インタビュー

サウンドの再現&新たな2曲の制作エピソード、そして次回作は……? 「3D アウトラン」インタビュー Part2

「アウトラン」サウンド果汁100%の新曲を!

「アウトラン」サウンド果汁100%の新曲を!

並木氏による新曲が「Cruising Line」(クルージングライン)

――ここまでは移植マイスターとしての並木さんのお話でしたが、ここからはコンポーザーとしての並木さんのお話をうかがえますか? 今回、新曲が加わったということで驚いています。

並木氏:ええ、新曲はですね……今回、「楽曲を追加しよう」という話は誰のアイデアだったんですかね?

奥成氏:歴代の「アウトラン」は、移植や続編制作の際に新曲を追加してきたという経緯がありまして……。「今回はどうしよう?」という話になったときに、セガサターン版のように既存曲のアレンジをストリーミングで流そうとか、家庭用移植で追加された「STEP ON BEAT」(メガドライブ版)や「SHINING WIND」(アウトラン3D)をそのまま流そう、とか、これら家庭用追加曲をアーケード基板風にOPM(FM音源:YM-2151のこと)アレンジするのはどうか? といったプランが出てきたんですよね。その話し合いの中で、まず「容量に影響の出るストリーミング再生はやめましょう」、「過去の曲をただ入れるのはやめましょう」といった話になりまして。結局「新曲です!」という話になりました。決めたのはディレクターの松岡さんか菊地さんだと思うのですが。

並木氏:その2人が話し合っていく中で、僕もそこに参加したりしましたね。エムツーで僕らが新曲を作るんだから、当然ストリーミングではなく、アーケード版の既存曲と同じように、Z80のサウンドプログラムがFM音源やPCM音源を演奏するという、まったく同じ仕組みでやろうと。「アウトラン」のデータフォーマットに準じる形で新曲を書きましょうと(笑)。

堀井氏:つまりROMに乗せれば、アーケード版でも再現できる形なんですね。

並木氏:これも本当に、普通だったら考えられないというか、「何を言っているんだこいつらは?」の世界ですね。

――(笑)。

奥成氏:たぶんエムツーの中でも、並木さんご本人からじゃないと提案できない話だと思いますから……。

堀井氏:もう1曲の新曲を担当したJane-Evelyn NisperosことChibi-Techは「3D ファンタジーゾーン」の時に作った「UPA-UPA!」を「元のサウンドドライバで鳴らせるよ!」と言ったらパァーッと明るい顔をするんですよね。「それだよね!」みたいな顔をするんで……。やらないとねー。あれは結局ストリーミングで鳴らすことになったんですが。

奥成氏:あれは1曲だったし、短かったので容量にほとんど影響ないこともあって、別の作業を優先してもらいました。

並木氏:だいぶ昔の話になりますが、2008年にプレイステーション 2で「ファンタジーゾーンII」のシステム16版が制作されたとき、当時自分はベイシスケイプで専属のコンポーザーをやっていて、そこでそのお仕事をいただいて、その酔狂なプロジェクトに混ぜていただいたわけですが……その時点でエムツーのプログラマの齊藤君と僕でセガのFM音源サウンドドライバーのデータフォーマットなどの調べはだいぶ出来ていたんです。

 それから「3D スペースハリアー」で「HAYA OH」のBGMを追加したときも、齊藤君が勝手に、僕が何か言う前に彼が作って入れていたんで(笑)……あとから僕が音程のズレなど修正を含めてアレンジし直したということがありまして。幸い当時のセガさんのサウンドのテクニカルな部分はだいぶ解析が進んでいたんですね。ですので「アウトランも新曲、いけるんじゃないか?」ということで手がけることになりました。

 この利点というのは、僕らがやるからには、すべてのFM音源の音色データ、PCMデータ(リズム音)を既存のアーケード版「アウトラン」で使用されていたもののみ使って曲を作ることで、同じような感触で聴けるものが作れる、ということですね。いうなれば「アウトラン」サウンド果汁100%で新曲を作りました。

奥成氏:まざりっ気なしの音色で、ですね。

堀井氏:何も足さない、何も引かないという。

並木氏:僕が担当したのは「Cruising Line」(クルージングライン)という曲で、曲名の由来は、「アウトラン」の楽曲って、「WAVE」とか「SHOWER」とか「BREEZE」とか、キラキラしたものや海や風を連想させる、そんなところをドライブするようなイメージだったと思うんですよ。なので、自分もドライブをイメージするキーワードを入れようかなというときに、「ドライブ」という言葉をそのまま使っちゃうとひねりがなかったんで(笑)。

堀井氏:ないっすね。

並木氏:1980年代の頃をいろいろ思い出してみたら、クルマでドライブすることを、「クルーズ」とか「クルージング」といった言い回しの初めのころ……たぶん1980年代の後半だったと思うんですが、「アウトラン」の頃は中盤なので、まだそういう言い方はしてなかったかな? と思いつつも、「クルーズ」とか「クルージング」の語感は悪くなかったので、それを使うことにして、なおかつ、あまり「具体的な何か」をイメージさせる言葉を使うのも他の曲と並んだときに違和感を生じてしまうんじゃないかと不安があったので、当時活躍した日本のフュージョンバンド、「カシオペア」や「スクェア」の曲名みたいな感じで、抽象的でぼんやりした感じ……「ライン」という言葉は「道路」ともとれるし、「水平線」みたいなものにもとれるし、「飛行機雲」みたいなものにもとれるし……どうとでもイメージできるけれど、意味を特定しないというキーワード(笑)を……。

 やっぱり、アーケード版のオリジナル3曲が柱になっているので、その脇に華を添えるような存在を目指してみました……。皆さんお好きなのはやっぱり既存の3曲だと思いましたので。曲名もあまりそこで主張を強くするのもなあ、と思いましたので……あくまで脇役のつもりですね。

 曲自体は、「アウトラン」の楽曲って個人的な印象では、フュージョン系のミュージシャンで言うと、松岡直也さんあたりにけっこうインスパイアされていると思うんですよ。なので、1980年代のジャパニーズフュージョンにインスパイアされている感じ、というのは入れておくといいかなと。

奥成氏:源流からたどっていったんですね。

堀井氏:並木さんらしい……。

「アウトラン」といえば、海辺と椰子の木とクルマのイメージという方も多いだろう

並木氏:もっと調べていくと、日本のフュージョンというより、ジャズピアノとかラテンフュージョンなんですよね。松岡直也さんのアルバム「The September Wind」あたりのジャケットも、いわゆる1980年代のアメリカングラフィティー的なイラスト(永井博氏によるもの)で、「海辺と椰子の木とクルマ」といったものがあの当時多かったんですよね。雑誌「FM STATION」などでイラストを描かれていた鈴木英人さんなどのイメージなども思い出しましたし。「アウトラン」のデザインやサウンドを含めたトータルなイメージは、あの時代のアートや音楽にインスパイアされていたんじゃないかな、と。

 それを意識しつつ、ただそれに沿うようなものを作っても、あえて新曲を作る意味としてはちょっとどうなのかな? モチベーション的にもどうかな? と思ったので、では切り口を変えて、ラテンフュージョンではなく、ジャパニーズフュージョンの色味を加えてみたらどうかな? と、ちょっと意識してみました。

 特に何かジャパニーズフュージョンの既存のバンドのアルバムや楽曲を意識して作ったというほどではないのですが、自分自身、10代の頃にそういった音楽にテレビやラジオ、レコードを通して触れてきましたし、友達のギタリストがそういったバンドのコピーをやっていたりと経験もあったので、その時代のイメージで作りましたね。

 楽曲自体はけっこう明るめな感じで、「アウトラン」の中でも、イントロとか底抜けに明るい方に入るんじゃないかと思います。既存の3曲とはまた違った切り口で作りたいというのが大前提としてあったので、始まりからすごくわくわくしてキラキラした曲にしたいな、と。

 それから、「アウトラン」というゲーム自体、恋人と一緒にドライブを楽しむというシチュエーションをフィーチャーしているので、その恋人と一緒にドライブするときに聞きたい音楽っていうのがたぶんプレーヤーのニーズ、フックとして1つあるんじゃないかなと思いまして。自分が新曲を書くときのモチベーションはどこにあるのかな? というと、やっぱりそこに行き着いてですね、まあ、当時中学生だった僕も今では気づけば40過ぎのおっさんではあるんですけれども(笑)、きれいな景色の中を、最愛の素敵な女性を助手席に乗せてドライブするときのわくわく、キラキラするフレッシュな気持ちっていうものを、わりとストレートに曲にしてみました(照れ笑い)……ちょっと恥ずかしいんですけれども。「かけがえのない、価値ある時間」みたいなものをゲームプレイに演出できれば、と形にしてみました。

一同:(にっこり)

――あの時代を体験している人が、そういった思いで作る曲っていいと思うんですよね。面白いと思います。Chibi-Techさんにも曲作りのエピソードを聞いてみたいですね。

堀井氏:彼女は今、ヨーロッパへのライブで残念ながら遠征中なのですが、戻ってきたらコメントをお送りします。

並木氏:それともう1つ、フックになる部分というものを作ってみました。「アウトラン」はコースが進んでいくと場面が切り替わっていきますよね。最初は海岸で、ニューバージョンだと崖かビッグゲート……と情景が変わっていくので、曲自体も大まかなイントロとかAメロとかBメロといった展開ごとに、わりと場面をイメージさせるようなものに……イメージは聴き手の方に自由に場面を思い浮かべていただければいいのですけれども、展開としては、それぞれがバリッとイメージが変わるような曲にしたいなと思って作ったので、そこが聴き所かなと。

 イントロはわくわくしていて、Aメロはさわやかな天気で、Bメロはちょっとお花畑みたいな感じで。「アウトラン」はどっちかといえばカッコイイ曲が多かったと思うんですが、ちょっとポップな要素も入れたくて。サビはやっぱりクルマでどんどん先に進んでいく、という感じに戻ってきて、「先にどんな景色が待ち受けているのか?」という感じも表現したくて。

 後半になると、ムードがガラッと変わって、落ち着いた雰囲気になります。既存曲でいうと「PASSING BREEZE」も落ち着いた感じですが、そこはオマージュというか、リスペクトしていて、ムーディーな感じを踏襲してみました。

 そんな感じで、僕が「アウトラン」や1980年代の背景やジャパニーズフュージョンや、想像の世界ですけれども、「アウトラン」の美しい世界の中に、自分の愛する女性とドライブしたらこんなイメージじゃないか、といういろんなものをまぜこぜにして、1つの「Cruising Line」という曲にまとめてみました。ぜひ、聴いていただきたいな、と。

 それともう1つ。僕自身、ケイブさんなどのシューティングゲームのBGMをたくさん作ってきましたが、ゲームの進行と楽曲のシンクロというのが自分の1つの音楽制作のテーマとしてありまして。今回の「3D アウトラン」でもそれをやってみようかと。どこまで追い込めているか、というのは完璧ではなく、ラフなところではあるんですが、それを意識して作ったので、事故らずに、上手に走っていただければ、途中分岐するところで曲調が切り替わっていく感じにしてあります。

 なぜそうしたかというと、ゲームに慣れてゆけば、曲の展開が分岐と合うようになっていくことで、上手に走れている、というのが実感できるよう、目標となるようにしたかったんですね。うまく走るための目標というか。上達してくると、ゴールまで気持ちよく走れる曲にしたいなというのがありましたので、それを意識した曲作りをしてみました。それが自分が新曲を書く意義の1つではないかと。プレイと共存する新曲のアイデアです。

堀井氏:並木さんらしいね。ほんとにね。

並木氏:人によってはさらっと聞き流す曲かもしれませんが、このプロジェクトに自分が関わったからには、いろんなことを盛り込みたいなと欲張ってしまったので(笑)。気に入っていただければありがたいです。なにせ、既存の3曲がものすごい強力なので、「3D アウトラン」の新曲として「Cruising Line」も選んでいただければうれしいなと思います。今の自分があの当時の「アウトラン」に曲を書くならこんな感じかなと。

堀井氏:並木さんにはぜひ「サンダーブレード」でも新曲を書いていただきたいなと。

並木氏:(笑)。

奥成氏:「サンダーブレード」は、自機のスクロールスピードは任意ですから、あれは並木さんには……。

堀井氏:またそういうレスをする(一同笑)。

奥成氏:並木さんには、違うゲームの曲を書いてもらいたいかなー(一同笑)。僕は「バーチャレーシング」がいいなーとか言ってみたり。BGMを付けてみる、という。

並木氏:「サンダーブレード」は並木晃一さんですし。

堀井氏:そこはダブル並木で。

――(笑)。堀井さんの夢は広がりまくりですね。並木さん、ありがとうございました。

【Chibi-Techさんのコメント】

Chibi-Techさんによる新曲「Camino a Mi Amor」(カミノ・ア・ミ・アモール)

――あなたにとってアウトランとは?

Chibi-Techさん: 正直なところ、自分のアウトランとの出会いは、だいぶ変わっていると思います。「アウトラン」がリリースされた時、自分はまだ小さかったので、もっと大きい子供たちが遊ぶのを見ているだけでした。車がクラッシュするたび、ゲームの中の車から、人が飛び出すのを見ては笑っていました。当時はまだ、アクセルペダルに届かないほど小さかったので、自分では遊べなかったので……。

 1990年代前半に、ようやくゲームを遊べるくらいの身長になったのですが、ちょうどその頃MTVでは、飲酒運転の危険性を呼びかけるCMが放送されていました。なぜか「アウトラン」のプレイ画面が使用されており、ハンドルを握る手がゲームを操作しており、繰り返し車をクラッシュさせる映像です。そして、その都度、酷く恐ろしい効果音が追加されていました。

Chibi-Techさん: 今振り返ってみると、ずいぶん子供っぽかったと思いますが、自分はCMを見て想像力を発揮しすぎたせいで、「アウトラン」をプレイするのが怖くなってしまいました。でも、実際にアーケードで遊んでみると、このゲームが本当は楽しいということが、ようやくわかりました。そして、クラッシュする度に、恐ろしいことが起きるマシンでないことも。

――楽曲「Camino a Mi Amor」の制作について

Chibi-Techさん: もうずっと前から温め続けていたアイデアが花開いた感じですね。自分はカリフォルニアで育ちましたが、英語とスペイン語、両方のラジオ局がありました。自分が高校を卒業してすぐ、まだガソリン代も安かった頃は、カーステレオを大音量にしてドライブするのが大好きでした。同じ時期、自分はラテンフリースタイルの音楽にハマっており、地元のスペイン語のダンス系のラジオ局から流れてくる音楽をよく聞いていました。そして、思ったのが、こういう音楽が「アウトラン」にはぴったりに違いないと。

 現在、エムツー所属の作曲家として、自分の小さな夢がひとつ叶いました。自分がドライブの時、流していたように、「アウトラン」のゲームでも、スペイン語のダンス系のラジオから流れてくるような音楽を入れることができました。元々、「アウトラン」のサウンドトラックはラテン系の音楽でしたが、自分が「アウトラン」向けに、ラテンフリースタイルのダンスミュージックを制作するのは、もはや必然だったと言えるでしょう。

奥成氏:並木さんの想いは、ぜひ曲を聴いたあと、もう1度このインタビューを読み返していただけると、いろいろ感じ入るところがあるんじゃないかなと思います。並木さんの「Cruising Line」は1番左、Chibi-Techさんの「Camino a Mi Amor」は1番右です。

 それからこれも発表させていただきますが、ソフト発売後になりますが、ゴールデンウィーク明けの5月7日に、「アウトラン」のサントラを配信することが決まりました。アーケード版の「アウトラン」、「ターボアウトラン」、「アウトランナーズ」と「アウトラン2」の曲を3種類のアルバムで発売します。そして! ボーナストラックには、今回の3DS版追加曲2曲を収録します。もちろん単体でも買えますよ。

堀井氏:このために、サウンドROMも作りました!

奥成氏:はい。サントラは3DSからは録らずにあえて「アウトラン」用のサウンドROMを焼いて、実際の基板に載せて録音しました。まさしく「本物」の音です。本当は意味的には逆なんですけど(笑)。

――それは凄いですね。そちらも楽しみにしています。

(佐伯憲司)