2016年12月8日 00:00
老舗キーボードメーカーの東プレがついにゲーミングデバイス市場にデビューする。その一号機となるのが、12月9日に発売される「REALFORCE RGB」だ。本製品は東プレ独自のキースイッチ方式である静電容量非接点方式を採用したキーボードで、全キーのLEDライト制御、反応点を調整できるAPC(Actuation Point Changer)機能など、ゲーム性能を高めるための各種要素を詰め込んだモデルだ。
今回発売されたのは英語配列となるため、ある程度ユーザーを選ぶことにはなるが、東プレでは2017年夏までに同モデルの日本語配列バージョンを投入予定としているため、日本語配列を好むユーザーも今のうちに本製品の性能をチェックしておきたいところだろう。
標準小売価格28,800円(税別)とゲーミングデバイスとして非常に高価格となる本製品だが、もともと東プレのREALFORCEシリーズのキーボードは安くても1万円代後半から、高いものでは3万円近くというラインナップであり、本製品の価格も東プレ製品としては突出したものではない。とはいえ、それだけの価値があるかどうかは他のゲーミングキーボードとの比較で語られるべき部分もあるだろう。
本稿では本製品に近しいコンセプトを持つ他社のゲーミングキーボードも例に出しつつ、「REALFORCE RGB」がゲーミングキーボードとしてどのような仕上がりになっているか、REALFORCE歴10年の筆者がチェックしていきたい。また、東プレのスポンサーシップを受けた社会人ゲーミングチームGREEN LEAVESの選手陣に本製品の活用ポイントを聞くこともできたので、併せてお届けしよう。
“フェザータッチ”で気持ちよく打鍵できる高級ゲーミングキーボード
「REALFORCE RGB」の外観はシンプルな英語キーボードといった趣で、配列的な特徴といえば右上に4つ装備されたメディアコントロールキーと、右CTRLキーの隣に装備されたFnキーくらいのものだ(詳細後述)。英語配列に慣れたユーザーなら全く違和感なく使用を開始することができる。全体のデザインは、通常のREALFORCEからさらに上下左右を切り詰め、無駄を無くしてコンパクト化を重視したようなデザインだ。
いくつかの特殊キーの存在を除けば、配列やストローク(4mm)などの基本構造は他のREALFORCEシリーズとよく共通している。キーの各列に段差を設けてタイプを容易にするステップスカルプチャー構造も、他の高級キーボード同様だ。そして重量は東プレ製キーボードの例に漏れず1.4kgもある重量級。他の同サイズのゲーミングキーボードよりも一回り重くなっており、打鍵時にビクともしない安定感をもたらしている。
「REALFORCE RGB」のゲーミングキーボードとしての特徴の第1は、やはり東プレ独自のキースイッチ方式である静電容量非接点方式を採用している点だろう。
“フェザータッチ”と呼ばれるこの方式では、スイッチ押下時の磁界変化でスイッチのON/OFFを検出する。このため、スイッチ内の電気回路の接触によってON/OFFを検出する一般的なメカニカルスイッチとは異なり、キー部品同士が接触することなく、静かでスムーズな打鍵を実現しているほか、静音、高信頼性、長寿命といったメリットをもたらしている。
実際に打鍵してみるとその差は一目瞭然で、指に軽く力を入れるとスッ、スッとキーがスムーズに押下される。一般的なゲーミングキーボードでよく採用されているCherry製メカニカルスイッチでは、キーの反応点(アクチュエーションポイント)でカチッとした抵抗があるものだが、本製品のスイッチにはそういった荷重の変化やクリック音というものが一切ない。このため指への抵抗が少なく、高速打鍵時も耳障りなノイズを発生することがないのだ。
これに近いキータッチを持つキーボードとしては、ロジクールのGシリーズの「ROMER-Gメカニカルキー」搭載機が挙げられる。G310、G810、G910Rといった高級モデルに搭載されているROMER-Gスイッチはメカニカルスイッチ特有のカチカチ音がなく、サクサクとしたリニアな押下抵抗が特徴だ。だが、REALFORCE特有の静電容量非接点方式のスムーズさはそれすらも超えている。“フェザータッチ”と呼ばれるゆえんだ。
こういったREALFORCEシリーズのキモと言える部分を引き継いだ本製品では、これ以上ないほどのスムーズな押下感を実現しており、高速タイピングやゲーム操作が指先に負担をかけることなく可能となっている。ゲーミングキーボードである前にまず高級キーボードであるという印象だ。
“高級キーボード”に搭載されたもっとも重要なゲーミング機能
通常のREALFORCEシリーズと本製品を分かつ要素として最も重要なポイントは、本製品に搭載されたACP(Actuation Point Changer)機能だ。これはキー押下時の反応点(アクチュエーションポイント)をデフォルトの2.2mmから1.5mm(浅め)または3mm(深め)に調整できる機能で、おもにキー反応の高速化に役立つ。
前述したロジクールのROMER-Gスイッチや他のゲーミングキーボードでも、多くの高級機ではアクチュエーションポイントが浅めに設定されており、キーがより速く反応するようになっているが、本製品ではキーの反応をユーザー自身がキー毎に調整できるというのがポイントだ。
設定用のアプリは公式サイトからダウンロードできる。アプリを使うと全キーを一括して設定できるほか、プレーヤーの好みに応じてアクチュエーションポイントを1キー毎に設定することも可能だ。試みに3mmと1.5mmでキーの反応を比べてみると、3mmでははほぼ完全に押し込むまで反応しないことに対し、1.5mmではキーを押し始めた瞬間に反応するような感覚になる。概ね、速い反応がほしいなら全キーを1.5mmに設定すればいい。
ただ、1.5mm設定では軽く指が触れただけでも反応してしまう恐れがある。例えば武器の切り替えで数字キーを押したり、アイテムや特殊スキルの使用で少し指を伸ばしてキーを押すようなシチュエーションでは、指が他のキーに触れることも多い。そういった際の誤入力を防ぐという意味で、一部のキーを3mm設定にしておくのはいい考えだ。
このためAPC機能の実際の運用としては、まず全キーを1.5mmに一括設定して反応を高めておいて、ゲームの内容やプレイスタイルに応じて発生しうる押し間違いが起きやすいキーについて3mmに個別設定するという方法が良い感じだ。
そして、このACP機能の設定状態がひと目でわかるよう役立つのが、全キーに搭載されたLEDバックライト機能だ。本製品のLEDバックライトはキー個別にフルRGBで発色することができ、アプリ上で個別に色を設定することもできる。これを活用してACP機能で1.5mmに設定したキー、2.2mmのキー、3mmのキーをそれぞれ色変えしておくと、あとあとわかりやすい。
また、キーボード右上端にあるAPCキーを押下することで、「全キー1.5mm/2.2mm/3mm/ユーザー設定」を素早く切り替えることが可能だ。この際に、1.5mmなら青、2.2mmなら緑、3mmなら赤というふうにバックライトが点灯するので、現在の状態をひと目で把握できる。APC機能が存在することで、本製品のLEDバックライトには極めて実用的な意味が生まれているわけだ。
こういった設定内容はキーボード本体に記録できるため、別の環境に持ち込んでもそのまま使用することができる。このほか設定アプリでは任意のキーをロックできるキーロック機能や、CTRLとCAPSキーを入れ替える設定などが可能だが、他のゲーミングキーボードに比べるとできることは最低限に留まっている印象だ。例えば多くのゲーミングキーボードで搭載されているキーバインド/マクロキー機能はない。もしこの手の機能を必要とする人であればこの点注意しておこう。
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APC機能は別売「キースペーサー」との併用で真価を発揮する
キーの反応点を変更できるAPC機能は、単独でもキー反応の違いを体感できるだけの威力がある。それに輪をかけたカスタマイズを可能にしてくれるのが、オプションパーツとして2,500円で販売されるキースペーサーの存在だ。
これはキー裏に設置することでキーストロークを短くするためのパーツで、パッケージには2mm厚と3mm厚の2バージョンが同梱されている。FPSの移動キーに使えるWSADをまとめて底上げするパーツが2mm厚2つ、3mm厚1つと、個別に底上げできるパーツがそれぞれ10個づつだ。
これを使うことでキーストロークを短くすることができる。効果としてはキースペーサーの厚みマイナス1mmというところで、2mmのキースペーサーを入れるとキーストロークは3mm程度に、3mmのキースペーサーを入れるとキーストロークは2mm程度になる、という感じである。装着は簡単、まず付属のピンでキートップを引っこ抜き、キースペーサーをはめ込んで、またキートップをハメるだけだ。
キースペーサー自体は柔らかい素材で作られており、底打ち時の感触がやや柔らかくなるほか、キーストローク自体が短くなることで操作の「戻り」が速くなる、深く押さなくて良いためキートップに指を滑らせて素早く必要なキーを押せる、というのが大きな効果だ。例えばFPSでの移動に使うWSADにキースペーサーを適用すると、より浅い指の動きで素早くコントロールできるようになる。感触としては、キーボードのキーというよりもはやゲームコントローラーのボタンのような感じになる。
3mmのキースペーサーを装着してAPC機能でアクチュエーションポイントを1.5mmに設定しておくと(むしろしておかないとキーが反応しづらくなる)、浅いストロークでサクサクと操作できるようになるため、指への負担を減らしつつ、より高速な入力が可能だ。スピードにこだわるなら全キーがこれでいいのではないかと思われるくらいである。一方、2mmのキースペーサーはやや効果が薄く感じられるので、全種類3mmに統一されていてもよかったかもしれない。
いずれにしてもAPC機能+キースペーサーの効果は絶大で、WSADキーのほか、ゲームでよく使うキーのほとんどに適用するだけの価値がある。特に小指で押すことの多いSHIFTやCTRLに3mmのスペーサーを装着しておき、アクチュエーションポイントを1.5mmに設定しておくと、複数キーを組み合わせたゲーム操作がかなり楽になる。これはオススメだ。
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GREEN LEAVES選手による「REALFORCE RGB」活用模様
「REALFORCE RGB」とキースペーサーの活用についてはゲーム毎の工夫もいろいろあるだろうということで、今回、東プレのスポンサーシップを受けることになった社会人ゲーミングチームGREEN LEAVESの選手たちに話を聞いてみた。
GREEN LEAVESはオンラインFPS「Overwatch」で活動しており、総勢6名がアタッカー、タンク、サポートというふうに役割分担をしているが、今回取材に応えてくれたのは、リーダーのNoanoa選手、タンク担当のgappo3選手、サポート担当のletswise選手だ。各選手とも「REALFORCE RGB」およびキースペーサーを使い始めてそろそろ1ヶ月になるとのことである。
「REALFORCE RGB」を使って特に大きな衝撃を受けたというのはタンク担当のgappo3選手。それまでの数年間は量販店で2,000円程度のよくあるキーボードを使っていたとのことで、本製品の持つ上質なキータッチに「叩いているだけで気持ちいい」とショックを受けたそうだ。
そのgappo3選手、「Overwatch」ではタンクキャラのラインハルトやウィンストンを主に使用するという。「Overwatch」ではアルティメットスキルをタイミングよく使うことが重要だが、gappo3選手の使用するキャラクターはどちらも特に一瞬の反応が求められる。ラインハルトの場合はスキを突かなければ防御されてしまうし、ウィンストンの場合は一瞬遅れると死んでしまうこともあるためだ。
そのためgappo3選手は、WSADといったよく使うキーをはじめ、アルティメットを発動するQキーもアクチュエーションポイントを1.5mmに設定することで一瞬の反応を重視しているという。「自分としては、押し間違うことはまずない」とのことで、全キーを浅い設定にしても問題ないということのようだ。
また、スペースバーにキースペーサーを適用し、連打しやすい設定とすることを重視している。というのも、ウィンストンというキャラクターはジャンプを交えたトリッキーな動きで立ち回ることも重要なためだが、特にスペースバーはキーが大きく、押下時の負荷も大きいため、その操作をできるだけ軽くすることが負担の軽減につながるという考えのようだ。同様にSHIFTキーもよく使う一方大きなキーであるため、キースペーサーの利用を考えているという。
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一方、リーダーのNoanoa選手はACP機能やキースペーサーをより複雑に活用している。サポートキャラクターのルシオをほぼ全試合固定で使用しているというNoanoa選手だが、ルシオはSHIFTキーでのパッシブスキル切り替えを非常に頻繁に使用するため、WSADキーのほかSHIFTキー、スペースバーにも3mmのキースペーサーを使用し、反応位置も1.5mmに設定。特に小指で扱うSHIFTキーが軽く触れるだけで連打もできるようになったということで、操作がかなり楽になったということだ。
逆にNoanoa選手が反応位置を3mmの深さに設定しているのがアルティメットスキルのQキーだ。ルシオのアルティメットスキルはチーム状況に応じてここぞというタイミングで発動することが大事で、一瞬の反応というよりは流れを把握してタイミングをよむことが大事。指が滑って思わぬタイミングで発動するようなことは避けたいため、Qキーは反応を鈍くしてあるのだそうだ。
こういったきめ細かな設定をしているNoanoa選手は次のように語っている。「長時間プレイにおける左手の疲れが全くなくなりましたね。これまでキーボードにはそこまでこだわっていなかったのですが、REALFORCE RGBを使ってこれはぜんぜん違うなと。これはこだわるべきポイントだなというふうに、考え方が全然変わりました」。
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letswise選手はNoanoa選手とともにサポートキャラを担当し、主にゼニヤッタかアナをプレイするそうだ。letswise選手が社会人プレーヤーとして重視するのはキーボードの快適さ。会社では仕事で一日中キーボードを扱い、家に帰れば「Overwatch」の練習でキーボードを触るということで、「REALFORCE RGB」の軽い打鍵感が非常に役に立っている、と語っている。
そのletswise選手は、同じサポートキャラ担当のNoanoa選手とよく似た設定で「REALFORCE RGB」を使っている。letswise選手がよく使うアナというキャラクターのアルティメットスキルは、発動するタイミングによって全く効果が変わってくる特性があるため、ここぞというタイミングで間違いなく押すためにQキーのアクチュエーションポイントを3mmに設定しているのだそうだ。実際に押し間違えがあるかどうかは別にしても、「少なくとも安心感はあります」とletswise選手。
その他letswise選手は、WSADキー、SHIFTキー、スペースバーといったよく使うキーについてはキースペーサーを使用し、アクチュエーションポイントも浅く設定することで反応を重視しているという。さらにしゃがみ操作に使うCTRLキーも同様に浅く設定。頻繁に使うことはないが、撃ち合いの合間に細かくしゃがみを入れることでヘッドショットを受ける確率を減らせるということで、すぐ反応するようにしているとのことだ。
選手毎にそれぞれ工夫しながら使用しているという「REALFORCE RGB」だが、全選手が口を揃えて言うのはやはり快適さであるとか、疲れにくさという部分だ。特にキースペーサーを併用することで指の動きを小さくでき、余計な力を入れずにゲームをプレイできるというのは長時間の練習にも役立っているとのことで、「左手の疲れが残らなくなった」とletswise選手も語っている。
価格相応の完成度。キースペーサーの存在で、将来モデルの方向性も見えてきたか
ここまで「REALFORCE RGB」の出来栄えを見てきた。さすがに高級キーボードREALFORCEシリーズの遺伝子をダイレクトに受け継ぐ製品だけあり、実際に使ってみても性能的に申し分のないキーボードだと感じられた。特に筆者は日頃からREALFORCEシリーズのキーボードを仕事&ゲームに使い続けているので、この静電容量非接点方式のキータッチが好みである、というところもある。ゲーム用途のプラスアルファがあるぶん、「REALFORCE RGB」の価格設定にも納得できるところがある。
おそらく評価がわかれるのはキータッチの部分だと思う。特にメカニカルの手応えを好む人にしてみれば違和感のある部分かもしれない。だが、この軽いキータッチは間違いなく長時間のプレイでも疲れにくいというメリットをもたらしている。これは日夜ゲームに励む人のみならず、仕事でもPCに向かうことの多い人にとって非常に大きなポイントだ。特にキースペーサーと併用した際の浅いストロークと機敏な反応からくる指への負担軽減ぶりは非常に大きなものがある。本製品はキースペーサーとの併用で真価を発揮すると言ってもいいかもしれない。
そこで頭をよぎるのが、「はじめから全キーのストロークを浅くしたREALFORCE RGBが欲しい」ということだ。実際、GREEN LEAVESの選手たちへの取材時にも、同様のリクエストが東プレに来ているという話を聞いた。実現するにはかなりのコストがかかるとも言うが、キースペーサーを装着した浅めのストローク自体に良い効果がある以上、今後のバリエーション化の方向性として全キーストローク調整済みというのはアリな選択肢だと思う。
もうひとつ、多くのゲーマーが熱望しているというのがテンキーレスのモデルだ。マウス操作に広いスペースを確保したいゲーマーにとってテンキーは不要であるケースも多く、実際、ロジクールGやRazerといったゲーミングブランドの多くでテンキーレスのゲーミングキーボードがラインナップされている。REALFORCEシリーズではテンキーレスのモデルも高い人気を誇っているので、いずれ「REALFORCE RGB」のテンキーレス版も出てくることを期待しておこう。
2017年春頃の発売が予定されている日本語配列バージョンを含め、東プレのゲーミングキーボードシリーズにはまだまだラインナップに不足が感じられるところもあるものの、その第一号としてデビューした英語配列「REALFORCE RGB」は高級キーボードとしても、ゲーミングキーボードとしても非常に高いレベルの製品となっており、今後ゲーミングデバイスの選択肢として常に一考する価値のある存在になっていくだろう。ゲーマーの幅広いニーズに答えるため、本シリーズのさらなるラインナップ拡充を期待したい。