(2016/4/22 12:00)
ゲーミングPCはパーツ構成次第でゲームの快適度をどんどん改善することができるが、同時にボディーも大きくなる。性能と省スペース性は常に相反するものなのだ。
だがその認識を改めざるを得ない省スペースゲーミングPC「Vortex G65」が日本でも発売されることになった。これはラスベガスで開催された“CES 2016”に展示され注目を集めたもの。直径約20cm、高さ約27cmの煙突状のケースに、最高のCPUとGPU(それもSLIで)を詰め込んだ省スペース派にはたまらない製品なのだ。
今回はこのVortex G65を発売前に試用する機会に恵まれた。今話題のVRHMDとの相性も合わせ、様々なゲームでのパフォーマンスをチェックしてみたい。
直径20cm足らずのボディーに究極のスペック
今回試用したVortex G65のスペックは以下のとおりだ。CPUは第6世代のCore i7の中でも最も高速かつオーバークロックにも対応したCore i7-6700K、GPUはGeForce GTX 980が2基という構成に注目。CPUもGPUも現役のハイエンドクラス、しかもGPUはSLI……まさにゲーマーのロマンが具現化したようなPCなのである。
なお、今回紹介するVortex G65は、GeForce GTX 980を搭載した上位モデル「Vortex G65 6QF SLI」だが、GPUをGeForce GTX 960にした標準モデル「Vortex G65 6QD SLI」も存在する。価格も329,800円と一気にリーズナブルになる。
【Vortex G65 6QF SLI】スペック | |
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CPU | Core i7-6700K(4コア、4GHz、最大4.2GHz) |
チップセット | Z170 |
GPU | GeForce GTX 980×2 |
メモリ | 32GB DDR4-2133 (8GB×4) |
ストレージ | SSD 128GB×2 (M.2 PCIe Gen3 RAID0)+HDD 1TB (SATA、7200回転) |
光学ドライブ | なし |
無線LAN | Qualcomm Atheros Killer Wireless-AC 1535 802.11a/b/g/n/ac |
有線LAN | Qualcomm Atheros Killer E2400 ギガビットイーサ |
電源出力 | 450W |
OS | Windows 10 Home |
外形寸法 | 193.3×178×270(横幅×奥行き×高さ)mm |
重量 | 約4kg |
煙突スタイルのボディーにデュアルGPUといえば、アップルの“Mac Pro”が思い浮かぶ人も多いだろう。正面には電源スイッチ以外のインターフェイスはなく、全て背面に集中させるスタイルだし、底面から吸い込んだ空気を上方に吹き出すことで冷却を行なう。このあたりにもMac Proへの意識が垣間見れる。
だがMac Proは久しく更新が止まっている上に、搭載CPUやGPUもワークステーション向けのもの。だがVortex G65はクロックの高いCore i7-6700Kにゲームに強いGTX 980を2基搭載している。
CPUやGPU以外の構成もMSIらしいこだわりに満ちたものが使われている。特に印象的なのがKiller E2400の有線LANを2系統に加え、Killer Wireless-AC 1535による無線LAN(802.11ac対応2x2、MU-MIMO対応)というKiller Shild K9000に対応した3系統のネットワークインターフェイスを備えていることだ。
通常こうした構成はサーバー的な用途で使うものだが、本機に搭載されている“Killer DoubleShot-X3 Pro”は、ネットで対戦ゲームをやりながら実況動画を配信するような場合、互いの帯域を食い合わないようにするためにするものだ。
またストレージも強烈な構成だ。データ保存用として1TBのHDDを搭載するが、OSやアプリは256GBのSSDから起動する。しかもこのSSDはPCI-Express x4接続のRAID0なのでリードもライトも非常に高速だ。ただ大作ゲームになると1本30GB~60GB位は占有するので、もう少し容量が欲しかったところではある。
MSI製のゲーミングPCなので、サウンドは当然Nahimic Sound Technologyによるバーチャルサラウンドも利用できる。普通のFPS系ゲームはもちろんだが、ようやく品物が届きはじめたVRHMD(Oculus RiftやHTC Vive)の臨場感を高めるには絶対欲しい装備だ。
文句なしの強烈な処理能力を発揮
では基本的なベンチマークでVortex G65のパフォーマンスをチェックする。Core i7-6700KにGTX 980のSLIという構成だから、高スコアを期待するなという方が酷というものだ。
CINEBENCH R15
CPUの馬力をチェックするには「CINEBENCH R15」が最適だ。4コア8スレッド、Turbo Boost時最大4.2GHzという高クロックなCPUを搭載しているので、スコアも当然高い。最近のゲームはとにかくCPUパワーも贅沢に使う傾向があるため、Core i7-6700Kは実に頼もしい存在だ。
CINEBENCH R15スコア | |
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CPU(マルチコア) | 872cb |
CPU(シングル) | 174cb |
3DMark
続いて「3DMark」を用いてグラフィックの描画能力をチェックする。SLIがよく効くベンチマークだけあって、フルHD環境におけるゲーミングPCとしての力をみる“Fire Strike”では16,027ポイントと高いが、これは1ランク上のGPU(GTX 980Ti)と同等以上。さすがに4Kを想定した“Fire Strike Ultra”だと5,000ポイントを下回るが、これはゲームや画質を選べば4Kでも遊べる、ということを示している。
3DMark v1.5.915スコア | |
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Fire Strike | Ultra 4867 |
Fire Strike | Normal 16027 |
「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド」ベンチマーク
定番の描画負荷が軽めの「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド」の公式ベンチマークも試してみた。Vortex G65のスペックを考えたら画質は当然DirectX 11の最高品質。そこでフルHDと4K解像度でのスコアを比較してみた。
プリセットの画質をいくつか試してみたが、どのセッティングでも「非常に快適」のお墨付きを得ることができた。
「FFXIV:蒼天のイシュガルド」ベンチマーク(DirectX11版) | |
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最高品質&フルHD | 18,750 |
最高品質&4K | 5,239 |
CrystalDiskMark
NVMe SSDのRAIDとあれば、「CrystalDiskMark v5.1.2」でストレージの読み書き速度もチェックすべきだろう。今回も内蔵SSD RAIDとHDDそれぞれの読み書き性能を計測してみた。
前述の通り、Vortex G65にはサムスン製のNVMe M.2 SSDが搭載されているが、単体の公称スペックはリード2,000MB/sec、ライトが650MB/secとリードに強く傾いた性能を持っている。だがVortex G65はこれを2枚RAID0運用にすることで、シーケンシャルリード(QD32,T=1)は3,103MB/sec、シーケンシャルライト(同)も1,335/secと、普通のSATA SSDでは得られない性能を確保している。
ただこれでゲームが一瞬で起動するかというとそうでもないのが残念なところだが、HDDよりは格段に速くなる。よく遊ぶゲームのみSSD RAID側にインストールするようにすれば、快適なゲーミングライフを送ることができるだろう。
最新重量級ゲームでの実力は?
「Rise of the Tomb Raider」
Vortex G65を使うなら、描画の重い「Rise of the Tomb Raider」や「Tom Clancy's The Division」といった重量級ゲームの挙動も試すべきだろう。今回は画質をプリセットの1番上の設定に固定し、解像度フルHDと4Kでどういう差が出るかチェックしてみた。
まずは「Rise of the Tomb Raider」だが、今回もDirectX 11モードで計測した。ゲーム内蔵のベンチマークモードは3つのシーンで比較するが、1番描画の重い“地熱谷”でのフレームレートを比較する。
GTX 980Tiを使っても最高画質&フルHD設定では最低fpsが30fps台に落ち込むこともある重いテストだが、SLIがよく効いているためか一瞬60fpsを割ることはあるものの、平均では非常に滑らかなフレームレートが得られた。たださすがに4Kともなると最高画質では厳しい(これはメモリ帯域に制約のある現行GPUの限界だろう)。
「Tom Clancy's The Division」
続いては「Tom Clancy's The Division」を試してみる。内蔵ベンチマークモードだと平均と最高fpsが高めに計算されるため、今回はベンチマークシーケンスを再生した時のフレームレート(おおよそ85秒間)を直接「Fraps」で計測した。「Rise of the Tomb Raider」と同様に一瞬60fpsを割り込むことはあるが、平均としては70fps近いフレームレートを確保。さすがに4Kだとガクガクな感じがするが、GeForce Experienceの推奨設定は画質“低”ベースなので、このゲームの4Kプレイはあまり意味がないといえるだろう。
「HTC Vive」
さて、つい先日筆者も手に入れたばかりの「HTC Vive」でどの程度快適かもチェックしてみた。
「Vortex G65 6QF SLI」は、PC向けVRヘッドセットHTC ViveやOculus Riftの推奨環境を満たし、NVIDIAから「VR Ready」も獲得しており、HTC ViveやOculus Riftを導入することでVRゲームも楽しむことができる。
VRゲームについては、まだ選択肢が限られるが、その中でも推奨スペックがCPUはCore i7-5930K、GPUはGTX 980という化け物じみた「theBlu」を試してみた。
ほぼViveの表示能力の上限である90fpsを超えていた。これは現状VRタイトルはCPUよりもGPUの影響が大きいためだ。ただ、SLIは有効に作用しておらずシーンによっては一瞬60fps台に下がることはあったものの、描画遅延が原因のVR酔いを感じることなく楽しめた。Nahimicサウンドとのマッチングも最高だ。
Vortex G65はVRHMD布教用のマシンとして1台欲しくなってしまうが、注意点としてはVRHMD関連のマルチGPU対応はGPUメーカーが対応を表明しているものの、まだコンテンツ側の対応ができてない状態。VRHMDでのVortex G65の真価は、コンテンツ側のSLI対応を待つ必要がある。
コンパクトボディにこれだけの高性能を詰め込んだVortex G65は、さぞかし爆熱爆音ではないのか? という懸念も当然生まれてくる。そこで「HWiNFO64」を使用してゲーム(「Rise of the Tomb Raider」)を30分プレイした時のCPUとGPUの温度、さらにGTX 980のコアクロックの状況を監視してみたのが下のグラフだ。
CPUは60~70度、GPUはもう少し高くて出力を担当する側が75度、補助に回る側が71度となったが、これだけ冷えていれば冷却能力としては十分。これなら真夏でもめったなことではオーバーヒートすることはないだろう。
続いて騒音だが、暗騒音約35dBAの室内において、騒音計「AR815」のマイクを本体正面30cmの位置において計測した。システム起動10分後がアイドル時、ゲームを30分以上プレイした後、ファンの音が大きくなった時を高負荷時としている。
アイドル時はファンの音がかすかに聞こえてくる程度だが、さすがに高負荷をかけるとファンの音はハッキリと聞こえてくる。それでもうるさくてゲームに集中できない、という程度ではない。体感的にはパワーオン直後でやや強めに回っているエアコンと同程度といったところだ。
スタイルと性能は十分満足。問題は予算!
以上、Vortex G65をいろいろと使ってみたが、小型PCにありがちな欠点(内部にアクセスしづらい、超高負荷だとノイジー)はあるものの、性能はバッチリ出ているという印象が得られた。特に重量級ゲームを最高画質で平均60fps以上で遊びたい! という人であれば、Vortex G65のスペックとスタイルは心に刺さるものがあるはずだ。SLIに対応しないゲームもまだまだ存在するが、重量級タイトルを攻めまくりたいなら、1度は使ってみたいマシンといえるだろう。
問題は価格。499,800円(税別)という価格設定はおいそれと手が出せる値段ではないのは事実だ。だが小脇に抱えられる程度のコンパクトなマシンにこれだけのスペックを詰めたPCはほぼ存在しないという側面を考えると、これからVRHMDをガンガン布教しようかと考える人なら絶対に欲しくなるマシンだ。