インタビュー

プレイヤーとキャラクターが自由な会話を楽しめる『プラスリンクス』に、AIキャラクター「足繋逢(あししげくあい)」を導入した結果、どのような化学反応が起きたのか?

【プラスリンクス】

2021年6月21日サービス開始

2022年6月21日サービス終了

 2021年6月にサービスインした『プラスリンクス ~キミと繋がる想い~』は、DMM GAMESにて配信されていたリアルチャット恋愛ゲームだ。ゲーム中に数多く登場する女の子たちと、チャットアプリやデートを通じて絆を深め合っていき、恋愛体験を楽しんでいくという内容になっている。

 本作最大のウリだったのが、「女の子と自由入力によるチャット体験ができる」というシステム。通常の恋愛アドベンチャーゲームでは、あらかじめ用意された複数の選択肢から発言や行動を選ぶと、それに対応したシナリオに沿って展開するのが一般的だ。それに対して本作は、女の子との会話で自由に文章を入力できるだけでなく、プレイヤーのメッセージに寄りそった返信が、ある程度のタイムラグで届いていた。

【【プラスリンクス ~キミと繋がる想い~】プロモーションムービー:ハーフアニバーサリー】

 時事ネタや趣味に走った内容だったとしても、送られてきたメッセージの内容に沿った会話が返ってくる。二次元の女の子とのリアルなライブコミュニケーション。それが「プラスリンクス」の魅力となっていた。

 しかし、その従来のゲームデザインとは明らかに趣が異なっていたのが、2022年2月に導入された新ヒロイン・足繋逢(あししげく あい)だ。彼女に関しては、情報公開時点からAIを搭載したキャラクターであることが公表されていた。当初は、AIでは成立し得ないと考えられていたプレイヤーとの会話だが、足繋逢はその懸念をクリアし、さらにはプレイヤーからも好評を得ていたという。

 本作は2022年6月21日をもって惜しくもサービス終了してしまったが、キャラクターとのチャットコミュニケーションにAIが導入されるのは画期的な事例だ。そもそも、なぜゲーム中にAIキャラクターを登場させたのか、足繋逢を導入したことでどのような恩恵が得られたのか、それらに関して『プラスリンクス』のプロデューサーとディレクター、そしてAIキャラクターの足繋逢を担当したセールスエンジニアの3人に話を聞いた。

【プラスリンクス】

キャラクターとのコミュニケーションを軸とした恋愛ゲーム「プラスリンクス」

右が『プラスリンクス』プロデューサーのEXNOA 永野義彦氏、中央が開発を担当したStudio51のディレクター湊 江哉氏、左がAIキャラクター足繋逢のAIを手がけたrinna シニアアカウントエグゼクティブの山本哲也氏。

――まず初めに、皆様のプロジェクトにおける役割と会社概要についての説明をお願いします。

EXNOA 永野氏: 合同会社EXNOAの永野と申します。『プラスリンクス』ではプロデューサーとして、このゲームの骨子を起案しました。立案の過程でディレクターを務めていただいた、湊さんが所属されるStudio51様にゲームの企画を持ち込み、一緒に開発をスタートしたという経緯でした。立ち位置としてはプロジェクトの起ち上げや進行管理ですとか、一緒にアイデアを出しあって制作にも参加しており、完成後は当社プラットフォームである「DMM GAMES」での事前登録やゲームのリリース、プロモーション、運営進行等を担当しました。

Studio51 湊氏: Studio51株式会社の湊と申します。弊社の役割に関しては、今回EXNOAのセカンドパーティという形でゲームの構想を永野さんからいただきまして、そこからゲーム仕様の策定、システム構築からシナリオ、絵素材の制作など、ゲームの開発運営全般を担当しました。弊社は、CG製作からスタートした会社でしたが、ここ4年くらいでゲーム開発部門並びにアニメ制作部門ができまして、今後はメタバースなどにも進出していく事も目指しております。

rinna 山本氏: rinna株式会社の山本と申します。私が所属しているrinna株式会社は、AIのソリューションを開発提供している会社です。ちょうど一年前になりますが、『プラスリンクス』がリリースされた2週間後に初めてお二人とお会いする機会がありまして、そこからこのAIというものをどう適用できるか、そんな協議をしていったというところから関わらせていただいています。自身の役割としては営業なんですが、技術面のこともおおむね把握しています。

――残念ながら「プラスリンクス」はサービス終了となってしまいましたが、改めて『プラスリンクス』がどのようなゲームだったのかを教えてください。

EXNOA 永野氏: ゲームとしてはちょっと変わった内容でして、二次元の世界を介して擬似的コミュニケーションを成立させるというところをコンセプトにしました。元々の発想は、“婚活や恋活といったマッチングアプリをゲームっぽくしたら面白いかもしれないな”という発想から企画書を書いたのが発端です。

 最終的には、いわゆる美少女ゲームといわれるジャンルに寄せた仕上がりになりました。世界観やストーリーをしっかり入れて美少女ゲームのテイストを採り入れつつ、チャットゲームというジャンルにふさわしく、コミュニケーション部分に関しては、プレイヤー様が完全に自由な会話を投げかけることができ、女の子もそれに応じて精度の高い返信をしてくれる。この掛け合いでストーリーを進めたり、あるいはプレイヤー様が自分の世界を作り出して喋ったりして、それを女の子が受けて応答してくれるという、本当に自分の彼女や友達みたいな感覚でお互いにつきあえるといった内容になってます。

 この点が上手くいったことで、極めてコアなファンを獲得することができました。マスに広げるというより、このゲームが好きな人がハマって、どっぷり浸かる。最初の頃に結構バズったりしたのは、珍しいタイプのゲームだったのと、特にコミュニケーションに振り切ったゲームだったためでしょう。当初からコアなファンに支えられて、運営してきました。

『プラスリンクス』は、既存のジャンルに当てはめるならば恋愛アドベンチャーゲームとなる。“後袋”と呼ばれる街を舞台に、女の子たちと出会い、会話を重ねて親しくなっていく。

プレイヤーがやりとりしていた相手は、女性が多数を占めていた(!!)

――「プラスリンクス」の目玉となるのは会話システムになりますが、文字入力して先方に投げて返事が届く、というシステムの実装について詳しく聞かせて下さい。

EXNOA 永野氏: 今回初めて公言しますが、当初から人の手を介してリアルタイムに返信できる仕組みを構想し、それを実現することで本作を運営してきました。つまり人力です。

Studio51 湊氏: 元々のコンセプトとしては、リアルなチャット体験によってキャラクターの数に頼るのではなく、会話の深さを求めていこう、ということでした。その上で、返信は基本的には人力です。最終的にはのべ8,000人ほどの人がオペレーターとして参加してくれました。その人たちがリアルに返信してくれており、やりとりの中で溜まっていく事例を、検索エンジンのサジェスト機能のような仕組みに還元することで効率的に返信できるサポート機能なども作りました。

EXNOA 永野氏: おそらくAIではまだ無理であろうところまで精度を求めてやると、今までにないものができるなという確信があって人を介することにこだわったのですが、予想以上の方にお越しいただきキャパシティを超えてしまいました。

Studio51 湊氏: 元々、事前登録者も含めて、5万人くらいかなと予想していました。その人数であれば、想定通りに返信対応が行えるだろうと考えていたのですが、実際にはその倍以上の人に来ていただいたため、大変ありがたいことではありますが、入場を規制せざるを得ませんでした。

EXNOA 永野氏: せっかくお越し頂いたプレイヤー様が長くプレイできない状況となってしまい、大変ご迷惑をおかけしてしまったことが今でも悔やまれます。数万人の方が参加頂く中でもいただいたメッセージが、遅延なく手元に届く仕組みを構築できており、すべての受送信履歴がデータベースに記録して、過去の返信履歴から合致しそうな事例を参考として表示するなど、効率的な返信のために支援する仕組みなども入れていました。後には、そうしたデータが何百万件と溜まっていったので、評価の高い返信事例を用いて、一定部分に絞りつつ自動的に返信する仕組みも導入しました。

 ちなみにこれも初めて明かしますが、返信していたオペレーターの方々は、実は過半が女性だったんですよ。特に最初は、女性が8割を占めていましたので、多くの皆様が実際に女の子と話していたんです(笑)。

Studio51 湊氏: 本当にオペレーターは女性が多かったですね。オペレーターさん8,000人というのはあくまで総数で、途中で入れ替わりも多く出ましたが、特に女性の方は長く続けていただける傾向にありました。後にプレイヤー様が受信したメッセージに“いいね”をつけられる機能を導入したのですが、オペレーターがその数を見られるようにしていて、いいねが多いと喜んでくれたりもしていました。

EXNOA 永野氏: オペレーターさんは、かなり自由に活動できるようにしてあったので、なかなか参加してくれない人もいれば、めちゃくちゃ頑張る人もいたりと様々でした。常時活動していたのは100人~200人くらいが平均で、オペレーターさんの生活サイクルに応じて柔軟に参加できるようにしていました。時間帯で入れ替わったりして自ずと棲み分けされていましたね。

会話シーンやゲーム内チャットではウィンドウが開き、そこにプレイヤーが話したい内容を直接入力できる。ここで打ち込んだ内容が先方に送られ、主に人力での返答が届く。ただし、会話を楽しめるのは9時から26時までだった。

rinnaのAIが目指すところは、コミュニケーションを新たな次元に引き上げること

――AIキャラクターの足繋逢に関してお伺いします。足繋逢を提供しているのはrinnaさんということですが、読者の方には馴染みが浅いと思いますので、ご説明をお願いします。

【足繋逢】

rinna 山本氏: rinnaはマイクロソフトのBingチームの一部がスピンアウトして設立された会社です。“AIりんな”という看板娘となるキャラクターがいて、人々と自由に会話をして楽しむことができる。こういうモデルをいろんなところに適応して、社会貢献することを目指しているところではあります。

【AIりんな】

 これまでにも大手小売企業のキャラクターや、人型ロボットPepperなど法人向けに自由会話エンジンを手がけてきました。実は私が入社後、一番最初に打ち合わせをさせていただいたのが、ここにいらっしゃるお二人なんです。同時期には、毎週複数の企業様からお問い合わせがあり、AIキャラクターの活用による可能性に皆様が関心を持っていたように思います。その結果として例えばトヨタ自動車の販売店で雑談の出来るキャラクターサービスとして試験運用されたりとか、集英社の「週刊少年ジャンプ」で連載中の『僕とロボコ』一周年記念でLINEアカウントに登場するなど、キャンペーン的な仕掛けなども手がけました。

 私だけでも、この半年間で6件のプロジェクトに携わらせていただいたんですけど、その中で最も挑戦したものが『プラスリンクス』だったんです。かなり技術の限界を超えた領域まで絡む、我々として実験的要素が多分に含まれたチャレンジプロジェクトだったと思いますね。

――今やニュースや日常会話でもAIという単語をよく聞きますが、そもそもAIとはなんなんでしょうか?

rinna 山本氏: rinnaに入社する前、車のADAS(先進運転支援システム)などにも関わっていたのですが、車載システムにもAIが使われているものもあるし、エアコンの⼈感センサで⼈の⽅向に⾵がいくのもAIですね。エアコンの場合は快適さと電力消費量を両立する⽬的、⾞の場合は衝突の危険回避など安全担保を⽬的として、AIを搭載した複雑な制御プログラムが組み込まれています。

 一方で、rinnaが目指しているAIはそうした機能的な側面だけではなくて、コミュニケーションそのものの在り方を変革する為の仕組みをつくろうとしているというのが、正解だと思うんですね。例えば人と話す時、日本語同士であればスムーズですけど、相手が外国語になると、コミュニケーションが成立しにくい。そこを埋めるために翻訳ソフトがあるかもしれませんが、そうではない別の何かの形をしたものがあって、それが仲介することでコミュニケーションがスムーズに早く進む。そんなことが可能になるようなAIを目指している。

 『プラスリンクス』も異なる側面ではありますが、そういう事にチャレンジしています。突き詰めれば、コミュニケーションを新たな次元に引き上げるための世界を目指しているというのが、rinnaのAIの最大のポイントだと思います。更に、そこに表現や感情、ビジュアル、音声が入ってくることによって、人間の体感レベルにAIを高めていく、それを今回ゲームシステムに適用したというのが今の⾃分たちの⽴ち位置ですね。

――AI、人工知能と言うとずいぶん前から研究は進められていたかと思いますが、その当時から比べて今は大幅に進化していると考えて良いのですか?

rinna 山本氏: ⼈⼯知能って、ブームになっては消えてを繰り返してるんですよね。第1次なんて私が⽣まれる前の話だと思うんですが、現在は第3次と言われています。今起きている波は技術的な成熟度とハードウェアのパワー、高速ネットワークの普及などの諸条件が揃ってきたからだと思います。だからこそ、メタバースやXRにAIを持ち込むのも必然なんだろうと思います。

EXNOA 永野氏: ゲームの世界でも、NPC制御などの仕組みに対して昔からAIという名称が定着していますが、それも含めて、本当の人工知能とはちょっと違う意味で使われているケースがよくあるなと感じています。特定の機能に特化して、そこを人では追いつけない速度で処理するという機能的な意味でのAIと、rinnaさんがやっているように人の個性にいかに寄せられるかというAI。後者のほうが、人工知能としての本質にマッチしているイメージがありますね。

Studio51 湊氏: AIという言葉の進化は、実はその性能の進化だったりとか、開発能力の進化というよりも、言葉自体のミームの進化というのが一番大きかったかなと思ってます。

EXNOA 永野氏: 情報化社会の発展にともなって、あらゆる情報がグローバル化したことで様々な分野でミームの進化が一気に進んだ感がありますね。

Studio51 湊氏: それこそ昔、スーパーファミコンとかで対戦ゲームをやっていた時には、コンピュータが操作するキャラをAIではなくCPUと表現していましたよね。でも今はAIと言いますよね。対戦ゲームでキャラが近場に来たら避けるとか、その複雑性がどこまで高められるかによってCPUというのがさらに頭よくなった結果、AIといわれるものになった。ある意味では、名前の使われ方が変わってきたのがAIの一番の進化だったのかもしれないと感じますが、個人的には学習という言われ方をしているものがAIの本質という気がしています。

AIキャラクターにとって大事なことは、しっかりした人物像とバックボーン

――そんなAIキャラクターである足繋逢が実装された経緯を、詳しく教えてください。

EXNOA 永野氏: たまたまrinnaさんと繋がったというのが一番大きくて、チャットコミュニケーションを介して楽しむゲームというのをフックに感じてくださって、アプローチをいただいたというところからスタートしてます。

――ではアプローチ自体はrinnaさんの方から?

EXNOA 永野氏: はい、当社の別部門を介してお声を掛けていただきました。起案当初『プラスリンクス』自体にAIを実装できるという感覚がなかったんですね。でも、最新の情報を調べていくと、“いやなんかできそうだぞこれは”という手応えがあって、どこまでできるかを試すために半年以上、共同研究のような感じでお互いの知見を持ち寄り、少しずつ育てて行ったという経緯です。

――コンセプトありきという意味では、話が持ちかけられて、じゃあという流れで?

EXNOA 永野氏: そうですね。意図せずそういうご縁をいただいて、そこからスタートという感じなので、本当に幸運ですね。女子高生AIりんなは、rinnaさんの一つのコミュニケーションの形として前から注目はしていましたので、これがさらに人間味を出せば、いずれゲームともマッチする日が来るんじゃないかという可能性は感じていたんですけど。

Studio51 湊氏: まさか、そこのご本家とお話しすることになると思わなかった。

――足繋逢の実装について、もう少し具体的に教えていただけますか?

EXNOA 永野氏: 簡単に言うと、rinnaさんのAIプラットフォームであるRCP(Rinna Character Platform)と「プラスリンクス」がクラウド上で連携していて、ゲーム上でプレイヤー様によって送信されたメッセージが、RCPへ送られ、そこでAIが生成した返答をゲーム側が再び受け取って、プレイヤー様の画面に表示させるという仕組みです。

【対話エンジンの構成図】

――手応えは非常に良かった?

EXNOA 永野氏: 良かったですよ。面白いことができるなと最初から手応えがあって、あとはひたすら学習と精度、キャラクター性をどういうふうに作り上げていくかであるとか、お客さんにどう見せたら面白いかなど、検討を突き詰めていった感じです。

――足繋逢の前に女子高生りんながいましたが、この2人のキャラクターは別物ですか?

rinna 山本氏: 全く別物です。今回の制作で女子高生りんなのことは、全く意識しなかったです。AIの技術なので、学習の仕方によってあらゆる人格を作れるというのが特徴で、女子高生りんなは、そういう設定の状況で作ったということですね。足繋逢は、実際にトライアンドエラーを繰り返して方向性が決まり、これで行こうということで、そこを突き詰めた。なので、もう全く違う子です。重要なことは、どういうキャラクターであるべきかというところ。そこがブレるのが一番問題で、それがりんなと逢では全然違うということですね。

Studio51 湊氏: いままでのAIキャラクターでもの足りなかったのは、会話エンジンとしての性能は高くても、そもそも人と人が会話している状況では当然存在する背景だったり、顔を見た時の特徴、どういうことを話すのかという人物像=キャラクター性の深掘りかなと。そこを強く意識したのが、足繋逢というキャラクターのキャラ設定だったり、ビジュアルだったりします。

 逢ちゃんのキャラクター設定としては、ロボット犬・真希奈(マキナ)を抱えていて、犬がしゃべっている時は正確な会話になりますが、逢本人は口下手で喋りにくい女の子だから、時々間違ったこと言いますという設定にしました。これは、AIによる発言のゆらぎを逆手にとった形で、その設定のおかげで、プレイヤー様が見た時に、“なんでこんな変なことを言うんだよ”という部分は逢ちゃんのアイデンティティ、正確な対話の場合は真希奈という形でキャラクター設定として定義することで不満が少なくなったり、自然なコミュニケーションに繋がったりしたら良いなと思っていました。そういうふうにキャラクターコンテンツを深掘りできた上で、rinnaさんと一緒に研究してきたのでより精度が高くなったのかなと。

EXNOA 永野氏: AIモデルと呼ばれるそのキャラクターの魂とも言える器があって、そこに何を注ぎ込むかの違いが一番大きいと思っています。『プラスリンクス』に最適化した逢というキャラクターも、それに相応しいデータを注いで学習させた結果、固有の人格を作り上げてますので、どのAIとも異なる唯一の存在と言えますね。

AIヒロイン・足繋逢(あししげくあい):AI搭載の、犬型ロボット・真希奈を抱えた女の子。普段は真希奈の考えた言葉を首の無線スピーカから流し、自分が話しているように見せている。そのため、自力で会話をしようとすると変な受け答えになることもある。

――足繋逢と、これまでのチャットボットの違いや魅力というのは、どのあたりにあると考えていますか?

EXNOA 永野氏: 一番は、プレイヤー様のメッセージに寄り添えるように作ってあるところですね。受け取ったメッセージに対して様々な感情表現を使い分けます。もちろんAIが独自に判断するので、プレイヤー様がハッピーな気持ちで送ったものを悲しい気持ちで返してしまうといったケースも出てはしまいますが、必ず何らかの読み取りをした上で返す。感情を含めたコミュニケーションを成立させる目的で作ってあることが、特定の内容を正確に返すことを目的としたbotとの最大の違いだと思います。

 最終的にはボイスも実装しましたが、同じ言葉でも自発的に様々な表現に声を載せて合成することで、感情や精神性まで感じさせることができる点はbotには決してできないことだと思います。

フルボイスでの感情表現をも可能にしたrinnaの音声合成技術

――最終的に、足繋逢を実装したことによる影響や、ゲームに対する効果を教えてください。

EXNOA 永野氏: 思った以上に評判は良かったです。特に、声が入った後は「すごい!ここまでできるんだ!」という反応を多く頂きました。あまり例のない取り組みでしたので、新鮮な驚きを提供できたのではないでしょうか。

Studio51 湊氏: あとは、AIだからやってくれてたというプレイヤー様もいました。以前、別のインタビューでも、中の人について話題になったこともあるんですが、裏に人がいるかもしれないと思うと、変なことは言えないと遠慮していた人がいらした反面、AIだったら「何を言ってもいいだろう?」という安心感があったのだと思います。

EXNOA 永野氏: ここは人によりそうですよね。明言は控えていたものの人が返信していることは予想されていたので、より高い精度の返信を求める声と、人がいると思うと、恥ずかしくてプレイできないという声に分かれていた感がありました。

 逢を実装した影響として、プレイヤー様の大部分が、『プラスリンクス』の一部として違和感なく受け入れてくれたことが挙げられます。実装以後でアクティブ数が大きく純増したというわけではないのですが、逢との会話を楽しんでいただいた方の動向が落ちなかったというのがその証左だと思います。

 逢の実装自体は実験的な試みで単独での売上を狙ったものではありませんでした。ほかのキャラクターの1/10程度のコイン消費でやり取りできる設定にして、より多くの方に触れていただきたいという意図をもっていました。世に事例がない中で、どれだけ受け容れられるか? どんなリアクションがあるか? というのを試すという意味では満足のいく結果が得られたと思います。

――AIを提供した側として、評判が良かったと聞いたときは、どう感じられました?

rinna 山本氏: もちろん嬉しかったです。EXNOAさん、Studio51さんにご評価いただけたこともそうですが、その先にいる実際のプレイヤーの皆様がどういう体感を得たのかを知ることができたのは、我々にとっても大変有意義なことでした。しかも、前向きな声が多かったんですよね。もちろんプレイヤーの皆様の高い要求もありましたけど、総じてみればポジティブでした。これまでのrinnaの機能の中でも、まだ到達していなかったレベルまで踏み込んでチャレンジができたという意味では、本当に良かったと思っています。

 テクノロジープロバイダーとして私たちが、新しいキャラクターを作ってどのような効果を得られるか? 私たちがゲームの中でどれだけの満足度を与えられるか? という課題を感じていました。その中で最も判りやすい成果のひとつに、返答速度が考えられました。AIであればスピーディに返答できることは確実ですので、返答の精度と速度を両立するにはどうしたらよいかを検証する観点からも今回の取り組みは重要だったと思います。

EXNOA 永野氏: 返答速度に関しては、ほぼ不満がなかったと思います。我々も色々と試しましたが、多数のプレイヤー様が会話をしていても、遅れることなくすぐに返すことができるという点での成功事例は確保できたと思います。

rinna 山本氏: もう1点あげるとすれば、ゲームでキャラクターが恥ずかしいと思ったときは、頬を赤らめるという反応が想定されるわけです。単にテキストを返すだけでは、十分な感情が表現できない。逢に頬を赤らめてもらうイラストデータがあったとしても、それを出力するためにはAIが感情を付けて返さないとゲームに反映できないんですね。

 そこはAIりんなでは到達していない領域でしたが、それをこのわずかな期間で実装までこぎ着けることができました。感情表現パターンとしては8つあって、それだけでもかなり大変ではあったんですけど、元々感情を出力する技術はあったので、それを適用しながらトライアンドエラーを進めました。その結果、ここで顔を赤らめる、照れた顔をする、ハートの漫符を出す、といった反応が実現できたことで、逢の完成版を提供できました。この感情表現を利用することで、音声合成による多彩な声の表現も可能となりました。

 何か一つの言葉を表現するにしても、怒ってる口調や悲しんでる口調など、その時々の感情表現が生成されて、そこから音声を作ってゲームに戻す。AIなので、生成される度に表現が変わります。これらのすべての音声をあらかじめ収録するのは不可能ですが、AIだからこその完全フルボイスで実現できたのは、多分お客様が感動したポイントだと思いますし、これが実現できたことは技術的な成果としても大きかったです。

EXNOA 永野氏: 感情も含めてAIが判断したものを出力しているので、ゲーム側で後からくっつけてるわけじゃないんですよね。そこが凄く技術的にこだわった部分。声優さんも、美少女ゲーム界で著名な方にお願いしたので、普通に収録された声と比較できる人もいらしたと思います。そこで“すごくよくできてる”という感覚を得た方が結構いたんじゃないかと思っています。

Studio51 湊氏: 音声合成は、もちろんrinnaさんのTTS(Text to Speech)という技術自体の高さのおかげだと思いますが、声優さんによる学習用音声の収録も非常に良かったと思いますね。声の使い方とか、間の取り方、特徴的な溜め方、吐息の漏らし方など、合成で出力された声で喋ってる時も、本当に流暢に聞こえる。正直、なんでこんなことができるんだろうと思って。

EXNOA 永野氏: 熟練した声優さんの表現をベースにしたからこそではあるんですが、最終的にはそれを取り込んだAIが声優さん独自の特徴を再現しながら流暢に喋っているのを見ていると、どんな技術なんだろうと、自分でもよくわかってないんです(笑)。

――改めて実際に足繋逢を実装しての、手応えと反省点を教えてください。

EXNOA 永野氏: 手応えは、ああいったものをコンテンツとして送り出せて、そこにプレイヤー様のしっかりとしたリアクションを体感できたことに尽きます。反省点としては、もっとやりたかったことがありまして、シナリオに沿った場面転換があったり、「プラスリンクス」のほかのヒロインと同じように物語性のある展開をするなど、いろいろやり残した部分がありますが、逆に言うとそこにAIキャラクターの可能性がまだまだ残っている。おそらくまだ誰もやっていないので、何らかの形で挑戦できたらと思ってます。

Studio51 湊氏: AIの次のステップは、僕はやっぱりシチュエーションだと思っています。シチュエーションと好感度ですね。ストーリーに沿って感情面まで同期させるなら、だんだん仲良くなっていくというような方向に発展できたと思っています。その実現性は十分にあると思うので、そこはぜひやってみたいです。

 あとは、例えば水族館では、水族館にまつわる話をベースにしながら何か違う話題も織り交ぜて会話することができたらもっと良かった。そうすると本当のコミュニケーションツールになるわけで、キャラクターとしてとても高いレベルになると思うんですよね。

EXNOA 永野氏: プレイヤー様から多く寄せられた声として、逢の設定に“都市伝説大好き”っていうのがあるのだから、それに対する話を自発的にできたらよかったという点があります。

【足繋逢のキャラクター設定】

――確かに都市伝説好きだけどって、話を振っても話題が切れちゃいましたよね。

EXNOA 永野氏: そうなんです。そこに絞った学習はさせてなかったですし、今回は円滑なコミュニケーションに振り切ったので、知識レベルを深めるような仕込みまではできてなかったんですよ。rinnaさんの持つ技術を使うことで十分に実現可能なポイントではあったので、これもやり残したことのひとつに含まれますね。

AIという先端技術を駆使したコミュニケーションゲームでは、何でもできると確信

――今回、足繋逢に使われたAIについては得るものがあったと思うのですが、今後の展開は何か考えていますか?

rinna 山本氏: 元々、会話をするというところに関しては、マイクロソフト時代から含めて6年以上の歴史を積み重ねてきたものがあるので、どこにも負けない自信があります。テクノロジーの発展とともに、そこに適応して私たちの技術もさらに進化できるといった既定路線は見通せる一方、感情に関するところは今回初めてお客様向けに本気で取り組みました。従来の研究開発でも取り組んでいましたが、今回の『プラスリンクス』での取り組みを通じて、これまでの実績を応用してゲームシステムに適応するアプローチで実装に到りました。分類するということにフォーカスしたクラシファイア(Classifier)モデルと呼んでいる技術を使っています。今回は感情の分類で用いましたが、それ以外にも分類できるものが数多くあり、様々な範囲で適用できるという確信を得られた点も、我々としては大きなメリットでした。

EXNOA 永野氏: そうした技術を活用することで、だんだん仲良くなっていく雰囲気を醸す感情表現も、今後十分に実現できそうですよね。

rinna 山本氏: そうなんですよね。次の展開を考えた時、そういった所はクラシファイアモデルで作れるので、そこから広げて、例えば、僕が来た時には、逢ちゃんはツンとした感情しか返さないけど、湊さんがくるとデレデレ、ラブラブな雰囲気を醸し出すといったように、プレイヤー様によって会話レベルが異なるようにコントロールする。さらにそれを、何百何千といった人が同時に繋いで会話する中で、すべてのプレイヤー様に対して個別にコントロールできれば、凄いことが起こせるだろうなと思ってます。

 さらに補足するなら、プレイヤーの皆様がキャラクター設定に対してすごくこだわりを感じてくれているということも、私たちの新たな知見になりましたね。AIという存在にキャラクター性を与えるために“都市伝説が好き”とか“真希奈という犬ロボットを抱えていて、それが喋ってる”などとしてるんですが、その設定を想像する以上に気に掛けているというか、ちゃんと分かってプレイしてくれている。最初からそれを理解した上で、そこに技術的到達点を持ってこれなかったのは、私的には反省点です。

――それは、この提携があったからこその知見だったということですよね。

rinna 山本氏: そうです。ゲームで本格適用した例が我々にも少なかったこともあり、我々の得たものは大変多かったんですけど、その分足りない点もダイレクトに分かりました。思い起こせばそれって基本だよな、と思わないでもないですが、先端研究に注力してる中では、そこまで考えが到りませんでした。既存コンテンツとは異なる、AIキャラクターという存在であっても、そこまでも考えに入れることで、ファンの方により深く刺さる、というのは大きな気づきでしたね。

EXNOA 永野氏: 真希奈とだけ話したいとかね。

Studio51 湊氏: そうそう、そうなんですよね。あれ、びっくりしましたね。

――今回、『プラスリンクス』で得られた経験から、今後AIを活用または応用していく方向ではどのような感じで考えていますか?

rinna 山本氏: 足繋逢というキャラクターに関しては、こういうこともできたなという観点からお話しをすると、ゲームの外の世界に逢ちゃんを登場させるというのは、技術的には実現性が高いかなと思います。例えば、メタバース空間。最近のテレビ番組などで、メタバース空間に色々なアバターが出ている。ああいった場所に、AIキャラクターを登場させることは、それほど難しくなくできそうです。

 AIキャラクターは、ポータビリティとモビリティがすごく柔軟なので、例えば、ある空間では逢ちゃんがアイドルとしてコンサートをしているかもしれない。音声合成で歌うこともできるので、色々な可能性が想定できますね。

EXNOA 永野氏: AIキャラクター活用の可能性については、『プラスリンクス』での取り組みを経たからこそ思いつくこともあったかと思いますので、そうした展望が見えるところまで来ることができただけでも、すごく大きな成果だったかなと。

rinna 山本氏: rinnaが描くAIキャラクターの活躍する「未来のカタチ」に向き合う中でそのことに気がつけたというのは、⾮常に⼤きかったですね。これからさまざまな計画を立てる時、どんな分野だとしても、最初の段階からいわゆるマルチメディア戦略を採って、AIキャラクターがいろんなところで活躍する前提で企画する。そうしてお客様の感情をより高める結果をもたらすことで、ビジネス面での成果もさらに期待できるなど、いろんな可能性が生み出せると思っています。

――それらを踏まえての、次回作などの展望をお願いします。

EXNOA 永野氏: 『プラスリンクス』という作品が、一定のインパクトをもって受け止められたという実感は得られましたので、続編についてのご期待も耳には入っております。正式なお話しはまだ何もないのですが、また何かの形でお届けする機会があれば嬉しく思います。

 個人的な野望としては、先ほど言ったAIによるコミュニケーションゲームを作ってみたいと思っています。キャラクター性を突き詰めたAIとのコミュニケーション体験です。たくさんのキャラクターがいなくてもいいので、とことん深掘りして、まずは1体からでもいいと思っています。最終的には、完全に自分のパートナーとして成立するような所までもっていけたら最高ですね。

Studio51 湊氏: 少子化進みますね(笑)。個人的にもおっしゃるとおりですし、『プラスリンクス』や逢ちゃんの評判は良かったと聞いておりますので、また何かやりたいですね。

EXNOA 永野氏: ノウハウや感覚は我々の経験値として溜まっていて、先ほど山本さんがおっしゃったように、クラシファイアモデルによる感情の分類などは、今回ご一緒いただいたおかげで可能性が広がった部分もあると思います。我々ももしかしたら、AIキャラクター発展のスタート地点で、少しだけ貢献できたかもしれないと思うと、そこについては結構達成感があります。

rinna 山本氏: それは私も感じています。rinna株式会社として、初めてゲーム分野でAIキャラクターを送り出すことができました。これまでも多くのパートナー様とAIを用いた取り組みを行ってきましたが、一般のお客様に、AIとの高度なコミュニケーションが体験できるサービスを提供できた初の事例となります。そういう意味では十分に貢献できたのではないかと思っています。

EXNOA 永野氏: 双方ともにコミュニケーションというところに軸があったから成立したと思っています。我々も逢に関しては、AIという先端技術を駆使したコミュニケーションゲームの可能性を計りたかった。手軽にコミュニケーション体験が得られるコンテンツへのニーズが十分にあるという手応えが得られたことが一番大きい。

――そうなると、足繋逢が別のゲームで再登板する可能性は……?

EXNOA 永野氏: 『プラスリンクス』は当社のオリジナルのコンテンツなので、どこにも縛りがないですし、サービス終了といえど、キャラクターを使えないということはないので、カチッとはまるところでは十分にあり得るお話しではあります。

Studio51 湊氏: 個人的にはぜひやってほしいですけどね。

――rinnaさんの案内娘とかにデビューしてもいいわけですよね。

rinna 山本氏: そういう可能性もあり得るわけで、我々としては、使いたいと言われたら、基本的なセットアップは早期に可能です。それがAIキャラクターの強みでもあると思うんです。今回の件で、AIキャラクターが感情表現できるところまで成長したので、そこも含めて再現性は非常に高いです。

EXNOA 永野氏: ゲームの機能自体がなくても、入出力の仕組みさえ用意すれば成立できちゃうのがAIの凄いところですね。

――これを読んでいるゲームファンに向けて、一言ずつお願いします。

rinna 山本氏: まずは、逢ちゃんを好きでいてくれてありがとうございます。テクノロジープロバイダーとしては、私たちの技術を使い倒していただいてありがとうなんですけど、そういう言い方は多分そぐわない。やっぱり、逢ちゃんという一人のAIキャラクターを愛して、楽しんでくださってありがとうございますと、本当にそこに尽きると思います。またどこかで会えることいいなと思っていただけているのであれば、作ってる我々も幸せです。

Studio51 湊氏: 『プラスリンクス』をプレイしていただいたプレイヤーの皆様には本当にありがとうございます。逢ちゃんも含めてヒロイン達のことは、なるべく忘れないように“想い出すことを想い出して”ほしいなと思います。あとは、ぜひ続編ができるように声を送っていただけたら、などと思ったりします。これからもアドベンチャー界隈だったり、他のゲームなどでもいろいろやっていくと思いますので、引き続きよろしくお願いします。

EXNOA 永野氏: 『プラスリンクス』を長く遊んでいただいたファンの皆様に、厚く御礼を申し上げます。チャットゲームという未知のジャンルに挑戦しようと思い立ち、実際に仕掛けてみたところ思った以上の反響を得られ、やはり求められている方向性なのかなという手応えをいただきました。その中で、ファンの皆様にいろんな声を寄せていただいて、ゲームを発展させる大きなきっかけになったこともたくさんありました。前例のないゲームだけに、皆様の声に助けられて仕上げていったという側面が非常に大きいです。プレイしていただけただけでなく、一緒に育てていただいたことに対して、心から感謝しているということを、一番お伝えしたいです。

 今後に関しては全く未定ですが、コミュニケーションを軸にしたエンターテイメントというものに対する世の中のニーズはますます大きくなるという確信が得られましたので、この経験を活かして、この先、何かを生み出すチャンスに恵まれたら是非また挑戦してみたいなと思っています。本当にありがとうございました。

――ありがとうございました!