ゲーミングノートPCレビュー「GE62VR Apache Pro」

GE62VR Apache Pro

GeForce GTX 1060搭載でVRもハイエンドゲームも楽しめるゲーミングノート

ジャンル:
  • ゲーミングPC
発売元:
  • MSI
開発元:
  • MSI
プラットフォーム:
  • Windows PC
価格:
240,000円~(税別)
発売日:
2016年8月17日

 ノートPCのGPUはデスクトップに比べると性能を抑えざるを得ない……という常識は残念ながら過去の話となった。今年8月にNVIDIAが投入したノートPC向けGPUは、何とデスクトップ向けGPUと同じ型番、スペックもほぼ同一。ノートPCでは難しいとされていたVRを可能にするいう常識破りのものだった(参考記事

 この“ノートPCでVR”の動きにいち早く反応したのがMSI。今回スポットライトを当てるのは、GeForce GTX 1060を搭載した2スピンドル(光学ドライブ付き)モデル「GE62VR 6RF Apache Pro(以降GE62VRと略)」だ。8月17日に発売されたモデルで、実売価格は24万円前後。

 今回このGE62VRのメモリ8GBモデル(GE62VR-006JP)をテストすることができた。実際にVRが動くかどうかはもちろんだが、GTX 1060を搭載したゲーミングノートとしての実力を中心にチェックしてみたい。なお、上位モデル「GT72VR 6RE Dominator Pro Tobii」のレビュー記事も紹介しているので合わせて参考にしてみて頂きたい。

スペックをチェック。DVDドライブを標準搭載し、メモリ量の異なる2モデルを用意

VRもゲームも楽しめる「GE62VR Apache Pro」(HTC Viveは同梱されていない)

 まずはGE62VRのスペックを確認しておこう。以前にも当サイトでMSI製GTX 1060搭載のゲーミングノート「GS63VR Stealth Pro」を紹介した(参考記事)が、GS63VRが薄さを追求するためディスクドライブ非搭載だったのに対し、新しいGE62VRはDVDスーパーマルチドライブを内蔵している点に注目したい。その分本体重量は2.4kgとやや重めだが、パワフルなGPUを搭載したノートとしてはそれほど重くない。パッケージ版のゲームやアプリを導入する機会が多い人や、バックアップ手段としてDVDを使っている人には、GS63VRよりもGE62VRの方がオススメだ。

 基本的な構成はCore i7-6700HQに15.6インチのフルHD液晶、SSDは256GBのM.2 SATA SSDに1TBのHDD、有線LANと802.11acの無線LANを備える。メモリはDDR-2133の8GB(シングルチャンネル)だが、これを8GB×2にした上位モデル(GE62VR-002JP)」も用意されている。メモリ増設は底面カバーを開けるだけなので非常に簡単だが、保証が切れてしまう(傷つけると保証が切れるシールの下にネジがあるため)ので、写真編集等もやりたい人はメモリの多い002JPを選ぶ方がよいだろう。ちなみに原稿執筆時点では、なぜかメモリの多い002JPの方が微妙に安い。

 本製品はユーザーにVRを強く印象づける製品だが、本体の端子類の配置が特にVR向けにチューンされている訳ではない。ただ今回HTC「Vive」で試したところ、Viveに繋がるHDMIやUSBケーブル、さらには有線LAN等のケーブルが全て左から出るので、使い勝手は非常に良いと感じた。

【スペック】
CPU Core i7-6700HQ(4コア、2.6GHz、最大3.5GHz)
GPU GeForce GTX 1060 (VRAM 6GB)
メモリ 8GB DDR4-2133 (8GB×1)
ストレージ SSD 256GB (M.2 SATA)+1TB HDD(7200rpm)
光学ドライブ DVDスーパーマルチ
液晶パネル 15.6インチフルHD(1920×1080ドット)、ノングレアIPS
無線LAN インテル Dual Band Wireless-AC 3165 802.11a/b/g/n/ac+Bluetooth 4.2
有線LAN Rivet Killer E2400 ギガビットイーサ+Killer Shield K9000
OS Windows 10 Home
外形寸法 383×260×27~29(幅×奥行き×厚さ)mm
重量 約2.4kg(バッテリー込)

【スクリーンショット】
天板デザインはお馴染みのレッドドラゴンをモチーフにしたエンブレムを配置。このエンブレムは通電時に淡く発光する
背面にひっそりと入れられた「Apache」の刻印
GPU搭載のパワフルなノートだけに、ACアダプタは大きめ。とはいえ本体の厚みとほぼ同程度なので、外出先に持ち出すのは難しくない
重要な端子は左側面に集中的に配置されている。左からケンジントンロック、ギガビットLAN、USB3.0、HDMI、Mini DisplayPort、USB3.0、USB3.0 Type-C、ヘッドフォン&オーディオ端子各1
右側面には光学ドライブを格納する関係上、USB2.0とSDカードリーダー、AC電源程度しか端子がない。ただマウスを右側に置いて使う人には、むしろこれが理想的な配置といえる
背面は両サイドに排気口があるだけで、端子類は一切ない
本体手前にも端子はないが、中央パッド下あたりにパワーインジケータやストレージアクセスに点滅するLEDが配置されている

 MSI製品なのでキーボードはお馴染みSteelSeriesの手によるフルカラーバックライトLED&マクロ機能を搭載した本格的なものを搭載。キーボードのプロファイルは本体右上のSteelSeriesボタンを押すことで順に切り替えることができる。ゲーム用のマクロと派手な発光パターンを含んだプロファイルと、発光をオフにして実用的なショートカットを組み込んだ仕事用プロファイルを使い分ける、等の工夫が考えられる。キーの押下フィーリングは結構軽く、わずかにキートップがフニャフニャする感触があるが、ゲームをプレイしていて疲れない点は評価できる。

【スクリーンショット】
ゲーム中に左Windowsキーが暴発して画面が切り替わらないよう、Windowsキーは右側にしかない配列を採用。右ShiftキーやBackspaceキーが小さいのが少々残念だ
通常キーボードはFとJのキーに突起がついているが、GE62VRはゲーミングノートなのでWキーに突起が付いている。手探りであってもWキーを確実に見つけられるのだ
キーボード右上には電源ボタンのほかに、キーボードのプロファイルを切り替えるSteelSeries Engineボタン(中央)、ファンを全力回転させて冷却力を高めるCoolerBoost 4ボタン(左)がある
光学ドライブが内蔵されているため、パームレスト手前部分の厚みは約24mm。パームレストに手首を預ければ、高さは全然気にならない
キーボードの発光色やマクロの設定画面。バックライトは常時点灯から点滅・消灯などの発光パターンから選択できる

GPUの冷却に注力した内部設計

 ついでに内部もチェックしてみよう。バッテリが背面一帯を占有し、両サイドには冷却用のブロワーファンが1基ずつ、そして計6本のヒートパイプが搭載されている。ヒートパイプを辿っていくと、CPUとGPUに遭遇するが、ヒートパイプの数が多い方がGPUだ。GE62VRではGPU本体に3本、さらにヒートスプレッダを通じてVRAMの冷却用に1本が配置されている。これだけのスペックのハードを比較的薄型のボディーに入れているため、ファンの音は常時聞こえてくるが、集中力を妨げるほどではない。だがしっかりゲームサウンドに集中したければ、ヘッドセットは常備したほうがいいかもしれない。

【スクリーンショット】
「CPU-Z(左)」と「GPU-Z(右)」で搭載ハードウェアの情報をチェック。GTX 1060はメーカーによるOCが可能なGPUだが、GE62VRではリファレンス仕様(ブーストクロック1670MHz)で搭載されている
「CrystalDiskInfo」でGE62VRが搭載するSSD(左)とHDD(右)の情報をチェック。SSDが256GBもあれば、大物ゲームが2~3本インストールできる。ゲーミングPCとしては無難なチョイスといえる
底面のカバーを取り払うだけで内部が完全に露出する(ただし保証は切れるので注意)。光学ドライブやバッテリといった大物パーツの隙間をみっちり基板で埋めてあるのは圧巻。左手のファンの下にある黒いパーツはウーファーだ
ヒートパイプが多い方がGTX 1060。灰色のメタルパーツはGPUの固定とVRAMの熱を吸収する役目を担っている
HDDは普通の2.5インチタイプ、メモリはDDR4-2133のSO-DIMMを使用する。006JPはメモリを1枚しか搭載しないため若干(とはいえ数%程度)性能にハンデはあるが、実使用上は気にならない。もし性能をフルに引き出したい場合は上位版の002JPを選択しよう
SSDは収容スペースの関係でM.2スロットに装着するSATA接続タイプを採用。テスト機にはPhison製コントローラを搭載したKingston製SSDが搭載されていた
有線LANはMSIのゲーミング製品ではおなじみのKiller E2400+Killer Shield K9000のコンビだが、無線LANに関してはインテル製のDual Band Wireless-AC 3165が採用されている。両方ともKiller系にしなかった理由は謎だ

 MSIのゲーミングノートといえばNahimicとDYNAUDIOによる高音質サウンドシステムだ。GE62VRの内蔵スピーカーはウーファーがあるものの口径が小さいため、薄型ノートぽい高音部の強調されたサウンドになっているが、ゲームのサウンドは足音から爆発音まで明確に聞こえる。ボイスチャットの音声のピッチを上下させたりする機能もあるのでかなり実用的だ。

【スクリーンショット】
サウンドシステムを制御する「Nahimic2」のインターフェイス。同じゲームでもFPSやレーシングゲームなど、ジャンルごとに特性を微妙に変えたプロファイルを標準装備。自分の音声のトーンを変更する機能もある
スピーカーは左右に1基ずつと、ボディ底面のウーファーで2.1ch構成になっている。小型なのでちょっと高音部が強めかなと感じるが、ファンの動作音が聞こえていてもしっかり通る良いサウンドが堪能できるはず

 最後にいくつかMSI独自のツールの画面を紹介しよう。

【スクリーンショット】
「True Color」と銘打たれた液晶の色温度調整ツール。GE62VRはsRGB100%に対応した液晶を採用しており、写真編集を行なう場合はsRGBモードに切り替えることで、sRGBの色域を100%カバーするモードに切り替わる
キーボードの発光色の指定はDragon Centerからでも実行できる
GE62VEの独自設定を行なう「Dragon Center」。プリインストールされている「Xsplit Gamecaster 2」等の起動のほか、ファン速度や液晶の色温度調整(True Colorと同じ)等をひとまとめとしたプロファイルを作成し、切り替える機能を備える
MSIが提唱する1クリックVR機能。「VR Ready」機能を有効化した状態でViveを接続すると、VRヘッドセットへの最適化を促すダイアログが表示される

ゲームの前に基礎体力を見る

 それではGE62VRの性能チェックに入ろう。このマシンほど高性能だとゲームだけでなくちょっとした映像編集用としても使えそうなので、まずはゲーム以外の基礎体力を計測する。

CINEBENCH R15

 まずはCPUの計算力を測れる「CINEBENCH R15」を使用する。4コア8スレッドのCore i7-6700HQを搭載しているため、シングル・マルチスレッドともに良好な数値が得られた。これなら後に紹介する「ライズ オブ トゥームレイダー」のようにCPUを酷使する系のタイトルも快適に遊べるだろう。

【CINEBENCH R15スコア】
CPU(マルチコア)649cb
CPU(シングル)126cb

3DMark

 続いてGPUの描画性能を評価する「3DMark」でも計測してみた。テストはDirectX 11ベースの“Fire Strike”および“Fire Strike Ultra”、さらに最近実装されたDirectX 12ベースの“Time Spy”の3種類。ノートPCでFire Strikeが1万ポイント近いスコアが見られるようになるとは、非常に感慨深い。このスコアなら大抵のゲームはフルHD&高画質(以上)で快適に遊べるはずだ。

【3DMark v2.1.2973スコア】
Fire Strike9565
Fire Strike Ultra2585
Time Spy3565

CrystalDiskMark

 最後にストレージの性能を「CrystalDiskMark」で計測。搭載SSDはM.2スロットに接続されているとはいえ、内部的にはSATA接続。そのためリードは最大558MB/秒、ライトはやや遅く323MB/秒。つまり2.5インチのSATA SSDとほぼ同じパフォーマンスとなっている。ただ現在最速のNVMe SSDに交換したとしても、ゲームの読み込み待ち時間は2秒短縮できるか怪しいところ。下手にコストをかけずゲーマーにとってちょうど良い性能のSSDといえる。

【CrystalDiskMark】
CrystalDiskMarkによるSSD(左)とHDD(右)の読み書き速度

ゲームは高~最高画質でヌルヌル動作

 では実ゲームでのパフォーマンスをいくつか見てみよう。まずは「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド」の公式ベンチマークを回してみた。解像度は1,920×1,080ドット、画質はDirectX11の“最高品質”に設定した。

【ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド】
テスト中フレームレートは上下するが、動きの大人しいシーンなら、60~70fpsは軽く出る
戦闘等でキャラやエフェクトがバンバン飛び交うシーンだと、30fps台に落ち込む。ただし30fpsを割るシーンはなかった
最終的なベンチマークスコア。非常に快適判定が得られた。このままでも十分プレイできるがフレームレートを安定させたければ、画質を1段落とすとよいかもしれない

 次は人気のeスポーツ系から「オーバーウォッチ」を動作させてみた。画質は一番重い“エピック”または“ウルトラ”に設定。さらにレンダー・スケールは100%に固定した。マップ“King's Row”におけるBotマッチを利用した対戦時のフレームレートを「Fraps」で計測している。

【オーバーウォッチ】
画質“エピック”だと狭いエリアにキャラが集まると60fpsを切るシーンも出てくる(左)。キャラが少ない時は70fps~80fpsだ(右)
画質“ウルトラ”だと乱戦時でも60fpsを割り込むことはなかった(左)。滑らかさ重視ならこちらがオススメ

【「オーバーウォッチ」画質別フレームレート比較】
実際のプレイにおけるフレームレート比較。エピック設定でもプレイは十分快適だ

 そして描画がリアルな分超絶に重い「ライズ・オブ・トゥームレイダー」も試してみるべきだろう。ゲーム内蔵ベンチマークを利用し“地熱谷”のシーンにおけるフレームレートを比較した。画質は“最高”または“高”、アンチエイリアスは「FXAA」を指定している。なお、フレームレートカウンターを含めたスクリーンショットを撮る関係上、DirectX 11モードでの計測となる。

【ライズ・オブ・トゥームレイダー】
実際のプレイにおけるフレームレート比較。エピック設定でもプレイは十分快適だ
画質“高”にするとフレームレートはぐっと上がる(左)。ただテストしたマップでは、オブジェが少なめな所でも60fps程度で打ち止めとなった(右)

【「オーバーウォッチ」画質別フレームレート比較】
地熱谷のフレームレートを比較したもの。DirectX 11モードは最低fpsが落ち込みやすい傾向がある。平均fpsで考えると、滑らかさ優先なら画質は1番上から1段落とした“高”にすべき

 最後に先日オープンβテストが終了した「バトルフィールド1」でもどれぐらい動くかテストしてみた。ベータ版ゆえにまだパフォーマンスはより良くなる可能性があるので、スコアはあくまで参考として捉えていただきたい。画質はプリセットの最高画質、さらにその1段下でチェックしてみた。画面の描画はトゥームレイダーと同じ理由でDirectX 11を使用している。

 高なら60fps維持が簡単かと思いきや、β版で調整が甘いせいか、オブジェクトの多いシーンでは50fpsを割ることもあった。ただカクつきは一瞬で終わるため、製品版ではもう少し改善されていることに期待したい。

【スクリーンショット】
最高画質設定だと、おおよそ60fps前後をフラフラする(左)のだが、塹壕や村落に入ると50fps前後に落ちる(右)
最高より1段下の設定でも、この傾向は変わらない

VRはひととおり遊べるものの、過度の期待は禁物

 では肝心のVRのパフォーマンスはどうなのだろうか? 「HTC Vive」とGE62VRを組み合わせ、2本のVRタイトル「theBlu」と「HoloBall」をプレイしてみた。前者はビジュアルのクオリティが凄い分要求スペックも高い(CPUが物理6コア以上のCore i7、GPUはGTX 980を推奨)。一方後者はグラフィックはレトロゲームっぽい分だけ負荷も軽い。

 結論から言うと、「theBlu」では魚群を視界に入れるとフレームレートは45fps(本来は90fps)まで下がってしまった。逆に「HoloBall」は軽いため、ほぼ90fpsにはり付く。VRがノートPCでできるという点は褒めるべきだが、どんなVRコンテンツでも完璧という訳にはいかない点は覚えておこう。ただし「theBlu」は“動かない”訳じゃなく、動作はするがフレームレートが足らないので若干追従性が悪くなり、最悪酔ってしまうリスクが出てしまう、という点にご注意いただきたい。

【スクリーンショット】
「theBlu」の「Reef Migration」鑑賞時は、そこら中に魚群がいるので90fpsの維持は難しく見ての通り、52fpsまで低下する
グラフィックスの軽い「HoloBall」だと、ほぼ90fpsに張り付く。一瞬落ちることもあるが、85fps程度で踏みとどまる

VRからハイエンドゲームまでひととおりカバーできるゲーミングノート

 以上、GE62VRをレビューしてみたが、全体の完成度や性能は満足行くものだ。GTX 970の後継というべきGTX 1060の搭載により、フルHD&高画質でも快適にプレイできる。「バトルフィールド1」に期待している人も、このマシンなら快適に楽しめることだろう。

 なお、これを機にVRを一揃い揃えたいというゲームファンには、HTC Viveとのセットモデルも用意されている。セットモデル「GE62VR 6RF Apache Pro-VIVE」(想定実売価格」335,000円前後)には、あらかじめ3本のVRタイトル(「Call of the STARSEED」(Cloudhead Games)、「Tilt Brush」(Google)、「Zombie Training Simulator」(Acceleroto))が同梱されており、購入してすぐVRを楽しむことができる。

 ただ、GE62VRのVR機能については注意が必要だ。ノートPCでVRが可能である、という点には嘘はないが、現在リリースされているすべてのVRコンテンツが快適とは言いがたく、重めのVRコンテンツではフレームレートが足りなくなる。これはエントリーモデルのGTX 1060の宿命的なものなので、「どんなVRタイトルも遊びたい!」と欲張りたいなら、GeForce GTX 1070や1080搭載のハイエンドノートを選ぶべきだろう。

【HTC Vive同梱モデルも用意】