インタビュー

3DS「3D ザ・スーパー忍II」インタビュー

「『ギガドライブ』も「Ver.2.0」になりました」

「『ギガドライブ』も「Ver.2.0」になりました」

――縦スクロールもありましたよね。

奥成氏:今回いろいろ苦労した中でも最たるものの1つですね。例えば6-1ですよね。いわゆる“縦ラスター”への立体視は初の試みなんですよね(と言いながら3DSを見せる)

 この岩壁と、あと2-2のエレベーターの縦ラスターに立体をつけるのは本当に苦労しましたね。これはもう出来上がった後だから、「『ギガドライブ』ではこうして立体視化されているんだ」と簡単に思うかもしれませんが、この部分を立体視化するにあたって、「ギガドライブ」も「Ver.2.0」になりました。このおかげで。

――(笑)。


6-1。縦分割スクロールの典型的なステージ
2-2。ここも縦分割スクロールが使われる

堀井氏:来ました「2.0」! 「ギガドライブ」を作っていたスタッフたちも、立体視に対応させるには「3D ソニック」で策定した機能で十分だと思っていたら、「違った!」って……「縦ラスターかー!」……縦ラスターって言い方もおかしいんですけれどね。「縦分割スクロール」ですね。

奥成氏:ラスタースクロールはあくまで走査線の処理の問題なので、この場合は「縦分割スクロール」が正しいですね。

堀井氏:まあでも、みんな「縦ラスター」って言ってましたけどね。「縦分割スクロール」に対しての立体視についての仕様策定を行なったのが「ギガドライブ Ver.2.0」の1番大きな変更点になります。

――こうして見せていただくと、縦分割スクロールに深度が付いて立体視化されると、気持ちいいですねー!

堀井氏:気持ちいいです。

奥成氏:映像的に、BGが2枚しかなかったメガドライブを、どういう風に立体的な映像を見せるかというところにすごく凝っているのが後期のタイトルなんで、そこをそのまま3Dにしてあげれば、3DSのゲームになったときの立体感もそのまま増していくわけなんですよ。

 ですが、その立体感を持たせる映像はさまざまな手法で行なわれているために、全ステージ1つのプログラムで立体化できるわけではなく、1つの手法でできるわけでもなく、各ステージごとにオリジナル版のプログラマーがメガドライブの機能を駆使して作った3D演出を1つ1つ分析して、それを3D立体視化するために、新たな「ギガドライブ」そのものの機能を場合に応じて拡張していくということになった訳です。

 これが、まさに「3D ギャラクシーフォースII」のインタビューでも話に出た「1つ1つの泥臭い地道な作業」で、それが21ステージ、もちろん1つのステージの中でも、1つの演出を立体視化して終わりではないので……同じようなところもあれば、全然違うところもあるわけで……。本当に、よく終わったなと。

堀井氏:微妙に期間があふれましたね。

奥成氏:微妙にあふれましたけれども、本当に時間との戦いでした。

堀井氏:立体視のプログラムは、その微妙にあふれた時間があるかないかのところでも、「ロスタイム」とかいって新しく立体視化してたりしてましたからね。本当に。縦分割スクロールの立体視化がここまでうまくいったので、別のゲームでもやりたいですね。「サンダーブレード」を実現できたら、その後にやってみたいゲームが出てきた。

――(笑)。

今回1番苦労したという7-3のシーン。実際に3D立体視でご覧いただければ、どういうことか理解できると思われる

奥成氏:そして、このタイトルで1番苦労したのが、ラスボスです。これはもう見ていただければわかりますので、まずオリジナル版のままの2Dで見てみて下さい。

――これ、素人目にも気合入ってますよね……。

奥成氏:ものすごく3D感のあるビジュアルなんですけれども、もともとはラスターでうねうねさせているだけの1枚絵なんですよね。これはやはり、3Dにしたいんですよ。

――手前から奥に延びている床の部分と、天井の部分は3Dのつもりで作っていますよと。

奥成氏:「スペースハリアー」の床や天井みたいな感じで、ここは3Dとして見てね、というデザイナーの意思がここにあるわけですよ。でも深度情報なんてもちろん何もない。だからここはファイナルの直前まで2Dだったんですよ。ですが、この絵に対して2Dであるのは、オリジナルをリスペクトしているとは言えない……と、エムツーさんの「忍」担当者が、ギリギリのギリギリまでやって……では、もう1度3Dで見てみて下さい。

――本当に見た目のまま立体になっている(笑)。この場面って、上下のワイヤーの部分と、背景の波打っている部分は別のレイヤーですよね。

奥成氏:別のスクロール面がそれぞれラスターしているんですよね。ここは、1枚絵でラスターでうねうねしているだけのワイヤーの絵を奥行きを与えているんですが、今までの「ギガドライブ」では手前と奥に流れるものに別の深度を与えて立体視化していたんですが、このワイヤー面を奥に倒しこんで斜めに深度を与えているわけです。

――(笑)。そういうことなんですね。ついにしでかしたというわけですね。いつかそうなる、というパターンですが、そうなりますよね。

奥成氏:2枚の深度の違う平行な絵を立体視化させるのと、斜めに奥行き側に倒しこんでそれに立体視を付けるということには、手間には雲泥の差があるんですよ。ラスタースクロールの立体感というのは、スプライトを多重で並べた「ギャラクシーフォースII」の立体感と同じで、たくさんの階層が平行したものがずらされて表現されているものなんですが、絵が倒れているというのはそれとは別の話で。

――横1ラインごとに深度を付けて別にするということなんですよね? それって、できなくはないんですよね?

堀井氏:できなくはないですが、すごく処理がかかります。

ステージスタート紹介画面。ジョー・ムサシが岩の上に立って、眼下には森が広がっている……ここにも深度情報が付加されている

奥成氏:同じく、ゲーム開始時のステージスタート紹介演出の時点で、空に浮かぶイメージイラストと、手前のジョー・ムサシの立っている場所は違う場所ですし、背景も森は画面奥へ向かって広がっているわけですから、絵を倒しこんでいる表現になっていて、ここを立体視化するだけでもえらいことになったわけです。

――平面のものを斜めに倒しこんでいる表現のところが、立体視化したときに今までの「ギガドライブ」にはなかった表現で、負荷もかかっていると。

奥成氏:そうです。

――最終面のようなビジュアルは、ラスタースクロールが登場してから、皆さん割と普通に使われてきた表現ですね。

堀井氏:常套手段ですね。

――それを3D立体視にするとどんなことが起こるのか、ということですね。

堀井氏:そもそも、誰も3D立体視化するなんて考えてませんからね。3Dに見えればいいと思ってやっていることなので。恐ろしいことになるんですよ。

――いや、これを立体視化するのは大変なことですね。

堀井氏:ここに深度を付けて立体視化したプログラマーは、今回「ギガドライブ」を初めて触ったんですよ。それまではゲームギアのバーチャルコンソールを担当していて。「試しにやってみる?」って言ったら、(深度を)付けまくってくれて。

――(笑)。

堀井氏:いや、もう1番最後まで往生際の悪い仕事ぶりで、最後までやってましたからね。

――そういう仕事ですよね。このプロジェクト自体が。基本的に往生際の悪い……(笑)。

堀井氏:そうですね。そうそう(笑)。むしろ、仕事に入ってくると、「何面白いことやってるんだよ」ぐらいの勢いで。

奥成氏:後は、多分、一般の人には全然刺さらない、私も説明されるまでまったく気づかなかった、地味なところなんですが、一部の演出で、小技としてかなり凝ったプログラムを使っていて、そういうところでは、ことごとく立体視するときに破たんしましたね。たとえば3-1とか。

堀井氏:他社のシューティングタイトルなどでも使われていた技術なんですが、四角い絵を1ドットずつシフトさせることで、あたかも1枚の背景をスクロールさせているように見せる技術です。その代わり背景の絵が四角になる制限があるんですが……BGのセル回しというべき、ああいうのを今回の「ギガドライブVer.2.0」では、全部立体視に対応しています。これがステージでいうと3-1の生体兵器の研究施設のシーンですね。

――なるほど、確かによく考えると、メガドライブではハード性能的には不可能なグラフィックですね。

堀井氏:ここは一見すると山のようにBG面があるように見えますが、これは四角の絵を敷き詰めて背景に見せているんですよ。これは同じパターンの詰め合わせというか、敷き詰めになるんですね。そうすると描くのが1ブロック分だけ描き換えになるので、描画領域も少なくてすみますし。メモリの節約にもなりますし。処理も軽くなります。

【3-1を立体視化するにあたっての工夫】

3-1。多重スクロールの典型的なステージ。上下の枠部分、さらに奥に実験槽が並ぶ部分は2重にスクロールしており、2枚しかBGがないメガドライブでそれ以上の多重スクロールをやっているように見えるのだが……
【実装画像に対する3-1の場合のギガドライブのBG面割り当て】
エムツー制作による立体視版の画面構成と手法の図
 ギガドライブ上図
 通常BG-AFG LAYER (ウィンドウ)
 通常BG-B非表示
 拡張BG1FG LAYER (手前)
 拡張BG2FG LAYER (奥)
 拡張BG3BG LAYER (A)
 拡張BG4BG LAYER (BとC)

・AとCは見たままのスクロール速度で動いている。
・BについてはCと同じ深度で拡張BG4に描かれているが、セル書き換えアニメをしつつAと同じスクロール速度で動作。

※セルアニメを停止してCと同じスクロールにするという手も考えられるが、それをやるとオリジナルとは違った表現になってしまう。
(画面全体が点滅しているので気が付かないかもしれないが、色々な動作をさせながら目を凝らしてBを見ていると、きっちりとCとは同期していないことがわかる)

アニメーションによる多重スクロール部分も立体視化にあたっては別に起こして(BG LAYER B)上に示すようなアニメーションタイルを敷き詰めて連続で書き換えることで、あたかもスクロールしているように見せている。立体視版ではこのタイル部分にも別途深度情報を付けている

――いやー、これは賢いなー。

堀井氏:賢いんですよ。みなさん気が狂ってるよねー。でもその技をそのままいつものように「ギガドライブ」で深度を持たせようとすると、なにもなくなっちゃうんですよね。今回は、セル単位でこういうことをやっているゲームのための機能拡張をやったんですよ。

――なるほど。そうしないと表現できないんですね。

「なるべく空間を感じて欲しい、という意図があったということがわかってしまったら、何かやりたくなる」

奥成氏:最初の目論見が甘かったんですが……実は、複数のタイトルを選んだなかで、当初1番大変だと思っていたのは、次に出すゲームと「ソニック」だったんです。選んでいった中で。ではまず1番大変なゲームのうち1本を真っ先に出してしまおう! と。

堀井氏:「『ギガドライブ』の命運をかけてやっていこう」、ぐらいの勢いだったのに……。

奥成氏:「とにかく、みんなを驚かせてやろう!」って思って、できる限りのことをやって、「ラスターを倒して立体にしたら、きっとみんなビックリするよね」とやってみたのが「3D ソニック」だったんですね。でも、実際にやってみたら、全然甘かったです(笑)。

――(笑)。

堀井氏:そうだねー。

奥成氏:(タイトル選定の段階で)もうちょっとよく見ないとだめだったね。

堀井氏:そこまで手をかけるかかけないか、ということを考えたら、結局「3D ソニック」を先に出してしまったがために「じゃ、あれもできる」、「これもできる」っていう風に、後からなってしまったのがいかんですね(笑)。「3D ソニック」が最後だったら、「じゃ、これ(「ザ・スーパー忍II」)はこのへんで」ってことで収まっていたかもしれない。

――(笑)。とはいえ、往生際の悪い(笑)皆さんのことですから、順番が変わっていてもやっぱり「あれもできる」、「これもできる」ってなっていたような気もします。

堀井氏:社内的には、「これをやっておけば『3D ソニック』もすごいことになるんですよ」とか言ってたかもしれない。

――(笑)。後期のタイトルを先に手を付けていたら、アーケードのシリーズと、「ギガドライブ」のシリーズに、リリースの期間にちょっとラグができていたかもしれませんね。1つずつタイトルが仕上がっていく中で、そこで生まれた手法を使うことで、次のタイトルがさらに良くなっていくということが今までもあったじゃないですか? そうすると、どんどん効率化は進んでいきつつも、「あれもやんなきゃ」、「これもやんなきゃ」という部分が増えていって……。そういう意味では、先に「ザ・スーパー忍II」に手をつけていたら、「ギガドライブ」のタイトルがなかなかできあがらなくて、「3D スーパーハングオン」の後、夏まで何も出なかったりとか(笑)。

堀井氏:それはあるかもしれません。

奥成氏:結果的に「ザ・スーパー忍II」は、「ギガドライブ」タイトルの中でも1つの集大成といえる内容になったかなと思います。

堀井氏:とりあえず今、お伝えできる「ギガドライブ」タイトルの中では、全部入り、乗せられる具は全部乗せましたという内容になりましたね。

奥成氏:「ザ・スーパー忍II」の開発を経て、ようやく「ギガドライブ」が完成した……。

堀井氏:と、言いたいところなんですが、細々と問題が多いですし足りない部分も多いです。例えば「ガンスターヒーローズ」をやろうとしたら、「ギガドライブ」はまだ拡張しなければならないですしね(笑)。

――多関節キャラクターとか、最後期のメガドライブタイトルはさらに変態仕様ですもんね。

奥成氏:じゃあ「ギガドライブ Ver.2.0」がこのタイトルで完成ということですかね。メガドライブの後期、当時、とても立体感を感じた演出の数々をエムツーさんが泥臭く1つ1つ立体視にしていっているという。

堀井氏:当時メガドライブでグラフィックスを描いた方たちや、それをゲームに乗せるプログラマの方々も泥臭く、その当時は平面のブラウン管だったけれども、なるべく空間を感じて欲しい、という意図があったということがわかってしまったら、何かやりたくなる、それに応えたくなる、ということなんです。

奥成氏:そこが「3D ザ・スーパー忍II」の、泥臭いけれども、1番見ていただきたいところですよね。

(佐伯憲司)