インタビュー

「リネージュ2」サービス開始20周年を新井友和日本統括プロデューサーと振り返る

転機となった基本プレイ無料化、伝説の「You BAN」事件、そして"狩り"の楽しさを追求し、次の節目へ

【リネージュ2】

2004年6月25日 サービス開始

リネージュ2日本統括プロデューサーの新井友和氏

 エヌシージャパンが国内サービスを提供中のMMORPG「リネージュ2」が、6月25日にサービス開始から20周年を迎える。

 日本でのサービスが始まった2004年といえば、まだまだオンラインゲームの黎明期という時代だった。今でこそ光回線が当たり前だが、まだADSLという回線が主流だった時代。もちろん、今に比べるとマシンスペックも圧倒的に低いものだったが、そのタイミングに3DでMMORPGを楽しめるというリッチなゲーム体験を提供する作品だった。

 そこから、日本でもオンラインゲームが大きく盛り上がり多数のタイトルがローンチされてきた。そんな中で安定して長期運営を行ってきたのが、「リネージュ2」だ。「リネージュ2」の歩み、転機、20周年記念イベント、そして次の節目への展望について、「リネージュ2」日本統括プロデューサーの新井友和氏にインタビューを行った。

20年で最も大きな転機は基本プレイ無料化。ユーザー数が数倍に増加

――改めて「リネージュ2」が20周年を迎えられたことおめでとうございます。

新井氏:ありがとうございます。日本国内では2002年ごろにMMORPGのゲームサービスが登場しており、その黎明期から次の時代へと移り変わる2004年6月25日に「リネージュ2」のサービスが開始されました。

――新井さん自身も長年の「リネージュ2」プレーヤーだったんですよね。

新井氏:はい。サービス開始当時は、私はまだオンラインゲームに触れていませんでしたが、2007年ぐらいから「リネージュ2」に触れています。

 友達の紹介で「リネージュ2」を知ったのは、ネットカフェが流行っていた頃です。それ以前にも「リネージュ」等のMMORPGをプレイしていましたが、当時は月額課金が大きなハードルでした。しかし、ネットカフェなら無料でプレイできたので、そこで楽しむようになりました。ネットカフェでは色々なジャンルのゲームを楽しんでいましたね。

 今ほどSNSが普及していなかった時代だったので、ゲームを通じて他のプレーヤーとコミュニケーションを取るのが楽しくて、色々なジャンルのゲームを毎日プレイしていました。

 その後、自宅でもプレイするようになり、エヌシージャパンに入社し、「リネージュ2」の担当になってから、約11年経過しました。当時は20年も同じゲームを続けるなんて信じられないような感じでプレイしていましたが、日本統括プロデューサーという立場で、20周年という歴史的な瞬間に立ち会うこととなり、日頃からプレイしてくださっている皆様、本作に携わっている開発やスタッフの皆様、そして「リネージュ2」に感謝しています。

――「リネージュ2」が歩んできた20周年の歴史の中での転機について教えてください。

新井氏:最も大きいのは2019年10月30日に月額制から基本プレイ無料になったことですね。無料化により月額課金というハードルが取り除かれ、多くのお客様に楽しんでもらえる機会が増えました。

 以前から社内でも基本プレイ無料化に関しては協議されていました。当時は多くのオンラインゲームが基本プレイ無料だった中、「リネージュ2」は月額課金+アイテム課金制を維持していました。

 しかし、より多くの皆様にゲームを体験していただくため、プレイのハードルを下げること、そしてアイテム課金制のみにすることで、安定したユーザーベースを確保できると判断し、このタイミングでの基本プレイ無料化に踏み切りました。

2019年の基本プレイ無料化は大きな転機だったと語る

――ユーザーからの反響はいかがでしたか?

新井氏:「リネージュ2」といえばアイテムを売買する機能である「露店(個人商店)システム」を活用しますが、基本プレイ無料以降、露店を出すスペースがないくらい賑わいました。また、ワールドチャットも盛り上がって、狩りやダンジョンに行くパーティの募集なども盛り上がり、コミュニケーションが活発になり、コミュニティの形成という視点でも効果がありました。

――現在の「リネージュ2」では、「ライブサービス」「アデンサービス」「クラシックサービス」という3つのサービスを提供している点が特徴のひとつです。これらのサービスに分かれた経緯について教えてください。

新井氏:2004年6月の正式サービス開始以降、「リネージュ2」は現在のライブサービスのみの提供を行っておりましたが、サービスの長期化に伴ってアップデートによる様々なゲームシステムの変化などもあり、昔ながらの「リネージュ2」をプレイしたいというお客様の要望も寄せられるようになりました。

 「リネージュ2」の新規サービスを検討する中で、こういった声を受けてクラシックサービスのサービス開始に向けて議論・検討が始まりました。日本でのクラシックサービスは、2015年4月1日にオープンいたしました。

 クラシックサービスは、「リネージュ2」のローンチ当初から約5年間のクライアントとゲームシステムを踏襲した「クロニクル4」をベースに、基本プレイ無料+アイテム課金にてサービスを開始いたしました。

 今だから言えますが、当時は「『リネージュ2』といえばBOT」と言われるほど、この頃の「リネージュ2」サービスチームはBOTとの熾烈な戦いを繰り広げていました。クラシックサービスもローンチ当初、BOTが大量に流入し、対応に追われる日々でした。

2015年にオープンした「クラシックサービス」。昔懐かしい「リネージュ2」を楽しめるということもあり、盛況だったという

――MMORPGはBOTとの戦いという面もありますよね。

新井氏:そうですね。ライブサービスも含めてBOTの問題に長らく直面しておりましたので、サービスチームとしてもお客様にBOT対策についてきちんと説明したいと思っていましたが、当時はなかなか成果も上がらず、お客様にご納得いただけるような説明が難しかったと考えています。そこで、お客様の声を参考にしながら、社内でBOT対策を徐々に強化していきました。

 クラシックサービスのローンチ時、ゲーム内で活動しているBOTが一番増加していた時期だったと認識しておりますが、その後1年くらい時間をかけて対策を進め、目に見えるぐらい減少させました。私がその時に責任者だったので、お客様に対して、順次対応していきますということを運営レポート等でアナウンスしていました。

――今につながる、ユーザーとのコミュニケーションを大事にする姿勢は、ここが転機だったんですね。

新井氏:そうですね。日本全体で光ファイバーによるインターネット接続が爆発的に普及し、X(当時はTwitter)などのSNSも急速に広まり、様々な意見や情報発信が飛び交う時代になりました。

 今でこそ、ゲーム運営がプロデューサーレターや生放送などで情報を発信することは一般的になってきましたが、「リネージュ2」ではそれらが流行する前から、プロデューサーレターや運営レポート、ニコ生(ニコニコ生放送)を活用して情報配信を行い、「運営としてお客様に近い目線で話をしています」というメッセージを伝えるように心がけていました。

ユーザーと真摯に向き合ってきたからこそ、20周年を迎えることができた

――20年の歴史を振り返ると、様々な出来事があったと思います。その中で今だから話せる面白いエピソードがあれば教えてください。

新井氏:20周年の特設サイトの中でイベントを開催中で、その中に「Road to 20years」というすごろくのウェブイベントがあります。そのイベントの中で「リネージュ2事件簿」というのを紹介しています。そこで、過去にそういった事件を経験した、現在も社内にいる元GM(現FS、ファンサポート)の当時の印象的な事件をいくつか載せています。事件はかなり厳選し、公開できないことも含めて本当に様々な出来事が載っています。

 詳しくは、イベントをチェックしていただきたいのですが、一例を紹介すると「リネージュ2」を有名にし、ネットゲーム界を震撼させたと呼ばれる「【GM】ボルボンド事件」というのがあります。「You BAN」というフレーズを聞いたことはありませんか?

――聞いたことがあります! 当時、ミーム化していたような……。

新井氏:そのエピソードが「【GM】ボルボンド事件」ですね。不適切なキャラクター名をつけていたユーザーがいたので、GMルームに呼び出し、「どうして呼び出されたかわかりますか?」という話をしたのですが、相手の方が、あまり日本語が得意ではなかったのか上手くコミュニケーションが取れずに、最終的に「You BAN」という発言になりました。このやりとりがなぜかネット掲示板などで爆発的に広まってしまったようです。

 もう1つ、私に関する「【FS】MCアライ(統括P)桜咲く頃アップデート事件」というエピソードがありまして。

――詳しく教えていただけますか?

新井氏:ある年の12月に放送した配信で、次のアップデートの実装時期を“桜咲く頃”と表現しました。もともとそのアップデートは4月頃を予定していたのですが、この年の桜前線が例年より早くて、3月下旬に日本全国で開花・満開になっていたんです。

 それで、ユーザーから「もう桜は満開だぞ」、「そろそろ桜が散るぞ」って1ヶ月近くに渡って多くの抗議が寄せられまして……。毎日10件くらいは届いていましたね。それは私の心に傷を残した出来事の1つですね(苦笑)。それ以降は極力曖昧な表現を避けるようにしました。

 ただ、こういった表現をしていた理由は2つあります。1つが、万が一トラブルが起きた場合アップデートの実装時期が伸びてしまう可能性があること。もう1つが、アップデート時期を正確に伝えてしまうとMMORPGですので、ゲーム内の相場が変わったり、アイテムの価値が変わってしまうことがあるので、1年をざっくりと春夏秋冬の3ヶ月毎に分けて、曖昧な季節の表現をしていました。

アップデートの実装時期について、「桜が咲く頃」という表現をしたため、多くのユーザーから意見が寄せられたのだという

――そうやって真摯にユーザーに向かい合ってきたからこそ、リネージュ2のサービスが20年続いたのでしょうか。

新井氏:そんなに持ち上げなくても大丈夫です(笑)。ただ、私がプロデューサーに就任してから、お客様と真摯に向き合い、お客様が楽しめる環境を作っていくということを念頭にやってきましたので、それに応えていただいたのが今の結果だとは思っていますし、怠慢なく努力を続けたからこそ、20周年を迎えることができたと思っています。

 昨年開催したオフラインイベントでも、サービス開始当初からずっと遊んでくれているユーザーさんも多かったのが印象的でした。結婚して子供も生まれて、「子供もやってるよ」という方も多かったですし、「家族でやってるよ」という方も多かったです。そういった話を聞くと、とても嬉しいですよね。

――「リネージュ2」といえばオフラインイベントもお馴染みですよね。

新井氏:これまでは定期的にオフラインイベントを開催していましたが、コロナ禍の影響もあり、オンラインでのコミュニケーションが中心となっていました。ですが、オフラインイベントを望む声も多く、毎週のように要望が寄せられていましたし、生放送をする度にそういうコメントが寄せられました。

 そこで、昨年はコロナ禍が落ち着いてきたこと、そして新クラス実装にあわせて、東京と大阪でオフラインイベントを行いました。両会場とも100名以上のお客様が来場され、入場できない人も出たほどで大変賑わったオフラインイベントになりました。

 オフラインイベント後は必ず「公式オフ会」を開催しています。お酒を飲みながら、ゲームについて熱く語り合うという会で、50人以上のお客様と運営チームが触れ合う機会を作っています。

 その場にいるとよくいじられたりもするのですが(笑)。ユーザーさんから直接、不平不満や要望を聞く機会ですし、運営チームや他のスタッフにも、お客様の温度感を、知ってもらう機会でもあります。また、それを楽しみに毎回来ていただくお客様も多いんです。公式オフ会をきっかけにユーザー同士のコミュニケーションが生まれて、血盟に入ったり、フレンドになったり、「今度、一緒に遊ぼうね」というコミュニケーションが生まれているので、オフラインイベントの後の公式オフ会を継続していますね。

2023年には数年ぶりのオフラインイベントが実施され、多くのユーザーが訪れた

――直近で次のオフラインイベントの計画はありますか?

新井氏:気持ちとしてはもちろんやりたいのですが、今のところ、大規模なオフラインイベントの計画はありません。ただ、前回の新クラス実装のような大きな出来事にあわせて、オフラインイベントを開催すると、ユーザーさんもたくさんの情報を持って帰ってもらえると思いますし、たくさんコミュニケーションを取ってもらえると考えていますので、楽しみにしていただければと思います。

これからも“狩り”の楽しさを追求し、25周年、30周年へと繋げていく

――それでは、20周年記念の施策について教えていただけますか?

新井氏:まず、コラボレーション企画の準備を2つ進めています。現時点で詳しくお話しすることができないのが残念ですが、楽しみにしていただければと思います。

――ゲーム内ではどのような施策を予定していますか?

新井氏:20周年を記念して、各サービスのゲーム内で6月19日から7月17日の間、特別なインスタントダンジョンがオープンします。

 ライブサービスでは「怪しいエルフ村」を実施します。期間中、各村のイベントNPCを通じてインスタントダンジョンであるエルフ村に入場可能です。モンスター討伐報酬で「ドラゴンクロー2段階」などが含まれている豪華アイテムボックスを獲得することができます。

 クラシックサービス、アデンサービスでは「水の神殿」というイベントを実施します。

 特殊狩り場にイベントインスタントダンジョン「水の神殿」を追加します。1階から4階までの階層でダンジョンが構成されており、階層内のモンスターを一定数討伐することで、上位階層に進入することが可能です。4階にはボスモンスターが出現し、討伐すると、「ハンター防具交換券」など豪華アイテムを獲得できます。

 さらに、「ワールド攻城戦」というコンテンツも準備しています。こちらもぜひ楽しみにしてください。

「リネージュ2」をプレイするすべてのプレーヤーが参加できる「ワールド攻城戦」が準備中だという

――25周年、30周年と、さらなる節目を迎えるにあたって、どのような展望をお持ちでしょうか。

新井氏:「リネージュ2」の最大の魅力は“狩り”だと考えています。お客様へのアンケートでも狩りをし続けるというのが、一番面白い要素として挙げられています。狩りの楽しさを伝える、MMORPGを代表するゲームにしていきたいと思っています。

――それでは、最後にユーザーへのメッセージをお願いします。

新井氏:「リネージュ2」のサービス開始は2004年でした。そこから、皆様のおかげで当時は予想もしなかった、20周年を迎えることができました。

 これからも皆様にお楽しみいただけるよう、サービスチーム一丸となって取り組んでまいります。末永く「リネージュ2」をよろしくお願いいたします。

――ありがとうございました!