佐藤カフジのVR GAMING TODAY!
PS VR人気コンテンツに見る、VRならではの“楽しさポイント”を紹介
仮想空間への没入を最大限に引き出す、各タイトルのノウハウを点検する
2016年11月1日 00:00
PlayStation VR(PS VR)は多くの人が快適かつ十二分にVRを楽しめることを目指して計画・設計されたVRシステムだ。PlayStation Storeを介して提供されている多くのVRコンテンツもVRならではの面白さを生み出すノウハウがいっぱいだ。
SIEロンドンスタジオの「VR Worlds」は良い例だ。5つの体験を収録した本作はグラフィックス、オーディオ、体験内容ともに一級品。プレーヤーは従来のメディアでは決して得られなかった没入感、迫力、恐ろしさ、楽しさに驚かされる。まさにPS4の性能を100%有効活用すればこれほどのVRコンテンツが作れるのだという例で、誰かにPS VRを見せびらかすにはまずこれ、という1本になっている。
その他にも、やはりSIE傘下のSupermassive Gamesが手がけた「Until Dawn: Rush of Blood」はVRならではのホラー演出でプレーヤーを圧倒する出来栄え。「Rez Inifinite」、「サマーレッスン」などサードパーティ製のタイトルにもそれぞれ、やはりユーザーを驚かせるような特色がある。
今回はPS VRの人気コンテンツを中心に、10月13日の発売開始から様々なVRタイトルを遊び倒した経験を元に、VRならではの工夫点、特に楽しめるポイントをピックアップしてご紹介していこう。これを通じてPS VRの魅力のみならず、これからクリエイターが作りたいコンテンツ、ユーザーが欲しいコンテンツといった、将来の方向性もより具体的に見えてくるに違いない!
VRならではの映像空間への没入体験
VRは“非現実空間への没入”という、これまでの映像装置では得られなかった感覚を実現できるメディアだ。そこでは映像とオーディオの完璧な連動がとても大事な要素になるが、やはりまずクッキリとしたグラフィックスで、明瞭な視界が得られるというのが何よりも重要と言えるかもしれない。
その点で大きな驚きを得られるのがエンハンス・ゲームズの「Rez Infinite」だ。名付けて“共感覚シューティング“というユニークなジャンル名を持つ本作で描かれるのは80年代のベクターグラフィックスを彷彿とさせるようなシンプルなジオメトリで描かれたデジタルチックな世界だが、全くこの世のものならざる世界への没入体験を楽しめる。
作品のコンセプトはシンプルだ。簡単なポリゴンや直線だけで描かれた世界に立体感や奥行き、広がりといった感覚があり、眼前に迫る非現実に頭と体が反応する。ロックオンと射撃のアクションに合わせて発生する効果音がBGMと連動し、めくるめく展開する映像(というより空間)と合わせて一種のデジタルドラッグのような高揚感を生み出していく。
このときの照準操作について、標準でヘッドトラッキングとコントローラーの併用が可能になっているのが本作の工夫として秀逸なところだろう。ヘッドトラッキングだけで照準する場合、視野中央に意識が寄りすぎて空間全体の変化を“浴びる”ような感覚が薄れる。かといってコントローラーだけで照準すると、照準点に視野が引きずられて不快な瞬間が出てくる。標準設定では双方の良いとこ取りをすることで、映像空間全体への没入を高めつつ、適度に指先が忙しくなり、自然と体全体がリズムを刻めるようになるという寸法だ。
映像空間への没入という点ではバンダイナムコゲームス「アイドルマスター シンデレラガールズ ビューイングレボリューション(以下『デレマスVR』)」にも一日の長がある。本作ではコンサート会場の空気感を徹底して作り込んでいて、以下に挙げる2つの点が特にすごい。
ひとつは、スモークが炊かれて空気が濁った際に発生するライトシャフト効果をしっかり作り込んでいること。これにより客席ーステージの距離感だけでなく、その中間に横たわる空間にも強い立体感が生まれている。もうひとつは、会場を埋め尽くす観客の動きを恐ろしく丁寧に、滑らかに作り込まれていること。数千人が一斉にペンライトを振り回してライブを盛り上げていくのだが、その動きが微妙に同期していないのがリアルで生々しい。プレーヤーの眼前で大量の腕とペンライトが踊りまくり、汗が飛び散って来そうだ。
それに加えて、サビに合わせた掛け声がワッと周囲から聞こえてくるものだから、コンサート会場の異様な熱気というものに、ある意味でユーザーは叩き込まれる。それはステージで歌い踊るアイドル以上の熱量を感じさせるもので、筆者はただただ圧倒されるばかりだった。「デレマス」のファン勢ならもっと違った形で没入できるだろう。この体験はまさにVRならではだ。
体温すら感じさせるキャラクターアニメーション
人間の脳というのはわりと曖昧にできていて、視覚から得た情報から、本当は存在しない別の感覚を生み出すことがある。「Rez Inifinite」でもテーマにしている共感覚というやつだ。
バンダイナムコゲームス「サマーレッスン」でその感覚を強く感じることができる。ヒロイン「宮本ひかり」に1週間の家庭教師をするという本作だが、とにかく対象との距離が近い。ひかりちゃんが目の前に立って「今日も一日よろしくお願いします!」といってペコリと頭を下げるシーンでは、もうプレーヤーとの距離は30cmあるかどうかで、視界の大半がひかりちゃんだ。このとき、プレーヤーの顔面に体温の温かみや香りが感じられるのである。
これはプレーヤーの脳が「人がすぐ目の前に立っている」と誤認するために発生する共感覚だ。この際大事なのは、目の前にいるキャラクターが本当に人間だと脳が感じることだ。本作ではそういった錯誤を意図的に引き起こすために、細部に渡って高度なキャラクターアニメーションの技術が使われている。
イベント的に様々な接近シチュエーションが用意されているのはもちろんとして、それをより効果的にするため、キャラクターの眼球が適切にプレーヤーを追跡するようになっているのが大きなポイントだ。プレーヤーが多少動いてもしっかり目線を合わせてくることで、そのキャラクターに“意思のようなもの”を感じてしまうのだ。
そして待機中にプレーヤーが過度に接近すると、ひかりちゃんは無意識に体を引いて距離を取るような動作をする。さらに接近しようとすると、「ちょっと先生、何やってるんですか!」と露骨に嫌がるという塩梅で、プレーヤーの動作に対して、意識ある人間のような反応を返してくるのだ。こういった感覚が積み重なっていくと、もう完全に脳が誤解を始める。実体なきCGに、実物の人間の記憶を当てはめて、様々な共感覚を作り出していくのだ。
ただしひかりちゃんも万能ではなく、プレーヤーがHMDのトラッキング範囲を必要以上に駆使してめり込むまで近づいたり、へんな位置取りをしていると流石に違和感のある状況が作り出されることになる。こうすると脳の誤解はやや解けて、目の前の存在を非人間の存在として感じられるようになる。「プレゼンスが壊れる」というやつだ。本作を十二分に楽しむには、ある程度お行儀よくプレイすることも大事である。
宮本ひかりちゃんと同レベルですごい存在感を感じさせるという点では「VR Worlds」内のキャラクターも同様だ。「The London Heist」のキャラクターは目線を的確に合わせてくるし、プレーヤーが動いてもしっかりアクションを追従してくる。グラフィックスの品質が高く、「サマーレッスン」よりも映像がクッキリしているので、その存在感はさらに3割増しくらいだ。ただし目線は威圧と嫌悪を込めた渾身のガン付けであり、追従してくるのはガスバーナーや拳銃である。避けようとするとさらに罵倒される。怖い。助けて。
音響に包まれる!没入感を高めるVRオーディオ効果
PS4本体にも立派なオーディオ機能が備わっているが、PS VRではさらにプロセッサーユニット側にポジショナルオーディオを処理するプロセッサを搭載しており、そのおかげでPS VRで体験するVRオーディオは、PC用VRのどんなコンテンツよりもレベルが高い。
このオーディオ効果を最もよく活用している1本は、やはり「VR Worlds」だ。PS VR自体の開発と二人三脚で制作されたコンテンツだけあり、音の定位は前後左右上下非常にハッキリしているし、その使い方も効果的だ。特にオーディオが没入を高めているのは深海体験をする「Ocean Descent」と、上述のキャラクターアニメーションと連動したオーディオで存在感を高めている「The London Heist」。
「Ocean Decent」では、近くで魚が遊泳する水音から、岩場から漏れ出す気泡の音、あるいはどこからともなく遠くから聞こえる低い反響音といった感じで、音に近景・中景・遠景という絵画的要素があり、広大な深海世界に音でもって厚みを作り出している。オーディオ効果のピークは暗い深海でサメに襲われるシーンで、ここは現在までのVR史上屈指のスリリングなシーンといえるだろう。今まさに手足を食いちぎられる!という感覚に身じろぎせずにはいられない。
「The London Heist」のオーディオ効果もきわめてよく作り込まれている。特に感動したのは、プレーヤーが携帯電話を渡されるシーン。耳元に電話を持ってくると、実際に電話を耳に当てたときのように音質が変化し、もう本物としか思えない聞こえ方になる。その上、その状態で電話を小刻みに動かすと、かすかに耳にこすれる音がするという凝りようだ。やりすぎると耳の穴が痒くなりそうである。こういったオーディオ効果の正確性はもちろん、ガンアクションにも活かされる。機械音や発砲音がまさに映像そのままの位置から聞こえてくることで、銃に手応えを感じられるのだ。
サードパーティ製タイトルでは「初音ミク VRフューチャーライブ(ミクVR)」のオーディオが秀逸だ。「デレマスVR」では客席の空気感や観客のアクションを生々しくすることで臨場感を出していたが、「ミクVR」のほうではコンサートホール特有の音の聞こえ方を臨場感たっぷりに再現することで、会場の臨場感を効果的に作り出している。歌声に乗る反響音、地面を震わせるような重低音、ホール全体にこだまするような群衆の声……。ライブイベントのプレミアム感を、緻密なオーディオ効果でしっかりと味あわせてくれる。
克服できるか?自由移動コンテンツにおけるVR酔い対策
VR空間を動き回るコンテンツではVR酔いが大敵となる。VR酔いがひどいとゲームを楽しめないばかりか、ゲームを終えてからも後を引いて日常生活にまで悪影響を与えてしまうため、その対策はVR業界全体でのテーマのひとつといえる。その点でチャレンジングなタイトルとしてはレールシューターの「Until Dawn: Rush of Blood」と、メカFPS「RIGS Machine Combat League」のやり方が参考になる。
「Until Dawn: Rush of Blood」のほうはレールに沿って進む仕組みのため自由移動ではないが、ローラーコースター系のVRコンテンツにはゲロ酔いモノが多いのでやはり心配される1本だ。そこが本作では、非常に快適にプレイできる内容となっている。その理由を挙げるとすれば特に2点ある。
ひとつは、プレーヤーがキョロキョロと周りを見回さずに済むよう、視線を誘導する工夫だ。モンスターが出てくるとか、何かビックリするようなイベントが発生する際には、ほぼ必ず、事前に効果音による“予告”で視線が誘導されるスタイルを取っている。プレーヤーは事前に身構えることができるので、慌てて周囲を見回す必要なく、必要な方向だけを見てプレイすることができるというわけだ。
もうひとつは、視点の縦方向の動きがコースターの動きからは独立しており、HMD制御のみになっていること。つまり、山なりのレールを進んでコースターが上下に激しく動き回る際に、プレーヤーの視線が上下に揺さぶられることがないのだ。上下の揺さぶりは非常に不快なVR酔いを生み出す。左右の揺さぶりも同様だが、こちらはコース設計(急カーブを設けない、曲がるところでは速度を落とす)でうまく対応しているようだ。
一方、VR内で従来のゲームのように自由移動を行なうコンテンツは最大のVR酔いを発生させる。「RIGS」は敢えてその厳しいところにダイレクトに挑戦したゲームだ。前後左右への自在な移動に加えて、ジャンプによる上下移動。平らな画面では得られない超人的な迫力とスピード感に感動するが、備えのないプレーヤーがプレイしたらあっという間にゲロゲロである。本作では酔いを押さえるため移動アクションの慣性を控えめにするなど工夫しているが、それでもやはり自由移動はプレーヤーに試練を与える。
そこで本作では、VR快適性アップのオプションとして「移動中は視界を狭める」という機能を搭載している。(『VR Worlds』のロボ搭乗コンテンツ『スカベンジャーオデッセイ』でも同様の機能が搭載されている)。これにより視野の端に位置する部分、つまり風景がより高速に流れていく部分がマスクされ、錯覚的な移動感覚(ベクション)の発生がある程度抑えられる。とはいえそれでもVR酔いを完全に押さえるまでには至らず、やはり適正のない人ならゲロゲロになってしまうレベルだ。もうこれは原理的にどうしようもないのではないか、という印象である
却ってプレイに慣れてくると、視界を狭める機能はオフにしたほうがVR酔いが減るような感覚がある。というのも、視界を広げることで余計な旋回操作が減るからだ。本作では360°全方向でバトルが展開するため、常に周囲の状況を把握することが大事になる。そこで視界が狭い状態になっていると視野を確保するため機体の旋回を多く行なうことになり、余計に酔ってしまう。これがプレイに慣れてくると操作が効率化され、予想外の動きを抑えられるようになってくるので、視界はむしろできるだけ広いほうが索敵のための旋回を減らせて良い。したがってコアプレーヤーは本オプションをオフにしてプレイすることになるだろう。
このあたりはプレーヤー側のスキルや慣れも必要なところなので、ゲーム側でどういったサポートを行なうかは難しいところといえる。1週間もプレイしているとさすがに慣れてきて、ちょっとやそっとでは酔わなくなってきたが、そこまで来れるプレーヤーはどれだけいるだろう。筆者は試合に勝つためにプレイを繰り返していたらいつのまにか乗り越えていたようだが。
さすがに人を選ぶとは言え、「RIGS」はVRでの完全なFPSアクションが不可能ではないということをきちんと示してくれた点で非常に重要な作品だ。各種の快適性オプションという“補助輪”を外したプレイもきちんと可能になっている点を特に高く評価したい。
力の入れどころが全く違う。いきなりハードルを上げたPS VR
PS VRは一流のデベロッパーが積極的にコンテンツに関わっていることでローンチから質の高いタイトルを多数触れられるプラットフォームとなった。SIEファーストパーティのタイトルにスキがないのはもちろんのことだが、サードパーティ製タイトルもそれぞれ力の入れどころがユニークなのが特に面白い。
今後キャラクターもののVRコンテンツを作るデベロッパーなら、まずは「サマーレッスン」や「The London Heist」のように、キャラクターに意思を感じさせるような技術を積極的に投入していくだろう。シューティングなら「Rez Inifinite」や「Until Dawn: Rush of Blood」のような空間の広がり、演出手法がひとつのベンチマークになっていくだろう。視線誘導、HMDとコントローラーの連動といった、どれもこれまでのフラットスクリーンでは存在しなかった・あるいは重視されてこなかった部分が、VRコンテンツでは非常に重要な役割りを演じている。
多くのコンテンツで見られたようにプロセッサーユニットで強化されたポジショナルオーディオ効果も非常にインパクトが強い。イヤホンやヘッドフォンで驚くほどの定位感を得られるオーディオ効果は現在のPC用VRコンテンツでも味わえないレベルにあり、今後多くのコンテンツでひとつ上の没入感を演出する上で重要な存在になっていくに違いない。
「RIGS」に見られたように、プレーヤーに試練を与えるコンテンツもある。とはいえ、プレイを続けることである程度VR酔いには慣れることができることがわかった。プレーヤーに安定感を与えるコックピットの設計や、加速度による気持ち悪さを抑えるための移動アクションの設計、さらに加速度感を減らすための視野を狭めるオプションなどノウハウたっぷりだが、こちらはデベロッパー側の工夫と、プレーヤー側の慣れの双方が高まることで、より自由度の高いコンテンツが出て来ることを期待したい。
VRコンテンツならではの面白さというのは、誌面ではほとんど伝えられないのがもどかしいところだ。少なくともPS VRには遊んで損しない、VRだけの楽しみを体験できるコンテンツがしっかり揃っているという点で、幅広い方にオススメしやすいものなのは確かだ。