インタビュー
新Morpheusに絶対の自信。SCEWWSプレジデント吉田修平氏インタビュー
開発はブラッシュアップの段階へ。発売時には最高のVR体験を約束!
(2015/3/7 02:09)
サンフランシスコ現地時間の3月3日、プレイステーション 4用VRヘッドセット「Project Morpheus」の新型試作機が公開されたことは、VR系で大きな盛り上がりを見せるGDC 2015の中でも特に大きなハイライトとなった。
新型のMorpheusはOLEDディスプレイ、120Hzのリフレッシュレート、18ms以下の遅延といったハード面でのドラスティックな進化を遂げているほか、新たに用意されたデモゲームも遊びの幅がぐっと広がっており、今までにないプレミアムなVR体験を楽しめた。
そういったポジティブな印象を与える試遊体験を踏まえた上で、弊誌ではMorpheusを開発しているSCE World Wide Studios(WWS)のプレジデント、吉田修平氏にインタビューを行なうことができた。吉田氏は新型Morpheusの出来栄えに絶対的な自信を見せており、来年の上半期に予定している製品発売までの道のりについてもいろいろとお話を伺うことができた。以下、その内容をお伝えしよう。
ハードとしてはほぼ完成。開発の軸足はブラッシュアップとコンテンツの充実へ
──今回の新しいプロトタイプで、ハードウェアとしてはほぼフィックスされたと見ていいですか。
吉田氏: そうですね、細かいところでは、エンジニアがまだ直したいと言っている部分はありますので、ハードもソフトも、目に見えないところはまだどんどん良くなっていくと思いますけど、商品で発売するものと、これ(新Morpheus)はもうほとんど変わらないと思います。
──今回、発売時期を敢えてこのタイミングでアナウンスしましたけれども、その理由は?
吉田氏: (発売日を)出せたというのは、ハードのコアが出来ました、ということです。逆に言えば、それがちゃんと確認できるまでは言えなかったんですよね。きちんと全部揃って動くようになりましたので、ここから先は、ハードの完成までの道のりがだいたい読めるんですよ。それと、このGDCという場で言いたかったのは、来年の前半にはハードを出しますから、それに向かってゲームを作ってくださいという、デベロッパーさんへのメッセージです。
──初期ロットは何万台くらい用意しようと考えていますか?
吉田氏: それはまだ決めてないです。作ろうと思えば数は作れますが、まだ価格も、ゲームのラインナップも言っていないですし、ユーザーさんやお店からの反響ですとか、そういうものを全部総合して考えないと決められないので。発売の数カ月前にはそれを決めなくちゃいけないですけど、まだわからないですね。
──ローンチのタイトルラインナップはどれくらいを考えていますか。
吉田氏: サードパーティさんにはいろいろと取り組んでいただいているんですけど、やっぱり、どこまで揃ってくるかというのはわからないですね。VRの面白いところというのは、少人数のチームでちょっと試すだけで面白いものがいっぱい出てくるんですよ。ですから何年もかけて作る普通のゲームと違って、VRの場合は本当にペースが速くて。「サマーレッスン」もそうでしたけど、5~6人、3カ月くらいで凄いものができるわけなんですよね。
今年の春には開発キットを出していきますので、そこから発売まで1年くらいはあります。しかも去年からお出ししているキットからのコンバートもできますので、それも含めて考えると、真剣にやられているデベロッパーさんなら、かなりいい感じでコンテンツを間に合わせることができるんじゃないかなと思います。
──吉田さんとしては発売までにどれくらいのタイトルを集めたいですか。
吉田氏: 数というよりは内容ですね。でも数に関しても、内容に関してもあまり心配してないです。特に欧米のインディーの盛り上がり、日本で言えば業界全体の盛り上がり(笑)もありますから。
欧米の大きなパブリッシャーさんの場合は非常にビジネスオリエンテッドで、スタジオの人にものすごい興味をもっていただけていてもプロジェクトにオーケーが出ないという場合も多いんですが、インディーの人たちというのは経営者が開発者ですから、バンバン新しいもの作られてます。だから全く心配はないですね。
日本のほうは逆に文化的なものもあって、経営者が結構クリエーターの意見を大事にする傾向がありますよね。ですからバンナムさんを始めとして、大手さんにもかなり興味を持って頂いている、という感じを得ています。
──今回「The London Heist」ですとか「The Deep」ですとか、それぞれ5分くらいの内容で遊ばせてもらってますが、実際、発売するときはゲームとしてどれくらいの時間で切ることになるんでしょうか?
吉田氏: それはもうゲーム次第ですね。こういうデモで短くしている一番の理由は、沢山の人にやっていただくためですが、去年までのハードで言えば、やっぱりちょっとレイテンシーとか、モーションブラー(残像)があるというので、長く使ってると気持ち悪くなる可能性が高かったんですよ。
でもこのハードであれば、ソフトさえちゃんと作ってあれば、もう何時間遊んでも全然平気だと。我々は自信を持っています。ですから実際商品になるときには、何時間も遊べるようなRPGみたいなものとか、オンラインFPSみたいなタイプのものも、全然問題無いと思っています。
──例えば、先日日本でリリースされた「ドラゴンクエストヒーローズ」、あれがMorpheusで遊べたら相当楽しそうですよね。そういう可能性も?
吉田氏: ありますね。ゲームデザインがそのままではうまくいかないんですけれども、ああいったタイプのアクションゲームというのはVRでも作れると思いますね。主観視点にすると一番難しいのはカメラの移動です。やっぱり頭の動きに合わせてカメラを追従させるのが一番自然で、それ以外の動きをさせちゃうと途端に気持ち悪くなっちゃうんですよ。
慣れてる人なら大丈夫なんですけど、殆どの人は初めてのVRになりますから、普通のゲームみたいにガンガンカメラを回しちゃうともう1発で気持ち悪くなるんですね。だから「ドラグンクエストヒーローズ」みたいなものも、そのままで持ってくるのはよろしくないと思っています。例えばどんどん前に進んでいくような形にして、あっちこっちに行かなくて良いようにするとか、そういった工夫が必要だと思います。ただアクションゲームとしてはすごくスケール感もあって、楽しいと思いますね。
──ビジネスモデルに関しては、たとえばF2Pも認める感じなんでしょうか。
吉田氏: もう全く問題無いです。基本的にPS4の普通のゲームを作るのと同じですね。違う部分というのは、作り方によっては気持ち悪くなったりという部分がありますので、そこは追加でデベロッパーさんやパブリッシャーさんとコミュニケーションしていかないといけないなと思っています。
快適なVR体験を届けられる自信作。体験機会も積極的に用意!
──ハードの面でいうと、120Hz出力というのは驚きでした。そもそもPS4で120Hzが出せたのか!と。
吉田氏: そうですよね。そこはずーっと黙ってたんですけども(笑)、60Hzだとブラーがあったり、レイテンシーも高かったりするので、やはり60より高い周波数で絶対にやりたかったんです。そのときに120Hzというのは一番都合がいいんですね。60Hzの倍ですから、コンテンツを60Hzで作って、120Hzにリプロジェクションするというのは非常にやりやすいんですよ。その他のビデオ的なコンテンツも60Hzで作られるケースが多いと思いますし、120Hzネイティブというのがいちばんスムーズになりますよね。
「Magic Controller」のデモもご覧になったかと思いますが、ネイティブの120Hzで動いてますから一番ヌメヌメしてますよね。それがやっぱりベストなんですけれども、その他の60Hzからコンバートしたデモも、やっぱり綺麗になってます。それが120Hzの良さで、絶対やりたかったところなんです。遅延についても、実測で18ミリ秒を切っているのは確認しています。
──120Hz駆動ということでゲームのパフォーマンスへの要求もかなり厳しいものになったのではと思うのですが、そのあたりはどう対応されていますか?
吉田氏: そうですね、少なくとも60Hzは絶対に達成してもらわないとダメだと考えていますけれども、60のゲームを120にリプロジェクションするのはすごく簡単なんですよ。どっちかというと、60Hzのゲームをちゃんと3Dで描画するという部分のほうがパフォーマンスをとるんですね。そこさえできていれば、120にコンバートする負担というのは非常に小さいんです。あとはもうゲームのチョイスで、VRに特化して体験をいいものにしたいというのであればネイティブ120Hzをターゲットに、ゲームのアセットを調整してもらえれば全然問題無いと思いますね。
ちょうど都合のいいことに、サムスンのGEAR VRですとか、モバイルのVRが出てきているじゃないですか。ああいうものってハードの性能が限られていますので、アセットをかなり軽いものにしているんですよ。それでもかなり楽しいものがいっぱいあります。そういうものをPS4に持ってきたらネイティブ120Hzで全く問題なく動くと思いますね。
──今回OLEDディスプレイを採用されたのは120Hzを出力するため、ということですか。
吉田氏: そう、そのためですね。それをやらないと皆さんにおすすめできるいいVR体験というのはできないと思っていました。
──滑らかになった一方で、やや網目感というか、いわゆるスクリーンドアエフェクトが出てきたように思います。
吉田氏: ドットが見えるというやつですよね。そこはまだ調整ができるんですよ。シャープさと滑らかさのトレードオフなんですけども、どのへんに落ち着かせるかというのはまさに調整を続けているところです。具体的なやりかたとしてはいろいろあるみたいです。
──ハードとしての基本仕様は固めたうえで、今後はその改良、ブラッシュアップに集中していくというフェーズなんですね。
吉田氏: そうですね。調整はまだまだ、1年をかけて続けていきます。
──今回のデモではオーディオの凄さも印象的でした。ここもかなり力を入れたところなのでは?
吉田氏: そうなんですよ。先日のプレゼンでは言わなかったんですけれども、プロセッサーユニットもちょっとアップグレードしているんですよ。そっちで3Dオーディオも処理しているんですけど、そこを強化したので、扱える音の数とかも増えているんですよね。3Dオーディオの良さというのはVRで“そこにいる感じ”を作り出すためにキモとなる部分ですから、そこはデベロッパーさんにも積極的に使って欲しいと思っています。
──以前からMorpheusについては非常に積極的にデモの機会を設けてきましたが、新バージョンでもそれは期待していいと?
吉田氏: そうですね、それはもうVRは体験してもらわないとわかんないですよね。まずは体験してもらうことが1番で、次に、体験した人が「サマーレッスン凄かったよ」、「そうなんだ、ちょっとやってみたい」っていう、口コミが2番めです。
その他にも方法はないかなという話を別のジャーナリストの方としていて思いついたんですけれども、最近パノラマビデオというのが広がってきているじゃないですか。ああいう感じで、VRゲームのトレーラーをパノラマビデオで作って、スマホで見てもらうのもアリじゃないかなと考えていまして。最近はブラウザでもそういうコンテンツが表示できると聞いていますから、皆さんにトレーラーをお見せするときに“パノラマ用”みたいなものを追加で載せれば、もっとわかりやすくなるかなと。もちろん1番は実機を体験していただくことなので、その機会はがんばって作っていきたいと思っています。
──日本ですと次に見られるのはTGS、となると半年後になりますが、それ以前に見られるような機会もできそうですか?
吉田氏: まだ決めてないんですけど、次に目指しているのはE3です。まずはこのキットの数を揃えて、春からデベロッパーさんに配布して、E3たくさんのゲームを展示してもらうことを目標にしています。そのあとはTGSまでまだ3カ月はありますので、それ以前に何か日本でお見せできる機会が作れるかどうか。そこははちょっとまだわからないです。技術的には可能なんですけれども。
──ユーザーとしては製品版の価格も気になるところです。PS4本体よりは安くなりそうですか?
吉田氏: それは、まだわからないです。できるだけ安い値段は付けたいと思っていますけれども、やっぱり、このレベルのハードにしないと出しちゃいけないと思っていたんですね。やっぱりVRって本当に新しいので、やった人が「これは本当に凄かった」ってみんなに言ってもらえるようでないといけません。「気持ち悪かった」とか「私はもうVRはダメ」みたいになっちゃうと非常にマズいですよね。
その点では去年のバージョンも結構良かったんですが、ソフトを非常に注意深く作らないと気持ち悪くなる、長く遊ぶと危険だとかの問題がありました。でもこれなら、自信をもっていろんな人に試してもらえます。そういう意味では今年はもっと積極的に体験の機会を出していきたいなと考えています。
──確かに快適さという点では、前のバージョンみたいに使用後にフラフラする感じとかがなくなっていますね。
吉田氏: ないですよね。VRに弱い人にも試して頂いて、「去年のMorpheusでもOculusでもGear VRでも気持ち悪くなったけど、これは大丈夫だった」と言って頂いています。
──私は比較的VR酔いする方で、昨年のモデルやOculus DK2もダメだったんですが、今年の新型モデル初めて快適に楽しめました。本来与えてくれる没入感をそのまま味わうことができて、凄い感動しました。
吉田氏: もうほんと、あなたのために我々は、去年のものは出すまいと(笑)。まさにそれを考えていたんです。みんなが盛り上がっているのに第1印象でもうダメってなると、悔しいですよね。なので「サマーレッスン」とかもこっちのバージョンで是非やっていただきたいと思っています。
──これだけ快適に遊べると、例えばPS4の起動後のメニュー画面やPS StoreなどもVR化できるのではないかと思うんですが、いかがでしょう?
吉田氏: あー、楽しいでしょうね。VRコンテンツをシームレスにプレイする方法というのは、いろいろと裏で頑張っているところです。こうなります、というのはまだちょっと言えないんですけども、発売前には何らかの機会で、VRのメニューとか、そういうものをお見せしたいと思っています。いまも作ってはいるんですが、まだできていないのでどういうものになるかは内緒です。
──これまでのデモはゲーム的なものがメインでしたけれども、例えばバーチャルツーリズムとかノンゲームのコンテンツについてもMorpheusで楽しめるようになるんでしょうか。
吉田氏: ええ、私はもうすごい旅行が好きでしてね。でも治安の悪いところとか、環境がハードすぎて行けないところとかもあるじゃないですか。そういう一生行けないと思っているところにも、これだと行けるんですよね。火星とかもそうですけれども(笑)。そういうのはエンターテイメントとして絶対アリだと思っています。実際、旅行会社さんがビジネスとして使いたいという問い合わせもありますし、そうでなくても、既にパノラマビデオの形でいろんなコンテンツが作られていますよね。そういう楽しいコンテンツがMorpheusでも手軽に見られるようにしたいなと。
例えばTorneとかもそうなんですが、ゲームをやりたい人がPS3とかPS4を買うんですけれども、ご家族の人にもテレビ番組がみれますよとか、説得するにもそういうコンテンツがあると便利じゃないですか。Huluも見れますよ、とかね。そういう感じでビデオ的なコンテンツですとか、バーチャルトラベルのようなものも、すごく役に立つと思っています。具体的にどういうコンテンツをどういう時期にというところまではまだ言えないんですが、実際世の中でかなり盛り上がっている部分でもありますので、そこは持ってこないといけないなと。
──さっき「The London Heist」を遊んでて気がついたんですが、バンバン撃たれたときに焦って、早く机の引き出しを空けようと思って、机を手をついてあけようとしてしまって倒れそうになったんですよ(笑)。ここまで没入感があるのかと思う一方で、ちょっと危ないなとも思いました。そういった安全面の対策というのは何か考えていますか?
吉田氏: ええ、実はそれで怪我をしたジャーナリストの方がいまして。こう手をついたときに怪我をされてしまって、でもそれは、「VRがどれだけリアルに感じられるかの印なので悔しくない」、みたいな記事になっていましたけれども(笑)、怖いですよね。実際そこはリスクになりますし、なんとかしないといかんですね。Oculusさんだともう、座って遊んでくださいみたいに言われてますが、我々はそれは言いたくないんですよ。やっぱり「立て!」と言われて立つとか、雰囲気が凄く出ますし、楽しいじゃないですか。高いビルから下を覗くとかでも、立ってやったほうが全然怖いですよね。
だから、そこはデベロッパーに対しても、そういうゲームデザインができるようにはしたいんです。でもそれが原因で事故があったらどうするんだ、という指摘ももちろん大切なことですので、何らかの方法で解決しなければと考えているところです。ゲームデザイン的な工夫と、ユーザーさんにどうコミュニケーションするかという部分、両方が必要だと思いますね。
──Oculusの話が出ましたが、PCのVRではOculusに加えてRazerの「OSVR」ですとか、Valveの「Steam VR」といったものも出てきて、VRプラットフォームが乱立しそうな気配があります。そのあたりはどう見られていますか?
吉田氏: やっぱりValveみたいな、技術的にすごいちゃんとした会社が、きちんとした“いいVRシステム”を出されるのは凄く良いことだと思います。それにOculusさんと我々は以前から非常に仲が良いんですけれども、目指してるのは同じことなんですよね。いい体験を届けたいし、そうしないといけないと。そうでなくて、何かチープというか中途半端なものが出て、「私、VRはダメだわ」みたいな人が出てくると凄く嫌じゃないですか。だから本当に最初の商品から凄くいい体験ができるものをというところでOculusさんと同じ考えですし、Valveもきっとそうだと思うんですよね。彼らは非常に技術力のある会社ですから。
またValveさんもOculusさんもPC向けですから、PS4向けとはちょっと市場が違いますよね。そこは逆に、いろいろな会社が投資をすることで、デベロッパーがVRのコンテンツを作って売れる市場が広がると。それはみんなにとってプラスになると思います。
──最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
吉田氏: がんばって、これはもう自信を持ってお届けできるというハードのコアが完成しました。商品化まではまだ1年くらいあるんですけれども、発売のときにはものすごく楽しいVR体験ができることをお約束できますので、是非楽しみにして待っていてください。
──ありがとうございました。