2016年12月6日 00:00
ゲームは、自分の想像を遥かに超えるものを見せてくれることがある。
だから今もゲーム好きで居続けている。
最近は忙しさの中で、そういう気持ちを少しだけ忘れていたかもしれない。
でも、思い出せた。
ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジアより12月6日に発売されるプレイステーション 4用アクションアドベンチャー「人喰いの大鷲トリコ」(以下、『トリコ』)のゲームレビューをお伝えする。
「トリコ」は、プレイステーション 2の名作、「ICO」、そして「ワンダと巨像」を作り上げたゲームデザイナー上田文人氏による、7年ぶりの新作となる。世界中のゲームファンが待ち望み続けた作品だ。ゲームとして、作品として、どのようなものになっているのか。記していこう。
大鷲のトリコと力を合わせて遺跡を巡る。シンプルな構成ながら、たくさんの感情を呼び起こす物語
「トリコ」で描かれるのは、不思議なおとぎ話のような物語。
主人公は、体に不思議な文様が浮かび上がった少年。少年が目を覚ますと、そこは巨大な遺跡の奥。薄暗い洞窟に寝かされていた。そして、その傍らには村の長老から聞かされていた“人喰いの獸”、巨大な大鷲「トリコ」がいた。
巨獣は鎖に繋がれ、傷を負い、殺気だった眼を光らせている。頼れるものはなにもなく、巨獣におののくほかない幼い少年。二人の出会いは恐ろしいものだった。
そんな出会いから、遺跡を巡っていく“少年とトリコの物語”が始まっていく。
本作最大のポイントは、なんといっても巨大な獸「大鷲のトリコ」の存在だ。
プレーヤーは少年を操作するが、大鷲のトリコはそんな少年のあとをついてきて、一緒に行動してくれる存在だ。少年の呼びかけに反応してくれる一方で、ときには勝手に先へと進んでいってしまうこともある。あくまで気の向くままに行動しているかのような動きを見せる。
トリコの見せる様々な仕草も魅力だ。人なつっこく顔を寄せて来てなでてあげると、嬉しそうに眼を細めたり。首元を足でボリボリ掻いたり、少年が離れているときにウロウロしていたり、少年の危機を察して必死に鳴いていたり。
一方で、ときにそれが“人喰いの獸”と呼ばれるのも納得の恐ろしいものに変貌するときもある。眼を怪しく光らせ、巨体から放つ大きな力を振るう。そして……。
かわいらしさも、頼もしさも、そして恐ろしさも。トリコはそれらを併せ持っている存在だ。トリコとの直接的な言葉のやり取りなどはないが、プレイを重ねるうちに通じ合っていくような感覚が生まれていく。そうして、少年ことあなたは、いつしかトリコがそばにいないと寂しさや不安を感じるようになっている自分に気がつくことになる。
たくさんのシーンを共に乗り越えることで、かけがえのない結びつきを手に入れる。それこそが本作の醍醐味だ。
本作は、そんな“大鷲のトリコを活かす”という特徴を持った、パズル要素の強いゲームだ。遺跡の内部は何者かを閉じ込めておくような……または侵入者を拒むような様々な仕掛けによって塞がれている。その仕掛けを解くことで先へと進めるようになるというデザインだ。
プレーヤーが操作する少年は、その小柄かつ身軽な体格を活かして狭い隙間や穴を進んだり、ロープなどを伝っていったりして、先へと進むための仕掛けを目指していく。
一方で、少年では届かない高い場所などもあるのでそういうときはトリコを呼んで、その体によじ登り飛び移ったり、少年ではとても渡れないような足場をトリコに乗って飛んでもらったり。それぞれの長所を活かして仕掛けを解いていくのがポイントになっている。
トリコには指示を出すこともできる。R1ボタンで「トリコを呼ぶ」ほか、R1ボタンと方向入力や各種のボタンを組み合わせもできる。R1ボタンと方向入力ならその方向へトリコが進んでくれるし、ボタンとの組み合わせでは、例えば少年がジャンプする△ボタンと組み合わせると、トリコも前方へと飛び上がってくれる。
ただ、この指示はゲーム的にトリコを完全に操作できるようなものではないのが独特で、少年が呼びかけてから、トリコが自分なりに考えて理解してから動くような待ち時間がある。その感覚に慣れるのには、少し時間がかかるかもしれない。
一方で、単純に、その指示のとおりには動けないというときもあり、そのときにはいくら待ってもどうにもならない。ちょっと急かすぐらいに何度も指示をしてみて、どうしても動いてくれないときには他の手を試すというのがいいだろう。
遺跡の謎解きの仕掛けは非常に良く出来ている。一見すると何も触れるものがないような場所でも、よく観察するとちょっとした何かがあったり、トリコの頭の上に乗って高い場所から見ると発見できたり。プレーヤー心理の裏をつくような、一歩踏み込んだ凝ったものになっていた。
それだけに、ちょっとした見落としから変なところに長時間ハマってしまった……なんていうときもあるかもしれない。
ゲーム全体のテイストの話をすると、プレイ開始の冒頭からしてそうなのだが、どこかアカデミックな雰囲気の香る、静かで柔らかな味わいに包まれている。他のアクションゲーム等が刺激的な繁華街であるなら、本作は大きな図書館の片隅で過ごすような、静かに、そして深くへと、感性を刺激していくような手触りがある。
ひとたび屋外のシーンに進むと、吹き抜ける風の音が聞こえ、トリコの羽が揺れ、少年は眼を細める。陽の光がまばたき草木がそれを乱反射させる。薄暗い遺跡内との対比も素晴らしく、その一瞬一瞬にアーティスティックな美しさを感じずにいられない。
謎と神秘に満ちたストーリーテーリングも見事で、上田氏の作品に共通するところではあるが、言葉ではあまり語られず、そこに映し出されている光景や展開からプレーヤーが感じ取っていくものになっている。今作でもその伝え方、丁寧さは非常に優れている。
プレイについて気になったところとしては「序盤のプレイ感の重さ」というものがある。あくまで序盤の話だが、前述のように本作は物語を直接的には伝えず、ゲームプレイとしても遺跡の謎解きを繰り返すような展開が続くため、どうしても展開が静かすぎると感じるときがあった。
また、「パズル的な謎解き+自立した行動を取るトリコ」という組み合わせも、ギリギリの際どい戦いだ。どんなことができるのか、どうしたら行動してくれるのかが曖昧なトリコをパズルの謎解きに活かすわけで、それをプレーヤーが上手く掴んでいけるか、閃いていけるか。謎解きも前述のように直感で解いていくタイプの凝ったものになっているので、適度な苦労だけで乗り越えていけるか、人によってはギリギリのところと思える。
操作性(特にトリコの体にしがみついているとき)とカメラワークにも、もう一歩の改善を期待したかったものがあり、不慣れなうちにはストレスを感じてしまうかもしれない。
ただ、安心して欲しいというか、ぜひともそれを乗り越えて欲しいと思うのは、その先にあるものが期待に応えるものだからだ。
中盤以降のプレーヤーを引き込むような展開はすさまじく、次第にいろいろな謎がプレーヤーの頭のなかで繋がっていって、ひとつの物語の輪郭が見えてくる。
全てを終えて振り返れば、戸惑ったことも、もどかしかったことも、プレイの全てが、大切なものだったと思える。そんな自分がいることに、気がつくはずだ。
待ち望んだファンの期待と想像を超えていく、プレーヤーを圧倒するほどに大きく美しい作品
まるで美しい神話や童話のような作品だ。
決してスケールの大きな話ではない。遺跡という舞台に少年と1匹の獣という、物語を構成するものとしては最小に近いものになっている。
だがそこには、暖かさも、不安も、晴れやかな心地よさも、怯えるようなおぞましさも、たくさんの感情を呼び起こすものが込められている。そして、数多のシーンを乗り越えることで、少年の目線を通して見ていく“トリコへの気持ち”もまた、めまぐるしく変わっていく。
そうした果てにあるもの。それにはただ、ただ、圧倒されるばかりだった。理屈めいた陳腐さなどなく、画面から伝わってくるものを受け止めていく。そこにあるものは想像を遥かに超えていた。
ゲームデザイナー上田文人氏の作品に期待されるもの。その期待どおりのものでもあると同時に……それ以上のものですら、あるかもしれない。
本作の発売までに長い時が経った。それだけに本作から伝わってくるものには、これまでの氏の作品よりも、さらに成熟したものが感じられる。
あまりにも美しく、大きく、この世界と物語はプレーヤーの心を包み込む。
いつか金色に輝く空に。
大空を舞う大きな影に。
遠い日の大切な記憶に。
忘れられない友の声に。
心を優しくなでられる瞬間がやってくる。
この「人喰いの大鷲トリコ」もまた、末永く愛される作品となる。
©Sony Interactive Entertainment Inc.