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世界大会の場で「World of Warships」のエキシビションマッチ開催

観衆を前にオールヨーロッパとドイツチームが対決! 「WoWS」e-Sports化への課題は?

4月8日、9日開催



会場:TORWAR HALL

会場風景

 4月9日、ポーランドのワルシャワで開催された「World or Tanks(WoT)」の世界王者を決める大会「Wargaming.net League Grand Final 2016」の会場にて、「World of Warships(WoWS)」のエキシビションマッチが開催された。

 これは、「WoWS」を「WoT」に続くe-Sportsタイトルとして盛り上げようとするWargaming.netによる実験的施策のひとつで、公開サーバーで成績上位の2チームを招待し、実況中継を交え、e-Sports大会さながらの環境で対戦が行なわれた。

 e-Sportsタイトルとして長い歴史を誇る「WoT」とは異なり、正式サービスが2015年9月に開始されたばかりの「WoWS」は、e-Sportsとしては未知数の部分が多いゲームだ。戦車戦がテーマの「WoT」とは基本的な操作方法が全く同じであることは共通しているものの、ゲームのテンポやマップの広さは全く異なり、ゲームルールの違い等々も含め、競技として全く性質が変わってくることは間違いない。

 とはいえ、「WoWS」は去る2016年2月のアップデート(バージョン0.5.3)にて、クラン戦のような固定メンバー方式でのバトルが可能となる「チームバトル」モードを実装。e-Sportsタイトルとして本格的にプレイできる環境が整えられつつある。

 その試合を、大規模なe-Sports大会の会場で行なったらどうなるだろうか……というのが今回のエキシビションマッチの眼目だ。出場したのは欧州全域から集められたオールヨーロッパチーム「The Dead Admirals Society」と、ドイツから選抜されたオールドイツチーム「Ocean Pirates」。

 会場には「Dead Animals」のチームリーダーが「艦隊これくしょん」の空母コスプレで現われるなどお祭りの様相を呈したエキシビションマッチだったが、「WoWS」のe-Sportsタイトルとしての可能性と課題はどうか、見てみよう。

リーダーが「艦隊これくしょん」の空母コスプレで現われたオールヨーロッパチーム
対するはドイツメンバーが集まるオールドイツチーム。こちらは至ってまじめにネタ要素はゼロ

これが「WoWS」のチーム戦!課題も見えたエキシビションマッチ

「WoT」トップチームと同じ環境で「WoWS」の試合がスタート
ティア8縛りのレギュレーションだ
空母プレーヤーは偵察に火力支援と、序盤から終盤まで大忙し
集中砲火を食らうドイツチームの戦艦ティルピッツ
雷撃隊の魚雷が刺さる

 さて、会場にはオールヨーロッパ、オールドイツの2チームが揃い、「WoWS」の3本勝負が開始された。試合ルールとしてはサービス中の「チームバトル」と同じく「制圧戦」。マップ中に複数存在するキーポイントを占領・維持するか、敵艦を撃破することでチームポイントを獲得し、チームポイントが先に1000となったチームが勝利するルールだ。

 また、今回の試合のレギュレーションとして、各チーム7人の全メンバーにティア8艦船の使用が義務付けられていた模様だ。その中での艦種の選択について決まりがあったかどうかは不明だが、第1試合では両チームとも空母1隻、戦艦2隻、残りが巡洋艦もしくは駆逐艦という編成で試合に臨んでいる。戦艦はティルピッツの人気が高く、巡洋艦は愛宕、駆逐艦はベンソン級がよく使われていた。

 試合時間は20分。「WoWS」基準では普通だが、「WoT」に比べれば倍の長丁場だ。マップの両端からスタートした両チームは、まず空母から偵察を兼ねた爆撃隊・雷撃隊を飛ばして敵の出方を探るところから戦いが始まる。飛行隊はスピードが早く、1分足らずで敵艦を視界に捉えるが、すぐ攻撃に向かうわけではない。視界確保ができるギリギリの距離を維持し、敵艦の動向を味方に伝え続ける。

 このように「WoWS」の試合で大きなカギを握るのは、航空戦力を操る空母のプレーヤーだ。爆撃機、雷撃機、戦闘機の3種を操る空母プレーヤーは、チーム内で唯一、トップダウンの戦略視点をメインにしてゲームをプレイ。味方艦船の視界を補いつつ、また、爆撃や雷撃による攻撃を適宜に加えることで、チーム全体の情報力と火力の両方をサポートし続ける。

 戦艦・巡洋艦からなる主力部隊は、敵との距離が14kmを切ったあたりから砲戦を開始。10km超えの射撃はかなりの偏差予測が必要となるため難しいのだが、さすがは開発陣からの選りすぐりチーム、気持ち良いほどに敵艦(特に的の大きい戦艦)に遠距離砲撃を当てていく。

 試合内容としてひとまわり上の強さを見せたのは、オールヨーロッパチームだ。「艦隊これくしょん」の空母コスプレをしたチームリーダーが空母を操り、航空隊を細かく制御して視界確保や撃破に大活躍。最終的に3隻を撃沈するという活躍ぶりを見せた。前線担当のプレーヤーたちも、突出してきたドイツチームの戦艦ティルピッツに完全な集中砲火を浴びせ、早々に相手の戦力を削りとることに成功している。

 こうして前線がよく戦う間、勝利のポイントとなったのが陣地の占領だ。駆逐艦2隻を擁するオールヨーロッパチームは、開幕早々にキーポイントのひとつを占領。前述のように主力艦隊が前線で良く戦っていたためにドイツチームはキーポイントの奪取に手間取り、互いにまだまだ戦力を残した状態でオールヨーロッパチームが規定の1,000ポイントを達成、判定勝利を達成した。

やはり戦いの中心となるのは空母で、リーダーが担当するというのも納得。
序盤は激しい航空戦で幕を開ける。ここで余分の損害を出すとあとが苦しい
最大射程ギリギリでもキッチリと命中させる両チーム戦艦
接近戦が多発する終盤では駆逐艦での雷撃がポイントに

 両チームとも同様の編成で臨んだ第2ラウンドでは、序盤から激烈な航空戦が展開。前線に偵察に出された両チームの戦闘機隊が早々に接触し、激しい空中戦を展開した。マップの構造的に接近戦が多くなったこのラウンドでは、駆逐艦の魚雷が大きな脅威となった。ティア8の駆逐艦は掩蔽能力に優れ、かなり接近しても敵艦から発見されずに攻撃を加えることができる。やられる側としては突然、予想しない方向からの雷撃に晒されることになり、多くの命中弾を生み出す結果となった。

 こうしてこのラウンドはキーポイント占領による勝利ポイントが貯まる前に、激しい殴り合いを制したオールヨーロッパチームが勝利。参戦した全プレーヤーが1隻ずつ敵艦を撃破するという、まんべんなく活躍しての結果だ。

 最終ラウンドは、すでに2勝したオールヨーロッパチームが「空母以外全部愛宕」というネタ的な編成で勝負。この試合は直接照準で互いの砲撃がガンガン当たるような接近戦に頻発し、テンポがよく面白く見ることができた。砲弾と魚雷がまんべんなく行き交う殴り合いを制したのは、通常通り戦艦2隻を構成に組み込んでいたドイツチームだ。やはり大量の砲弾に耐えられる戦艦は、前線を維持するために非常に重要であるようだ。

両チームの体力差が、わりとそのままゲームの流れを象徴する。先に戦艦を失うと挽回が難しい印象
接近戦が多発した最終ラウンドは展開もスピーディで面白かったが、ネタ編成でもあったためe-Sports的な評価は難しい

試合状況が掴みにくい!という問題点をどう解決するか?

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 さて、エキシビションマッチをひととおり解説してみたが、正直な所、筆者が試合の流れをある程度きちんと把握できたのは試合後に録画を見なおしてからのことだ。初見では各プレーヤーの射撃などミクロな部分を見るだけで精一杯で、同時多発的に進行する試合全体の動きを捉えることが難しく、いつのまにか試合が決まっているような状態だった。

 「WoWS」は非常に遠距離での戦いが中心となるゲームで、画面上に表示される敵艦への距離のような細かい数字情報に頼ることの多いゲームだ。例えば距離に応じて榴弾・徹甲弾の選択を変えたり、駆逐艦であれば被発見距離ギリギリで雷撃を仕掛けるなど、距離に応じたテクニックが非常に多い。しかしながら、小さい文字で表示される距離情報は、観戦スクリーンではなかなかハッキリ見ることができず、「WoT」に比べて個々の戦いの状況が掴みづらい部分がある。

 また「WoWS」は「WoT」よりも視界が通りやすく(海なのだから当然)、様々な位置関係から砲撃ができる。このためある程度分散して行動している各艦が、実は同じターゲットに射撃をしていたりなど、各艦の配置と、実際のホットゾーンの位置を見極めるのがわりと難しい。このあたり、大半が接近戦ゆえに状況をつかみやすい「WoT」の試合とはかなり違った特性だ。

 それから「WoWS」の場合、ある行動をしてからその結果が出るまでのタイムラグが非常に長い、という特性もある。例えば、遠距離の砲撃なら着弾まで5~10秒かかるし、遠距離の雷撃なら着弾まで30秒はかかったりする。戦艦等は動きも鈍重であるため、ある方面をカバーすることを決断してから方向転換して実際に移動を完了するまで数分かかることもザラだ。このため、各プレイの因果関係が「WoT」に比べて捉えにくい、という点がある。

 というわけで、試合状況やどんなプレイが鍵になったか、という勝負の妙味をうまく味わうためには、「WoT」以上に観戦システムの情報量を増やす必要があるように感じられた。各艦の残りHPを常に表示し続けるのは勿論、砲撃の着弾予測地点を先に表示してしまったり、誰が誰をターゲットしているかなど意図を読むための情報をごくわかりやすい形で表示するなどの工夫が有用だと考える。

 あるいは、個々のプレイを細かく追うことを諦めて、もっと戦略的なゲーム風景に面白みを寄せてみるという手もあるかもしれない。参加プレーヤー数をゲームシステム的に許される最大値の15対15くらいまでに引き上げて、各チームの配置や艦隊行動の形そのものに見所を作るという方針はどうだろうか。

 もちろん、e-Sports的には筆者も含む「見る側」の成長が必要であることも明白だ。今後はテスト的でもいいので、「WoWS」のチームバトルモードを用いたリーグ戦の実施や公式配信の実施にも期待してみたい。「WoT」も現在のゲームルールになるまで数年の時間を要した。「WoWS」もしっかり時間をかけていけば「WoT」のように面白いe-Sportsタイトルに進化していくことができるかもしれない。

(佐藤カフジ)