インタビュー
eスポーツ映画「PLAY!」企画・プロデュース 広井王子氏インタビュー(前編)
初期構想はもっと長かった!? 紆余曲折を経て完成した“eスポーツ×青春活劇”
2024年3月7日 00:00
- 【PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~】
- 3月8日 全国公開予定
サードウェーブとハピネットによるeスポーツ映画「PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~(以下、PLAY!)」がいよいよ3月8日より全国の映画館で公開される。
「PLAY!」は、日本国内では初のeスポーツ映画であり、全国高校eスポーツ選手権(現 NASEF JAPAN全日本高校eスポーツ選手権)という実在の大会、実際のエピソードがモチーフになっているだけでなく、マルチクリエイターとして知られる広井王子氏が企画・プロデュースを行なっている点も注目される。
広井氏といえば、サンライズの「魔神英雄伝ワタル」を皮切りに、「天外魔境」シリーズ(ハドソン)、「サクラ大戦」(セガ))など、様々な作品を生み出してきたクリエイターだ。本稿では、広井氏に単独インタビューを敢行し、なぜ本作に関わることになったのか、職人気質とも言われるその作家性はどのような形で活かされたのか、最終的にどのような映画に仕上がったのかなど映画に関する話を伺った。
インタビューでは、映画の話題のみに留まらず、「サクラ大戦」シリーズや「天外魔境」シリーズなど、過去作に関するエピソードや、現在開発中の新作「東京大戦」などについても話を伺うことができた。ロングインタビューとなったため、前後編でお届けしたい。前編では映画、後編ではゲームなどその他のコンテンツの話を伺っている。
なお、インタビューは映画に関するネタバレを含んでいる。ネタバレを避けたい方は、映画鑑賞後の一読をお勧めしたい。
広井王子氏念願の映画撮影はeスポーツ映画
――本日はよろしくお願いします。
広井王子氏(以下、広井氏): よろしくお願いします。
――私は「魔神英雄伝ワタル」から始まって、「サクラ大戦」も当然そうですが、「天外魔境」も好きで、広井さんのコンテンツで育ってきた人間です。
広井氏: ありがとうございます。
――ただ、今回はゲームではなくeスポーツのインタビューということなんです。
広井氏: そうなんですよ。eスポーツの映画なんですよ。
――まずは映画に関わることになったきっかけから伺いますが、広井さんのキャリアは、eスポーツの「e」の字もないですよね。
広井氏: そうですね。eスポーツをやろうということではなく、映画をやろうということで始まったんです。
――映画を作ることありきで、そのモチーフとしてeスポーツが目の前にあったと。
広井氏: はい。それは尾崎社長(サードウェーブ代表取締役 尾崎 健介氏)からeスポーツで映画をやりたいんだ、というお題をいただいたので、じゃあ「eスポーツってなんだ」というところから考えて、ただ、eスポーツの宣伝映画を作るつもりはないので、ちゃんと映画にしたい。やっぱり青春ドラマが良いだろうなと。
インド映画なんかもよくそういう、若いヤツが集まって「うまくいっている」、「だめになる」みたいな内容のものが、結構多いんです。熱いんですが、あんな風にできたら良いかなと思って。それでプロットを書き上げて、尾崎さんに見せてOKが出たので、それを持ってスタッフを集めて、現場ができたところまでが僕の仕事です。
古厩さん(映画「PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて」監督:古厩智之(ふるまや ともゆき)氏)が監督に決まって、古賀プロデューサーに「現場はお任せします」とお願いしました。だから現場はほとんど見ていないです。何回かは撮影現場に行きましたが、そこには口出しはしていないです。
――では、尾崎さんに口説かれるまでは、eスポーツは全く関わりがなかったのでしょうか?
広井氏: そうですね、関わりはなかったです。見てはいましたけれども。ああ、こういうことをやるんだと。確かにスポーツだとは思っていました。僕らはプレーヤーがやるものを送り出している側で、プレーヤーそのものではないので。ですから、そこはすごい乖離があって、プレーヤーがどうやっているんだろうというのは、今回の映画の取材で、どんな思いでやっているのかも良くわかってきて。作り手とは別なものだなと思いました。
「ロケットリーグ」だって作り手側は最初に作った時こんなに大きくなるとは考えてないだろうし、作り手とプレーヤーはちょっと違うと思います。作っている時には、まだ何もないところにただ熱い気持ちの人が集まってきて、システムエンジニアが来たり、デザイナーが来たり、脚本家が来たりしながら、うわぁ~と、チームワークで形を作って行きます。その中で喧嘩もありますし。でもある意味、熱い時期を過ごすってことでは同じでしょうね。
――そうですね。
広井氏: 幸せだと僕は思うんです。僕も「ワタル」を作った時のチームも、その熱い季節をいまでも覚えていますから。今でも「ワタル」のチームや「天外(天外魔境)」のチームとも付き合っています。今年70才になりましたが、「ワタル」はデビュー作で当時32才でした。もう倍の時間が経ちましたけれども(笑)。あのときの感覚はまだ覚えていますね。
――そうしたチーム作りを経て、実際に映画を作られてみて如何でしたか?
広井氏: うーん、なんだろうな……。楽しかったですね。また作りたいですね。
――今まで広井さんの作品というのは、ゲームでいえばサクラ大戦 歌謡ショウや帝国華撃団によるコンサートなど、様々なメディアを使ったエンターテイメントを作ってこられましたが、映画はまた違っていましたか?
広井氏: そうですね。映画はまたちょっと違いますね。なんだろうな、極端に集中する時間が短いんですよね。
――と、言いますと?
広井氏: ロケだと単純に日が暮れちゃうから(笑)。良い雲が出てくるのを待っていて「この雲!」といくわけですよ。舞台であれば、全員が一瞬で集中する時間というのはなかなかないです。稽古場で何度も繰り返しますが、裏方は違うことやってたり。映画は「雲来るよ」、「よし、行こう」とすべてのスタッフが集中します。それで、役者さんも一発で決めるわけですよ。とてつもない集中力というか、それは今までに経験したことがないですね。
――広井さんも撮影には行かれたのでしょうか。
広井氏: もちろん。何回か徳島にも行きました。
――何か具体的なエピソードはありますか?
広井氏: お客さんが来ているスーパーを一瞬、止めて撮影するんです。すみませんといって止めている中を、通り過ぎてお父ちゃんと見つめ合わなければいけないというシーンを撮影していて。一発NGが出てもう1度やっている時に、こちら側のスタッフがお客さんに「すみません、すみません」といいながら撮影している。これは大変だわと。車も止めているんですよ。全てを止めている中での一瞬の作業ですから。それは監督も役者も太いですよね。周りの様子をちょっとでも気にしたら芝居にならない。「今いろいろ止めているので急がなきゃ」とかは考えてない。
――おもしろいですね。映画のプロットは広井さん書き上げたということですが、ストーリーをどのように作られたのでしょうか。
広井氏: まずeスポーツについて、様々なものを読んだり、どういう風にやっているんだろうと、ネットを見たりして調べました。映画の打ち合わせをしている時に、たまたま徳島県にある高専の男の子が引きこもりで、その子が第1回目のeスポーツの大会に出たいがために、仲間を集めに学校に行くと。それは面白いと思って「取材したい、その子に会いたい」と伝えたら、コロナ禍になっちゃった。
それでZoomでその青年や付き添いの先生にも会って、いろいろお話を聞きました。仲間集めのところと、思わず予選を勝ち上がってしまうという。それで東京行かなきゃいけないドタバタと。そこら辺がすごく面白かった。もう、それで映画ができたなと思って。それから、今度は第1回のeスポーツ大会を開催するためにサードウェーブ社内がドタバタする。大人たちが高校生たちの熱意に、巻き込まれていったというのも取材で判りました。
――なるほど。お話を伺っていると、広井さんが描きたかったのは、eスポーツそのものじゃなくてやっぱり青春劇であり群像劇だと。
広井氏: そうです。まったくそうです。
――それは実際にやられてみて、その試みはうまくいったと思いますか?
広井氏: うまく行ったと思います。ただ、古厩監督が「ロケットリーグ」そのものを画面に出すと言った時に、最初は反対しました。
――TGSのトークショウでもおっしゃっていましたよね。私は映画を見て意外だと思っていたんです。広井さんがこういう見せ方をするのかと、ただ、監督のアイデアだと聞いて合点がいきました。
広井氏: 今までゲーム画面を見せて、成功した映画がないです。理由はつまんないから。映画を観ている人の多くはプレイしていないので、そんな映像を見せられても、ちっとも面白くないんですよ。第一、何やってるんだか分かんないし。
「それは無理だよ」と言っていたんですけれど、古厩さんが、それをやらないとこれ映画にならないと。僕は面白いこと言うなと思いました。普通これがあるから映画にならないんだよなと思って。ゲームは自分でもやりましたが、クルマを動かすのはめちゃくちゃ難しい。それをどんな風に映像にするのかなと興味がわきました。
――そこまでいうならしょうがないと、そこは広井さんが折れた?
広井氏: そうですね。古厩監督って、今までの映画を見ていますけど、なんかね、(映画作りが)とても上手いんですよ。そういう監督がやるって言っている以上は、勝算があるんだろうと。それはもうね、現場は監督のものだから。編集で最後、文句言えばいいかなって思って(笑)。「じゃあ、やりましょう」と古賀プロデューサーに伝えました。実際に見たら、いやぁ、上手いですね。多分、ゲーム画面をこれだけ出して、初めて成功した映画じゃないですか。
――仕上がりに満足されてますか。
広井氏: してます、してます。eスポーツを全然知らない人が見ても、きっと、拳を握っちゃうと思うんですよ。そういう風にちゃんとできている。それは映画的な誘導ですよね。編集した映像を見た瞬間に、ああ「七人の侍」だと思ったんですよ。
――なるほど。
広井氏: 「Shall we ダンス?」もそうです。ストーリーの中でこうやればこうなるっていうルールを観客に教えます。必ず予習がある。今回も予習があるんですよね。「PLAY!」でもルールを知らない初心者を1人置いてその子に教えているわけですよ。この手法は上手いです。この初心者は、いわば観客ですから。彼に遊び方を教える間に、観客もあらかた分かっちゃうんですよね、ルールもやり方も。そこから、予選、本戦と繋がります。ああ、そこら辺の映画的な段取りがすごく上手いですね。すごい監督だなと思いました。
――今回のストーリーは、起承転結を最後まで、広井さんが作られたのですか?
広井氏: いえ、最初の構想ではもうちょっと長かったんですよ。
――長かったといいますと?
広井氏: もっと長くて、ゲーム画面も少ないんです、僕が最初に書いたプロットは。実はこの1回目のeスポーツを仕切っていく、サードウェーブの女性の担当者が、ほぼ主役なんですよ。
――女の人というのは、ここに居る佐久間さん(サードウェーブ広報 佐久間康子氏)ですか?
広井氏: そうです。最初はむしろそっちなんですよ。
――私もメディアパートナーとしてかなり関わっていたのでだいたい知っていますが、佐久間さんの孤軍奮闘を描く映画だったんですか?
広井氏: そうです。
――ということは、青春活劇でもなかったと言うことですか?
広井氏: いえ、青春活劇です。2つの視点で描くつもりでした。
――なるほど、2つの軸で物語が進んで最後に一緒になると?
広井氏: はい。台本ではドタバタしながら、最初はイヤイヤやってる女性なんですよ。始めの5分間で春夏秋冬をやろうと思ったんです。そのように台本にも書かれているんですよ。吹雪の中の、秋田で電話かけているところから始まって、バタンって出ると桜吹雪になっているという(笑)。
そういう風にして、全国各地の高校を回って全部断られていくという。なかなか大会が立ち上がらないという中で「いいよ」と言ってくれる学校がたまにあって。でもなかなか増えない。「100校なきゃできないよね」って言ってんのに、「5校です」とか「10校です」とか事務局に言われる。原因は、学校にゲーミングPCがないから練習できない。それで社長が出てきて「だったらゲーミングPCを学校に配ろう」と。
――なるほど、第1回 全国高校eスポーツ選手権の舞台裏の話を全部出しちゃうわけですね(笑)。ただ、それだと2時間じゃ全然足らないですね。
広井氏: どうかな?撮り方でしょ(笑)。次のシーンでは、徳島にある高専の男の子にスポットが当たって、その子たちが来る。大会のチラシを撒きに来てる俳優さんとすれ違う。こっちに今度カメラが行く。またクロスしてこっちの青春が来るっていうっていう風に考えたんです。もう少し複雑だった。
――交差するシーンとか、桜吹雪とか、この辺り本当に広井王子らしい演出ですね。それはそれで見たかったですね。
広井氏: うちの嫁も言ってました。この前試写を観て「違うじゃん」と。もの作りってそういうものです。そうやって変わっていくのが面白い(笑)。
eスポーツ映画誕生に尽力した3人のキーパーソン
――今回、この映画を生み出すに当たって重要なキャラクターが3人いると思うんですよ。1人はやっぱりサードウェーブ社長の尾崎さんであり、もうひとりは広井さんの元上司で、サードウェーブ顧問の入交さん(入交昭一郎氏、元セガ代表取締役社長)。もうひとりが吉本興業の大崎さん(大﨑洋氏 元吉本興業会長)。皆さんとは、どのようなやりとりがあったのか興味がありますね。
広井氏: 入さんは、「サクラ」からずっと、半分後見人みたいな感じで、何かあると今でもご相談に行ったりとかしていますよ。本当に年に2回か3回はお茶飲んだりしてました。「サクラ」の頃から、ずっーと。そういう付き合いの中でいて、僕が台湾で仕事する時には相談をしに行って、アドバイスをいただいたりしています。入交さんからも「ここちょっと手伝ってよ」というような話も、たまにあります。今回も急に電話がかかってきて「ちょっと来てくれる? やってもらいたいことあるんだよ」と。「はいはい、何ですか」と行ったら、「映画作ってよ」と言われて。(笑)。
――(笑)
広井氏: 「入さん、僕、映画作ったことないですよ」というと、「いやいや、大丈夫、」と。「君がプロデューサーをやって、全部映画を仕上げてよ」と言われて「できません」と。
――え、断ったんですか?
広井氏: 断りました、やったことないですから。キャスティングできないですもん、僕なんかが行ったって。
――声優にはいくらでもコネクションがあるけど、俳優さんまでは、というところですか。
広井氏: はい、それはできないですよって話をしました。
――それがなぜこういう形になったんですか。
広井氏: 入さんがしつこかったんだと思います(笑)。「まあ、そう言うなよ」と。
――では、1回で終わりじゃなくて、数回の働きかけがあったと。
広井氏: 3回目に尾崎さんが来たんです。尾崎さんからは学生の頃、友達とコンビニの前に座って「いつか映画作ろうな」って言ったんですよという話を聞きました。それって、僕の青春と一緒だった。
――なるほど、そこに繋がるわけですね。
広井氏: 僕は映画の技術いっぱい学んだのに、映画を作らなかった。それはね、なんかね、ちょっと胸が痛んだ。尾崎さんの熱い思いに触れて、自分の青春の積み残し思い出した。「映画を作る」って言ってる人に、力貸さないでどうするんだろうと。
――なるほど。いかにも「サクラ大戦」的な展開ですね。
広井氏: あ、そう言われれば、そうですね(笑)。それで「やります」と。この話をすぐに大崎(吉本興業)さんのとこに行って「大崎さん、こういう話で」って言ったら「やれ」って言われて。「いや、やれは分かってる、やります。でもこれ、僕一人じゃできないから」、「分かった、すぐプロデューサー用意する」と。そこから古賀さん(ザフール 古賀俊輔氏)らスタッフをつけてくれて。吉本の映画部とか全部バックにつけてくれて。大崎さんのおかげです。「王子君の言うとおり動くから、大丈夫だ」と。
――3人の後ろ盾を得て実際に映画を作ってみて、感想はいかがですか。
広井氏: いや、もうね、なんか、久しぶりに思った通りに進まないんです。
――コロナ禍でスケジュールが変更になったりでストーリーも大幅に変わったようですしね。
広井氏: はい。自分で監督するわけじゃないし。簡単に現場を動かせるわけではないし、天気もあるし。「ゲーム業界ではこんなことないですからね(笑)。やるぞって決まったら、スケジュールも出ますし、ある程度思い通りに進みます。
――紆余曲折ありつつも、完成版を見たら満足しましたか?
広井氏: もちろんです。古賀さんも古厩さんもベテランです。いい方々に出会えました。プロデューサーの古賀さん(古賀 俊輔氏)とはずいぶんミーティングを重ねましたし、脚本は「ブギウギ」(NHKの朝ドラ「ブギウギ」)の櫻井さん(櫻井 剛氏)ですから。みんな本当に手だれが揃った感じで。
今回はコロナがあって、撮影が伸び伸びになって。最終的にもう、ここで撮らなかったら、奥平さんも鈴鹿さんも、スケジュール上、手放さないといけない。それはできないと。中止になるギリギリのところでの撮影だったんです。
――コロナの影響が大きかった。
広井氏: 大きいです。だから、運営側の部分を無くさざるを得なかった。これやったら間に合わないです。春夏秋冬を撮らないといけないですから。それは間に合わないですね。
――そういう意味では、ちょっとした悔いは残りますよね。
広井氏: まあまあまあ。何作っても、「サクラ」作っても、ここやりたかったなというのもありますから。変貌していくのがもの作りの醍醐味です。
結末についての知られざるエピソード
――ちなみにTGSのトークショウでは作品のイメージとしてインド映画「きっと、うまくいく」(2009年公開のインド映画)をあげられていましたね。私もすごく好きな映画ですが、紆余曲折ありつつも、最後はいかにもボリウッド的な綺麗な大団円を迎えますよね。だけど「PLAY!」は決してそうじゃない。結末についてはどのような判断なのでしょう?
広井氏: 古厩監督は主人公3人の青春に絞ったと思います。今風に勝った負けたなどはどうでも良くてというように、そんなことよりも、今を楽しもうよという、本当にどこでもありそうな青春で。ほんのちょっとのことで、あんな風に変われるっていうところが、クローズアップされたエンディングでした。
――なるほど、それも正解ですね。
広井氏: はい、正解です。深刻な現実があっても、ほんのちょっとのことで、あんな風に笑えるし、ニコニコできるじゃんと。
――この映画で描かれてるのは、本当にありふれた青春じゃないですか。その青春の中にシームレスに、eスポーツが溶け込んでいるというのが、20年以上eスポーツに関わってきた私としてはすごく嬉しかったです。心に染み渡る感じで、いい映画だなと思えました。
広井氏: ありがとうございます。そこはもう古厩さんのお陰です。最初にeスポーツの宣伝にもしないし、青春映画にeスポーツを借りるみたいなこともしたくない。青春そのものがeスポーツだったり、青春の中にeスポーツが入っていたり、そういうことで。剣道部やバスケ部などと一緒のように描けたらいいんだよねという話はしています。
――タイトルはどのような意図でつけられたのでしょうか? サブタイトルの「勝つとか負けるとか、どーでもよくて」。ここがポイントだと思いますが。
広井氏: これも古厩さんですよ。「PLAY!」はアイデアの中の1つです。「eの神話」とか、いっぱい大袈裟なものもあったんですが、神話でもねえよなと思って。それに問題が解決しないじゃないですか。
――そう、解決しないんですよね。
広井氏: はい、何も解決しないんですよ。でも、それが現代的、ですよね。
――あーなるほど。そういう映画の作り方なんですね。
広井氏: はい、そういう映画です。解決しない。そんな簡単じゃないですよね。現実世界って。でもその中で、青春って燃えてるところがあるじゃないですか。そこがいいですよね。ちょっとグッとくるところだと思うんですけれど。
――私は逆に、eスポーツにずっぽり携わってきた側なので、このタイトルは、はっきり言うと全然気に入らないんですよ。
広井氏: (笑)
――何故かというと「勝つとか負けるとかどうでもよくて」じゃないだろと。どうでもよくないだろうと。勝ちたいとすら思わなくて、あなたは何をしたいんだと言いたい(笑)。だけど、監督そして広井さんが描きたいのは、選手の勝利の執念とかそういうことじゃないってことなんですよね。
広井氏: そうですね。そこじゃないですね。だからこそ、なんだろうな。性別も関係なく、それからハンディキャップも関係なく、全部公平な土俵でやれる。あれが、ただただ勝つ勝つっていうと、そこのところがないがしろになっちゃうような気がしたんです。それよりもみんなで戦ってすがすがしい。そこすっごく良くないですか。あくまでアマチュアスポーツとし。
――いいですね。
広井氏: それこそがスポーツだし。第1回大会後の選手インタビューを見たんですね。負けた後、爽やかな顔していたんですよ。それ見た時ちょっとグッときて、かっこいいなと思って。これこそ本当はスポーツじゃないのと思ったんです。本来のスポーツってこういうことでしょ。負けても爽やかに勝者を讃えたりとか、勝者も敗者を「いやーすごかった」って讃えてあげる。eスポーツって、スポーツマンシップがあるなって思いました。
「ここで僕たちがへこたれると、今後のeスポーツに影響しちゃうから」なんて言いながらインタビューを受けてるんですよ、高校生が。泣けてね。「なんだよそれよ」って。そういうところも含めて、すごくスポーツマンシップにのっとった環境なんだな、eスポーツは、と思いましたね。
――私の世代だとどうしても、eスポーツって戦いなんですよね。ゲームは遊びじゃないんだよと、そういう世界なんですけれど、ここで描かれているのは、カルチャーとしてのeスポーツであり、ファッションとしてのeスポーツ。普通の暮らしにeスポーツが溶け込んだ世界であって、僕らが産み育てたeスポーツがいまここまで来てるんだぞと、良いエビデンスが後世に残せたなと思いました。
広井氏: ありがとうございます。ゴルフでも他のスポーツでもプロは別じゃないですか。コロナ禍でゴルフを始めて、プロとアマチュアは別な競技だと思いました。まずアマチュアがあって、その中にみんなが憧れるようなプロが生まれる。同じようにeスポーツもみんなのものであって、そこに勝たなきゃいけないプロリーグがある。そういうもんだと、そうなっていくといいなと思っています。
――eスポーツはみんなのもの。本当に100%同意しますね。高校生eスポーツはそういうものでいいですよね。
広井氏: そうですよ!
――参加して、汗を流して、涙流す、そこに価値がある。
広井氏: そうですよ、価値がある。そこのところに一瞬みんなが燃える、そこにすごく価値があるんだって。
――私は、今のeスポーツに足らないのは、良い意味でのアマチュアリズムだと思っています。何かっていうとすぐプロだ、稼げない、食えない、職業にならない、将来が不安だと。もう出発点がおかしい。
広井氏: そうですね。
――映画を通して素晴らしいメッセージを伝えられていると思います。
広井氏: ありがとうございます。そんなに褒めていただいて。
広井氏こだわりのエピソードは「ピアスを開けるシーン」
――「PLAY!」は、広井さんの初期構想とかなり異なる映画になったようですが、残っている部分で、広井さんならではのこだわりはどのあたりですか?
広井氏: どうだろうな。女の子との、ピアスを開けるシーンかな……(笑)。
――ああ(笑)。あそこはeスポーツ映画としてみたら、どうでもいい、普通に考えたらいらないだろと、ツッコみたくなるシーンですよね。
広井氏: いる、いる、いるんだって、青春には(笑)。
――くだらないなぁ、でもわかる、青春だなあというシーンですよね。
広井氏: ああいうの大好き。たぶんみんな好きだと思う。古厩さんも好きなんですよきっと(笑)。あとキスしようとするシーン。あれもいいシーン(笑)
――付き合っている女の子も含めて、実話として、ああいうエピソードはまったくなかったと思うんです。
広井氏: ないです。
――あそこ本当に広井さんの創作の部分ですよね。
広井氏: 最初は男の子2人に女の子1人だったんです。あそこのシーンはプレーヤーの女の子と、ああいうことになるというところを書いてあったんですけど、選手を男の子3人にして女の子は友達っていう風に変わりました。でも青春ドラマだから女の子がいないとね。男の子ばっかりというわけにもいかないし。
――女の子登場シーンが広井さんのこだわりってことですね。
広井氏: こだわりっていうか、好きなシーンですよね。映画はシーンを記憶しますから。
――最終的に映画は決して短くない、2時間以上の作品になりましたが、どのように見てもらいたいという風に思いますか。
広井氏: まず、奥平さん(奥平大兼さん 郡司翔太役)とか鈴鹿さん(鈴鹿央士さん 田中達郎役)のファンは、キュンとなると思いますよ。映画ってそういうのも大事なので、キュンキュンするシーンが。小倉さん(小倉史也さん 小西亘役)の喜劇性も秀逸です。笑えるし、「お前な」ってなります。
それから「えぇ、eスポーツを映画にすんの?」みたいなことを思ってる人たちにも「まあ、観てみてよ」と。結構カッコよく作ってあるよと思っていますから。「ロケットリーグ」って結構いいじゃんと思えるし、ちょっとやってみようかなと思えるような。世界に6,000万人か、7,000万人のロケットリーグプレーヤーがいますから、きっと世界に出て行っても、遜色ない映画ってこういうことだと思ってるんですよね、僕は。だから世界に出したいなと思っています。
――「PLAY!」を海外展開するんですか?
広井氏: まだわかりません。でも「ロケットリーグ」のプレーヤーは世界中にたくさんいますから。こういうやり方で世界に出ることもできますよね。日本人の方が逆に知らないんだから、「ロケットリーグ」を。
――海外で、ひょっとしてすごい大ヒットするかもしれませんね。
広井氏: そうそうそう。「ロケットリーグ」のファンがね、みんな観てくれたら。
――日本でeスポーツってこうなっているのか、これが日本の青春なんだ、みたいな。
広井氏: そうそうそう、青春なんだって。向こうは賞金だけど「青春だな、これ」みたいなね。すごく面白い気付きかもしれないので。
――映画の海外展開は、いつぐらいの時期を想定されていますか。
広井氏: わかりませんが、今年中にはなんとか出て行けたらいですね。
――今後もeスポーツではないかもしれないけれども、いろいろな映画を撮っていきたいという思いはありますか。
広井氏: そういうご注文をいただければ。
――自身でスタジオを作ってというようなところまでは考えていない?
広井氏: 今までの仕事で、そんなことは1個も考えたことはないです。
――やっぱり、お声掛けいただいて作ると。
広井氏: はい、全部そうです。自分でやりたいと思ったのは歌謡ショウだけです。あとは全部、プロデューサーがいて、こういうことをやりたいというお題をもらってそれでプロデューサーと考えてやっていくという。その瞬間はお客さんを見ていないですから。プロデューサーが喜ぶ顔だけを見ていくという仕事なんです、僕の仕事は。
――おもしろいですね。自分から作りたい、ではなくて。声を掛けられる人生を歩んできたということでしょうか。
広井氏: そうです。職人です。作家でもないし。注文通りに作ります。
――逆に、職人であるというところに対するこだわりがあるんですね。
広井氏: あります、あります。なかなか真似できないと思っています。作家性などは全くないです。だから、原作問題も関係ないんです。作家ではないですから、プロデューサーの想いに寄り添って作りますし、メディアが変われば変えていきます。
――例えば、広井さんが原作を担当された「サクラ大戦」という作品がありますが、これをどのように物語を改変されたとしても、広井先生は傷つかないと。
広井氏: はい、全然傷つきません。
――どうぞご自由にと。
広井氏: はい。「良いもん作ってね」と言います。
――それはおもしろいですね。それはプロデューサー気質ということなのでしょうか。
広井氏: いや、でも原作者ですから。僕の原作の書き方はちょっと変わってます。ストーリーは書かないですから。プロットしかないです。ゆるくしてあります。それはメディアミックスにすることが条件で、それ用に作ったものですから。ただ、キャラクターはしっかりしていますよ。キャラクターは書き込みます。そこしかないんです。後はゲームはこういう流れ、アニメはこうという。「ここは空白だから、ここにエピソード作って」と「ここにキャラクターを加えて」と。あえて脚本家やスタッフが自由に作れる余地を残します。
――なるほど。あえて、なんですね。
広井氏: はい、あえて。原作でガッチリ書いたら動かなくなっちゃうので。
――おもしろい作り方ですね。
広井氏: スタッフしか知らないんです。僕の原作を読むのは、限られたスタッフだけです。そのあとで脚本家が入って台本が完成します。
ガチガチに決めちゃうと脚本家のアイデアを縛っちゃう。元々がメディアミックスをやるために僕が考えたので。だから、グッズここで入れてほしいとなれば、ここ入れちゃおうということもできますから、平気で。キャラクターも足せますから。
――映画がこれから封切りになりますけど、これから映画を見る方にメッセージをお願いします。
広井氏: 本当に青春映画なので、eスポーツって難しそうだなとかと思わずに観ていただけると、お帰りになる時に「eスポーツって面白いんだ」っていう風になるかもしれません。日本初のeスポーツ劇映画でありながら、本当に青春ドラマとして観ていただけたらいいなと思います。いろんなお客さんに来ていただきたいです。
それから、ゲームのファンの方って、若い頃にゲームやった方が、もう4、50代からそれ以上になってます。そういう方たちも、「ゲームってこんな風になってきてるんだ、最近」と観ていただければ、すごく面白いと思うし。自分たちの「そういえばさ、ゲームやった頃の青春ってさ」というようなことを、ちらっと思い起こせるような映画でもあるかもしれない。だから若い人の映画だと思わずに、そのくらいの方たちも見に来てくれたらすごくいいんだけどなと思っています。
――ありがとうございました。
(後編に続く)※後編は3月8日0時掲載予定です
(C)2023 映画『PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』製作委員会