韓国ゲーム業界、ちょっとした裏話

連載第2回

中国のゲームに蹂躙される韓国モバイルゲーム業界。かたや韓国中小メーカーは風前の灯火。なぜこんなことになっているのか?

 韓国モバイルゲーム市場は徐々に中国モバイルゲームに占領されてきている。2017年にはTOP100に20個前後だった中国ゲームは2018年には40個以上まで増えており、アプリマーケットの売上総額でも中国ゲームのシェア率は18%から22%へ増加した。Netmarble Games、NCSOFT、NEXONといった大手韓国メーカー以外の存在感はほとんどないというのが実情だ。

 韓国Google Playの売り上げランキングを見てもX.D. globalの「少女前線」や「崩壊3rd」、CHUANG COOL ENTERTAINMENTの「王に俺はなる」、Trigirls Studioの「神命」などの中国モバイルゲームが上位を獲得しており、韓国モバイルゲーム市場における中国モバイルゲームの影響力は日増しに増大しつつある。今韓国のモバイルゲームで何が起こっているのかご紹介しよう。

【勢いを増す中国メーカー】
第2回のテーマは、韓国市場においてFacebookなどで刺激的な広告を出してシェアを伸ばしている中国ゲームについて

【2018年の国別のシェア】
2018年売り上げランキングTOP100での各国ゲームのシェア率の推移。2018年の後半から中国ゲームが多くなった。ちなみに日本のゲームは韓国では依然として存在感がない

広告競争になったモバイルゲーム市場、全ての面において不利な韓国メーカー

 日本ではあまり知られていないと思うが、韓国ゲーム市場は世界的に見ても保守的なゲームマーケットで、連載第1回で取り上げた「Starcraft」に代表されるBlizzard Entertainmentのタイトルなど一部の例外を除いて外国のゲームの導入には否定的で、ヒット作は常に韓国産だった。日本のメーカーも様々な形で韓国進出を図ってきたが、1度も成功していない。それぐらい難攻不落の韓国ゲーム市場の状況が中国メーカーの参入によってここ数年で大きく変わりつつあるのだ。

 中国のタイトルが韓国で成功した要因は様々なものがあげられるが、その中でも1番大きいのは、マーケティングの資金力と広告内容の自由度の大きさだ。

 まず、韓国モバイルゲーム市場の特徴としては、ゲームをリリースしてから様々な数字を分析して徐々にマーケティングを掛けていく運営手法は全く通用しない。リリース前に行なう事前マーケッティング段階で、できるだけの多くの予算を費やし大規模マーケッティングで大量のユーザーを最初から獲得することがセオリーとなっている。サービスインの前に一気にお金を使って、一気にユーザーを集める、これが鉄則だ。サービスを開始した後のマーケッティングでは中々ユーザーが集まらないのが韓国ゲーム市場の特徴だからだ。今は事前登録の段階で100万以上のユーザーを集めることは、ゲームを成功させる上でひとつの指標となっている。

 事前~初期マーケッティングの予算だけで10億円を超えることは珍しくない。そのため、大規模マーケティングを実施できる企業は限られている。韓国の中堅メーカーでさえも開発費に殆どの予算を投入してしまい、マーケッティング費の確保は困難だ。

 その点において、潤沢な資金力を持つ中国メーカーは、最初から有利なポジションでビジネスが展開できる。中国メーカーの大規模マーケティング、凄まじい広告競争の前に白旗を揚げた韓国メーカーは、中国メーカーの下請け企業に成り下がるケースも続出している。

【「キングスレイド」(Vespa)】
日本でもヒットし資金力を持つようになったVespaの「キングスレイド」は広告の斬新な演出に力を入れて差別化を図っている

【「神命」(Trigirls Studio)】
「BLEACH」や「スパイダーマン」の素材を無断で使って広告を打っている「神命」。韓国Google Play売り上げランキング6位を記録している人気作だ

なんでもありで攻めてくる中国メーカー達

 また、マーケッティング手段の自由度や規制も韓国メーカーが不利だという意見も多い。「王に俺はなる」や「神命」といった中国ゲームはFacebookやYoutubeなどを通じて、露出の高い女性のイラストや、他社のIP素材を無断利用して刺激的な広告を自由に打っている。同じ事は韓国メーカーはできないのだ。国内のフェミニスト団体が黙っていないからだ。

【奴隷の若い女性を使った広告】
若い女性を奴隷にする刺激的なイメージとテキストで広告を行っている「王に俺はなる」。広告テキストには「いつもプレイしたいな…会社のトイレで密かに遊ぼう!」という内容。海外で運営しているFacebookであるため、韓国の広告規制に影響も無い。韓国のメーカーが韓国内でこのような広告を打つことは当たり前だが不可能だ

 具体的に説明しよう。韓国メーカーは、「“女性”を売り物にしては行けない」という今の社会的な雰囲気や、それに伴う政府からの規制によって、若い男性が目を惹くような露出度の高い女性を使った刺激の強いCMを自由に打つことができない。もしやってしまえば、フェミニスト団体が激しい抗議をはじめ、ブランドが失墜してしまう。

 これに対して中国メーカーは、そうしたしばりを受けずに自由に広告が打てるわけだ。センセーショナルな広告は通常の広告より効率がいいらしく、それを辞める気配も全くない。特に2018年には中国国内でゲームサービスする上で絶対に必要な版号の許可が一時的に止まったことから、韓国市場へ進出する中国メーカーが急増した。

 こうした中国企業のパートナーになれた韓国メーカーはまだ幸運な方で、下請け企業にさえもなれなかった多くの韓国中小メーカーは、日本を含めた海外市場やコンソールゲームといった他のプラットフォームでの突破口を模索している。韓国中小メーカーは、韓国企業でありながら、もはや韓国内でのビジネスが難しいというところまで追い詰められつつあるのだ。

 この問題は、特に資金力の足りない企業にとってはどうすることもできないというのが現実だ。大手であるNetmarble GamesやNexon、NCSOFT、Kakao Gamesなどは、TVCMを含めた大型マーケティングで持ちこたえているが、中小企業だと中国ゲームにまず太刀打ちできない。どんなに優れたゲームでも、気づいてもらえなければユーザーに来てもらえないからだ。資金不足でユーザー集めにまごついている間にすべての勝負が終わってしまう。

 この問題はゲームファンにとっては関係の無い話だと思うかもしれないが、自国のゲームメーカーが成長出来ない市場環境というのは深刻な問題で、国の雇用問題にも繋がってくる。だからこそ、韓国政府や韓国ゲーム業界は知恵を出し合って中小企業にもチャンスが与えられるマーケットの整備に力を注いでもらいたいところだ。

 また、この問題は韓国のみならず、日本でも起き始めている。現に「王に俺はなる」は同じ手口で日本でも広告を行っており、上位を獲得している。さらに、昨年の版号の一時停止から、先日発表されたの版号登録の厳しくなった基準から、中国ゲームの韓国、日本進出はもっと加速していくと思う。関連機関や企業は今の韓国マーケットの現状を見て、どう対策していくか考えるべきだ。

【どこを脱いでほしい?】
Rastar Gamesの「Daily Fantasy」は「どこを脱いでほしい?」という質問に「服を脱げ」、「スカートを脱げ」、「ストッキングを脱げ」という選択肢が出ている刺激的な画像を広告に使っていた

【今宵は誰にしますか?】
GeniusGameの「上流社会」は「今宵は誰にしますか?」という映像をYoutube広告に使っていた