2016年9月26日 12:00
ノートPCのGPUはデスクトップに比べると性能を抑えざるを得ない……という常識は残念ながら過去の話となった。今年8月にNVIDIAが投入したノートPC向けGPUは、何とデスクトップ向けGPUと同じ型番、スペックもほぼ同一。ノートPCでは難しいとされていたVRを可能にするいう常識破りのものだった(参考記事)
この“ノートPCでVR”の動きにいち早く反応したのがMSI。今回スポットライトを当てるのは、GeForce GTX 1060を搭載した2スピンドル(光学ドライブ付き)モデル「GE62VR 6RF Apache Pro(以降GE62VRと略)」だ。8月17日に発売されたモデルで、実売価格は24万円前後。
今回このGE62VRのメモリ8GBモデル(GE62VR-006JP)をテストすることができた。実際にVRが動くかどうかはもちろんだが、GTX 1060を搭載したゲーミングノートとしての実力を中心にチェックしてみたい。なお、上位モデル「GT72VR 6RE Dominator Pro Tobii」のレビュー記事も紹介しているので合わせて参考にしてみて頂きたい。
スペックをチェック。DVDドライブを標準搭載し、メモリ量の異なる2モデルを用意
まずはGE62VRのスペックを確認しておこう。以前にも当サイトでMSI製GTX 1060搭載のゲーミングノート「GS63VR Stealth Pro」を紹介した(参考記事)が、GS63VRが薄さを追求するためディスクドライブ非搭載だったのに対し、新しいGE62VRはDVDスーパーマルチドライブを内蔵している点に注目したい。その分本体重量は2.4kgとやや重めだが、パワフルなGPUを搭載したノートとしてはそれほど重くない。パッケージ版のゲームやアプリを導入する機会が多い人や、バックアップ手段としてDVDを使っている人には、GS63VRよりもGE62VRの方がオススメだ。
基本的な構成はCore i7-6700HQに15.6インチのフルHD液晶、SSDは256GBのM.2 SATA SSDに1TBのHDD、有線LANと802.11acの無線LANを備える。メモリはDDR-2133の8GB(シングルチャンネル)だが、これを8GB×2にした上位モデル(GE62VR-002JP)」も用意されている。メモリ増設は底面カバーを開けるだけなので非常に簡単だが、保証が切れてしまう(傷つけると保証が切れるシールの下にネジがあるため)ので、写真編集等もやりたい人はメモリの多い002JPを選ぶ方がよいだろう。ちなみに原稿執筆時点では、なぜかメモリの多い002JPの方が微妙に安い。
本製品はユーザーにVRを強く印象づける製品だが、本体の端子類の配置が特にVR向けにチューンされている訳ではない。ただ今回HTC「Vive」で試したところ、Viveに繋がるHDMIやUSBケーブル、さらには有線LAN等のケーブルが全て左から出るので、使い勝手は非常に良いと感じた。
【スペック】
CPU Core i7-6700HQ(4コア、2.6GHz、最大3.5GHz)
GPU GeForce GTX 1060 (VRAM 6GB)
メモリ 8GB DDR4-2133 (8GB×1)
ストレージ SSD 256GB (M.2 SATA)+1TB HDD(7200rpm)
光学ドライブ DVDスーパーマルチ
液晶パネル 15.6インチフルHD(1920×1080ドット)、ノングレアIPS
無線LAN インテル Dual Band Wireless-AC 3165 802.11a/b/g/n/ac+Bluetooth 4.2
有線LAN Rivet Killer E2400 ギガビットイーサ+Killer Shield K9000
OS Windows 10 Home
外形寸法 383×260×27~29(幅×奥行き×厚さ)mm
重量 約2.4kg(バッテリー込)
MSI製品なのでキーボードはお馴染みSteelSeriesの手によるフルカラーバックライトLED&マクロ機能を搭載した本格的なものを搭載。キーボードのプロファイルは本体右上のSteelSeriesボタンを押すことで順に切り替えることができる。ゲーム用のマクロと派手な発光パターンを含んだプロファイルと、発光をオフにして実用的なショートカットを組み込んだ仕事用プロファイルを使い分ける、等の工夫が考えられる。キーの押下フィーリングは結構軽く、わずかにキートップがフニャフニャする感触があるが、ゲームをプレイしていて疲れない点は評価できる。
GPUの冷却に注力した内部設計
ついでに内部もチェックしてみよう。バッテリが背面一帯を占有し、両サイドには冷却用のブロワーファンが1基ずつ、そして計6本のヒートパイプが搭載されている。ヒートパイプを辿っていくと、CPUとGPUに遭遇するが、ヒートパイプの数が多い方がGPUだ。GE62VRではGPU本体に3本、さらにヒートスプレッダを通じてVRAMの冷却用に1本が配置されている。これだけのスペックのハードを比較的薄型のボディーに入れているため、ファンの音は常時聞こえてくるが、集中力を妨げるほどではない。だがしっかりゲームサウンドに集中したければ、ヘッドセットは常備したほうがいいかもしれない。
MSIのゲーミングノートといえばNahimicとDYNAUDIOによる高音質サウンドシステムだ。GE62VRの内蔵スピーカーはウーファーがあるものの口径が小さいため、薄型ノートぽい高音部の強調されたサウンドになっているが、ゲームのサウンドは足音から爆発音まで明確に聞こえる。ボイスチャットの音声のピッチを上下させたりする機能もあるのでかなり実用的だ。
最後にいくつかMSI独自のツールの画面を紹介しよう。
ゲームの前に基礎体力を見る
それではGE62VRの性能チェックに入ろう。このマシンほど高性能だとゲームだけでなくちょっとした映像編集用としても使えそうなので、まずはゲーム以外の基礎体力を計測する。
CINEBENCH R15
まずはCPUの計算力を測れる「CINEBENCH R15」を使用する。4コア8スレッドのCore i7-6700HQを搭載しているため、シングル・マルチスレッドともに良好な数値が得られた。これなら後に紹介する「ライズ オブ トゥームレイダー」のようにCPUを酷使する系のタイトルも快適に遊べるだろう。
【CINEBENCH R15スコア】 | |
---|---|
CPU(マルチコア) | 649cb |
CPU(シングル) | 126cb |
3DMark
続いてGPUの描画性能を評価する「3DMark」でも計測してみた。テストはDirectX 11ベースの“Fire Strike”および“Fire Strike Ultra”、さらに最近実装されたDirectX 12ベースの“Time Spy”の3種類。ノートPCでFire Strikeが1万ポイント近いスコアが見られるようになるとは、非常に感慨深い。このスコアなら大抵のゲームはフルHD&高画質(以上)で快適に遊べるはずだ。
【3DMark v2.1.2973スコア】 | |
---|---|
Fire Strike | 9565 |
Fire Strike Ultra | 2585 |
Time Spy | 3565 |
ゲームは高~最高画質でヌルヌル動作
では実ゲームでのパフォーマンスをいくつか見てみよう。まずは「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド」の公式ベンチマークを回してみた。解像度は1,920×1,080ドット、画質はDirectX11の“最高品質”に設定した。
次は人気のeスポーツ系から「オーバーウォッチ」を動作させてみた。画質は一番重い“エピック”または“ウルトラ”に設定。さらにレンダー・スケールは100%に固定した。マップ“King's Row”におけるBotマッチを利用した対戦時のフレームレートを「Fraps」で計測している。
そして描画がリアルな分超絶に重い「ライズ・オブ・トゥームレイダー」も試してみるべきだろう。ゲーム内蔵ベンチマークを利用し“地熱谷”のシーンにおけるフレームレートを比較した。画質は“最高”または“高”、アンチエイリアスは「FXAA」を指定している。なお、フレームレートカウンターを含めたスクリーンショットを撮る関係上、DirectX 11モードでの計測となる。
最後に先日オープンβテストが終了した「バトルフィールド1」でもどれぐらい動くかテストしてみた。ベータ版ゆえにまだパフォーマンスはより良くなる可能性があるので、スコアはあくまで参考として捉えていただきたい。画質はプリセットの最高画質、さらにその1段下でチェックしてみた。画面の描画はトゥームレイダーと同じ理由でDirectX 11を使用している。
高なら60fps維持が簡単かと思いきや、β版で調整が甘いせいか、オブジェクトの多いシーンでは50fpsを割ることもあった。ただカクつきは一瞬で終わるため、製品版ではもう少し改善されていることに期待したい。
VRはひととおり遊べるものの、過度の期待は禁物
では肝心のVRのパフォーマンスはどうなのだろうか? 「HTC Vive」とGE62VRを組み合わせ、2本のVRタイトル「theBlu」と「HoloBall」をプレイしてみた。前者はビジュアルのクオリティが凄い分要求スペックも高い(CPUが物理6コア以上のCore i7、GPUはGTX 980を推奨)。一方後者はグラフィックはレトロゲームっぽい分だけ負荷も軽い。
結論から言うと、「theBlu」では魚群を視界に入れるとフレームレートは45fps(本来は90fps)まで下がってしまった。逆に「HoloBall」は軽いため、ほぼ90fpsにはり付く。VRがノートPCでできるという点は褒めるべきだが、どんなVRコンテンツでも完璧という訳にはいかない点は覚えておこう。ただし「theBlu」は“動かない”訳じゃなく、動作はするがフレームレートが足らないので若干追従性が悪くなり、最悪酔ってしまうリスクが出てしまう、という点にご注意いただきたい。
VRからハイエンドゲームまでひととおりカバーできるゲーミングノート
以上、GE62VRをレビューしてみたが、全体の完成度や性能は満足行くものだ。GTX 970の後継というべきGTX 1060の搭載により、フルHD&高画質でも快適にプレイできる。「バトルフィールド1」に期待している人も、このマシンなら快適に楽しめることだろう。
なお、これを機にVRを一揃い揃えたいというゲームファンには、HTC Viveとのセットモデルも用意されている。セットモデル「GE62VR 6RF Apache Pro-VIVE」(想定実売価格」335,000円前後)には、あらかじめ3本のVRタイトル(「Call of the STARSEED」(Cloudhead Games)、「Tilt Brush」(Google)、「Zombie Training Simulator」(Acceleroto))が同梱されており、購入してすぐVRを楽しむことができる。
ただ、GE62VRのVR機能については注意が必要だ。ノートPCでVRが可能である、という点には嘘はないが、現在リリースされているすべてのVRコンテンツが快適とは言いがたく、重めのVRコンテンツではフレームレートが足りなくなる。これはエントリーモデルのGTX 1060の宿命的なものなので、「どんなVRタイトルも遊びたい!」と欲張りたいなら、GeForce GTX 1070や1080搭載のハイエンドノートを選ぶべきだろう。