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「VRは総合芸術!」 SCEWWS吉田修平氏が語るVRの現状と未来
PSVRのプロトタイプなど貴重な資料を交え、PSVRとVRの未来を展望
(2016/1/28 14:49)
1月29日より開幕するTaipei Game Showの併催イベントのひとつAsia Pacific Game Summitが1月28日より開幕した。基調講演を務めたのは、PlayStation VR(PSVR)の開発を手がけるSCEWWSプレジデントの吉田修平氏。「VR所開創的遊技新未来(VRが切り開くエンターテインメントの新未来)」と題し、PSVRの立ち上げから現在、そしてPSVRが実現する未来について、貴重な資料を交えながら紹介された。
なお、SCEが1月26日に発表した社名変更に合わせて公開されたグローバル経営体制図においてSCEWWSのトップが吉田修平氏からショーン・レーデン氏に変更されていた件について吉田氏本人に確認したところ、SCEWWSのチェアマンとしてSCEA CEOのショーン・レーデン氏が入っただけで、吉田氏のプレジデントの役職や業務内容に変更はないということだ。
さて、吉田氏が基調講演で語ったのは、VRの歴史そのもの。バーチャルリアリティという言葉が聞かれ出した1990年代から語りはじめ、当時は技術的に未熟だったことから火が付かず立ち消えてしまい、この2016年まで待つことになる。
当時と現在で何が違うかというと、それはスマートフォンが世界的に普及し、パーツの性能が上がる一方で、コストが下がり、それを駆動させるPCやPS4のようなゲーム専用機のグラフィックス性能が劇的に向上したことと語り、その上で吉田氏は一番大事なのは、ゲームを始めとしたリアルタイムの3Dグラフィックスを作成するための開発ツール、具体的にはUnityやUnrealなどが、安価かつ容易に入手が可能になり、アイデアさえあれば誰でも開発できるようになったことが大きいという。これらの条件がすべて整った結果、真のVR体験を提供することが可能にあったという。
吉田氏が手がけるPSVRは、いつから開発に着手していたかというと、PS3向けの拡張コントローラーPlayStation Moveとほぼ同時期の2010年だという。デベロッパーがPS3とPS Moveを組み合わせて、簡易ヘッドトラッキングシステムを自作し、その上でVRコンテンツを趣味で作り始めていたという。それもひとりやふたりではなく、大勢の人間が作り始め、吉田氏はそれを見て、PS4の時代では、本格的なVRシステムが提供できるのではないかと考え、2011年にオフィシャルなプロジェクトとして試作品作りがスタートした。
このためPS4の設計には、初期段階からPSVRが組み込まれていたものの、PSVRの存在をギリギリまで秘匿するため、DHUALSHOCK 4になぜトラッキング用のLEDライトが装備されているのか、実はPS4は120Hz駆動が可能な設計になっていることなどは、意図的に伏せられたままPS4はローンチされた。それらが明らかになったのは、2013年のProject Morpheusの発表後となる。
そして吉田氏がPSVRを通じてもたらす“快適なVR体験”とはどのようなものか? それは「SENSE OF PRESENCE」だと吉田氏は語った。具体的には、上質なVR体験が得られると、人々は頭にヘッドセットを被っているとわかっていながら、顔を背けてしまったり、足ががくがくしてしまったり、体が信じ込んでしまう状態を指す。これは従来のゲームがもたらす“没入感”を遙かに超えた、とても楽しい、それだけで楽しい感覚となる。
しかし吉田氏は、「しかし、このSENSE OF PRESENCEは壊れやすい」と切り出し、ゲームに描画のラグが発生したり、左から喋っているはずなのに左から聞こえないなどの、現実世界ではありえない違和感を感じると、このSENSE OF PRESENCEは簡単に壊れ、現実世界に引き戻されてしまう。このSENSE OF PRESENCEをいかに保つかがVRクリエイターの腕の見せ所となる。
吉田氏はVRエンターテインメントについて、「目に入る情報のほかに、音、トラッキング、インタラクションするためのインプットシステム、過度な締め付けや重さ、熱さなどを感じない快適なヘッドセットの装着感、そしてVRコンテンツ、これらがすべて美しく組み合わさった結果実現される総合芸術」と語り、これらを整えることがSENSE OF PRESENCEを提供するカギだという。
PSVRについては、PSVRを購入し、PS4に差せばすぐVR体験が可能になる使い勝手の良さを実現。ハードウェアのエンジニアが繰り返し検証を重ねた結果、現在のヘッドセットのヘッドバンドの部分とディスプレイが別々に動き、双方のバランスを取った状態で頭の頂点、体の芯で支える構造になっているため、プレーヤーはPSVRを被っていても重さを感じず、存在を忘れるという。
また、ディスプレイ周りはスキーのゴーグルのように張り付ける構造ではなく、前後に動かせるため、メガネを掛けていても問題なく使用できるし、途中で飲み物が飲みたくなっても、ディスプレイ部分を前に押し出すだけでコップを口に当てることができる。また、レンズは広い視野角を備え、様々な顔のサイズ、目の間隔に対応できる設計になっている。この際、利用者ごとの細かいチューニングは必要なく、基本的に被るだけで利用できるようになっている。
そしてPSVRの心臓部となる有機ELディスプレイ(OLED)は、吉田氏は、お決まりのセリフとなっている「非常に重要で、自慢したいところ」と切り出し、120Hz駆動で、応答速度は18ms未満、1920×1080のすべてのピクセルにRGBのサブピクセルを用意した高性能なディスプレイを採用していることをアピール。
そのほか、オンライン上のユーザーとボイスチャットコミュニケーションが楽しめるマイクロホンや、リアルタイムで着脱状況を把握できる内部センサー、そしてSENSE OF PRESENCEの実現に重要な役割を果たす3Dオーディオシステムなどが標準搭載していることを語った。
しかし、台湾にもHTC Viveをはじめ、様々なVRシステムが存在する。あえてPSVRを利用するメリットは何だろうか? 吉田氏はこの設問についてPS4に接続するだけでVR体験が可能になるお手軽さ、統一規格で大量生産することによるコスト的なスケールメリット、統一規格向けに開発されたコンテンツなどをあげ、「120HzのOLEDシステムを比較的安い価格で提供できます。値段は言いませんけど(笑)」と語り、残念ながら価格については言及を避けた。
吉田氏は、「ジョブシミュレータ」や「MONSTER ESCAPE」、「O! My Genesis」といったPSVR向けに開発されているVRコンテンツについて紹介したあと、今後VRがもたらす未来について語っていった。
吉田氏が語ったVRの未来は、PSVRの枠組みに限らず、エンターテインメントコンテンツを皮切りに、シミュレーション、デザイン、教育、旅行、ライブコンサート、スポーツ観戦、報道など、VR全体の未来像で、非常に貴重だった。中でも「すでにいくつか具体的なプロジェクトとして動き出しているのでは?」と思わせてくれたのが、エンタメコンテンツだ。
吉田氏は、1月23日より日本で封切りとなったソニーピクチャーズの映画「ザ・ウォーク」を例に挙げ、こういった実写とCGを組み合わせた映画はVRとも非常に親和性が高く転用が可能であることを紹介。「ザ・ウォーク」は、今はなきツインタワーをワイヤーロープ1本で繋ぎ、命綱なしで高さ400メートル超の空間で綱渡りするという実話を元にした映画。
吉田氏はこれをVRで体験すると恐くて一歩も前に出れなかったり、へにゃへにゃと座り込んだりなど、上質なエンタメコンテンツとして活用できるようだ。ソニーピクチャーズは言うまでも無く、ソニーグループであり、もしそのつもりがあれば、「ザ・ウォーク」に限らず、ソニーピクチャーズの代名詞的ヒット作である「スパイダーマン」をはじめ、「ウォーキング・デッド」や「ピクセル」などなど、様々な大作がVRで体験できるかもしれない。それは想像するだけでとても待ち遠しい未来といえる。
吉田氏は締めくくりとして、VRが抱える今後の課題として、VRは体験しなければ、その想像を超える感覚は理解できないため、できるだけ多くの体験機会を設けることと、VR酔いを避けるためにクオリティの高いVRコンテンツを作ることの2点を挙げた。Taipei Game Show会場では、過去最多となる40台のPSVRと16種類のVRタイトルを揃え、朝から整理券を配布する予定なのでぜひ体験してほしいとアピール。そして今後、VRの登場により、「百聞は一見にしかず」が「百見は一体験にしかずいなる」になると語り、講演を終えた。
講演後、PSVRの価格と発売日の発表時期について尋ねたところ、「それはまだ誰にもわかりません」と笑顔で語ってくれた。2016年第2四半期の発売時期から逆算すると、3月のGDCがギリギリのタイミングとなりそうだが、PSVRは果たして、いつ、いくらになるのか。引き続き注目していきたい。