進化してきています。ヘッドフォン派の人には、是非空間化ソフトウェアを併用してプレイして頂きたいですね。PCではDolby Headphoneのソフトウェアが利用可能です。ただ、個人的にはスピーカー派なので、Dolby Atmosのフルシステムでプレイできるチャンスがあれば、是非一度試してもらいたいです。縦方向に作り込まれた本作では、まさに別次元ともいうべきサウンド体験ができますからね。

サウンド方面のアップデート計画について

ヤスパー氏:
 いまはプレーヤーの皆様からのオーディオに関するフィードバックを集積している段階です。それらをベースに、今後のアップデートでオーディオ体験をよりよくしていければと思います。

コリン氏
 ゲーム体験の改善には、もちろんオーディオも含まれます。次世代機では、その選択肢がさらに広がりますので、空間サウンド面を強化していきたいですね。