佐藤カフジのVR GAMING TODAY!

PS4 ProでPlayStation VRタイトルを遊び倒してみた

今のところ目立った進化はなし。VR方面の最適化はこれから?

PlayStation 4 Pro

 より高画質でのプレイが可能になるとして発売された高性能版PS4ことPlayStation 4 Pro。スペック的にはVR ReadyなPCを超えるほどの性能を誇るとあって、VR的な側面でも大幅なパフォーマンスアップに期待が寄せられている。今回は、PS4 Proを11月10日の発売日に購入し、2週間以上かけてPlayStation VRタイトルをPS4 Proで片っ端から試し、PS4との違いを試してみた。

 PS4 Proは新型のAMD製カスタムAPUを搭載し、4.2TFlopsものGPUパワーを持つとされるゲームマシンだ。これはノーマルなPS4(1.84TFlops)のおよそ2.3倍の性能であり、PC用のVR Ready PCの基準のひとつであるNVIDIA GeForce GTX 970(約3.5TFlops)とくらべてもやや上回るほどの数字だ。そんなマシンが44,980円で買えるというのだから破格なのは間違いない。

 CPUの性能向上こそおよそ1.3倍に留まるが、画質を決める大半の要素はGPU側にあるので、期待される効果は非常に大きい。GPUパワーが2.3倍になればフレームレートを維持しつつ解像度を2倍以上に向上できるはずだし、同じ解像度であればフレームレートを倍増することも可能だろう。1ピクセル毎の情報量を増やしてキャラクターの質感を高めたり、各種のエフェクトをゴージャスにもできるかもしれない。

 実際、PS4 Proの対応ゲームでは、新たに4K・HDRの高画質出力に対応しており、対応ディスプレイを持っていれば非常にわかりやすく違いを感じることができる。となればPS VRでも、ノーマルなPS4を遥かに上回るクオリティでVRゲームを楽しめる! と期待して検証に望んだものの、それなりの時間を掛けて比較した結果、ごくわずかな違いしかないという残念な結論になった。理由のひとつはPS VRのディスプレイ解像度が両眼で1,920×1,080で固定であるという点だが、もう少し詳しく見てみよう。

現時点のPS VRタイトルにおける、PS4 Proでの画質向上はごくわずか

「PlayStation VR WORLDS」

 具体的なサンプルを挙げながら違いを見てみよう。現時点でリリース済みのPS VRタイトルでは大半がPS4 Pro対応を謳っているが、比較的に違いがわかりやすいのはSIEファーストパーティによる「PlayStation VR WORLDS」だ。

 「VR WORLDS」の収録コンテンツのひとつ「The London Heist」では陰影のはっきりしたシーンが多く出てくるため、PS4 Proにおける画質向上のポイントを確認しやすい。次の例では、人物の影がより高解像度で描かれていることがよくわかる。人物の肩から胸にかけて落ちている影のエッジに注目してみてほしい。PS4のほうではわりとギザギザしているところ、PS4 Proのほうではより滑らかに影のエッジが落ちている。こころなしか描画解像度もPS4 Proのほうがやや高そうだ。

 これと同様にライティングやシャドウの品質がやや上がった感じがあるタイトルとしては「DriveClub VR」がある。ノーマルPS4とPS4 Proとでの画質の違いはプレイ中に気がつくレベルではないが、スクリーンショットで比較すると、心なしか影の細かさや、車体への光の反射が向上しているように感じられる。

【The London Heist】
PS4
PS4 Pro

【DriveClub VR】
PS4
PS4 Pro

 描画解像度の違いがよくわかるのが次の画像例だ。「The London Heist」のカーチェイスシーンでは風景が次々に流れていく様子が迫力たっぷりに体験できるが、ここで注目してほしいのは左手の背景にあるクレーンの部分。ノーマルPS4ではクレーン本体のエッジや上部のケーブルがかなりギザギザかつ途切れて表示されているところ、PS4 Proのほうではクレーンのエッジが滑らかに見えるほか、細いケーブルもきちんとつながって表示されている。

 これはノーマルPS4では視野の端のほうの描画解像度が大きく削減されていることに対し、PS4 Proではより広い範囲を高い解像度で描いているためにでてくる違いだ。「PlayStation VR WORLDS」をはじめ、SIEファーストパーティの多くのタイトルでは同様の描画テクニックが採用されているため、同様の効果は「RIGS Machine Combat League」でも、非常に気づきにくいが見ることができる。スコアボードの上下のテキスト部分がPS4版では判読すら難しいレベルで潰れているのに対し、PS4 Proではしっかり判読することができる。

【The London Heist】
PS4
PS4 Pro

【RIGS Machine Combat League】
PS4
PS4 Pro

 もうひとつ、「The London Heist」で地味ながら違いとして現われているのはエフェクト。下の例はカーチェイス中の爆発シーンをほとんど同じタイミングで撮ったものだが、ノーマルPS4のものにくらべて、PS4 Proのほうが破片、火花、煙の筋等がより多く描画されていることがわかる。

 これはPS4 Proでのグラフィックスパワー向上に加えて、CPUパワーも若干向上したことによる効果だろうか。こういったパーティクルエフェクトと呼ばれる効果は多くのゲームエンジンでスケーラブルな調整が可能となっているので、PS4 Pro最適化タイトルではこういったエフェクトのゴージャス化も今後より見られるようになると期待したい。

【The London Heist】
PS4
PS4 Pro

「Rez Inifinite」のArea X

 スケーラブルなパーティクルエフェクトのパワーを存分に活用しているのが「Rez Inifinite」だ。本作ではVR専用にデザインされたというステージ「Area X」で凄まじいほどまで幻想的なVR空間を見せつけてくれるが、その奥行きや量感を生み出しているのは大量のパーティクル=光の粒子だ。

 これが、PS4 Proではさらに緻密で奥行きのある絵作りになる。パーティクルの粒がより細かくなり、その量も増えることで、光の粒がより濃密に展開していくのだ。ノーマルPS4でも非常に美しいVR空間を楽しむことができるが、PS4 Proではさらに贅沢な雰囲気を味わえる。「Rez Inifinite」はPS4 Proへの対応を成功させている貴重なタイトルだ。

【Rez Inifinite】
PS4
PS4 Pro

大空を飛び回る「イーグルフライト」

 いっぽう、PS4 Pro対応とされながらも違いがわかりにくいタイトルも多い。例えば廃墟と化した大都市を眼下に大空を飛び回る「イーグルフライト」では、PS4 Proではオブジェクトの視程距離が若干ながら向上するようだ。実際、スクリーンショットで比較すると多少の違いがあることはわかるが、ヘッドセットをかぶってプレイしている最中にその違いに気付くことはまずないレベル。下の画像例では、遠景に表示されているエッフェル塔のシルエットに違いがあり、PS4 Proのほうが多くの植物が表示され余計にモコモコしていることがわかる。その他の点でノーマルPS4版との違いはないようだ。

【イーグルフライト】
PS4
PS4 Pro

 また同様に、PS4 Pro対応とされる「Until Dawn: Rush of Blood」や、「初音ミク VRフューチャーライブ」では全く違いを見つけることができなかった。画質が変わらない代わりにフレームレートが上がっているのかな?とも思ったが、どうもそこにも違いはないようだ。筆者がニブいせいで気づいていないだけかもしれないが、いずれにしてもその程度の違いしかない。

【Until Dawn: Rush of Blood】
PS4
PS4 Pro

【初音ミク VRフューチャーライブ】
PS4
PS4 Pro

しかしPS4 Proはもっとできるはず!

 PS4 Proは対応タイトルを4K・HDR解像度で動作させられるという点で、4K・HDR対応のテレビやディスプレイを所有しているユーザーには大きなメリットがあるのは間違いない。しかし現時点において、PS VRタイトルではそれほど大きな違いが感じられることはなかった。ここまで実例を見てきたので、その理由について考えてみよう。

 ひとつは、冒頭でも触れたようにPS VRのヘッドセット自体のパネル解像度が1,920×1,080で固定であること。PS4 Proを通常のフルHDテレビで使えば4K出力ができないため違いがわからないのと同じことだ。「PlayStation VR Worlds」や「RIGS」のようなタイトルでやっているように、周辺の描画解像度をやや上げても劇的な違いを感じるところまではいかない。

 しかしこの点について劇的な効果が感じられそうなタイトルがひとつある。「サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム」だ。しかし、本作は現在のところPS4 Proには対応しておらず、どちらでプレイしても同じくらいボヤっとした印象の画質である。これはおそらく描画解像度がPS VRのパネル解像度より低く設定されているためだ。

【サマーレッスン】
現時点でPS4 Pro非対応の「サマーレッスン」。全体的に画素の密度が足りない印象があり、PS4 Proによる描画解像度向上の効果が大きくなりそうだ

 PS4 Proであれば解像度を倍増させたうえで同様のフレームレートで動作させることが可能なはずなので、ぜひ第2弾以降ではPS4 Proへの対応を果たしてもらいたいと思う。そうすれば魅力的なキャラクターの存在をよりリアルに感じられるようになるはずだ。今後のタイトルとしては「バイオハザード7 レジデントイービル」のようなホラー作品で、PS4 Proによる高詳細な描画をフルに活用して欲しい。

 その他の映像品質面についてはエフェクトのリッチ化にPS4 Proのパワーを振り向けるという考えもある。ただし、PS VRタイトルはまずPS4で満足に動作させることを前提に作られるため、テクスチャなどの要素をPS4 Pro向けに作り込むまでの最適化は採算的にハードルが高そうだ。しかし「The London Heist」や「Rez Inifinite」に見られたようなパーティクルエフェクトのリッチ化は、原理的にスケーラビリティが高い部分であるため、今後多くのタイトルでもPS4 Proでの向上が期待できる。例えば「エースコンバット7」のPS VR版では、PS4 Proでよりリッチな爆炎やスモークが見られるようになるかもしれない。

 動きの激しいレースゲームやアクションゲームでは、むしろ単純にフレームレートをアップさせたほうがVR的なインパクトや快適性の向上効果が大きいかもしれない。例えばPS4で数少ないネイティブ120Hzタイトルである「Rez Infinite」は、VR空間で常時動き回るゲームでありながら全ての描画がこの上なく滑らかで快適性も高い。

 「DriveClub」や「RIGS」にもそこを期待したいところだったが、両者ともノーマルPS4版とのフレームレートの違いは感じられなかったのが少々残念。PS VRの標準的な動作である60fpsの120Hzリプロジェクションから、ネイティブ120Hzへ、あるいはのネイティブ90fpsへといったフレームレートの向上については、PS4 Proにそのための充分な性能があるだけに、今後のタイトルで大いに期待したいところだ。ただしこの点は体感的にわかりにくい可能性があるので、メーカー側も積極的に情報を出して欲しいし、その違いをアピールすることでPS VRの活性化の一躍を積極的に担って欲しいと思う。

 PS4から2倍以上の高性能化を果たしたPS4 Pro。PS VRにおける品質向上の余地はまだまだあるはずで、今後、そのパワーを上手に使うノウハウが溜まっていけば、PS4 ProオーナーはさらにリッチなVR体験ができるようになるに違いない。しかし現在のところは大きな違いを感じるまでに至っていないので、いまPS4+PS VRをお持ちの皆さんはもうしばらく様子を見てみるのもアリだ。いずれPS4 Proで大きなメリットを感じられるVRタイトルが出てくると期待したいが、さてどのタイトルがそうなるだろう。楽しみにしていよう。