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「ライフ イズ ストレンジ ビフォア ザ ストーム」ファーストインプレッション
触るもの全てを傷つける、孤独な少女クロエに救いはもたらされるか?
2018年5月7日 12:00
「ライフ イズ ストレンジ ビフォア ザ ストーム(以下、「ビフォア ザ ストーム」)」がいよいよ6月7日に発売される。本作は前作「ライフ イズ ストレンジ」の“前日譚”にあたる。前作はマックスという名前の女の子が主人公で、親友・クロエとの物語が描かれた。今作はマックスに再会する前のクロエが主人公となり、前作より3年前、16才のクロエが“レイチェル”と言う女の子と出会う物語が展開する。
「ビフォア ザ ストーム」は3つのエピソード(さらに特典の追加エピソードがある)で描かれる。今回、発売に先がけてエピソード1をプレイできた。この感触、ゲームの面白さを語りたい。
本稿は、どうしてもストーリーやキャラクター描写に触れるので、ネタバレになる。「前情報なしでプレイしたい」という人はプレイしてから読んで欲しい。「このゲームがどんなものか知りたい、買うのを迷っている」という人は、筆者の感想を参考にしてみてはいかがだろうか。前作のファンにも、新しい人にもオススメの、思春期の“青春”を描くとても楽しいアドベンチャーゲームである。
危なっかしいクロエを“見守る”ゲーム性。しっかりと描かれるクロエの焦燥感
「ビフォア ザ ストーム」は前作のファンにとって“不安”があるのではないだろうか? 正直、筆者は不安だった。「ライフ イズ ストレンジ」はフランスのデベロッパーDONTNODが手がけているのに対し、続編であり前日譚の本作をアメリカのDeck Nine Gamesが手がけるのだ。
ファンにとって1番怖いのは「○○はこんなこと言わない」という部分だ。前作と今作でキャラクターの言動や、行動が違う。それは、制作者が同じでも受けかねない批判である。しかもクロエは特殊能力を持たない。前作のゲーム性の核であり、テーマでもあった「もしも時間を戻すことができたら」というものとは、異なったゲーム性が中心となるのだ。筆者はかなり“身構えて”本作をプレイする事となった。
「ビフォア ザ ストーム」はクロエがバイカー達が集まる壊れかけの工場に“侵入”しようとするシーンから始まる。この建物の中ではロックバンド「ファイアウォーク」がライブを行なっているのだ。しかしクロエは16才。ロックコンサートに入るコネもない。それでも中に入りたい……。
この工場でのコンサートはゲームのチュートリアル的な役割も果たしている。プレーヤーはクロエとして入り口で警備をしているバイカーに「バックトーク(論戦)」を仕掛ける。タイムリミット内に相手の言葉尻を捉え、相手をやりこめるのだ。
この場合の目的は「クロエが何としてでもこのコンサートに入りたい、と言うことをわからせる」のが目的となる。挑発したり、感心させたり、自分の決意の固さを見せたり、とにかく「我を通す」ことを成功させる。これが「ビフォア ザ ストーム」の大きな要素となっている。バックトークによって、相手との関係や、物事が大きく変化するのだ。
実際にプレイしてみて、「ビフォア ザ ストーム」の大きな魅力は“キャラクターの掘り下げ”にあると感じた。前作のマックスの視点からでは踏み込めなかった、クロエとジョイス、そしてデヴィッドの関係、そしていなくなってしまった父への想いを強く描いている。
母のジョイスはデイビッドと新しい生活を始めようとしている。クロエとジョイス、母と娘だけの生活は苦しいし、デヴィッドはそれを支えようとしてくれている。しかしデヴィッドは元軍人の堅物だ。傷つきやすい少女の前に、命令口調でしか物が言えないし、クロエはトゲのある言葉しか返せない。母にはデヴィッドが必要かもしれないが、クロエはどうしても、どうしてもそれを認められないのだ。
本作はまた、「学園生活」にもフォーカスが当たっている。マックスは学園に入ったばかりだったが、クロエは生徒として暮らしているし、知り合いも多い。ただし、皆には距離を置かれている……というよりクロエが近づかないのだ。しかしプレーヤーの選択によって彼らと触れあうことができる。
TRPGを楽しむマイキーとステフの“セッション”に参加することも可能だ。いざプレイすると、プレーヤーの選択でクロエがノリノリでキャラクターになりきるのが楽しい。ゲームマスターが提示する状況に合わせて、キャラクターを演じるクロエからは、ごっこ遊び、“自分ではない誰かになりたい”という彼女の願望も垣間見える。
前作のプレーヤーにとっては、ビクトリアやネイサンといったキャラクターとの“再会”も魅力だ。前作のプレーヤーにとって2人は、高慢ちきで腹黒いビクトリアと、親の権力を使ってやりたい放題のネイサンという強い印象を残すキャラクターだが、今作では少し様子が違う。彼らと触れあうことで未来へ繋がる彼らの過去の姿を見ることができる。
そして、「ビフォア ザ ストーム」での大きな魅力は、やはりクロエ自身である。ゲームの主人公は、プレーヤーが感情移入しやすく、行動を自分で選べる没個性なキャラクターになりやすい。前作のマックスも善良だが状況に流されやすい“いい子”だった。しかし、クロエは違う。マッチョなバイカーにケンカを挑んだり、タトゥーだらけのイカれた不良に中指を突き立てたり、制御不能で危なっかしいのだ。
提示される選択肢は周りを拒絶し、ケンカをふっかけるものが多い。特徴的な「バックトーク」での語彙も相手を傷つけるものばかりだ。彼女は学校をサボることが多くなっているし、大好きだった科学の勉強にも身が入れられない、奨学金も減額されそうだ。彼女は学校での“居場所”を失いつつある。
彼女は“絶望”している。父親を失った悲しみから立ち直れず、ジョイスが自分とクロエの幸せのため、新しい愛を得ようとしている行動に反発している。親友だったマックスは遠く離れたところにいて、クロエの悲しみを支えきれずメールも返さないほど疎遠になってしまっている。クロエとなって物語を進めていくことで、「どうにかしてくれ!」と叫びだしそうなつらい状況が彼女を刹那的な行動に駆りたてるのがわかってくる。
プレーヤーはクロエとしてプレイしながら、そんなつらい状況に立たされているクロエを見守っていくこととなる。プレーヤーキャラクターでありながら、彼女の破滅的な行動を止めることはできないし、むしろ「クロエならこうするのではないか」と、よりクロエらしい行動を選択することになる。
前作とは違うチームが担当する「ビフォア ザ ストーム」だが、この“クロエを見守る”というゲーム性が、キャラクター性を強め、「ライフ イズ ストレンジ」ならではの世界観、キャラクター性をきちんと維持していると感じた。3年後に展開する「ライフ イズ ストレンジ」の物語とピタリとはまるのだ。プレイしていて最初に感じていた筆者の不安は解消された。本作はきちんと 「ライフ イズ ストレンジ」の世界と繋がる作品だと実感でき、安心できた。
そして、レイチェルである。クロエのもう1人の親友となるレイチェル。彼女は謎だらけの人物で、そして傷つきやすい魂を持っている。彼女とのふれあいがクロエに大きな変化をもたらすのである。
クロエを振り回すレイチェル。彼女との繋がりが物語の始まり
レイチェルはロックバンドのライブでプレーヤーの前に姿を現わす。不良に追い詰められるクロエを救い出し、クロエの手を引いてバンドの最前列で歓声を上げる。その姿はクロエにとって意外だ。レイチェルは検事の娘という“お嬢様”だ。美人で大人びていて、成績は優秀。彼女は演劇部で主役を務め、誰からも好かれている。そんな彼女がロックバンドのライブにいたのは、クロエにとって大きな驚きだった。
学校で会ったレイチェルはさらに意外なことをクロエに提案してくる。何と彼女は「学校をサボろう」というのだ。「優等生のレイチェルがサボり?」、頭の中を?マークでいっぱいにしながらクロエはレイチェルに腕を引かれたまま貨物列車の貨車に飛び乗る。そのシーンは動画で公開されているので、見て欲しい。
レイチェルは学園の皆が憧れる存在だ。学校に居場所を見つけられないクロエの正反対と言える存在である。しかし、2人の出会いがその関係性を変えていく。2人のエピソードを見ることでプレーヤーはより深く2人の「これから」を想い、物語にのめり込んでいくこととなるだろう。
北米で先行販売された「ビフォア ザ ストーム」はエピソードごとの配信だったため、ここで終わったらかなりやきもきされるだろうな、と感じた。筆者も体験プレイはここまでだったので、とても残念であると同時に、製品版のプレイが待ち遠しい。6月7日発売の製品版では、物語が完結する「エピソード3」までプレイできる。前作同様、やめ時がわからなくなって、一気にプレイしてしまうだろうな、という予感がある。
今回プレイして、筆者にとって「ビフォア ザ ストーム」への心配は杞憂となった。スタッフが 「ライフ イズ ストレンジ」の世界にきちんと敬意を払い、キャラクターへ愛を持って掘り下げ、そして物語へと情熱を持って取り組んでいるのがわかった。クロエの孤独から生まれる自暴自棄で刹那的な生き方。それを理解しつつも助けられない周囲の状況。ここにもう1人のレイチェルという孤独な魂がどのように寄り添っていくのか、そこに興味が惹かれる。ここからさらにどう物語が展開していくのか、本当に楽しみである。
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