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伝説的名勝負!「WGL Grand Finals 2016 」決勝トーナメント

たった一発の砲弾が勝負の命運を握った熱戦。世界王者に輝いたのは!?

4月8日、9日開催



会場:TORWAR HALL

会場風景

 4月8日から9日にかけ、「World of Tanks」の世界王者を決める頂上決戦「Wargaming.net League Grand Finals 2016」が、ポーランド、ワルシャワで開催された。初日に行なわれたグループステージの結果を受け、2日目にはノックアウトステージが実施。各地域で最強を誇る8つのチームが、優勝の栄冠をかけて激闘を繰り広げた。

 今大会、特に準決勝以降で行なわれた試合は、世界最強の「World of Tanks」チームを決める祭典にふさわしい内容が続出したといっていい。出場各チームに求められるものはあまりにも多い。新ルールへの適応、パッチ9.14での仕様についての知識、チームの連携や作戦の的確さ、そして大舞台での冷静さ。どれかひとつでも欠けたチームは容赦なく脱落していく過酷なトーナメント。本稿ではそんなノックアウトステージの模様をお伝えしよう。

苦戦を続けたHellraisers、楽に勝ち上がったNAVI。本命2チームの戦い

Tornado Roxと互角の戦いを演じたHellraisers
車列を組んで見方を丘上に押し上げるという奇策も見ることができた
各チームとも見事な集中攻撃のスキルを見せる
マッチポイントを迎え、作戦を練り直すHellraisers
Kazna Kruを圧倒するNAVI

 好勝負が多く見られた今回の決勝トーナメントの中でも、特に熾烈な争いとなったのが、前回優勝のHellraisersが属したブラケットだ。

 準々決勝ではCIS勢第3の強豪と評判のNot So Serious(NSS)が、格下と見られていたアメリカ勢のSIMPに対して4-4のマッチポイントまで追いつめられるという戦いを展開。この試合自体はバックステージでの開催となっていたため、メインステージで見ていたオーディエンスが直接見ることはなかったものの、これまた接戦となっていた欧州の強豪Tornado Roxと優勝候補のCIS勢Hellraisersの試合中に「SIMP優勢」の速報が流れるや、会場にどよめきを起こさせていた。

 SIMPは昨日のグループステージでは欧州強豪のWombats on Tanksに派手に敗れて2位通過と、ほとんど注目されていなかったチームだ。それが、世界最強CIS勢の3番手とはいえ、超強豪のNot So Seriousを敗北寸前まで追い詰めるというのは、決勝トーナメントならではの怖さを象徴している。

 グループステージでは手の内を隠していたチームが決勝トーナメントでは本来の作戦を展開しはじめたり、経験の浅いチームが試合をこなすうちに環境に適応して、隠れた実力を発揮していくものだ。いかな強豪といえども油断は禁物。このあたりにオフライン大会の醍醐味とも言えるだろう。

 さて、メインステージ側で接戦を演じていたHellraisersとTornado Rox。各チームが見せるスキルレベルはあまりにも見事だ。第1マップのヒメルズドルフでは、Hellraiserの選手は東端の丘上から西端の操車場に向かって、システム的に敵を視認出来ない距離でのブラインド射撃をガツガツ当てていくという神業を披露。対するTornado Roxも、チラリと姿を見せた1両がエサになり、わずかに飛び出してきた的に4両から次々に射撃を当て一気に撃破するというチームプレイの妙を見せている。その際にすごいのは、攻撃に参加した4両が全員、ターゲットの履帯に確実に命中させて、完璧に動きを止めつつ撃破しているところだ。並のプレーヤー集団ではこんなマネはできない。

 後半のラウンドに入った鉱山マップでは、Tornado RoxのティアVIIIが開幕直後にHellraisersのティアX戦車に全力の体当たりを行ない、1,000ダメージ以上を与えるという奇策も披露している。しかしHellraisersは勝負強い。その後のラウンドでは乱戦でも、にらみ合いでも一枚上手の戦いぶりを見せ、2ラウンド連勝にて僅差の勝負を制した。

 Hellraisersは、続くNSSとの準決勝でも接戦を演じている。挑戦者の立場で戦うNSSは、防御ラウンドの多くで自走砲を投入。これがあまり功を奏さずいくつかのラウンドを落としたものの、自走砲抜きで挑んだ攻撃側ラウンドでは見事なラッシュを決め、乱戦でもHellraisersを相手に優位に戦い、Hellraisersのリードを許さず。対するHellraisersは、1マップ目で2連勝したリードを活かしてなんとか試合そのものには勝ち、決勝進出を決めたものの、かなり神経のすり減る試合が続いたことには間違いはない。

 これに対して明確な実力差が見えたのが、優勝候補筆頭のNAVIが属するブラケットだ。このブラケットに属したアジア勢の生き残りYato Gamingは、欧州強豪のWombats on Tanksに対して1ラウンドも取得することなく、あっけなく敗北。地元ポーランドのKazna Kruは、最強と目されるNAVIに対してストレート負けを喫している。

 全く労することなく準決勝まで上がってきたNAVIとWonbats on Tanksの対決は、序盤こそ互角に見えた。第1マップのクリフ、第2マップのステップまでは、お互いに勝ち負けを繰り返す形だ。特にじっくりと時間をかけて試合を進める傾向の強いWombats on Tanksは、攻撃側で時間ギリギリまでひっぱり、相手チームの動きを引き出してから火力を集中させて優勢を確保するのがうまい。しかしより短期決戦になりやすい第3マップの鉱山では、Wombats側に細かいミスも積み重なったことがあり、NAVIが圧倒し始める。NAVIはミスらしいミスを全くしないし、望んだ形で入った集団戦では必ずプラスのダメージ収支だ。NAVIはそのまま3ラウンドを連続勝利して、結果としてはラウンド取得数5ー2と危なげない勝利を手にし、さほど消耗する様子もなく決勝進出を決めている。

決勝戦までのトーナメント表。結果としては、本命と言われてきた2チームが順当に決勝に進出。しかしHellraisersのほうが消耗が多いように見えた。

一歩も譲らぬ本命両チーム。ワンミスが勝負を分ける接戦の先に驚きの結末

決勝戦は本命2チーム、HellraisersとNAVIの対決が実現
果敢にリスクを取り、相手の予想を上回る動きを見せた方がラウンドを取るという流れ。消極性とは無縁のラウンドが続く
射線を集中する、カバーに入る、ターゲットを譲る。チーム戦のセオリーが高いレベルで実行されていく。ワンミスが命取り

 世界最強の「World of Tanks」チームを決める大会も、いよいよ決勝戦だ。ここで対決したのは、CISで最強2チーム謳われるHellraisersとNAVI。奇遇にも、先日のグループステージ第1試合と全く同じ組み合わせが、大会の最終戦で再現された形となる。

 7ラウンド先取制の長丁場で行なわれたこの試合、その展開は試合を見守る誰もが予想しなかったほどの、恐ろしいほどの接戦となった。第1マップのゴーストタウンではHellraisersが2本連続で勝利すると、第2マップのヒメルズドルフ、第3マップの鉱山ではNAVIが4連続勝利。続く第4マップのルインベルクでは、今度はHRが2本連続で取り返す。

 普通、一進一退の攻防となる試合では、同一マップの攻撃・防御で勝敗が別れる形をとるものだ。そがこの試合では、同一マップの攻守とも一方のチームが連続で勝利するという、少し変わった流れで進行している。両チームの間で各マップの得意・不得意がはっきりしているのだろうか。

 こういった流れの中で、はじめて同一マップ内で勝敗を分け合ったのが第5マップのクリフだ。中央東側の丘を起点に集団戦が発生しやすいこのマップは、どのマップにも増して瞬間的な攻撃力が重要とされる。つまり、攻撃を連射できることと、チーム全員が火力を同時に発揮できることが求められる。そこで両チームとも高火力のリボルバー式中戦車B-C 25tを中心に編成……というよりは、それのみでの編成で戦いに臨んだ。

 NAVI側の攻めで始まった前半のラウンドは、先に視線を通して情報量で上回ったHellraisersが、NAVI側をうまく囲い込むような形を作って勝利。Hellraisers側の攻めラウンドでは、混戦の中でうまくメンバーの再配置を行ない、丘の頂上を抑えて広い視界を確保したNAVI側が勝利している。

 とはいえいずれも僅差。たった1発でも砲撃を外したり、一瞬でもよそ見をしていたり、わずかでも連携のタイミングにズレがあれば、そこで生まれた僅かなダメージ差が、そのままチームの勝敗につながってしまうというレベルだ。なにしろ打ち合いの最中、両チームの総合HPがガリガリ削られていく中で、その差が1,000を超えることがほとんどないという互角ぶりだ。

 続く第6マップのステップでも、両チームは1ラウンドずつを分け合った。いずれのチームも、攻め側で陣地占領をエサにして防衛側を釣りだし、有利な陣形を作って逆襲するという形での勝利だ。特にHellraisersは、占領タイマーを残り10秒まで進めておびき寄せておいてから有利な戦型で戦うためにあえて陣地を放棄するなど、作戦の徹底にメンタルの強さが現われる。どちらのチームがいつ勝つのか、どう勝つのか、観戦者には全く予想のできない試合展開ばかりが続く。

 こうして一進一退で続いた決勝戦は、互いに6ラウンドづつを取得してのタイブレイクに突入。そこで選ばれた最終マップは……さきほど互いに1ラウンドづつを分け合ったクリフだ。そしてこのラウンドは、大会史に残るほどの接戦となった。

両チームの命運を決することになった最終マップの「クリフ」。オープンな構造のマップゆえ、激しい打ち合いが展開する
非常に展開が速い。あっという間に両チームの車両が減っていく。しかしHP差はほぼ互角
傾向として、丘の上を先にとった方が有利
岩場にハマってしまったapplew0w選手
合流が無理と悟り、占領開始するGrifon選手

 車両構成はどちらも同じだ。ティアX高火力中戦車のB-C 25tが6両と、ティアVIII軽戦車のRu 251が1両。スピードと射撃速度を活かして、互いに火力をぶつけあう構え。開幕から乱戦に入るのはあっというまだった。全車両が即座にマップ中央での撃ち合いに参加し、最初の弾倉を打ち切る間に間に両チームが3両づつを失う。リロードのタイミングで仕切りなおし、今度は遠距離での撃ち合いで互いの車両をジワジワと削りあう形となる。

 そこで、いろんな意味で勝負の鍵をにぎる事になったのが、Hellraisersのapplew0w選手だ。いち早く中央の丘の頂上を占拠したapplew0w選手は、見事なロングレンジ射撃で敵車両を削り取り、車両数2対3の状況から2両撃破、NAVIを残り1両まで追い詰めた。フィールドに残っているのは、Hellraisers側がこのapplew0w選手と、個人戦成績最強と言われるGrifon選手、NAVI側はInspirer選手のみ。どちらも残りHPはわずか。このまま行けばHellraisersが勝つ。

 だが、applew0w選手は2両を削った時点で弾倉を撃ち切ってしまった。長い時間のかかるリロードの間、チャンスとみたInspirer選手が丘によじ登って近接してくる。リロード中で反撃不能のapplew0w選手は攻撃を避けるため後退するが、なんと、斜面を滑り落ちる最中にある岩場にスタックしてしまった。Inspirer選手はこれを深追いしない……この判断が素晴らしかった。

 このラウンド、攻撃側はHellraisersである。殲滅するか、占領するかしなければ、時間切れとなればNAVIの勝ちだ。applew0w選手が岩場でスタックしている間、別方面に展開していたGrifon選手はしばしこれを待つが、無理と判断したのだろう、陣地の占領を開始した。Inspirer選手は目前でもがくapplew0w選手を放置し、占領を阻止するため急いで移動を開始する。どちらの選手も、HPはギリギリだ。1発で勝負が決まる。

最後の一撃が放たれる寸前
痛恨のスタック
優勝を決めて喜ぶNAVIの選手たち
最終結果

 最後の1発を命中させたのは、Inspirer選手だった。占領地点で待ち構えていたGrifon選手は一瞬の差で爆散し、戦場に残されたのは、まだも岩場でもがくapplew0w選手のみ。生き残ったInspirer選手は安全を期してマップ端に移動。そして時間切れが訪れ、ラウンド取得数を7としたNAVIが優勝を決めた。

 このレベルの選手が岩場にスタックして非戦力化されてしまうというのは観戦者も全く予想しない展開で開いた口がふさがらないという感じだったが、その段階で残されたHellraisersとNAVIの戦力が、いずれも砲弾1発で沈むだけのHPしかない状態の2両だった、というのも、本対戦がいかに接戦だったかを物語る。1発当てれば優勝、喰らえば敗退。そんな緊張感の中、完璧な索敵で的確な一撃を入れることのできたInspirer選手は、間違いなく本大会のヒーローだ。

 こうして2016年の王者決定戦「WGL Grand Finals 2016 」は、NAVIが2大会ぶりの優勝を決めることで幕を閉じた。各チームの間で戦われたハイレベルな戦いは、「WoT」クラン戦未経験者でも十分に手に汗をにぎることのできる白熱した展開だった。来る新シーズンのWargaming.net Leagueでも、このような熱戦が繰り広げられることを期待しつつ、大会の余韻にひたるとしよう。

(佐藤カフジ)