【特別企画】

レゴブロックで自由に作品を作る「レゴアーティスト」になろう!(後編)

前後左右上下、六方向に接続可能なレゴブロックが生み出す無限の可能性

 前回、「レゴブロックで自由に作品を作る『レゴアーティスト』になろう!(前編)」というタイトルで、レゴブロックでの創作活動や魅力の入り口を知った私が、自分の楽しみのためだけではなく、人に作品を観てもらうことを目指す「レゴアーティスト」として意識を持つ様になった経緯をお話しました。

 後編となる本稿では、「出版」、「作品展示」、「ワークショップ開催」など、私が「アーティストらしい活動のチャンスをどうつかみ」、「どのようにしてレゴアーティストの道を歩んでいったのか?」を振り返ってみたいと思います。

 レゴブロックはどうやったらうまく組むことができるのか? 面白い作品を作るにはどうすれば良いのか? いざプロのレゴアーティストになったときに直面する問題は何か……本記事をお読みの方が、私の軌跡を参考にレゴアーティスト、そしてクリエイターとしての道が開けることを願っています。

「レゴブロックを続けてほしい」という願いがレゴアーティストとしての扉を開く

 みなさんは、レゴブロックでクオリティの高い作品をつくるには、どうすればいいと思いますか? レゴブロックは、ある意味「ドット絵」と同じ理屈なので、大きい作品をつくれば「解像度」が上がるため、クオリティーの高い作品になりやすいです。そのため、巷では「たくさんのパーツがあるから作れる」という意見を見かけます。

 たしかに、ブロックの数なければ、物理的に大きい作品はつくれないでしょう。また、小さい作品ならできるかというと、赤いパーツを持っていなければ、たとえ10センチくらいのリンゴでも無理です。できるとすれば、茶色い棒状のパーツを1本おき「食べ終わったあとのリンゴです」とか「オマエは一休さんかよ!」というトンチで対応するしかありません。

 ただ、逆説的に「パーツがあればつくれるのか?」といえば、つくれる人はいれば、つくれない人もいます。なぜそうなるのかといえば「レゴブロックの接続テクニック」を知らないからだと私は思います。

 通常、レゴブロックといえば、上に積んでいくイメージがあるでしょう。ですが、実際には前後左右上下と六方向に接続可能です。さらに、ファンの間で使われる「チートな接続」方法も存在しています。このような技術を知っているかどうかで、作品のクオリティは変わるのです。

 例えば、銃器につけるマガジンを曲線を描くその形状から「バナナマガジン」と呼ばれる形にしたいと思っても、通常の接続では難しいのですが、片側だけを噛ませる接続方法を使えば簡単にできるのです。

片側だけ噛ませる接続ならバナナマガジンも簡単に再現できる

 では、このような技術をどこで取得したのでしょう。レゴブロックの接続方法は、製品をつくることで学べますが、基本的な技術が大半です。そこで、作品のクオリティを上げるためには、自分で思いつくか、ほかの人がつくった作品の技術を教えてもらうかです。特に、インターネット上にアップされた画像では接続方法まではわかりませんが、オフ会などで質問すれば分解して組み方を教えてくれるので技術向上が著しくアップします。

 あるとき、自分が取得した技術を、もっと広く普及させたいと思いました。それは、クオリティの高い作品がつくれないことが原因で、レゴブロックの作品づくりを止めてしまう子どもたちがいるからです。例えば、少ないパーツで一生懸命作ったオリジナルロボを友人に見せても、「ふぅん」で終わってしまう可能性はあります。 日本は悪いことにプラモデルはもちろんのこと、食玩やガシャポンのアイテムですらクオリティが高すぎます。ですから、子どもたちの作品に対する審美眼も厳しいのです。

 また、レゴブロックに対する大人からの評価の低さも問題です。子どものころは知育玩具として評価していても、中学生になってレゴブロックで遊んでいたら、母親から「いつまでブロックのオモチャで遊んでいるの!」と怒られるでしょう。

 突き詰めていけば、この二つの問題は同じで、クオリティの高い作品を「つくれない」「見たことがない」からです。ですから、クオリティの高い作品のつくり方やアートと呼べるような凄い作品がつくれることを紹介したいと考えたのです。

 そこで企画したのが「ブロック玩具で遊ぼう!!」という、レゴブロックの組み方や作品を紹介した解説本です。実はレゴブロックを始めた当初「組み方を解説した本」を探したのですが、出版されているのは「子ども向けの写真集」と、「レゴテクニックやレゴマインドストームのガチなプログラム本」ばかりだったのです。この書籍企画は成功しシリーズで合計3冊上梓しました。また、2年前に最新のテクニックや創作ノウハウを詰め込んだ「ブロック玩具ビルダーバイブル」を上梓しています。

 私の本が、どこまで子どもたちのレゴブロック離れを止められたかはわかりません。ですが、今でもイベントなどで「さいとうさんの本をボロボロになるまで読みました!」と言われることも多く、とっても幸せな気分です。

「アイデアをカタチにする!ブロック玩具ビルダーバイブル」。価格は2,980円(税別)。何と320ページの大ボリュームでレゴブロックの全てがわかる……かも!

 「TVチャンピオン」への出演や「レゴブロックの解説本」を出版したことで 日本の販売代理店であるレゴジャパンさんとのつながりができました。また、レゴマスターモデルビルダーである直江和由さんとの出会いもあり、その後のレゴブロックのイベントに協力していくことになります。

 中でも一番大きなイベントは2008年に「那須ハイランドパーク」の「レゴスタジアム」で行った「BRICK FAN TOWN」という大型展示です。この展示にはプロデューサーの一人として参加し、レゴブロックファン53人と直江和由さんによる共同制作で、7.5メートル×4.5メートルの巨大な欧州の街をつくりあげました。

 私がこのイベントで目指したことは、書籍同様「レゴブロックで凄い作品がつくれること」ではあるのですが、もうひとつ裏テーマを持ちました。それは、「その凄い作品はキミでもできる!」っていうメッセージです。

 展示場所となっているレゴスタジアムには、ほかにも直江和由さんの制作した大型のモデルが多数展示してあり、どれも圧巻の出来映えです。ですが、それらを見た一般人の感想は「スゲェ」で終わりです。そこで、この「BRICK FAN TOWN」では作品サイズこそ大きいですが、建物のひとつひとつは「モジュールタウン」というレゴブロックのフォーマットに合わせました。

 ですから、完成度自体は高くても、「もしかすると似たような建物はつくれるんじゃないか?」と思えるような、来場者にとって「等身大」の作品を展示したのです。この試みは成功し、感想アンケートには「私もこんなのつくりたい!」という言葉を多く見ることができました。

見えない場所まできっちりと作り込まれたレゴブロックの街

 「レゴブロックを続けてほしい」という願いから始めた啓蒙活動ですが、レゴアーティストとして名前が売れるにつれワークショップや作品展示の依頼がくるようになりました。幸い、WEBデザインの講師経験がありましたので、ワークショップ自体は抵抗ありません。書籍に掲載しているテクニックを盛り込んだ作例を用意し、ただ一緒に組むだけでなく、レゴブロックで作品をつくるためにはどうすればいいかを教えてきたつもりです。

 依頼自体は子ども向けが多いのですが、実は大人でもガッツリ楽しめるようになっていて、私のワークショップを受けた方々は結構感動して帰っていってくれます。もちろん、ワークショップと同時開催している、作品展示も好評でした。

ワークショップで人気の「イルカ」。パーツが入手困難となり今では開催しにくい

 書籍の出版に加え、イベント展示やワークショップなどの啓蒙活動を行っているうちに、作品の制作依頼が来るようになりました。

 残念なことに、レゴブロックは部材の原価が高いので、なかなか受注に結びつくことは少ないのです。それでも小さな仕事をコツコツこなして実績をつくっていった結果、2年もすると大型案件の発注もいただけるようになり、ゲームショウやモーターショウなどでも大型ジオラマを制作展示できるようになりました。

 作品制作のスタンスとしては、クライアントの要望を活かした作品を作るだけでなく、どこか見る人を楽しませる「お遊び」を入れています。例えば、東名高速道路のサービスエリアのジオラマでは「アイスを落として泣いている子ども」とか、立教大学の校舎では「木の下でバットを持っている長嶋茂雄」とかです。

依頼作品には見る人が楽しむお遊びが入っている

レゴブロックなら、誰でもクリエイターになれるチャンスがある

 作品を制作したり、ワークショップをしたりしていると「先生!」と呼ばれることもあり、クリエイターというよりアーティストになった気分です。このままいけば、いつ作務衣を着てお猪口で一杯やりながら「フフフ、士郎のやつめ」とつぶやいてもおかしくありません。ですが、これは私だからできたサクセスストーリーではなく、素材がレゴブロックだからできたことだと思っています。

 前編で書いたように、私は「芸術家適正がゼロ」だと思っていました。ですが、ゼロなのは「技術」であって「能力」ではなかったのです。例えば、定規も使わず1本の線をまっすぐに書ける人もいえば、粘土でどんな形でも作れる人もいます。これらは、あくまで技術的なアプローチですが、この技術がなければ作品をつくれません。

 ところが、レゴブロックであれば、組み方の手順さえ知っていれば「誰でも同じものがつくれる」のです。つまり、技術がゼロでも、年齢や性別にかかわらず(お金がなくて買えない場合を除き)、作り手のセンス次第で勝負できるアイテムなのです。

 レゴアーティストとして名前を売ることが難しそうに感じますが、以前よりもたくさんの手段があります。例えば、個人のウエブサイトをはじめ、TwitterやInstagramなどのSNSに作品をアップしていくこともできますし、コミックマーケットで同人誌を売ったり、ワンダーフェスティバルで作品を展示したり、方法はいくらでもあるでしょう。

 ただ、注意すべき点としては、「ノリでつくる何でも屋」になるのは止めたほうがいいと思います。例えば、「トイレットペーパーの買い占め」風景をコミカルなジオラマにしてバズったところで、それは「ネタ」が「ウケ」たのであって、作品が評価されたわけではないからです。ですから、自分の挑戦したい専門分野を持ち、それをつくり続けることが大切だと思います。

 ちなみに私はロボットとかメカ系を専門としているのですが、仕事でつくった大型作品のイメージがあるせいか、あまり認知されていません(苦笑)ただ、数年前から作品をつくり続けているスチームパンク関連作品は、多少は評価されており「スチーム・パーク」や「蒸気博覧会」などにゲストアーティストとして呼ばれることもあります。

レゴブロックでスチームパンクの世界観を表現
「宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち」で登場した「機工甲冑」。オモチャもプラモも出ないのでレゴで作ってみました
「ビルダーバイブル」のカバー用に制作したモデル。ミサイルポッドからの発射表現が凝ってます

 レゴアーティストとして知名度があがり、作品の依頼が来たら、できるだけ受けてください。絶対無理なものは、それはそれで受けてはいけませんが、時間と予算を含めて何とかなりそうなら基本的に断ってはいけません。なかには納期が厳しいものや、依頼作品が自分の作風と合わないものもあるでしょう。「まだ、準備ができていない」不安があるかもしれません。でもね。それは仕事で受ける以上、自分が努力して寄せていくしかないのです。

 私も、「これは無理かな?」という依頼を何度か受けたことがあります。そういう場合は「サイズを調整する」「作品数を減らす」など、「何ができて、何ができないか」を伝え、落としどころを見つけることが、レゴアーティストがやるべきことではないでしょうか。ですから、もしみなさんの中にクリエイターとして売り出したいと思っている人がいたら、要求するのではなく解決してあげてください。

 例えば、2メートル×3メートルのジオラマを制作してほしい……という依頼がありました。予算的には多少余裕はありましたが、何といっても時間が足りません。そこで、海エリアを作ったり、イベントの名前をモザイクで作成したりして、実質2メートル×2メートルくらいのサイズに落としこんだこともあります。

 余談ですが、私の場合、ベースとなったのはロボット製作の技術ですが、苦手ジャンルも引き受けることで技術が向上していきました。実は、建物、メカ、動物など、ジャンルの異なる作品をつくる技術は似て非なるものです。ですから、一定のジャンルしかつくらない場合は技術に偏りがでてしまいます。逆に、苦手なジャンルをつくることで手数が増えますから、作品制作で使う技術に幅が生まれるのです。

 例えば、TVチャンピオンで制作した伊勢エビの場合、身体の甲羅がある部分の造形にはレゴブロックの基本技術である「積分」的な技術、そして、顔やひげなどにはメカ制作などで使われる「見立て」を利用した緻密な造形が使われています。まあ、わかり安い言葉に直せばレゴブロックで「無想転生」が使える、知識が増えるほど他への転用が無限に可能になるってことですね(笑)。

TVチャンピオンで制作した伊勢エビ
立教大学の校舎を制作中の画像。レンガ造りの重厚さを出すために茶一色のパーツだが、すべて2×2のブロックで交互になるように組んでいる
成田空港を制作中の画像。セキュリティ上の問題から図面が手に入らず、複数の画像から想像して組み上げた
富士川SAを制作中の画像。現地にロケハンに行ったものの、高所恐怖症で観覧車には乗らずに、四方から写真を撮って制作。自重を支えるために、テクニック系パーツで補強しながら組んでいる

 私は、レゴアーティストとしての仕事を通じて、たくさんの知人を得ましたし、日本各地へ行くこともできました。そして何より、自分が死んでも残る作品をつくることができました。ですから、辛いことがなかったとは言いませんが、絶対にやってよかったと思います。

 正直なところ、今回私の軌跡をまとめ直してみて、いろいろなタイミングがかみ合ったなと感じる部分はあります。ですが、パーツの種類は増える一方ですし、名古屋に「レゴランド」もできました。ですから、レゴブロックを取り巻く環境は年々よくなっていると感じます。ですから、レゴブロックが好きで、レゴアーティストという職業に憧れるなら、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか?