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【特別企画】等身大の“青春”描写が楽しい「ライフイズストレンジ」

共感を生む“女子高生の生活”と、謎に満ちた“時を巻き戻す力”の魅力に迫る

3月3日 発売予定

価格:4,800円(税込)

CEROレーティング:D (17才以上対象)

親友クロエとの再会が物語の始まりとなる

 3月3日、いよいよ「ライフイズストレンジ」が発売される。本作は“田舎の女の子の友情と青春”がテーマとなっている。主人公は5年ぶりに生まれ故郷に戻り、全寮制の「ブラックウェル高校」に入学し、有名なカメラマンの元で写真を学ぶマックス。彼女が突然“不思議な力”に目覚めてしまったところから物語が始まる。

 その力とは“時を巻き戻す能力”。彼女は目の前で女の子が男に撃たれ、倒れたのを目撃した時に能力に目覚める。そして時間を巻き戻し、女の子を救う。その子は幼なじみであり、親友のクロエだった。彼女との再会がマックスの生活を大きく変えていく……。

 「ライフイズストレンジ」の魅力をピックアップする今回の特別企画。本稿ではマックスの「時を巻き戻す能力」と、作品内での「等身大の生活描写」という2つのポイントを紹介したい。他にもたくさん語りたいポイントはあり、こちらは発売日に掲載予定のレビューでお伝えする予定だ。

「失敗を今すぐなかったことにしたい!」、時を巻き戻すマックスの超能力

 「時を巻き戻す能力」。なぜこんな能力に目覚めたかわからないが、マックスはこの能力で“人助け”をしようと試みる。ゲーム的にはプレーヤーはマックスを操作しL2ボタンでビデオの巻き戻しボタンを押したかのようにマックスの周りで事象が戻っていく。R2ボタンを押すとさらに巻き戻しは早くなる。

女の子が撃たれた! それを意識した瞬間時間が巻戻った
大きな選択を“やり直す”事も可能に
巨大な竜巻のビジョン。マックスの能力と関係があるのだろうか

 マックスは本を読んでる友達にボールが当たるのを目撃し、時間を巻き戻してボールがぶつかる前に彼女に警告する。また不注意で友達の本にコーヒーをかけてしまったとき、クロエの大事なスノードームを壊したとき時間を戻して原因を取り除く。小さな危険や失敗にも、マックスは積極的にこの能力を使う。

 この能力に目覚めたことをクロエに告白したとき、クロエは面白がってマックスを試す。クロエは言う「マックス、あたしのポケットの中を当ててみせてよ」。マックスはクロエに1度ポケットの中身を見せてもらい、それから時間を巻き戻し中身を言い当てる。クロエは目を輝かせながら言う。「マックス、マジスゴイよ! アタシ鳥肌立ったよ!」。

 ゲームとしては実はこの“ポケットの中身当て”は難しい。所持金額、たばこの本数、キーホルダーの動物の種類など、クロエはかなり細かい質問をしてくる。記憶力に自信のない人はメモを片手にプレイするのがオススメだ。ちょっとレガシーさを感じさせるこのゲーム要素は、時間を巻き戻す能力を得てもそれを駆使するのは簡単ではないなあと思わせられて、面白い。

 マックスそのものは巻き戻る時間と独立しており、例えば岩が転がってこちらにぶつかって道がふさがれてしまうようなとき、時間を巻き戻しつつ移動することで道がふさがる前に通り抜けができる。この能力を使わなければ進めない場所もあり、時を巻き戻す能力はちょっとしたパズル要素をもたらしている。

 さらにこの時間の巻き戻しは「ゲームのストーリーそのもの」にも影響を及ぼす。Aを選ぶか、Bを選ぶか、大事な決断をしたときに時間を巻き戻し選択肢を選び直せるのだ。しかしその決断の“本当の結果”はその後の、ゲームが進んだときに明らかになる。そしてその時にはもう選択を選び直せない。時間が巻き戻せるのに大局的な事象、人の心は完全には意のままにできない、そのことをプレーヤーは知ることになる。

 しかし、何故マックスがこんな能力を得たのか? それは大きな謎になっている。またこの能力はほんの少しの時間しか巻き戻せられない。しかも時間を巻き戻していると、不吉な感じの赤黒い霧のようなものが視界を覆っていき視界が真っ赤に染まり巻き戻せなくなってしまう。何か悪い影響があるのでは? と不安になってしまう。

 そしてこの能力に大きな関係があると思わせるのが不吉な“ビジョン”だ。その時マックスは灯台のある崖の上にいて、巨大な、湾いっぱいに広がる巨大な竜巻が街を覆うのを見るのである。これは予知夢なのだろうか? マックスの目覚めた能力に関係があるのだろうか? このマックスのビジョンはプレーヤーの心にも大きな不安を生じさせてゲームは進行していく……。

【時を巻き戻す-ものが壊れるのを防ぐ-】

【時を巻き戻す-クロエのポケットの中身を当てる-】

【時を巻き戻す】
友達に警告し、これから起こる小さな不幸を防ぐ
時間を巻き戻していると赤い霧と不気味な模様が視界を覆っていく。不吉な予感がわき上がる演出だ

不良になっちゃったけどやっぱり親友だ。……リアリティをもたらす生活描写

 「ライフイズストレンジ」のストーリーは謎めいていて、繊細で、そして強く“共感”をもたらす。気丈に振る舞っている人も悩みを抱えていて、“良い明日”を求めてあがいている。マックスはこの能力と、クロエとの再会をきっかけに様々な事に触れることになる。そしてその経験はマックスを成長させていく。

学校の廊下。映画やドラマでおなじみの風景だ
不良パンク少女になってしまったクロエの部屋
アメリカならではのダイナーの描写

 本作のストーリーはオカルト、ミステリー要素をも強いが、しっかりした“リアリティ”を感じさせる。この“現実っぽさ”を大きく支えてくれるのが、本作の生活描写である。マックスの行動、舞台設定、そしてマックスが出会っていく事象は「ああ、こういうこともあるよね」とプレーヤーに強い共感をもたらす。

 冒頭、マックスはかなり内気な女の子として描かれる。授業では“優等生”に自分が答えられなかった答えを言われ、馬鹿にされたような視線を向けられる。授業が終わり廊下に出ると親しげに話す人たちがいる。なんだか自分の噂話までされているような気もする。マックスはヘッドフォンを取り出し耳につけ、音楽を再生してから廊下を進む。まだ学園に馴染みきれず、親しい友達が作れないマックスの状況を端的に語る演出が楽しい。

 マックスが通う写真学科は高名なカメラマンの授業が受けられることで知られている。このため教室の備品は豪華だ。ロッカーが並ぶ廊下はアメリカの映画やドラマで見る風景そのまま。掲示板やポスターもいかにも学校に貼ってありそうなものが並んでいる。こういった丁寧な設定と、それをきちんと表現するグラフィックスは、ゲームをプレイしていると自分もこの学校の生徒になったような気持ちにさせられる。

 マックスの通うブラックウェル高校は全寮制で、マックスも寮に住んでいる。マックスの部屋は結構雑多だ。壁一面に写真が飾ってあるところなどが写真学科の生徒らしい雰囲気を出している。友達に貸してもらったものが適当な場所に置いてあったり、床に服が脱ぎっぱなしになっていたり、ちょっとルーズな感じがリアルだ。

 他の女の子の部屋もいかにも“らしくて”チェックするのが楽しい。部屋を飾り立てる女の子もいるし、だらしない子もいる。地味だけどかわいらしいイラストを描く女の子ケイトの部屋にはキリスト教関係の小物がたくさん置いてあって、信心深さを感じさせる。部屋できちんとキャラクターを表現しているのは世界観にリアリティをもたらし、キャラクターを掘り下げられる。

 そして最も楽しい部屋の描写がクロエの部屋だ。会わなくなって5年、かつての親友は不良少女になってしまった。ロックでパンクな小物が並び、部屋は落書きだらけ。荒れてしまった彼女の心情を物語っている。それでいながら子供の頃マックスとクロエが背比べをしたあとがあったり、マックスとの思い出の品があったり、クロエの変わっていない部分を見つけられるのが楽しい。

 現在のクロエは慣れた手つきでたばこを吸うし、ロックな音楽にノリノリになる。それは遠くなってしまった親友の「現在の日常」なのだ。マックスは最初はクロエの変貌に戸惑うが、しだいに親友の変わらない部分も見つけていく。この感覚もとても共感できる。久しぶりに再会した友人が急に大人の顔を見せてたばこを吸ったり、子供の頃に遊んだ友達の部屋が大きく変わってしまうというのは、多くの人が体験する感覚だろう。クロエとマックスの再会は自分自身の記憶も刺激する。

 筆者はクロエの母が務めるダイナー(プレハブ式レストラン)で、朝食を食べるシーンも好きだ。ダイナーでの食事シーンは、映画やゲームでもよく登場する“アメリカを代表する風景”の1つといえる。町の住人がのんびりと食事をする風景は筆者にとってはアメリカに行ったときの記憶を思い出させた。実際にダイナーで食事したとき、自分がアメリカの映画の登場人物になったような気持ちになって、店を見回した。あのときの高揚感は楽しい記憶だ。本作のリアリティのあるダイナーの描写はあのときの記憶を蘇らせた。

 「ライフイズストレンジ」はこういった“生活感”の描写にかなり力を入れている。アメリカの片田舎の誰でも体験しているような日常。そこで偶然手に入れてしまった不思議な能力。そしてクロエが直面している“ある事件”がマックスの平凡な学園生活に大きな変化をもたらす。

 あえて今回は触れなかったが、「ライフイズストレンジ」は展開する謎めいたストーリーこそが最大の魅力だ。今回紹介したしっかりした日常描写と、不思議なギミックが楽しめるマックスの能力が生み出すゲーム性が、展開するストーリーに一層の楽しさを生み出し、プレーヤーは一気に引きこまれるのである。ぜひプレイしてもらいたいタイトルだ。

【リアリティあふれる描写】
写真家志望らしいマックスの部屋
学校の様々な場所が描かれる。女子寮の部屋は住人の個性がきちんと感じられる
不良になってしまったクロエ。部屋も荒れているが、細かく見ていくと昔を思い出させるものも見つけることができる

(勝田哲也)