素晴らしきかな魂アイテム
【魂インタビュー】3,000円という価格帯で世界に挑む新ブランド「ガンダムユニバース」、遊びやすさと精密な造形、何より大胆なアレンジでユーザーを魅了
2019年2月25日 16:00
BANDAI SPIRITSコレクターズ事業部の新たな挑戦、それが「ガンダムユニバース」シリーズだ。3,000円(税別)という低価格でガンダムフィギュアを販売、日本のみならず、北米、ヨーロッパ、アジア地域……世界を舞台に商品を展開していく。
価格を抑えた商品と言えば、例えばモールドを省略していたり、小さかったり、彩色を減らしていたりとコストの省略がはっきりわかる商品が多い。しかし、「ガンダムユニバース」は15歳以上という“大人向け”商品を得意とするコレクターズ事業部が展開する商品だ。こだわりを持ち、かつ、キャラクターへの思い入れもきちんと感じられる商品を、低価格でどう提供していくか、というところへの挑戦を行なっているという。
昨今、工場での人件費も高騰していく中で、ホビー商品も高価格化が進み、それに見合うこだわりのギミックや、マスプロダクト商品とは思えないクオリティ、作家性を感じさせる造形や塗装など、高品質な商品が増えている。筆者自身、高価格化した商品の中から、「自分のこだわりを満足させてくれる商品」を選び、手にすることに喜びを感じている。
しかし一方で高騰していく中で、「値段が高くて欲しくても買う踏ん切りがつかない」というユーザーの声も多くあるのが正直なところだ。気軽に手にして、コレクションができる、それでいて満足できる品質の、カッコイイガンダムフィギュアが欲しい。「ガンダムユニバース」はそんなユーザーの声に応えようという商品である。価格を抑えるだけでなく、他の商品と同様、オンリーワンの魅力を実現すべく様々な工夫が凝らされている。今回はそんな最新シリーズの担当者、オレスカ・ジュリアン氏にその想いを語ってもらった。
低価格はあくまで特徴の1つ、独特のアレンジ、遊びごたえも大きな魅力
「ガンダムユニバース」は、6月からスタートする、コレクターズ事業部の新しいフィギュアブランドだ。第1弾は「ウイングガンダム」、「ガンダム」、「ユニコーンガンダム」の3体がラインナップされている。6月の販売は日本だけでなく、アメリカやヨーロッパ、アジア地域でも一斉に発売され、「世界同時販売」となる予定だ。
「ガンダムユニバース」の全高は、世界での標準的なアクションフィギュアの、6インチサイズを踏まえた約15cm、ROBOT魂と比べると少し大きめのサイズとなる。ROBOT魂の場合、主役キャラクター(ロボット)を中心に作品の世界観でのサブキャラクターや敵キャラクターを短い時期に投入することが多いが、今回は3つのアニメ「新機動戦記ガンダムW」、「機動戦士ガンダム」、「機動戦士ガンダムUC」の主役メカが1度に投入される。これもまた、世界を見越してのチョイスであるとオレスカ氏は語った。
「機動戦士ガンダムUC」は、北米だけでなく、現在Netflix を通じて多くの世界で放映されている。そのため、「今が旬のガンダム作品」といえるだろう。そして「新機動戦記ガンダムW」は、アメリカでカートゥーンネットワークを通じて放映された最初のガンダムであり、大きなヒットとなった作品である。北米のユーザーにとって「子供の頃に見たガンダム」といえば「新機動戦記ガンダムW」であり、彼らが大人になった今、懐かしさを感じられるアイテムとして、「ガンダムユニバース」のウイングガンダムには大きな期待を込められている。実際、海外用のパンフレットではウイングガンダムが中心に据えられ、その存在感をアピールしている。
そしてやはり、ガンダムと言えばファーストガンダムのガンダムは外せない。ファーストガンダムはアジアの熱いファン達にとって思い入れの深い存在であるし、北米ファンでもガンダム文化を知ったファンならば、「ガンダムはやはりファースト」というコアファンが多いそうだ。こういった様々な事情を考慮した結果、シリーズのスタートとして、この3体が選ばれたわけだ。
今回は試作品に加え、生産品に近いバージョンのものも見ることができた。ROBOT魂シリーズと比べると心持ち大きい。全体的に素材がしっかりしていて、シルエットもマッシブな雰囲気がある使われているPVCがちょっと肉厚かな、という感じだ。
3体の中で最も面白く感じたのが、「ガンダム」だ。最近はアニメのイメージに極めて近い「ROBOT魂 <SIDE MS> RX-78-2 ガンダム ver. A.N.I.M.E.」を見慣れていることもあるが、アニメの設定画からかなりアレンジされている。ディテール表現が増え、胸のダクトは鋭角的で、スタイルはスマートだ。全体的に“今風”な感じを受ける。ビームサーベルのデザインも凝っていて、シールドの裏にもモールドが入っている。
オレスカ氏は「ガンダムユニバース」は、素材や彩色でコストを下げる方向性をとったと説明した。確かに言われてみると彩色箇所は、ROBOT魂と比べると、少ないように見える。しかしそれを補って余りあるディテール表現の情報量が、“低コストの商品”ということを感じさせない。「ガンダム」は特にそのアレンジの面白さ、デザインの独特さにじっくり時間をかけてチェックしたくなる。
可動範囲も広い。確かに最近のROBOT魂のような複数パーツによるギミックなどは取り入れていないが、カッコイイ立ち姿をさせたり、関節を動かしてフィギュアのポテンシャルを実感する、「商品を使って遊ぶ」という気持ちをとても満足させてくれるアイテムだ。厚めの素材を採用した「ガンダムユニバース」は手に持ったときの重量感もあり、アイテムを手にした充実感をもたらしてくれる。
肘や膝は2重関節になっており深く曲げられ、股関節も可動範囲が広く、腰アーマーも可動するので足を広げられる。腰も回転だけでなく、前屈みや背をそらせる動きも可能。一部関節軸にはスプリングピンを使用することで“しぶみ”を出し、ウイングガンダムのシールドのような重い武装を持っていてもしっかりと支えてくれる。アクションフィギュアとしての楽しさを、しっかり持っているとオレスカ氏は語った。
「ユニコーンガンダム」も造形、彩色共にとても凝っている。サイコフレームを全開にした「デストロイモード」で、角の金色や、ビームライフルのスコープ部分の緑、肩のセンサーのモールドや彩色などもしっかり確認できる。「これが本当に3,000円でサービスできるの?」という感想はこの取材で何度も感じた印象だ。
「ウイングガンダム」は、ストレートにカッコイイ。胸のダクト、肩の金色の部分の塗り分けなどもとても細かく、オレスカ氏の「塗装でコストを削減している」と言われてもピンとこない出来の良さだ。塗装はきちんとポイントを押さえていて物足りなさは感じない。さらに、こだわりのユーザーが装甲の隙間に塗料を流し込む「スミ入れ」を行なえば、よりリッチな質感を持つフィギュアになるのではないかという印象を持った。
「ウイングガンダム」は羽の表情付けも楽しい。大型の羽パーツは様々な角度をつけることができ、ユーザーが思った角度できちんと飾れるのも、関節強度を保てる工夫があるからだろう。各部のデザインをチェックしキャラクターとしてのカッコ良さを確認し、動かして、ポーズをつけて、飾って楽しむ。「ガンダムユニバース」のフィギュアはきちんとロボットフィギュアで求められるユーザーのニーズを満たしている。
そして「ガンダムユニバース」はこの3体を皮切りに大きく展開していく予定だ。今回の取材ではさらにもう3体の試作品を見ることができた。加えて、2月16日にニューヨークで行なわれたイベントではさらにもう3体のラインナップが発表された。「ガンダムユニバース」の今後の発展に期待が高まる。
大ボリュームのバンシィ、マッシブなバルバトス、今後の展開も魅力たっぷり
今回見ることができた新たな3体は「ガンダムデスサイズ」、「ユニコーンガンダム2号機 バンシィ」、「ガンダム・バルバトス」となる。こちらはまだ発売時期は未発表である。「ガンダムデスサイズ」は、「新機動戦記ガンダムW」に登場するMS。やはりこのシリーズでは、「ガンダムW」を強くプッシュしていく構想だとオレスカ氏は語った。北米ユーザーを強く意識しての展開という見方もできる。
「ガンダムデスサイズ」は、ガンダムに死神を思わせる“鎌”を持たせるというとてもユニークなデザインである。「初代ガンダム」が提示した“ガンダムとしてのデザイン”は、「Z」、「ZZ」そしてOVA作品などで模索されながら、「機動武闘伝Gガンダム」で、“世界各国のガンダム”という驚くべきコンセプトでデザインの可能性を大きく広げた。
「新機動戦記ガンダムW」に登場するガンダムは、「Gガンダム」の影響からかヒーロー色が強く、それでいてミリタリー感も盛り込まれるというバランスになっている。特に「ガンダムデスサイズ」は大鎌という兵器としてよりもキャラクターとしてのインパクトを持つ方向性が強調されたキャラクターとなっている。
「ガンダムデスサイズ」は大きな鎌のビームサイズと、敵を挟みこむクローを持つバスターシールドが付属している。「ガンダムデスサイズ」は黒い装甲部分に“つや”を感じさせる処理を入れる予定であるとオレスカ氏は語った。基本的には成型色+ワンポイント塗装であるが、表面処理による質感の違いを演出していく、というのも「ガンダムユニバース」の方向性であるという。
「ユニコーンガンダム2号機 バンシィ」は、作品の初登場時強く印象に残った大型武器アームド・アーマーBSと、アームド・アーマーVNを持っている。劇中のような収納形態への変形はないが、このボリュームこそが最大の魅力と言えるだろう。シリーズを並べて、どれを買おうか迷うとき、このボリュームは大きなアドバンテージと言える。「ユニコーンガンダム」と並べてみて対決シーンを演出したくなる。
足などは「ユニコーンガンダム」と共有することでコストを抑えているのだろうか、と思うが、1号機と比べると頭部はもちろん首回りのデザインも違い、新規造形パーツもかなり多い。鋭角的なデザインと、黒いボディ、金のサイコフレームはとても威圧的で、「ガンダムデスサイズ」以上にダークな雰囲気があって、シリーズの中でも魅力的だと感じた。素直に「これ欲しいなあ」と思ってしまった。
そして、今回見た中で筆者が1番お気に入りなのが、「ガンダム・バルバトス」だ。このMSは「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」の主役メカだが、設定画では細身のデザインで、特に腰回りは背骨と数本のパイプで支えられており、とても“細い”印象のスタイルをしている。しかし、「ガンダムユニバース」の、「ガンダム・バルバトス」はマッシブで、力強いのである。
オレスカ氏は「アニメの中で活躍するバルバトスをイメージした」と語った。腰回りだけでなく、肩、腕、足、全てがマッシブで、たくましく、独特のカッコ良さがある。バルバトスは筆者もお気に入りの機体で、設定画に近い「ROBOT魂<SIDE MS>ガンダム・バルバトス」は好きなアイテムだが、この大胆なアレンジも魅力的だと感じた。「ガンダムユニバース」の、「ガンダム・バルバトス」と、「ガンダム」のアレンジは本シリーズの方向性を強くアピールしていると感じた。
アレンジの方向は各キャラクターによって違うが、オレスカ氏は「ガンダムユニバース」として、「ユニコーンガンダム」や「ウイングガンダム」と並べられる、シリーズとしてのバランスも考えたアレンジをしていると語った。筆者も1ユーザーの立場として「ガンダム・バルバトス」と、「ガンダム」の大胆なアレンジはとても魅力だと感じた。原作を大きくアレンジしたアイテムとして、手にしたくなる。この“振り切り方”は、シリーズとして、大きなセールスポイントと言えるだろう。
世界をターゲットにした戦略、日本のユーザーにも魅力のアレンジ
「ガンダムユニバース」は、世界のマーケットを意識した、BANDAI SPIRITSコレクターズ事業部の新しい挑戦だ。特に北米では本シリーズを「15歳以上を対象にしたアイテム」ということで、“売り場での位置”にも積極的に働きかけていく。通常、北米のホビーアイテムは低年齢向けと一緒に飾られることが多いが、より高級感のある大人向けコーナーを売り場に作り、「ガンダムユニバース」を並べる施策を練っている。
これは北米でのホビーの流れも汲んでいる。12インチの精密なフィギュアや、コレクターズ事業部の高額アイテムも含め、“大人向けのホビー商品”のマーケットは北米でも大きくなり始めている。「ガンダムユニバース」はそういったコーナーに置くための、精密な造形のロボットフィギュアとして販売していくという。
それでいながら、これまでのROBOT魂などのフィギュアより価格を抑え、より幅広い層にアピールしていく。ROBOT魂は、1つの作品内での商品を同時期にラインナップし、作品の世界観をアピールする施策が多いが、「ガンダムユニバース」は「ウイングガンダム」、「ユニコーンガンダム」といった主役メカを同時期に投入し、アニメを知らない人にも手に取りやすい、目玉となるキャラクターを並べていく。
店頭用パンフレットやウェブでの“描かれ方”も面白い。今回参考用に見せてもらった北米向けパンフレットの表紙には「ウイングガンダム」、「ユニコーンガンダム」、「ガンダム」の陰影が濃く、パースも強調されたイラストが使用されているが、これは「日本のアニメのロボット」であることをユーザーに印象づける施策なのだという。原作を知らない人にも手に取ってもらおうという工夫の1つとのことだ。「ガンダムユニバース」は他の6インチフィギュアと同じように、ブリスターパックに封入されて並べられる。このイラストが日本のロボットフィギュアであることを主張してくれるのだ。
北米と共に、中国、アジア市場も「ガンダムユニバース」が注目している市場だ。販売経路が拡大していき、売り場が増える中、やはり価格という課題は大きい。アジアでは等身が低いアレンジの「ネクスエッジスタイル」が好評であった。それはアレンジの方向性はもちろんだが、価格が3,000円前後で入手しやすいという点もはずせないだろう。アニメに近い頭身で、ディテールも細かく、遊びやすく、そして購入しやすい価格帯の完成品塗装済みフィギュア、その課題をどう実現させるかに挑んだのが「ガンダムユニバース」なのだとオレスカ氏は語った。
さらに実は「外国人の方が日本に来た記念のおみやげ」というところも「ガンダムユニバース」は視野に入れているそうだ。“ガンダム文化”は日本を象徴するものであり、その文化を支えるのはガンダムのプラモデルや、フィギュアだ。全高約15cm前後の造形で、ユーザーに満足感をもたらすクオリティで、なおかつ価格も抑えている「ガンダムユニバース」は、そういった観光客にとって、今後非常に手に取りやすいアイテムの1つになるだろう。
1ユーザーから言えば、ROBOT魂と比べると可動範囲の違いや、付属品でもう少し欲しいかな、とも思うが、素立ちでちょっとポーズをつけて飾っておくという点ならば充分満足できる。
そしてやはりなによりも、このアレンジの方向性が楽しい。特に「ガンダム」は、「たくさん商品が出ているため、どのようにアレンジするか難しかったですが、『ガンダムユニバース』として独自の魅力が出せたと思います」とオレスカ氏は語った。筆者も“低価格”や“コレクション”といった視点抜きにしても、独立したロボットフィギュアとして、大きな魅力があると感じた。
オレスカ氏は日本のファンへのメッセージとして、「今年はガンダム40周年です。長い歴史の中、様々なガンダムのアイテムが発売されてきました。今回、世界マーケットへ向けた『新しい解釈の上でのガンダム商品』として、『ガンダムユニバース』はスタートします。ぜひこの『ガンダムユニバース』皆さんのガンダムコレクションに加えて、遊んで欲しいです」と語った。
正直、話を聞く前は、その世界戦略は面白いと感じていたが、実物を見ると商品そのものの魅力に驚かされた。これだけ遊べる大きな商品が、低価格で供給できる。さらに独特のアレンジも非常に魅力的だ。他のガンダムフィギュアと一味違う方向性は、「買いたい」と思わせる。海外マーケットを視野に入れた商品だが、日本のファンにも魅力的なアイテムとなっているところに感心させられた。
(C)創通・サンライズ
(C)創通・サンライズ・MBS
※写真はフラッシュで撮影を行なっているため、各部の彩色などが実際の商品と異なります。